第53回全国大学ラグビーフットボール選手権大会の準々決勝2試合は、3回戦で流通経済大学(関東リーグ戦2位)と熱戦を演じ引き分け、抽選で準々決勝出場権を手にした慶應義塾大学(関東対抗戦4位)と関西大学Aリーグで優勝したシードDの天理大学との対戦となった。

前半、慶應のキックオフで試合が開始される。先取したのは天理。3分にハーフラインでのラインアウト右隅モールから右LO澤井未倫、左PR山口知貴、SH藤原恵太とつなぎ、最後は俊足の右WTB久保直人に渡り右隅にトライ。0-5と幸先良く先制。
続く6分にも22mでの左中間ラックからの右展開。右FLフィリモニ・コロイブニラギが慶應のディフェンスのギャップを抜け中央にトライ、SO後藤大輔のゴールも決まり0-12とリードを拡げる。
慶應はこの後、持ち味の低いタックルで天理の攻撃を食い止め得点を許さない。前半の終盤に差し掛かると34分、22mでの左中間ラックから左ショートサイドにSH中鉢敦がライン際を抜け左隅にトライ。難しい位置からのGをSO古田京が着実に決め7-12と詰める。しかし、天理は前半終盤間際ゴール前で執拗にスクラム攻撃を仕掛ける。前半終了のホーンが鳴った後、ゴール前5m左中間スクラムからスクラムの後ろにポジショニングしていたFBジュシュア・ケレビにつなぎ左中間にトライ。ゴールもSO後藤が決め前半を7-19で折り返す。

後半、先取したのは慶應。天理のタックルが緩んだのを見逃さず4分22m中央から左LO佐藤大樹が抜けゴール前5m左中間ラックから右に展開。最後はSO古田がタックルを受けながらも右中間にトライとゴールを返し、14-19とワントライ差に肉薄する。
慶應はさらに7分、22mでの左中間ラックからショートサイドの左FL廣川翔也に回すと、廣川はうまくディフェンスのギャップを突き左隅にトライ。19-19の同点に追いつき、勝敗の行方は分からなくなった。攻めきれない天理は、慶應のスクラムでの反則からゴール前ラインアウトに。ラインアウトからモールを押しそのままインゴールまで持ち込むが惜しくもヘルドインゴール。
14分、ゴール前5m左中間スクラムから、NO8中野真仁が右サイドに回りトライ。19-24と再びリードする。天理は慶應ゴール前まで攻め込むがなかなか攻めきれない中、慶應のタッチキックがノータッチとなると、ハーフライン左から素早く展開。右WTB久保がゴール前10mまで持ち込み左に回し、待ち構えていたFBケレビがタックルを外して19分、左中間にトライ。19-29と点差を拡げる。
この後、慶應と天理の間でキックの応酬があり、互いに譲らず刻々と時間は過ぎていく。最後まであきらめない慶應は低いタックルとスクラムで天理の焦りを誘い、ようやく36分、ゴール前10m右中間スクラムから左展開。フェイズを重ねて最後は左WTB小原錫満が左隅にトライを奪い、24-29と迫る。慶應に逆転の時間もまだ残っていたが、天理がポイント近くでのFW戦を挑み、うまく時間を「消費」。ノーサイドとなった。

関西リーグチャンピオンの天理大学は自らのミスも多く苦しんだが、4年ぶりに準決勝進出に駒を進めた。正月2日に前年度チャンピオンの帝京大学に挑む。

(山林右二、丸井康充)


■慶應義塾大学

○金沢篤ヘッドコーチ

「今日の試合は、先週からの反省で低いタックルをしようというのが一番大きなポイント。チャレンジャーとして、試合の最初に流れを掴むことができず、天理大学にやられてしまいました。選手たちは力いっぱいよくやってくれたが、追いつかなかったと感じています。結果としては残念だが、慶應らしいラグビーを見せてくれたと思います」

 

――事前に準備したことが技術的な面で上手くいかなかった理由は?

「技術的なところはなかなか難しいですが、序盤に限らずキックのマネージメントでは天理大学のSOにコントロールされてしまいました。序盤に限らずキックをカウンターされるなど、スキルのところで天理大学のパフォーマンスが思った以上に良かったです」

――蹴りあいが多かったが、ポゼッションとテリトリーについて、当初のプランと実際はどのような評価か?

「前半は風下だったので、ずっと風下でいたかったのですが、途中で風向きが変わりました。後半はもう少し上手く風を使いたかったのですが、それ以上に風が吹かなかったので、蹴りあいで負けてしまいました。途中からラインの裏に蹴るプランはありましたが、そこまで持っていけずに最後までやられてしまったのかと思います」

――19-24のノータッチから、カウンターされたが、正解とすればタッチキックだったのでは

「実はその前にもミスがありました。選手はキックで22mの外にラックがあると思ったようですが、着実にタッチを出せないことが2度ありました」

 

○鈴木達哉キャプテン

「序盤の2トライが響いてしまいました。試合の入りの部分は自分の責任です。全体的にはフォーカスしていた低いタックルで、慶應らしいラグビーができ、関西の王者の天理大学に戦えたのかなと思っています。勝てなかったところに悔いはありますが、全力を出し切ったと思っています」

 

――スクラムが、慶應の思うように進めなかったようだが、天理のイメージとは異なったのか?

「オーソドックスにまっすぐ組んでくると研究していて、私たちもしっかり低くスクラムを組み優位に立つ場面もありましたが、天理大学のプレッシャーは思っていた以上にありました」

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■天理大学

○小松節夫監督

「本日は恥ずかしい試合をしてしまいました。慶應義塾の低いスクラム、タックルに思うような試合運びが出来ませんでした。しかし何とか逃げ切り、準決勝に進むことができましたが、もう一度しっかり練習をやりなおしていきたいと思います」

 

――いつもと違う硬さとかは感じられたか?

「中盤のキックの応酬の場面で互いにエリアを取ろうとしたので、ボールが動かなかったところで、相手のミスに対しラインアウトでミスを犯すなど、セットプレーでミスを犯してペースが掴めなかったところが今日のゲーム展開になったところかなと思います。また、モールが停滞し、中盤のライアウトからの展開ができずリズムが掴めませんでした」

――(キックの)蹴り合いについては、お付き合いしたのか?

「いいえ、我々も慶應さんのエリアに入りたかったので、我々のエリアの取り方はあのような感じかと思います」

――苦しい試合の中で良いプレーがあったということだが、具体的にどのようなプレーか?

「スクラムに関しては途中から修正して組めたし、モールに関しても中盤から押すことができました。今年やってきたことは出せたのかと思います」

――試合が2週間空くが、コンディションを保つことは難しいか?

「空いたからどうのということはありません」

 

○山口知貴キャプテン

「個人としてまたチームとして気負わずに、関東とか慶應義塾とかにこだわらず自分たちのラグビーをしっかりしようということを心がけて試合に臨みました。慶應さんもひたむきな部分とFW戦で試合に臨んできました。慶應さんの良いひたむきさにやられたところもあるし、やり返したりしたところもスクラムではありました。勝ったということは嬉しいですが、今日の試合内容では帝京大学相手には厳しい試合になるので、あと残り2週間ひたむきな練習をして良い準備をして臨みたいと思います」

 

――関西ではスクラムは優位であったが、大学選手権ではスクラムはどうだったか?

「慶應さんは他のチームとは異なった組み方をしてきて、前半の途中から対応ができて、対応すれば我々の方が上だと思っていました。ヒットの瞬間で決まるような感じで、そこさえクリアすれば、勝てるスクラムでした。関西ではないスクラムの強さでした」

――準決勝の相手は4年前に悔しい思いをした帝京大学ですが、残り2週間に具体的にやっておきたい点や意気込みをお願いします

「今日の試合で甘いディフェンスから点をとられたので、強みであるスクラムやモールをもう一度組みなおして、もう一段上のレベルを目指し、帝京大学は強いので、折れない気持ちを作っていきたいです」

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