どこまでも「ハングリー」に攻め続けたサントリー
シーズン完全制覇と日本選手権3連覇の偉業達成

24日、東京・国立競技場で日本ラグビーフットボール選手権大会決勝が行われ、前半1分にWTB村田大志のトライで先制したサントリーサンゴリアスが終始、試合を優位に進めて36-20で勝利。
2シーズン連続でトップリーグタイトルとの2冠を達成するとともに、日本選手権3連覇を成し遂げた。

シンビン退場による苦しい時間帯にもとにかくボールをキープしながら前に出続けたサントリー
photo by Kenji Demura (RJP)

1月6日のトップリーグ最終節での対戦も含め、この1ヵ月半で3度目の対戦となったサントリーサンゴリアスと神戸製鋼コベルコスティーラーズの頂上対決。

1月19日、トップリーグのプレーオフセミファイナルで対戦した際には、前半32分までに3トライを重ねた神戸製鋼が前半を19-9とリードしたが、5週間を経ての再戦では180度、異なる展開となった。

強い北風が吹き荒れていた、この日の国立競技場。
開始1分、前半、風上に立ったサントリーにいきなりビッグプレーが飛び出す。
キックオフから攻め込んだ神戸製鋼に対して、ディフェンスでのターンオーバーからサントリーがカウンター。
「ターンオーバーからだったので、外のスペースをうまく生かせばチャンスになる」
例によっての冷静な状況判断を下していたWTB小野澤宏時にハーフウェイライン付近でボールが渡る。
今季のトップリーグで前人未到の通算100トライを記録したベテランWTBは、内側から迫ってきた神戸製鋼CTBジャック・フーリーを、抜群のタイミングでのチェンジ・オブ・ペースからの一気に加速で置き去りにして左ライン際を快走。
小野澤が神戸製鋼陣22m付近で必死に背走してきたフーリーとWTB大橋由和のダブルタックルを受けてできたラックからCTB平浩二がタテに前に出た後、SO小野晃征からの飛ばしパスを受けたWTB村田大志が神戸製鋼FB正面健司を外に振り切って、いきなり先制する。

開始直後に神戸製鋼CTBフーリーを手玉に取る快走を見せたサントリーWTB 小野澤は16分には自らトライも
photo by Kenji Demura (RJP)

16分にも、先制トライにつながるビッグゲインの際に「風上というのもあってスピードに乗っていける感じがあったし、今日は調子いいのかな、いけるかも」という感触をつかんでいたという小野澤が敵陣22m付近から快走して、最後は体を後ろ向きに倒しながら、日本が世界に誇るトライゲッターぶりをアピールするかのようにインゴールにグラウンディング。サントリーが連続トライで早くも12-0とリードした。
29分にCTBニコラス ライアンがPGを加えたサントリーに対して、神戸製鋼もハーフタイム入り直前のラストプレーでSO山本大介がPGを返して、15-3とサントリーの12点リードで前半は終了した。

5週間前のセミファイナルでの対戦時。前に出るラッシュディフェンスでサントリーのアタックを止めたことで前半ペースをつかんだ神戸製鋼は、この日も最初の40分間はまずはサントリーのアタックを分断しながら試合の主導権を握りたかったはず。
「プレーオフでは前半しっかり前に出てサントリーのアタックを止めることができていたのが、今日は前で止められなかった」
試合後、そう振り返ったのは神戸製鋼WTB大橋由和。
立ち上がりに強烈な先制パンチを食らった影響もあったのだろう。風下だったとはいえ、リードされた後は神戸製鋼が攻める時間も多くなったが、「今日はどこか浮き足だったところがあった」(FL橋本大輝主将)というメンタル面での高揚感なども影響したのかミスが目立った。

後半14分、勝敗を決定づけるトライを決めてチームメイトからもみくちゃにされるサントリーLO元(中央)
photo by Kenji Demura (RJP)

後半最初の数的優位を生かせなかった神戸製鋼

5週間前に、前半10点のビハインドを背負ったサントリーが逆転勝ちしたように、神戸製鋼がこの試合で12点差を引っくり返せるとしたら、後半最初の10分が重要であることは明らかだった。
しかも、前半最後の神戸製鋼のPGにつながるプレーで、サントリーFB有賀剛がシンビン退場。
神戸製鋼は、この試合の最大の山場と言えた後半最初の10分間をひとり多い状態で戦うことになったのだ。

「相手のFBがシンビンになったのでキックで相手を下げて、そこからボール奪って攻めるプランだった」
試合後、苑田右二ヘッドコーチはそう明かしてくれたが、その大事な10分間、一度サントリーに渡ったボールがターンオーバーから神戸製鋼に戻ってくることはなかった。
「前半の途中から流れが悪くなったところでのシンビン。後半は風下になるし、ひとりひとりの仕事量を上げないといけない。そのことを全員が理解して仕事量を上げられたし、ボールキープするために何をしなければいけないかもわかっていた」(大久保直弥監督)というサントリーは、ひたすら自分たちのアタックシェイプを守りながらフェイズを重ねてボールキープを続けた。

終盤、ウィングがSOに上がってからの連続トライで追い上げた神戸製鋼だが、反撃が遅過ぎた
photo by Kenji Demura (RJP)

4分に自陣からジワジワとゲインを重ねていき、最後はSO小野が相手ディフェンスラインの裏に蹴り込んだグラバーキックを神戸インゴールでCTB平が押さえて、ひとり少ないサントリーが追加点。
FB有賀がピッチに戻った直後の14分には、途中出場していたLO元申騎がタテに神戸製鋼ディフェンスを突き破って、勝利への道程を絶対的なものにするトライを記録した(いずれもCTBニコラスのゴール決まって、スコアは後半15分時点で29-3に)。

試合の中で勝負の分かれ目となる時間帯をいかに自分たちのものにできるか。
それも常勝チームのひとつの条件であることは間違いないだろうが、その意味では、自分たちがなぜ勝ち続けられるのかをしっかり見せつけてみせたのがこの日のサントリーだった。
後半23分のNO8西川征克のトライ、CTBニコラスのゴールで点差を33点にまで伸ばしたサントリーに対して、神戸製鋼も終盤3トライを重ねたが、すでに勝敗は決しており、最終的には36-20で試合終了。

さすがの神戸製鋼CTBフーリーもサントリーの厳しいディフェンスの前になかなか思うようなプレーができなかった
photo by Kenji Demura (RJP)

「強さの秘訣はない。負けを恐れずに、目の前のスクラム、目の前のラインアウト、目の前のブレイクダウンでファイトしてきた結果。ゲームメンバー以外のメンバー、スタッフがチームをサポートしてくれたし、クラブの力が結実した」と、大久保監督は試合に出たメンバー以外の努力の大きさが2シーズン連続での2冠、そして日本選手権3連覇につながったことを強調。日本選手権決勝を前にしたシーズン最後の段階でノンメンバー11人がウェイトトレーニングで自己最高値を記録したエピソードも明らかにされたが、それもサントリーの強さを象徴する事実であることは確か。
世界レベルで多くの常勝チームに籍を置いてきたFLジョージ・スミスも「サントリーの強さは関わっている人間全員が優勝するために最大限の努力をしていること」と同調する。

いきなり試合を決める働きを見せたWTB小野澤、準決勝に続いて慣れないポジションながら自分の仕事を完全にやり切ってみせたLO元というチーム最年長コンビのベテラン勢に代表されるように、どんな状況に追い込まれても自分たちのアタッキングラグビーを貫き通す「ブレない強さ」(SO小野)を見せつけて再び頂点に立ったサントリー。
「勝って終われる幸せ」(大久保監督)を感じながらも、その一方で「アタックシェイプにしろ、練習方法にしろ、いまのやり方に何かを加えていかないと、勝ち続けるのは難しい」(FB有賀)と、すでに“次”に向けた危機感を感じているメンバーが少なくないのも、サントリーが「ハングリー」に勝ち続けられている理由でもあるのだろう。

text by Kenji Demura

今季無敗のサントリーがトップリーグとの2冠と日本選手権3連覇を達成
photo by Kenji Demura (RJP)