「第50回 日本ラグビーフットボール選手権大会」
マッチリポート

サントリーサンゴリアス 36-20 神戸製鋼コベルコスティーラーズ

【決勝/2013年2月24日(日) /東京・国立競技場】
トップリーグを全勝で勝ち抜いたサントリーが日本選手権3連覇をかけて臨む決勝は、トーナメントの激戦を勝ち残った神戸製鋼との今季3度目の対戦となった。快晴とはいえこの日も強風の国立競技場。風上に立つサントリーのアタックが試合開始からいきなり炸裂した。

神戸SO山本のキックオフをFWの堅い守りからキープしたサントリーは、風上を利用してSHデュプレアのキックで神戸陣を狙う。風下の神戸はキック対策で後ろに下げたNO8マパカイトロ、FB正面がキックを避けてランプレーからボールを継続にかかる。しかし、このチームが選んだ戦術も一つのミスが、いきなりゲームを狂わせる。サントリーは相手のエラーから奪ったボールをSHデュプレアがオープンサイドへ一気に走る。左サイドで待つWTB小野澤にボールが渡ると、ビッグゲイン。そのタッチライン際での早い球出しからSO小野にFWが走り込む。冷静にディフェンスを見切る小野がランナーの裏側のBKにボールをつなぎ、最後はWTB村田が見事なカットアウトでマークを振り切ってトライ。ビッグゲームの開始1分をノーホイッスルトライで先制した。(7-0)

風下の神戸はキックを捨てショートサイドのアタックにこだわる。準決勝の東芝に真っ向コンタクト勝負を挑んで勝ち取ったこの決勝戦、サントリーに激しく身体をぶつけた。サントリー陣内で攻める神戸、タックルのサントリーという重苦しい時間。激しいブレイクダウンは全くの互角。前進する神戸に対し、耐えるサントリー。15分にはSO山本が強風の中、ショットを選ぶが失敗。ゴールに迫るが、攻めきれない神戸に焦りが見えた。

16分、神戸の圧力に負けずタックルを繰り返すサントリーがブレイクダウンを制圧する。FLジョージ・スミスのボールへの寄りの早さに、神戸はボールを離せない。このペナルティをサントリーは、迷わずクイックスタートで左に展開。WTB小野澤が快走、走りきって2つ目のトライを奪った。(12-0)
この決勝にかける神戸の強い決意は、ラック周辺でのFW伊藤、谷口、橋本らの執拗なアタックに現われた。何度もゴール前まで迫るが、サントリーは崩れない。最後の線で一歩も引かないサントリーのプレーヤーの体幹の強さが、この1年一度も負けることがなかったサントリーの強さをスタンドに印象づける。この後は互いが一つずつのPGを決めて前半を終えた。(15-3)

風上の前半をタックルで耐え、効率よく得点したサントリーは、後半になるとイメージ通りのアタッキングラグビーでボールを動かした。後半4分、持ち前のアタックシェイプからフリーとなったボールキャリアが少しずつDFの裏側にドライブ。神戸DFの数が減り、ラック周辺に寄ってワンラインとなったところをSO小野がDF裏へ絶妙のショートキック。ここへCTB平が走り込んでトライ。(22-3)

14分には、ラインアウトからフラットパスを受けたSO小野が思い切って前へ。鋭いアングルで切れ込むCTBニコラス・ライアンに神戸製鋼タックラーが集まる背中越しに、FL元がタイミング良くサポート。セットプレーからの高速アタックでディフェンスを置き去りにゴールへ飛び込む。(29-3)

23分にはFLジョージ・スミス、佐々木隆道に負けじとワークレートの高さを見せるNO8西川が良く走り勝利を決定づけるトライ。(36-3)
サントリーのアタックの極みはSHデュプレアから始まるが、この一年を通してFW第3列の球際の強さと勝負所でのサポートは他チームを圧倒する感がある。ベテランの身体を張ったリーダーシップに、西川ら若手の成長でサントリーに隙はなかった。

後半27分、深い時間帯だが神戸が目を覚ました。これまで持ち込んだボールをハンドリングエラーで失ってきた神戸が、強いヒットと確実なボールプレイスでフェイズを重ねて前進を図る。ラック周辺で空いたスペースをついにCTBジャック・フーリーが切り裂く。30分にフレイザー・アンダーソン、42分には今村が執念の3連続トライ。(36-20)
最後の最後まであきらめない神戸製鋼のファイトに、成長と次のステージへの期待が生まれる瞬間でもあった。

サントリーはこのシーズンを見事に無敗で終え、待望の日本選手権3連覇を飾った。大久保新監督となって、またひとつ進化を感じる一年だった。持ち前のアタッキングラグビーに加え、このトーナメントではディフェンス力、特にゴール付近でのタックルの強さが光った。身体の芯で受けて下がらない。一人目が確実に倒し、2人目が的確にボールを奪う。そのぶれない基本が頼もしい。チームが求めた昨年以上の「フィットネス、ストレングス、ゲームへの理解」がこのチームの幹となり、確実な勝利へ導いたといえるだろう。
(照沼 康彦)

会見リポート
 

神戸製鋼コベルコスティーラーズの苑田ヘッドコーチ(左)と橋本キャプテン

神戸製鋼コベルコスティーラーズ
○苑田右二ヘッドコーチ

「こんにちは。神戸製鋼にとって素晴らしい日々が過ごせて、9年ぶりの決勝に進出できました。サントリーさんのアタックが一枚も二枚も上でした。我々はチャレンジャーとして、毎年、決勝の素晴らしい機会を捉えられるようカルチャーをつくっていきたいと思います」

──ノックオンなどのミスが目立ったが?

「その通りです。前半、2トライ獲られたのも、ミスしてターンオーバーからでした。ポジションとしては風下ながら、ボールキープはこちらが長かったと思います。あそこで、5点でも3点でも獲っていれば、違ったゲーム展開になったと思います」

──フーリー選手が止められたが?

「まあ、一人で打開するスポーツではありませんから。まず、セットプレーからのボールデリバリーが良くなく、FWとBKの連携が足りなかったのが、スコアできなかった原因だと思います。あちらの、フーリー対策は特になかったのではと思います」

──風と寒さと、4週連続試合のコンディションについては?

「この4試合中、特に、準決勝、決勝と、選手がグラウンドに来るのを飽きさせないようにスケジュールを組みました。準決勝は、単純にバトルで80分上回ることをテーマに臨みました。今回は『決意する』がテーマで、80分タフにファイトすること、闘争心で最後まであきらめない、アタックし続けることを言ってきました。今日は、最後までトライを獲りにいってくれた選手を誇りに思い、感謝しています。風については、前半は風下でボールキープでアタックしようという意識でした。逆に、後半、有賀選手がシンビンの時間帯は、キックで相手を後ろに下げさせてから仕掛けようとしましたが、さすがにサントリーさんは、そこでトライを獲ってきて、あそこがこの試合の一番のキーポイントだったと思います」

○橋本大輝キャプテン

「素晴らしい環境でプレーできたことに、関係者の皆様、ファンの皆様に感謝申し上げます。今日、経験できた大きな舞台をこれからの糧として、また、チャレンジしたいと思います」

──後半の入りは一人多かったが?

「相手のBKが一人少ないので、BKでアタックしようとしましたが、サントリーさんの時間の使い方やボールキープが上手く、こちらのアタックの時間が少なくなってしまいました。しかし、後半最後のこちらのアタックは、勝ちに行く気持ちを全面に出して、あの結果になりました。今日はアタックがテーマでしたが、これをしっかり一から実行し直そうと言いました」

──ミスが出たのは?

「ゲームの入りから、ちょっと浮き足立っていて、落ちついていなかったからだと思います」

 

サントリーサンゴリアスの大久保監督(左)と真壁キャプテン

サントリーサンゴリアス
○大久保直弥監督

「ありがとうございました。言葉はあまりないです。本当に内容はともかく、勝って終われる幸せを感じています。ゲームメンバー以外のメンバー、チームをサポートするスタッフ、クラブの力が結実した証だと思います」

──就任以来のチームの成長は?

「今日の出来では、リーグ戦なら怒鳴り散らすと思います。昨日、ノンメンバーが11人、ウェイトトレで自己ベストを出しました。そこまで、ノンメンバーがチャレンジするチームがあるでしょうか。メンバーを勇気づけてくれたと思います。チームとして去年のチームと勝負はできませんが、ウェイトもゲーム理解も、一人ひとりが去年を間違いなく超えていると感じます」

──これからどうチームを高めるのか?

「サントリーのラグビーは一人ひとりの仕事量とチーム力です。もっとフィジカルもスキルもアタックのシェイプもブレイクダウンのコンテスト力も改善していくことが必要です。エディさんが、日本代表はアタックで世界に勝とうとしていますので、世界と戦うサントリーとしても日本のラグビーに貢献していきたいです」

──フーリー選手に仕事をさせなかったが?

「もちろん、世界トップクラスの選手ですが、特に彼一人への対策はなく、規律の面で、彼にディフェンスが集中しないよう、リーダー中心にうまくまとまってくれたと思います。2人がかりで止めるのがサントリーのディフェンスシステムで、1人でもないし、3人でもありません。一人がしっかりテークダウンし、もう一人がファイトする。前半良かったのも、そこでした」

──後半の最初は?

「ちょっと、前半の後半から流れが悪い中、剛のシンビンは、正直、痛かったです。風下に入って、とにかく一人ひとりの仕事量を上げなければいけないと分かっていました。その意志が、結果としてトライにつながったと思います」

──サントリーの強さはどこから?

「秘訣というものはありませんが、常に、ジョージとフーリーという世界のトップ選手がチームのために、スタッフのために、どう貢献するかを示してくれています。2年前のサントリーが一番変わった部分です」

──全勝で優勝したが?

「結果として勝ち続けたのは、負けを恐れていなかったからです。目の前のラインアウト、ブレイクダウンでしっかりファイトした結果、17連勝できました。負けた悔しさを、いかに忘れずにいられるか。苦しかった時代を知っている小野澤や元たちベテランが、チームが停滞しないように支えてくれました」

○真壁伸弥キャプテン

「お疲れ様です。本当に1年やってきたことが、しっかり形になって嬉しい以外の言葉はありません。やってきて良かったです」

──自身のコンディションが厳しいようだったが?

「パナソニック戦のときから痛みがあり、試合前は先週と同じコンディションだったので、心配していましたが、足が動いてくれました。同じ所をピキッとやってしまい、これでプレーしたら迷惑を掛けると思い、ピッチを出ました。誰が出てもサントリーのラグビーはできるので、交代出場の元さんを信じていました」

──全勝で優勝したが?

「2冠を獲るという目標はありましたが、1試合、1試合、目の前にフォーカスして、とりあえず、それが良かったかなあと思います」

──ハングリーは?

「満腹感は正直に言ってありません。最後にピッチに立っていないし、最後にトライを獲られたし…」

──去年の2冠と比較して?

「昨日の自分に勝とうという意識がありました。今日はしっかり形になって良かったと思います」