サントリーがシーズン完全制覇でV3か
“復活”神戸製鋼が12年ぶり日本一か

24日、東京・国立競技場で日本ラグビーフットボール選手権大会決勝が行われる。
2012-2013年シーズンの総決算となる頂上決戦に勝ち上がったのは、日本選手権3連覇、そして2季連続でのトップリーグタイトルとの2冠を目指すサントリーサンゴリアスと、9年ぶりに決勝の大舞台に帰ってきた神戸製鋼コベルコスティーラーズ。
超アタッキングラグビーを貫きながら、今季無敗のまま日本選手権決勝まで勝ち続けてきた王者サントリーに対して、シーズン終盤になって強力FWとCTBジャック・フーリーを中心とするBK陣との連動性が高まってきた神戸製鋼がどう抵抗するのか。
5週間前、トップリーグのプレーオフセミファイナルで対戦した際には神戸製鋼が前半3トライを挙げて一時は19-6と大きくリードした例もあり、立ち上がりから目の離せない一戦となること必至だ。

サントリーは超攻撃ラグビーで2年連続2冠、日本選手権V3なるか(写真は昨年の日本選手権決勝。パナソニック ワイルドナイツを破り優勝を決め喜ぶサントリーの選手たち)
photo by Kenji Demura (RJP)

両チームはセミファイナルの2週間前にトップリーグのリーグ戦最終節でも対戦。
今回の日本選手権決勝がこの1ヵ月半で3度目の対戦ということになる。
まさに手の内を知り尽くしている同士とも言えるが、今回は過去2度の対戦とは大きく異なる点がある。
神戸製鋼BKにおける大黒柱と言っていいCTBフーリーが万全な状態で大一番を迎えられるということ。
リーグ戦最終節が43-29、セミファイナルが38-19。いずれもサントリーが勝利を収めた今季のトップリーグでの両者の対戦。
ただし、最終節ではフーリーは欠場。セミファイナルでは先発したものの、後半4分で退いている。
しかも、そのセミファイナルでは、サントリー大久保直弥監督が「前半、自分たちのラグビーができずにパニックに陥っていた」と認めていたとおり、フーリーが退くまでは19-9で神戸製鋼が優勢に試合を進めてもいた。
「(前回サントリーと対戦した時よりも)自分のコンディションもチームの状態も良くなっている」
1週間前の東芝との日本選手権準決勝で東芝を破った後、フーリー自身はそんなふうに決勝への手応えを語っていたが、その東芝戦でも後半自らの2トライで試合を決めているだけに、フーリーの復調とともに神戸製鋼が上り調子にあることは紛れもない事実。
準決勝では、フーリーとコンビを組むCTBクレイグ・ウィングも12月9日以来となる先発を果たした。
攻守に圧倒的な存在感を見せる神戸製鋼のCTB陣は王者サントリーにとっても脅威になることは確かだろう。

昨季も日本選手権決勝を経験。CTBフーリーが調子を上げているのが神戸製鋼にとっては心強い
photo by Kenji Demura (RJP)

東芝戦では、「漢字で『戦闘』と書いた紙を渡して、80分間バトルし続けることをチームに浸透させた」(苑田右二ヘッドコーチ)という神戸製鋼が立ち上がりから勢いに乗って攻め続けて、前半20分の時点で19-0と大きくリード。
前述のとおり、神戸製鋼はサントリーとのセミファイナルでも前半リードして王者を苦しめており、今回も先制パンチを食らわせたいところ。
5週間前の直接対決時には、思い切ったラッシュディフェンスでサントリーに攻撃リズムを狂わせることに成功した神戸製鋼は、日本選手権に入って強力CTB陣に加えて、FB正面健司や大橋由和、今村雄太(決勝ではリザーブ)の両WTBという決定力のあるBK陣がどんどんワイドに攻めるスタイルでトライを量産してもいる。

準決勝では右足を痛め前半12分で退いたサントリーLO真壁主将も先発出場する
photo by Kenji Demura (RJP)

不動メンバーのサントリーに対して
FWのキープレーヤー欠く神戸製鋼

前回、神戸製鋼と対戦した際には立ち上がりパニックになった面もあったサントリーだが、前半33分に早くもハーフ団をSHフーリー・デュプレア/SO小野晃征から、SH日和佐篤/SOトゥシ・ピシに交替する思い切った選手起用も功を奏して、後半はしっかり自分たちのペースを取り戻すことに成功。
「もちろん、先発で出たい気持ちはあるが、控えになることが決まった時点で、自分の役割に集中する。(セミファイナルでピッチに出た時に考えたのは)とにかくテンポを上げること」
セミファイナル、ファイナルともに途中出場ながら、トップリーグのプレーオフMVPに輝いたSOピシが代弁するように、誰がどんな状況で試合に出ても、自分たちのラグビー、そして自分のやるべきことをしっかり理解して、実行できる点がサントリーが勝ち続けている理由でもあるだろう。

TLセミファイナルでは途中出場SOピシの活躍などでサントリーが後半逆転
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そんな本当の王者の強さは1週間前の日本選手権準決勝でも垣間見られた。
サントリーは前半12分にLO真壁伸弥主将が右足を痛めて退場。
今季のトップリーグで先発した13試合中12試合でフル出場してきた鉄人キャプテンなしで難敵パナソニック ワイルドナイツと対峙することになったサントリーだったが、全く動じるところは見せなかった。
「リーダーズグループという5人くらいの選手が常に情報交換して、真壁がいなくなったら誰がしゃべるかなど話し合っていたので、問題なかった」(真壁主将退場の後、ゲームキャプテンを務めたPR畠山健介)
真壁主将の替わりに投入されたのは、本職はFW第3列の元申騎。
「空中戦に強い篠塚公史とフィジカルの強い真壁という組み合わせがサントリーのLO。スクラムでの押しを少々差し引いても、真壁タイプの元を投入した」と、大久保監督はLOのポジションに元を入れた理由を説明。
期待どおりの仕事ぶりを見せた元本人は「スクラムは80分プレーしてもそれほど回数が多いわけではない。交代が早かったが、問題なかった」。
まさに「誰がどのポジションをやっても自分たちのアタッキングラグビーを貫ける」(SO小野晃征)のが王者の真骨頂でもある。

フーリー、ウィングのCTB陣に加えてWTBアンダーソンも先発。FB正面もキレ味抜群の神戸製鋼BK陣
photo by Kenji Demura (RJP)

5週間前のセミファイナル時、神戸製鋼に大きくリードされながらも逆転してみせた後、サントリーの大久保監督は「これぞファイナルという試合。この2年間の経験が生きた」と語った。また、今季全勝を続けてきたことに関しても「点差が7点差以内の試合も7試合もあったし、目の前のセットプレー、ブレイクダウンに100%ファイトしてきた、その結果」とも。
常に圧倒的な強さを見せつけるわけではないものの、エディー・ジョーンズ前監督時代から続くスタイルを進化させてきた王者。厳しい状況になればなるほど「自分たちには帰るべきところがある」と、真壁主将が胸を張るアタッキングラグビーを取り戻して、難敵を蹴散らしてきた。
その真壁主将は心配されたケガも大事には至らず、決勝では先発に復帰して再び陣頭指揮を執るのをはじめ、準決勝と同じ22人で完全制覇を狙うことに。

一方の神戸製鋼はHO松原裕司、FLジョシュ・ブラッキーという準決勝でキーマンになっていたFWプレーヤーが欠場。代わりに、WTBフレイザー・アンダーソンを先発に入れて、立ち上がりからBKでもどんどん攻めてくる意図を感じさせるメンバー構成になっている。

いずれにしても、繰り返しになるがキックオフから目の離せない「これぞファイナルという試合」になること請け合いだ。

text by Kenji Demura

準決勝で東芝を破った神戸製鋼にとっては9年ぶりの日本選手権決勝の大舞台となる
photo by Kenji Demura (RJP)