「第50回 日本ラグビーフットボール選手権大会」
マッチリポート

神戸製鋼コベルコスティーラーズ 31-29 東芝ブレイブルーパス

【準決勝/2013年2月16日(土) /大阪・近鉄花園ラグビー場】
強い北風に風花が舞う近鉄花園ラグビー場で、プレーオフトーナメント3位の神戸製鋼と2位の東芝との間で日本選手権準決勝戦が行われた。神戸製鋼は、先週秩父宮でコカ・コーラを下して迎える2年ぶりの準決勝。一方の東芝はプレーオフトーナメント決勝から3週間、体制を建て直して迎え撃つ。
レギュラーシーズン第11節の対戦では、東芝が前半からゲームを支配し2点の僅差で神戸を下し、実力では半歩リードしている。この試合では神戸はロスタイムに入り得点を挙げたがわずかに及ばなかった。決勝戦進出を賭けた好カードに多くのラグビーファンが花園につめかけた。

前半、風上に位置した神戸製鋼のキックオフで試合が開始される。風下のハンディキャップを背負う東芝は、強い風の影響を受け思うように自陣から抜け出せない試合展開。
先取したのは神戸製鋼。7分左WTB大橋のハイパントからゴール前22m左ラックを支配し右展開、ライン参加したFB正面がタックルを振り切りトライを奪うとスタンドの神戸製鋼応援団から大きな歓声が上がる(ゴール不成功5-0)。次に得点を挙げたのも神戸製鋼。まだ先取点の余韻が残る11分、自陣10mL右中間ラックで東芝のノックオンによるこぼれ球を右FLブラッキーが虚を突きショートサイドにパントキック、バウンドした球が右WTB今村の胸に収まり、ライン際を走り切り右中間にトライ、ゴールもSO山本が着実に決め12-0とリードを拡げる。

神戸製鋼は、前半から積極的に仕掛け、CTBフーリーが包み込むようなディフェンスで東芝BKに外に展開させず優位に試合を運び、18分には10mL中央ラックから左展開、左LO安井からのリターンパスを受けた左WTB大橋が東芝ディフェンスの裏を走り切り左中間に3本目のトライを奪うとスタンドからは割れるばかりの歓声が上がる。ゴールも決まり19-0と前半の中盤までに大きくリードを奪う。
東芝は、公式戦から遠ざかっているせいか小さなミスや接点で前に出ることができないなど神戸に大きく先行を許す苦しい試合展開。前半の終了間際になってようやく一つPGを返し、19-3として後半に勝負をかける。

後半、今度は風上に立った東芝の反撃が期待されたが、先に得点を上げたのはまたも神戸製鋼。3分に東芝の反則からラインアウト、ラックから右展開と思わせたその瞬間、SO山本が東芝ディフェンスの裏にグラバーキックを蹴り込むと走り込んできたCTBフーリーが中央に抑えトライ(ゴール)、26-3と更にリードを拡げる。
この後、東芝はFWがスクラム・モールプレーで優位にたったのを活かし、神戸製鋼を自陣に釘付けにすると、神戸製鋼はたまらずスクラムコラプシングを犯す。東芝は15分この試合初のトライをペナルティートライで挙げ26-10と差を詰めにかかる。

だがこの日の神戸製鋼は、東芝がひたひたと迫る中にあっても簡単には追い上げを許さない。17分、東芝のゴール前15mまで攻め込んだチャンスにラックから左展開、センターに入った今村からの飛ばしパスがフーリーに渡り、タックルを吹き飛ばし左隅にトライ、31-10とし、ここで試合を決めたかと思われた。

しかし、ここから筋書きのないドラマが始まる。東芝は動きが良くなったFWがピックアンドゴーで神戸製鋼陣内に深く攻め込み、21分ゴール前5m中央ラックから途中出場SH藤井が左展開、右FL中居が左中間にトライを返し31-15とする。26分にはFWの連続攻撃でラックを連取し、ゴール前5m中央からモールを形成し、そのまま押し込みキャプテンNo.8豊田がポスト下にトライ、SOに入った廣瀬がゴールを素早く決め31-22。
さらに33分ゴール前10m中央ラックから右展開、リターンパスを受けた左FLベイツがタックルを振り切りトライ、ゴールも決まりついに31-29と射程圏内に追い詰める。スタンドの東芝応援団からは大歓声が沸き起こる。

最後まで試合はもつれたが、神戸製鋼も最後の力を振り絞りゴールへ迫る。39分東芝ゴールライン上での攻防はTMO判定に持ち込まれるが、トライは認められない。そしてスタンドが固唾を飲む最後の攻防に持ち込まれるが、神戸製鋼が東芝陣内で時間を使い切りフルタイム。決勝進出をかけた死闘に終止符を打った。前後半の滑り出しに積極的な攻撃で勝利を手にし、レギュラーシーズンの雪辱を果たした神戸製鋼、敗れはしたものの後半FW戦で優位に立ち執念で逆転寸前まで追い上げた東芝、好勝負を見せた両チームに花園のラグビーファンからは惜しみない拍手が贈られた。

近鉄花園ラグビー場で、今シーズン最終公式戦となった日本選手権準決勝は、神戸製鋼が接戦を制し、9シーズンぶりに決勝進出を果たした。神戸製鋼は、2000年以来11シーズンぶりの日本選手権制覇を目指し、国立競技場でサントリーと闘う。

会見リポート
 

東芝ブレイブルーパスの和田監督(右)と豊田キャプテン

東芝ブレイブルーパス

○和田賢一監督

「花園で久々のゲーム、寒い中応援に駆けつけてくださったファンや会社関係者の方々に、まず御礼申し上げたいと思います。
神戸製鋼の気迫に圧倒された前半でしたが、そのような状況下でも終始我々のスタイルにこだわって勝負したことは評価できます。
悔しさが募る大きな敗戦でしたが、選手たちはよくやってくれました。ここ数年タイトルを逃している事実を真摯に受けとめ、来シーズンに臨みたいと思います」

○豊田真人キャプテン

「前半、風下の状況で神戸製鋼のアタックを受けてしまい、東芝らしいプレーが出来なかったことが悔しいです。
今シーズン重ねた敗戦の度に、応援してくださったファンの方々に歯がゆい想いをさせてしまい、申し訳なく思います。もう一度立て直し、来シーズンは負けないチームをつくり、ご声援くださるファンの方々に喜んでいただきたいです」

──前半5次攻撃までにミスし、ボールキープ出来なかった原因について。

○豊田キャプテン
「3週間ぶりのゲームで、試合勘が戻りきらないままミスを多発し、失点してしまいました。前半20分以降動きが良くなってきただけに、ゲームの入りの悪さが悔やまれます」

──試合勘を取り戻すための準備は?

○和田監督
「試合勘の鈍さは想定していましたので、シンプルに、少ないパスで前進することを心掛けていましたが、2人目、3人目が遅れてしまいました。ハーフタイムの指示により後半修正出来ましたが、前半、簡単にトライされ過ぎました」

──トスで風下を選択したことについて。

○和田監督
「先に身体をどんどん当て、リズムをつくるつもりでしたが、ブレイクダウンで狙ったターンオーバーにミスが目立ってしまいました。試合勘が鈍く、逆に神戸製鋼のスピードに受けになってしまいました」

──前半終了時のペナルティで、スクラムではなくPGを選択したことについて。

○豊田キャプテン
「後半必ずチャンスがあることを予想し、またスコアすることでチームを落ち着かせる意味からも、まずPGを狙いました」

──後半、シンビンによって14人となった神戸製鋼にトライを奪われたことについて。

○豊田キャプテン
「試合勘の戻りきらない相手に対し、ダメージを与えるパターンです。今日は神戸製鋼の出来が良かったということです」

 

神戸製鋼コベルコスティーラーズの苑田ヘッドコーチ(左)と橋本キャプテン

神戸製鋼コベルコスティーラーズ

○苑田右二ヘッドコーチ

「グラウンドコンディション、ファンの方々の暖かいご声援と、素晴らしい環境でラグビーが出来たことに感謝したいと思います。今日のテーマは80分間途切れることなく戦う=バトルでしたが、風下の後半によく我慢し、ハードワークし続けたことが勝因です」

○橋本大輝キャプテン

「勝利したとはいえ、次戦に向け課題の多いゲームでした。来週しっかり修正し、決勝にチャレンジしたいです」

──後半、東芝の猛追を凌いだことについて。

○苑田ヘッドコーチ
「相手にリードを許すことが無く、安心して観ていました。後半終了間際にFWがタフな東芝相手にトライを狙いにいった姿勢が頼もしく見えました。

──選手入れ替えが早すぎたのでは。

○苑田ヘッドコーチ
「リザーブ選手は、ゲームに大きなインパクトを与え得るプレーヤーであり、厳しい場面で積極的に仕掛けていきました。結果、FLの橋本が負傷し、BKのアンダーソンがFLに入ることになりましたが、自分の仕事を全うしてくれました」

──ゲーム立ち上がりの意識について。

○苑田ヘッドコーチ
「コカ・コーラウエスト戦の悪い内容から中6日、しっかり反省し、心身共新たに戦闘モードでゲームに入りました。トップリーグでの東芝戦は前半、後半それぞれ入りの10分間で失点しましたので、特に意識していました」

──次戦への課題とは。

○橋本キャプテン
「コンタクトゾーンで差し込まれたことです」

──久々の決勝進出で、優勝経験のある選手は少ないが。

○苑田ヘッドコーチ
「今日のテーマ=バトルを80分間体現し、勝ちきった選手達はタフであり、不安はありません」

──シンビンで1人欠けた時の心理状態は。

○橋本キャプテン
「自分たちのプレーをし、巧く時間を使うことを心掛けました」

──最初のトライのきっかけになったPGチャンスについて。

○橋本キャプテン
「(周りの選手から)ショット選択の意見もありましたが、しっかりバトルしたかったので、タッチを指示しました」

──久々の決勝進出に向け抱負を。

○苑田ヘッドコーチ
「ファンや関係者の方々の暖かいご声援で、ここまで来ました。国立競技場の決勝で、最高のパフォーマンスが出来るようしっかり修正し、次の一週間、45名の部員及びスタッフ全員で、いい準備をしたいと思います」

○橋本キャプテン
「今季キャプテンらしいことをしていませんが、ラグビー人生初の決勝戦でもあり、気負わず、今季のスローガンであるムービングラグビーを体現したいです」

(記事:山林右二、蜷川善夫、廣島治 写真:長谷川昭男 広報担当:村島博)