日本で最高のレベルでプレーする責任を果たし
サントリーが2年連続2冠と日本選手権V3に王手

16日、日本ラグビーフットボール選手権大会準決勝2試合が行われ、東京・秩父宮ラグビー場ではアタッキングラグビーのサントリーが、堅固なディフェンスを誇るパナソニック ワイルドナイツを退け、2季連続2冠達成に王手をかけた。
決勝戦は、日本選手権3連覇を目指すサントリーと、同日、大阪・近鉄花園ラグビー場で東芝ブレイブルーパスを31-29で下した神戸製鋼コベルコスティーラーズとの対戦となる。

前半20分のNO8西川のトライなどで、風下の前半からリードしたサントリーが快勝
photo by H.Nagaoka (RJP)

「トライを取り急いだ。ゴールに近づけば近づくほど焦った」(パナソニック中嶋則文監督)
「風下の前半、ボールを継続して我慢して後半を迎えられた」(サントリー大久保直弥監督)

時折強風の吹くこの日、アタックにディフェンスに、我慢を続けることができるか。そんな心理戦こそが、勝負の分かれ目となった。
前半、風上に立ち、ラッシュディフェンスで前に出るパナソニック。その勢いを受けるサントリーは、序盤、ミスが目立った。試合開始直後、パナソニックのSO野口裕也が、タックルでサントリーのSO小野晃征のノックオンを誘う。その後、サントリーにラックでのオフサイドがあり、FB田邉淳がPGを決め、パナソニックが3点を先制。開始わずか2分。試合開始早々から、パナソニックに流れが傾くかに思われた。

真壁主将の負傷退場により本職ではないLOでプレーした元もしっかり仕事をこなした
photo by H.Nagaoka (RJP)

だが、強風もパナソニックの前に出るディフェンスも、ともにサントリーにとっては想定内。そもそも、サントリーは、コイントスに勝ちながら、風下を選択していた。
「風速6mの風が、後半になっても変わらないことは分かっていた」(大久保監督)。
風上の前半にリードを広げたいパナソニック。だが、ここというところでミスが起き、得点につながらない。
7分、CTBイーリニコラスとWTB山田章仁が交錯してオブストラクション。14分にはCTBサム・ノートンナイトからのパスをLOダニエル・ヒーナンがゴール前でノックオン。34分には、サントリーの自陣ゴール前スクラムにプレッシャーをかけ、ラックをめくりこんでターンオーバーのチャンスを得るも、ノートンナイトの脇に走り込んだ田邉がノックオン。決定的チャンスを、ことごとくミスで逸する。
16分に、サントリーのラックでのハンドで得たPGを再び田邉が決め、6対0とリードを広げるも、これ以上得点を重ねることはできなかった。

後半23分にはWTB村田が左隅のトライを決めて、パナソニックを引き離す
photo by H.Nagaoka (RJP)

逆に、前半唯一のトライはサントリー。20分、パナソニックのゴール前でボールを受けたNO8西川征克が2人のタックルをかいくぐり、最後は追いすがる田邉のタックルを受けながらトライ。ゴールも決まって7対6。
結局、このスコアのまま、前半が終了し、風下のサントリーが1点のリードで前半を折り返した。
「フィフティーフィフティのパス、要らないキックがあった」と大久保監督が振り返る前半。それでも、「もちろん、風上の方が楽。だが、風下でもしっかりとアタックのシェイプを取れた」とSO小野が語るように、手応えをつかんだのは風下で戦ったサントリー。
一方の中嶋監督は「我々のペースで試合を運べていない」とコメント。サントリーが、風下で不利を負う前半を乗り切る格好となった。

真壁主将途中退場のアクシデントも全員でカバー

こうなると、後半に勢いを得るのはサントリー。13分、ニコラスのPGで10対6。23分には、こぼれ球を拾ったWTB村田大志がラックサイドを抜け出し、約50メートルを走りきり、田邉を振り切ってトライ。ゴールも決まり、17対6とリードを広げた。
その後、29分にニコラスがPG、32分に途中出場のSOトゥシ・ピシがDGを決め、スコアを23対6として勝負を決定づけた。
35分に、パナソニック途中出場のバツベイシオネが約60メートルを走りきりトライを返すも、ここまで。40分にPGニコラスが駄目押しのPGを入れ、26対13の最終スコアで決勝戦進出を決めた。

「風下でも自分たちのアタックシェイプを取れた」とサントリーSO小野
photo by H.Nagaoka (RJP)

この試合、サントリーには危機的状況を招きかねないアクシデントが起きていた。前半12分、LO真壁伸弥キャプテンが、右足を傷め、元申騎と交代。余りにも早い時間帯でのキャプテンの退場。チームがパニックに陥ってもおかしくない状況だが、サントリーのラグビーに動揺はなかった。

真壁の退場により、キャプテン代理を務めたPR畠山健介は、「サントリーには5人ぐらいで構成されるリーダーズグループがあり、常日頃から情報共有、意見交換をしている」と述べ、真壁不在の状況にも、落ち着いていたことを明かす。また、本来3列の元を投入し、そのままLOに入れたことについて、大久保監督は、「空中戦に強い篠塚公史とフィジカルの強い真壁という組み合わせがサントリーのLO。スクラムでの押しを少々差し引いても、真壁タイプの元を投入した」と説明。元本人も、「スクラムは80分プレーしても、それほど回数が多いわけではない。たまたま交代が早かったが、問題ない」と涼しい顔で仕事をこなした。

特に前半、ミスも多く、パナソニックのダブルタックルと前に出る圧力も受けた。だが、「ディフェンスで前に出るのは、1回はできるが、2回3回と繰り返すのは厳しい」(小野)、「80分間はできないディフェンス。途中からラッシュの勢いが落ちてきた」(村田)と、冷静に対処した。

パナソニックは風上だった前半にトライを取れなかったのが最後まで響いた
photo by H.Nagaoka (RJP)

「サントリーは、選手全員がやることを分かっているので、大崩れしない。誰が出ても、統制が取れている」(パナソニック中島監督)
「40週間、『去年のサントリーを超えよう』とやってきた。だが、まだその域に達していない」(サントリー大久保監督)

抜群のフィットネスをベースに、自分たちのラグビーを追求するサントリー。何が起きても、立ち返るべきスタイルを全員が共有する強みがある。
「日本のラグビーの最高のレベルでプレーする責任」(大久保監督)を果たし、1年前の自分たちを超える戦いに挑む。果たして、2年連続の2冠達成は成るか。

text by Takuji Kimura

「負けたが気持ちいい試合だった」とパナソニックCTB霜村主将。リベンジは来季に
photo by H.Nagaoka (RJP)