「第50回 日本ラグビーフットボール選手権大会」
マッチリポート

パナソニック ワイルドナイツ 54-21 帝京大学

【2回戦/2013年2月10日(日) /東京・秩父宮ラグビー場】
大学選手権では他をよせつけず、断トツの強さで史上初の4連覇を達成した帝京大学。先週の日本選手権1回戦前後には、岩出監督が「来季こそはシーズンを通してトップリーグに勝つための準備をする」と宣言した。今季のチームもこれまで大きな力を発揮してきているだけに、今の力がトップリーグ上位チームに対してどこまで通じるか。これを楽しみに、快晴無風の秩父宮ラグビー場に多くの観客が詰めかけた。
パナソニックはシーズン終盤、レギュラー選手の疲労・怪我を考慮して、大幅にメンバーを入れ替え、多くの若手を起用している。

パナソニックのキックオフ。開始当初、帝京の個々のコンタクト、また密集での攻防でも十分に力が通用している。しかしながらゴールまで10mの地点でラインアウトモールを組むが押させてもらうことはできない。またラックでもパナソニックのうまさにやられてしまう。思ったように攻撃を継続することができない。

そして12分、16分とパナソニック14北川智に立て続けにトライを許してしまう。ひとつめは帝京が自陣から展開を試みてできたラックをターンオーバー。左、右と展開して、余ってはいなかったものの北川のステップに帝京が対応することができず、やすやすとゴールを明け渡した。二つ目はこの日初めて先発した10木村からのキックパス、ゴールライン上落下点で北川が競り勝ってそのまま押さえる。20分にも連続攻撃から12林が帝京BKラインにFWの選手が並んでいるのを見逃さず、するっと抜けてトライ。ゴールも決まって19-0としてパナソニックがペースをつかみかける。

しかし、3連続トライを許しても帝京の息の根は止まっていなかった。徐々にトップリーグ相手に体が慣れてきた27分、31分と連続トライを取り返す。自陣で相手ラインの裏に10中村が小さく蹴ったボールに13権が走りこんでキャッチ、すぐさまゴールに向けて大きくキック。誰もいないゴール地点で点々とするボールを、パナソニック11三宅に走り勝った帝京12荒井が押えこんだ。そして31分にまたも12荒井が、パナソニックがハーフウェイ付近でBKに回したボールをインターセプト、ゴール直前でパナソニック俊足14北川に追いつかれるもそのまま50mを走り切ってトライ。19-14と追いすがる。前半終了間際帝京が相手ゴール前に攻め込むが得点できず、このまま僅差で前半を終える。

前半の後半の帝京の対応力をみて、後半も大いに期待がかかる。後半開始早々パナソニックに攻め込まれるが、これを持ち前のディフェンス力で耐える。前半途中で不調の8李に代わって入った1年生19坂手も、相手を仰向けに倒す強烈なタックルを見舞うなど、非凡な力を発揮した。

しかしながら、後半3分にパナソニック21デラーニが投入されると、ゲームは大きくパナソニックに傾いた。7分、ゴール前5mラインアウトモールを押し切って2設楽が後半最初のトライ。12分には右左と連続攻撃から最後は9イーリがラックサイドを突いてゴールへ。21分にもゴール前ラインアウトモールから、6バツベイがサイドを力強く突進して押さえる。27分、今度は21デラーニが横走りで相手を引き付けて12林とダミーシザース、そこに途中からセンターに入っていた10木村が縦に走りこんでゴールに飛び込む。34分にもやはり21デラーニが斜めに走って相手を翻弄しつつ14北川へラストパス、そのまま走り切って今日3本目のトライ。54-14と突き放した。

ゲームの行方は決してしまったが、帝京の若者たちはまだまだ諦めていなかった。37分エース10中村が相手ボールに絡んで得たPKから20天野がクイックタップ、パナソニックゴール前に攻め込む。ラックを連取して最後はキャプテン2泉がラックサイドを突いて相手を力強く押し込んで意地のトライを奪取。54-21としてノーサイド。

オールブラックス経験もあるパナソニック21デラーニが投入されて以降、大きく点差が開いてしまったが、個々のコンタクトなどゲームを通して十分に通用する部分も多くあった。再三のゴール前ラインアウトモールを押させてもらうことができず、また、密集では多くのターンオーバーを許してしまったが、その多くは力の差ではなくうまさにやられてしまった感がある。これまでの学生同士のゲームでは経験できなかった部分ではないか。岩出監督が宣言しているとおり、来季、シーズンを通してトップリーグに慣れることができれば、キャプテン就任が決まっている中村を始めとして、多くの有望な選手たちがこのまま残ることを考慮しても、来季のトップリーグ打倒に期待が持てる余韻を残して、『泉帝京』はシーズンを終えた。(澤村 豊)

会見リポート
 

帝京大学の岩出監督(左)と森田キャプテン
帝京大学の岩出監督(右)と泉キャプテン

帝京大学
○岩出雅之監督

「よろしくお願いします。少し淡い期待を持ちながらゲームに臨みました。まだまだ実力不足でした。敗戦から良いものを頂いたと思います。学生たちはクタクタにはなっていないと思いますが、余裕がなかった部分があったのではないかと思います。トップリーガーの反応、スキル、コンタクトの強さを学生が実感として学び、リアクションできれば大学とトップリーグの差が埋まると思います。そこを埋めていくためのプランニングをして、学生が挑戦できる環境をつくりたいと思います。もう少し、後半、うまく集中できていればと思います」

──集中が切れたのは?

「ディフェンスは予測と勇気ですが、連続してアタックされ予測できていないところが見られました。横の選手の力量を見る余裕がなかったのでしよう。連携の悪さが出て、ここを抜かれるかというところを抜かれました。ウィークな選手とのミスマッチになった時に、どこまで我慢しきれるかです。総合的に詰める要素が欠けていました。1年間、ここ(日本選手権2回戦)を目指してやらなくては。ただ、対抗戦も大学選手権も、独特な厳しい相手ですので、油断なく、足元をすくわれないように、大学を制する必要な力量も忘れることなく頑張っていきたいと思います」

──来年、トップリーグチームに勝てるようにするためには?

「サントリーさんからも声をかけて頂きましたが、できるだけ学生が凝視してしっかり挑めるように、スケジュールを組みたいと思います。良いコミュニケーションで、胸を借りる機会を、年間を通してつくり、社会人に肉薄できるようにしたいと思います。また、学生の世界に留まらず、社会人になる前に日本代表に選ばれるなど、志をもっと大きく、日本での2019ワールドカップを目指して、活動や考え方も成長を促したいと思います。志が芽生えればチームも成長できると思いますし、多くの監督者たちと考え方を共有できれば、大学ラグビーも進化して、マイナスはないと思います。前向きに学生たちにチャレンジさせたいです」

○泉敬キャプテン

「よろしくお願いします。今日はパナソニックさんに絶対に勝つという気持ちで臨みました。1年間、やってきたことを出して、通用する部分も通用しない部分もありました。集中力も足りなかったと思います。自信と失敗を、また、成長につなげていきたいと思います。4年生は次のステージへ向かって、3年生以下は、次の日本選手権に出られるよう帝京ラグビーをさらに強くしていきたいと思います。今日はやり切った部分はあったと思います」

──集中が切れたのは?

「体の疲労はあまり感じませんでした。しかし、少しずつゲインされて、お互いのディフェンス、アタックでのコミュニケーションがうまく行かない部分があったと思います」

──4年間を振り返ると?

「監督はじめ、素晴らしいスタッフ、仲間に支えられて充実した4年間でした。ラグビーを通じて、社会に出て生きる力を学びました。僕らしく、明るく、ひたむきにやっていきたいと思います。チームは周りの方々に支えられて勝つことができました。来年、再来年の日本選手権でも頑張ってくれると思います」

──最後にキャプテン自身もトライを獲ったが?

「皆のトライです」

 

パナソニックの中嶋監督(右)と三宅ゲームキャプテン

パナソニックワイルドナイツ
○中嶋則文監督

「お疲れ様でした。今日の試合は、大学4連覇を果たした帝京さん相手に、メンタル的にどれだけ自分たちのモチベーションを落とさずに、自分たちのスタイルで叩きのめすことができるかと臨んだ試合でした。前半はマイボールラインアウトが取れず、オフサイドもあり、自分たちのペースがつかめませんでしたが、後半はしっかり選手が修正してスタイルを出せたと思います。なかなか、大学生相手の試合はないし、選手も経験がなく、難しい試合でした。選手は80分、よくやってくれたと思います」

──メンバー起用とハーフタイムの指示は?

「実力のある選手の中で、モチベーションが高く、一生懸命やっているのに、なかなか公式戦で出場機会のない選手にチャンスを与えました。また、先週のヤマハ戦の疲労と大阪への移動も考えて選びました。ハーフタイムではしっかり選手が修正していたので、何も言う必要はありませんでした」

──次の試合への収穫は?

「うちのチームというより、学生のひたむきさ、最後まで戦い続けるメンタル面を学ぶことができました。特にトップ4のチームとの試合では、ひたむきさや小さいミスが勝負を分けると思います。そういう意味で、大変学ぶところのあった試合でした」

──サントリー戦に向けて?

「選手は気合が入っています。トニー・ブラウン(コーチ)も自分がエントリーしそうなくらい(笑)気合が入っています」

○三宅敬ゲームキャプテン

「お疲れ様です。帝京さんは4連覇という偉業を達成され、日本のラグビーの歴史を変えたチャンピオンチームですので、モチベーションを高く、リスペクトして臨みました。スコアだけは盤石でしたが、学生も良いトライがあったと思います。トップリーグでは経験できないものを経験させてもらいました」

──帝京のリスペクトできた部分と、トップリーグとの差は?

「単純に、一人一人のフィジカルは通用すると思います。FWが塊で来る力もすごくありました。若干、キック処理が甘いところがありましたので、経験、ポジショニングが必要だと思います。あとは、自陣からどうキックを使うのかなど考えて試合すれば、僕たちも苦しんだと思います」