「第49回 日本選手権大会」

18日、第49回日本選手権決勝が行われ、持ち前のアタック力で3トライを奪ったサントリーサンゴリアスがパナソニック ワイルドナイツをノートライに抑える完璧なラグビーを披露して21-9で完勝。サントリーにとっては、2年連続の5度目の日本選手権制覇であるとともに、トップリーグタイトルと合わせて2冠も達成。
4月から日本代表ヘッドコーチに就任するエディー・ジョーンズGM兼監督は見事な有終の美を飾るかっこうとなった。

サントリーサンゴリアス 21-9 パナソニック ワイルドナイツ(前半14-3)

ブレない強さを見せつけたサントリーがシーズン完全制覇!

この日本選手権決勝がサントリーサンゴリアスの指揮をとる最後の試合となることが決まっていたエディー・ジョーンズGM兼監督にとって、勝負はすでに試合前についていたのかもしれなかった。
「ウォームアップの時点で今日は勝てると感じていた。選手たちにはエネルギーが充満していたし、サントリーがいい試合をすればパナソニック(ワイルドナイツ)にはチャンスはないと思っていた」

サントリーNO8竹本主将を2人がかりで止めるパナソニックLOヒーナンとFL若松。パナソニックのディフェンスも機能していたが……
photo by Kenji Demura (RJP)

3週間前に行われたトップリーグのプレーオフ ファイナルでは47-28で大勝。
その後、パナソニックが準決勝のNECグリーンロケッツ戦で41-3と大勝するなど復調していたとはいえ、サントリーもリーグ戦で敗れていた東芝ブレイブルーパスの猛攻を凌ぎ切っての決勝進出だっただけに、心身のコンディションをいかに万全にして試合に臨めるかが、指揮官の最大の関心事だったのかもしれない。

おまけに、日本選手権には、準決勝で東芝に勝ったチームは決勝で勝てないという不思議なジンクスもあった(昨年の三洋電機、一昨年のトヨタ自動車……)。
「東芝戦の後の1週間の練習は、1年で一番軽い内容だった。選手たちにはそれくらい心身ともにダメージがあった」(同GM兼監督)
そんな苦闘した状況を経てたどり着いた国立競技場でのウォームアップだっただけに、選手たちが心身ともに闘う態勢を整えられているのを確認できた時点で、極端な話、サントリーの監督としての仕事の多くの部分はすでに終了していたのかもしれなかった。

試合の流れを決定づけたインターセプトからのWTB小野澤のトライなど3トライを重ねたサントリーが2冠を達成
photo by Kenji Demura (RJP)

「自分たちのことだけに集中した、いいウォームアップだった」(PR畠山健介)

指揮官だけではなく、選手たち自身も最高の感触をつかんでの決戦のグラウンド入りだったことを証明するかのように、試合は立ち上がりからサントリーがボールキープしながら攻める時間が多い展開となる。

パナソニックの前に出るディフェンスに苦しむ場面も少なくなかったが、「ゲインラインを意識しながら、我慢し続ける」(FL佐々木隆道)というスタイルで、試合の根底の部分ではペースをつかみ続けた。

サントリーの選手たちがよく口にする言葉で表現するなら「ファンダメンタル」を守り続けた結果は、SOトゥシ・ピシ、WTB小野澤宏時という、ふたりのキープレーヤーのビッグプレーによるトライとなって実を結ぶことになる。

23分にパナソニックがFB田邉淳のPGで先制しても全く慌てなかったサントリーは、26分にいつものようにフェイズを重ねながら敵陣22mに攻め込んだ後、大きくゲインが稼げないと見るや、SOトゥシ・ピシがパナソニックの前に出てくるディフェンスの網をかいくぐるようにショートパントをインゴールに蹴り込み、自ら押さえ込んで逆転(CTBニコラスライアンのゴール成功で7-3)。
さらに、35分には、パナソニックSOマイク・デラーニからFB田邉へのパスをWTB小野澤がインターセプトして走りきり、10分足らずの間にスコアを14-3に広げてハーフタイムを迎えた。

「こんなハードワークチームは知らない」(デュプレア)

「サントリーはチャンスに取り切って、パナソニックは取り切れなかった」(パナソニック中嶋則文監督)
トップリーグファイナルで大敗を喫した後に「どうしたらサントリーのアタックを止められるかを考えて」(CTB霜村誠一主将)採用されたというパナソニックの、とんでもなく出足の速いディフェンスは間違いなく機能していた。
確かにサントリーの攻める時間帯は長かったが、トライにつながるような決定的なラインブレークはほとんどなかった。時にはノーボール(アーリー)タックルぎりぎりというタイミングで飛び出してくるパナソニックディフェンスのプレッシャーにサントリーがミス(あのFLジョージ・スミスのノックオンも!)をおかしたり、タックルの後にパナソニックがボールを奪い返した場面は何度もあった。

優勝を喜ぶサントリーの選手たち。左から、クレバー選手、平選手、真壁選手
photo by Kenji Demura (RJP)

ある意味、パナソニックにとっても、予定どおりの試合展開だったわけだが、最後の最後で勝敗を分けたのは「精度」という言葉で語られがちな積み重ねてきたものの違いだったかもしれない。
もっと端的に、パナソニックの中嶋監督をして「インターセプトのトライが痛かった」と嘆かせるトライを決めたサントリーWTB小野澤の言葉を借りるなら「相手の若さに34歳のおじさんのズルさが優った」。

W杯でもオールブラックス相手に同じようなインターセプトからのトライを決めている小野澤の絶妙なタイミングと間合いにパスを預けるかっこうになったパナソニックSOデラーニも29歳と決して若くはなく、スーパーラグビーなどでの経験も豊富な選手だが、ジョーンズ監督の下、この2年間試行錯誤を続けながらサントリーのプレーヤーひとりひとりが常に意識しながら身につけてきた「ファンダメンタル」の確固さが、現時点では一枚上手だったということだろう。

目標の2冠を達成し、だるまに両目を入れるジョーンズ監督。4月からは日本代表のヘッドコーチとして辣腕を振るう
photo by Kenji Demura (RJP)

「厚みの部分で差を感じた」

第三者として、決勝戦の翌日に日本代表主将に指名された東芝ブレイブルーパスWTB廣瀬俊朗の言葉を借りるならそうなるし、一方の当事者であるパナソニックHO堀江翔太の総括は「経験の差が出た」。

後半に入っても、FL佐々木隆道が3本連続で相手ラインウアトを奪うなど、セットで優位に立ち、世界一とも評されるSHフーリー・デュプレアに「こんなにハードに仕事を続けるグループは知らない」とまで言わしめるほどの仕事ぶりを見せつけたサントリーが全体的には試合をコントロールしている印象は変わらず。
後半15分には切り札CTBジャック・フーリーも投入したパナソニックのアタックを最後まで封じ切ってノートライに抑えてみせる一方、後半29分には、速いテンポでしっかりフェイズを重ねるサントリーらしい「アグレッシブ、アタッキングラグビー」がとうとう炸裂。前述デュプレアに「スーパー15でも通用する」と評価されるCTB平浩二がダメを押しトライを決めて、粘るパナソニックに引導を渡した。

「日本一のアタッキングチームであり、日本一のディフェンスチームとなった」
思い起こせば、一昨年の秋、ジョーンズが指揮を執り始めたサントリーの船出は、トップリーグの最初の3試合で2敗を喫するという苦しいものだった。
「どの1週間をとっても楽な週はなかった」
ジョーンズ監督の下、主将を務め続けたNO8竹本の述懐も決してオーバーなものではないだろう。
「どこにも負けない練習をしてきた自信とプライド」(FL佐々木)を通過したサントリーのファンダメンタルは実に強固なものであることを印象づけた"有終の美"だった。

text by Kenji Demura