「第49回 日本選手権大会」プレビュー

日本選手権は3月18日、東京・国立競技場でいよいよ決勝戦の日を迎える。トップリーグのプレーオフトーナメントファイナルと同じ顔合わせとなったこの戦い、今度はどちらに軍配が上がるのか?

サントリーサンゴリアス 対 パナソニック ワイルドナイツ

激しくぶつかり合うサントリーFLスミスとパナソニックHO堀江。トップリーグ、日本選手権での両チームによる頂上決戦は4回連続
photo by Kenji Demura (RJP)

18日に国立競技場で行われる日本選手権決勝は、2月26日のトップリーグプレーオフファイナルと同じ、サントリーサンゴリアス対パナソニック ワイルドナイツの顔合わせとなった。

両者が2つ大会で決勝を戦うのは、昨シーズンに続いて2年連続。昨季は、プレーオフを制した三洋電機(当時)が日本選手権4連覇に挑んだが、雪辱を期すサントリーの猛攻に20-37と敗れて涙を呑んだ。

サントリーは、この日本選手権を制したことで、エディー・ジョーンズGM兼監督の"アグレッシブ、アタッキングラグビー"に自信を深め、それが今季の快進撃につながっている。

今季は立場が入れ替わり、パナソニックがファイナルのリベンジに燃えて決勝戦に臨む。
勝負を分けるポイントはブレイクダウンの攻防だ。
パナソニックは、11日の準決勝でNECグリーンロケッツに41-3と快勝したが、これはブレイクダウンでFWがNECを圧倒したから。そこには、ファイナルでサントリーにブレイクダウンで前に出られて防御ラインの出足が鈍り、5トライを奪われたことへの反省がある。

CTB霜村誠一主将が言う。
「サントリーにブレイクダウンで押し込まれて前に出てディフェンスすることができなかった。だから、FWが積極的に前に出るように修正した。おかげでNEC戦は、ネマニ・ナドロ(=NEC WTB)のようなパンチのあるプレーヤーを止められたんです」
NECとの準決勝に向けて集中的に強化したブレイクダウンと、速く出て相手に圧力をかけるディフェンスが、そのままサントリー戦で露呈した課題の修正につながったわけだ。

キーマンのデュプレアは「日本で成長」

対するサントリーは、東芝の波状攻撃に苦しみながらも失トライを前半の1つに抑える鉄壁の防御で、この難敵を23-8と破って決勝進出を決めた。特に、東芝に2回もビデオ判定に持ち込まれながらも、いずれもトライを許さなかったゴールライン際の執念は凄まじかった。
トップリーグの年間MVPとプレーオフMVPの2冠を手にしたFLジョージ・スミス、現役南アフリカ代表のSHフーリー・デュプレアといった世界のトッププレーヤーがゴール前で見せる「トライ阻止」への執念がチームに浸透し、それが最後まで諦めない気持ちをさらに強くしたのだ。

サントリーSOピシにタックルにいくパナソニックSH田中。再決戦では攻めるサントリー、守るパナソニックの図式に変化はあるか?
photo by Kenji Demura (RJP)

どちらも単純な防御ミスからの失点がない、引き締まったゲームになるだろう。
そうなると、いかに意図的なアタックで相手の堅守を打ち破るかだが、その点では密集の左右にさまざまな角度からトップスピードで複数の選手が同時に走り込むサントリーのスタイルが、有効に機能しそうだ。

東芝戦では本来のアタッキングラグビーはやや不発だっただけに、日本選手権決勝戦がサントリーの指揮官として最後の一戦となるエディー・ジョーンズGM兼監督は、「パナソニックもサントリー同様、ボールを動かすチーム。決勝戦では見ている人にも喜んでもらえる最高のラグビーをして勝つ」と宣言。内容も伴った正真正銘の有終の美を飾りたいところだろう。

「サントリーでプレーすることによって、速いテンポでのパスさばきもできるようになったし、プレーの幅が広がったと思う」
日本に来てからの成長さえ口にするなど、すっかり"アグレッシブ、アタッキング"リズムに適応したデュプレアが、パナソニック防御の弱点を探りながら、走り込む選手たちを自在に操り始めると、試合は一気にサントリーペースに流れ出す可能性もある。
パナソニックにすれば、ブレイクダウンで80分間圧力をかけ続け、サントリーの攻撃をスローダウンさせられるかがカギになる。

もう1つの注目点は、体調不良でNEC戦はリザーブに回ったパナソニックCTBジャック・フーリーや、サントリーWTB小野澤宏時のような、個人の力で防御を切り裂けるプレーヤーの存在。どちらも厳しいマークに遭うだろうが、そこを個の力で破ることができればチームに勢いがつく。
ファイナルという大舞台に相応しい超越的な個人技にも期待したい。

text by Hiromitsu Nagata

パナソニックCTBフーリーを背後から止めるサントリーFLスミス。まさに世界最高峰。極上のファイナルバトルが再び
photo by Kenji Demura (RJP)
ファイナルステージに入ってボールを持つ機会が少ないサントリーWTB小野澤だが、最後の最後に超人的なビッグプレーを見せる可能性は十分
photo by Kenji Demura (RJP)
注目選手
霜村誠一(パナソニック ワイルドナイツ CTB)

「今、自分にできることをやる使命感が大切だと気づいた」

霜村誠一(しもむら・せいいち)
◎1981年9月20日生まれ。身長175cm、体重85kg。東京農大二高→関東学院大学→パナソニック ワイルドナイツ
photo by Kenji Demura (RJP)

どんなに悔しい敗戦の後でも滅多に沈んだ表情を見せない霜村誠一が、珍しくふさぎ込んで口が重かった。
2月26日、プレーオフファイナルでサントリー・サンゴリアスに28-47と完敗した直後の記者会見でのことだ。そして、絞り出した言葉が「でも、これでチャレンジが終わったわけではない」という、自らに言い聞かせるような一言だった。

心の内を明かせるようになったのは、11日に準決勝でNECグリーンロケッツを41-3と破ってから。霜村は言った。
「確かにあの試合は、08年にプレーオフでサントリーに負けた(10-14)とき以来、一番悔しかった。いや、悔しいというより、何もできなかったという思いが強くて、あのあと1週間ぐらいは気持ちが乗らなくて、身体があまり動かなかった。本当にどうしようか悩みました」

自信を取り戻したのは、準決勝に向けた練習からだった。

今季トライ王に輝いたWTBネマニ・ナドロ擁するNECに勢いを与えないためにはどうすればいいか。チームで話し合って出た結論は、ブレイクダウンでFWが圧力をかけて相手を押し下げ、防御ラインが球出しと同時に揃って前に出て相手に圧力をかけることだった。そして、それがサントリー相手にも十分に通じる感触を得た。

「とにかくサントリーはSH(フーリー・デュプレア)が上手かった。複数の選手がいろいろなところに同時に走り込んでくるから、どうしても接点で前に出られて止められなかった。でも、NEC戦のようにFWがブレイクダウンで頑張ってくれれば、BKも速く前に出てタックルできる。みんなと練習するなかで自信を取り戻しました」

決勝進出を決めたあとの記者会見では、印象的なコメントも発信した。
東日本大震災の日から1年という節目の日に寄せて、こう言ったのだ。
「朝、ホテルのテレビで震災の特番を見ていたら、この1年、自分が何を考えてきたのかを思い出した。本当に自分にできることをやったのか。キャプテン会議で行なった支援が被災地に届いているかもわからないし、被災した人たちの映像を見ているうちに無力さを感じて、涙が止まらなくなりました。でも、中嶋(則文)監督から試合前に“こういう日だからこそ、最後まで諦めない姿勢を見せられるよう走りきろう”と言われて、今、自分にできることをやる使命感が大切なんだと思い直して、少し気持ちが楽になりました」

決勝進出を決めた直後に試合が行われた日が持つ意味を考えて、浮かれることなくこういう言葉を発する姿には、この5シーズン、常にタイトルを手にしてきたチームを率いるキャプテンの風格が漂っていた。失意のどん底から練習を通じて取り戻した自信は、今、節目の日を経て使命感にも裏づけられたのである。

その決勝戦では、霜村の背には12番という数字があるはずだ。
これまでアウトサイドCTBでプレーすることが多かったが、今季はジャック・フーリーというスーパースターのおかげで1つ内側に移動したのだ。

「本来僕はアウトサイドが得意なんですが、隣にジャックがいると12番もいいかなと思います」
そう言って笑う顔つきは、自信のみなぎった、常勝軍団を率いるキャプテンのそれに戻っていた。

text by Hiromitsu Nagata