「第49回 日本選手権大会」

決勝戦はトップリーグファイナルと同じ顔合わせに──。11日、第49回日本選手権準決勝2試合が行われ、東京・国立競技場では4年ぶりにトップリーグを制したサントリーサンゴリアスが前半、東芝ブレイブルーパスの猛攻に耐えて、後半逆転勝ち。2年連続4度目の日本選手権制覇に王手をかけた。一方、大阪・近鉄花園ラグビー場ではトップリーグ準優勝のパナソニック ワイルドナイツがNECグリーンロケッツを圧倒して、三洋電機時代から5年連続となる決勝戦に駒を進めることになった。
2011-2012年のラグビーシーズンの締めくくりとも言える日本選手権決勝戦は、18日、国立競技場にて行われる。

サントリーサンゴリアス 23-8 東芝ブレイブルーパス(前半7-8)

東芝の猛攻を凌ぎ切ったサントリーが2冠に王手

前半圧倒的に攻めた東芝だったが、トライは27分にCTB仙波が奪った1本(写真)のみに抑えられた
photo by Kenji Demura (RJP)

この日2度目となる黙祷も行われたハーフタイム時に、国立競技場の電光掲示板に映し出されていたスコアは8-7。

仮に前半40分間の得点シーンだけを除いた映像を見せられて、ハーフタイムでのスコアを予想するなんてクイズがあったとしたなら、恐らく正解者はゼロ。

あるいは、ボクシングのように、どちらが優勢かジャッジが決める競技だったなら、ジャッジが何人いても「前半は東芝が優勢」という判断は100%下されていただろう。

それくらい、場所を国立競技場に移して行われた今季2度目の"府中ダービー"となった日本選手権準決勝前半は、片方がアタックして、片方がディフェンスする、文字通りのワンサイドゲームとなった。
攻める東芝ブレイブルーパス、守るサントリーサンゴリアス。

テリトリーでも、ボールキープ率でも8割がた東芝が圧倒。にもかかわらず、点差はわずかに「1」。

「サントリーが守り切った」。ワンフレーズで前半を総括するなら、それが真相だった。
象徴的だったのは、前半最後の攻防。

東芝はサントリーゴール前で伝家の宝刀のモールで押し込み、さらにサントリーの反則からはあえてスクラムを選択して、力づくでトライを取りに行く。

近場、近場と攻め立てる東芝に対して、サントリーは「ひとりひとりが戻って、チームとしてしっかり耐えることができた」(NO8竹本隼太郎主将)という全員ディフェンスで最後の一線を越えさせない。

最後は20次ほどフェイズを重ねながらトライラインを越えられなかった東芝が、逆に我慢できずにBKに回したところでパスミスが出てボールを失い、結局1点差のままハーフタイムへなだれ込んだ。

「アタック継続できず、弱さ痛感」(東芝・豊田主将)

東芝LO望月の突進を2人がかりのタックルで止めるFLスミス(右)とFB有賀。前半守り切ったサントリーが後半逆転
photo by Kenji Demura (RJP)

「前半はほとんど自分たちのボールがなくて、東芝に攻められ続けたのに7-8で折り返せたことで、ハーフタイムで気持ちを落ち着かせることができた」

そんなふうに、ハーフタイム時のサントリーフィフティーンの気持ちを代弁してくれたのは、まさに前半のワンチャンスに貴重なトライを決めたFB有賀剛。

一方、東芝にとっては、「前半、あと1本取り切れなかったのが響いた」(LO大野均)と、攻め続けながらも仕留めきれないフラストレーションを抱えてのハーフタイム入りとなってしまう。
「アタックを継続できなかった。自分たちの弱さを痛感した」(東芝NO8豊田真人主将)

後半13分に飛び出したHO青木の独走トライ(写真)などで東芝を引き離したサントリーが2冠をかけて決勝へ
photo by Kenji Demura (RJP)

実際、後半に入ると、前半、圧倒しながらも点数を引き離せなかった焦りもあったのか、東芝にミスや反則が目立つようになり、3分にサントリーがCTBニコラス ライアンのPGで逆転(10-8)。

13分には、「後半に入って、ディフェンスが良くなってプレッシャーをかけることができていた」というHO青木佑輔がインターセプトから値千金のトライを奪って引き離し、終盤、焦りから自滅した東芝の反則に乗じてニコラスが2本のPGを追加。最終的には23-8というトリプルスコアに近い差をつけて、サントリーが決勝に進むことになった。

LO篠塚公史のケガもあって、強力FWの東芝に対抗するため、LOにダニー・ロッソウを入れて、SOトゥシ・ピシを控えに回したサントリー。
「東芝との試合は難しい」(エディー・ジョーンズGM兼監督)という意識過剰が相手に合わせ過ぎることにつながった面もあったのか、前述どおり前半はまったくと言っていいほど、サントリーらしいアタッキングラグビーは不発。
それでも、「しんどい時間帯、キツい状況で動く練習を散々やってきた」(竹本)という自信を裏付けるように、どこまでも懐の深いディフェンスで最終ラインを越えさせなかったあたりに、王者の進化を感じさせた。

「ディフェンスで貢献してくれた」(ジョーンズGM兼監督)というロッソウや、前半の有賀のトライのお膳立てやトライセービングタックルといったド派手なプレーだけではなく、的確な状況判断からの絶妙なキックとディフェンス能力で、指令塔として機能しながらチームを救い続けたSHフーリー・デュプレアといったビッグネームの外国人のさすがのプレーぶりも光っていた。
しかも、この日はいきなりノックオンをしてジョーンズ監督に「手に石けんがついていたんじゃないか」と揶揄されたFLジョージ・スミスも含め、そうした世界的なプレーヤーがサントリーのアタッキングラグビーという枠組みの中で他の選手たちと同じように、浮き立つことなく自らの仕事をこなしているあたりに、「外国人頼り」ではないチームの底力もうかがえる。

「今日のようなラグビーはしたくない」
恐らくは、この日サントリーが見せたラグビーはジョーンズGM兼監督が目指している攻撃的スタイルとは異なるものではあっただろう。
それでも、前半ほぼ完璧に東芝に試合を支配されながらも、凌ぎ切って自分たちのペースに持っていくあたりに、「ウイニングカルチャー」(FL佐々木隆道)が根づいてきていることも間違いない。
「パナソニックもボールを動かしてくるチーム。次こそベストのラグビーをして勝ちたい」
ジョーンズGM兼監督にとってサントリーの指揮官としてのラストゲームとなる決勝戦では、準決勝とは異なるアタッキングラグビーを続けて2冠を目指すことになる。

text by Kenji Demura

意地と意地がぶつかり合った"府中ダービー"はサントリーがトップリーグでのリベンジに成功(写真中央はサントリーNO8竹本主将)
photo by Kenji Demura (RJP)
3月11日という特別な日に行われた試合。国立競技場には半旗が掲げられ、東日本大震災の犠牲になった方々へ2度の黙祷も捧げられた
photo by Kenji Demura (RJP)