「第49回 日本選手権大会」

決勝戦はトップリーグファイナルと同じ顔合わせに──。11日、第49回日本選手権準決勝2試合が行われ、東京・国立競技場では4年ぶりにトップリーグを制したサントリーサンゴリアスが前半、東芝ブレイブルーパスの猛攻に耐えて、後半逆転勝ち。2年連続4度目の日本選手権制覇に王手をかけた。一方、大阪・近鉄花園ラグビー場ではトップリーグ準優勝のパナソニックワイルドナイツがNECグリーンロケッツを圧倒して、三洋電機時代から5年連続となる決勝戦に駒を進めることになった。
2011-2012年のラグビーシーズンの締めくくりとも言える日本選手権決勝戦は、18日、国立競技場にて行われる。

NECグリーンロケッツ 3-41 パナソニックワイルドナイツ(前半3-24)


守りを進化させたパナソニックが快勝。王者との頂上再戦へ

近鉄花園ラグビー場のスコアボード上には、半旗が掲げられ、選手の腕には喪章が巻かれた。一年前、東日本を襲った大震災、津波、原発事故。被災で亡くなられた方々への弔意を示し、キックオフ前には黙祷が捧げられた。パナソニック ワイルドナイツ、NECグリーンロケッツともに、今なお不自由な生活を余儀なくされる地域の皆さんに少しでも元気を届けようという気持ちも込めての準決勝となった。

後半20分にトライを奪うなど、クライマックスに向けて調子を上げてきたことを印象づけたパナソニックCTB霜村主将
photo by Tokinori Inoue

午後2時5分、パナソニックSOマイク・デラーニのキックオフで試合は始まった。試合前、パナソニックの中嶋則文監督は言っていた。「接点でプレッシャーをかけ、いかにNECに早いボールを出させないか、そして我々は素早く攻める。それができるかどうかでしょう」。メンバー表を眺めると、FWはやや小粒に見える。巨漢LOダニエル・ヒーナンは、トップリーグプレーオフの負傷から復帰したが、ゲームフィットネスが万全ではなくリザーブ(控え)。ひざを痛めていたホラニ龍コリニアシの復帰は間に合わなかった。しかし、中嶋監督は「小さいぶん、機動力はあります」とポジティブに語った。そして、決定力抜群のCTBジャック・フーリーは、この一週間、体調を崩しフィットネスに不安を抱えての先発回避。ともにリザーブ席に座らせたヒーナンとフーリーは、短時間ゲームを経験させるだけで決勝に進出したい、それが中嶋監督の描くシナリオだった。

前半20分のHO堀江のトライ(写真)など計5トライを奪ったパナソニックがNECを寄せつけず、サントリーとの決戦へ
photo by Tokinori Inoue

果たして、試合展開は、パナソニックの目論見通りとなる。キックオフ直後は、NECがCTBツイタヴァキの突破などでチャンスを作ったが、接点で激しくファイトするパナソニックを前に、ミスや反則が多くなり、次第に流れはパナソニックへ。

先制トライは11分。相手陣22mライン内に攻め込むと、いったんNECにターンオーバーされたボールを奪い返し、左端のラックから、素早くSH田中史朗、SOデラーニ、WTB北川智規がロングパスをつなぎ、最後はタッチライン際で待っていたバツベイ シオネが、NECのWTBネマニ・ナドロを外へのステップで抜き去ってインゴールに走り込む。ターンオーバーから一気にボールを展開するパナソニックらしい攻撃だった。

FB田邉淳のPGで加点した直後の20分には、NO8ヘンドリック・ツイのジャッカルでNECの反則を誘い、PKからのタッチキックで大きく前進。左ラインアウトからフィールド中央で縦突破を入れてラックを作り、SH田中が左タッチライン際のHO堀江翔太にフラットなロングパスを送り、左コーナーぎりぎりに飛び込んだ(スコアは、17-0)。32分、シンビンで一人少なくなったNECスクラムを押し込んでターンオーバーし、ツイがトライ。24-0とリードを奪って、試合の流れを決定づけた。

怪物ナドロ対策も万全

際立っていたのは、パナソニックの出足のいいディフェンスである。トップリーグプレーオフファイナルで、密集周辺をサントリーに何度も突破された反省から、この周辺のディフェンスを分厚くし、個々の役割を再確認。接点で押し勝つことで、BKラインも素早く相手との間合いを詰めることができた。「あれくらい前に出ないと、ラトゥやナドロなど強いランナーのいるチームは止まりません」(パナソニックCTB霜村誠一キャプテン)。常にスペースのない状況に追い込まれたNECの攻撃は手詰まりになり、何度かSO田村優がキックパスでツイタヴァキ、WTB瀬崎隼人を走らせたが、トライには結びつかなかった。

トップリーグのトライ王ネマニ・ナドロ対策も万全だった。あえてナドロを狙ってボールをキックし、背走させてキャッチさせたところで密集に巻き込み体力を消耗させる。前を向いた状態ではボールを持たせなかった。「完敗です。パナソニックの早いプレッシャーに何もできなかった」とNECの岡村要ヘッドコーチ。パナソニックの中嶋監督は「アタック、ディフェンスともに粘り強く戦ってくれた。アタックは意図通り、ディフェンスも一線を破られてもよくカバーした」と作戦通りに動いた選手を称えた。

ディフェンスシステムを進化させたパナソニックがNECをノートライに抑える完勝ぶり。サントリー戦でも機能するか注目だ
photo by Tokinori Inoue

パナソニックの霜村誠一キャプテンは安堵の表情。「プレーオフのファイナルで負けたあと、一週間くらい身体が思うように動きませんでした。サントリーは何もできないくらい強かった。どうしたら勝てるのだろうと考えました。でも、みんなで立て直していくうちに自信が戻ってきた。FWのディフェンスを少し変えたのですが、スクラムを押してくれたことも含めて、本当によく頑張ってくれました」

決勝戦の相手は、サントリーである。「サントリーは本当に強い。このディフェンスシステムが通じるかどうか、やってみなければ分かりません」。アグレッシブ・アタッキングラグビーを封じるためのシステムが機能するかどうか。あるいはサントリーがその上を行く攻撃を見せるのか。その知恵比べもまた決勝戦の見どころである。

text by Koichi Murakami

パナソニックの激しいプレッシャーの前に頼みのWTBナドロも不発。NECは持ち味を出せないまま完敗
photo by Tokinori Inoue
試合前には、ちょうど1年前の3月11日に発生した東日本大震災で犠牲となった方々への黙祷も行われた
photo by Tokinori Inoue