日本選手権
マッチリポート
トーナメント表


サントリーサンゴリアス 23-8 東芝ブレイブルーパス

【準決勝/2012年3月11日(日) at 東京・国立競技場 】

サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝
トップリーグを優勝しこの日本選手権との2冠を目指すサントリーに、唯一の黒星をつけてきた東芝が再び立ちふさがるライバル同士の一戦。
この日のサントリーはSOピシを控えに下げて、東芝との激しいFW戦を意識してかFWにダニー・ロッソウを投入。それによりSOの先発として起用された野村が、東芝陣ゴールポストに向かい真っ青な空に高くボールを蹴り込んでのキックオフ。

前半7分、SOデイビッド・ヒルのPGで先制した東芝は、豊田、湯原らがラックサイドを激しく仕掛けてサントリーのディフェンスラインを一気に突破する。スティーブン・ベイツがサントリーディフェンスのタックルミスからタイミング良くギャップを突き、素早いラックからオープンに展開するとラインに残ったFLマイケル・リーチ、HO湯原がタテにペネトレイトしゴールに迫る。CTBオト、仙波も身を挺してポイントの核となりそのサイドに激しくランナーが走り込むが、オフロードを狙うサポートプレーヤーより一歩早く戻るサントリーディフェンスの執念に掴まりなかなかゴールが奪えない。

24分、サントリーは東芝の闘志に押されボールの獲得に苦戦するが、相手ゴール前での少ないチャンスをSHデュプレアが逃さずこじ開ける。FWで劣勢のサントリーは、ここまで封印されてきたキックを有効に使ってエリアを前進させると、ゴール前のラックからSHデュプレアが右にアタック。外側に走り込んだPR畠山に東芝のディフェンスが飛び出したギャップを突いて前に出ると、その空いた内側のスペースにFB有賀が判断良くトップスピードで走り込んでトライ。

その直後の27分、今度は東芝がスペシャルプレーを見せる。この日は中盤のラインアウトを5人で形成し、レシーバーとなったFLベイツからBKラインに残ったSH藤井へのフラットパス。そこに走り込むFWの圧力にサントリーディフェンスが内側に寄せられた瞬間にSOヒルへのロングパス。そして、そこにアングルチェンジしたCTB仙波が走り込みディフェンスを切り裂いてトライ。

これで吹っ切れた東芝は15人が激しく身体をぶつけ、さらにサントリーゴールを目指す。前半終了間際までサントリーゴール前でのラインアウトからのモール、スクラムをプッシュしてトライを狙うが、ここで崩れないのが今年のサントリーの安定感。結局、東芝は攻めに攻めた前半をわずか1点のリードで終えることとなった。(前半7-8)

後半もスタートから東芝のアタックとサントリーのタックルの攻防は続いた。東芝はディフェンスを崩すことよりも、相手タックルに身体を激しくあてて、ディフェンスを下げて突き抜けることにこだわり続ける。しかし、この攻撃にサントリーはきっちりと2人でタックルし、最小人数でブレイクダウンを切り抜けることでディフェンスの穴をつくらない。コンタクト、フィットネス、メンタルにおいても充分に対応ができるチームに確実な成長を遂げていた。

勝負を決めるプレーは、後半13分。激しいコンタクトとブレイクダウンで東芝が攻めを継続するが、前に出られない状況がプレーの選択肢を狭めていく。オープンに展開し順目のギャップにオーバーラップしたランナーが飛び込んでくる強い東芝のイメージは失われ、右に、左にとサイドチェンジを繰り返す。その単調さに慣れたサントリーディフェンスが迷わず前に出て行くところ、東芝の逆サイドへ切り返したロングパスをサントリーHO青木がインターセプト。そのままゴールまで走りきるビッグプレー。その後もニコラス ライアンが2つのPGを重ねてノーサイド。思わぬ点差で勝負は終わった。(23-8)

この3月11日は日本にとって特別な一日。昨年の東日本大震災から一年。試合前には選手、スタンドの観衆が黙祷を捧げてからの一戦となった。ラグビー界においては東北出身の選手も多い中、サントリー、東芝の選手たちの気持ちを込めた戦いが国立競技場を熱くした。全力を尽くし戦いを終えた選手たちは、勝ち負けの結果だけではなく、これからも続く支援と激励を伝える試合となったことを噛みしめてグラウンドを後にした。(照沼 康彦)

サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝
会見リポート
 

東芝ブレイブルーパスの和田監督(左)と豊田キャプテン
東芝ブレイブルーパスの和田監督(左)と豊田キャプテン

◎東芝ブレイブルーパス
○和田賢一監督

「多くの方に来場していただき、今日、国立競技場でラグビーができたことに感謝申し上げます。われわれ東芝ブレイブルーパスのメッセージを、被災地に少しは伝えることができたかと思います。サントリーさんとわれわれの、プライドとプライドがぶつかる試合でした。前半からタイトなゲームで、良い時のリズムに見えたのですが、終盤のわれわれのペナルティの多さから考えると、サントリーさんの方が一枚上手だったと思います。この財産を教訓に、来シーズン以降、強い東芝で戻ってきます。浮き沈みのあるシーズンでしたが、長い間応援いただき、ありがとうございました」

──後半、自分たちのラグビーができなかったのは?

「いろいろなミスがありましたが、前半は80%くらいポゼッションを取れたと思います。また、サントリーさんの球出しをワンテンポ遅らせることができました。後半はリーグ戦のときより、サントリーさんが懐深く守り、それにはまったと思います。そこで、一人ひとりがプレッシャーを感じて、ちょっと入って行って当たれなくなりました。そうこうするうちにアタックがバラバラになったと感じています」

──サントリーは明らかにキックで特定の選手を狙ったようだが?

「トーナメントの戦いですので、相手のキャラクターを考えると蹴ってくると思っていました。前半は、松田、廣瀬がアタックにつなげたのですが、後半、他の選手が逃げるキックを使い、スローボールになりました。早い時間に選手を代えたのですが、うまくいきませんでした」

○豊田真人キャプテン

「国立競技場に多くのファンの皆様が来場していただき、ありがとうございました。震災の起きた3月11日に試合ができたことを光栄に思います。僕たちの原点である、一歩でも前へ出て戦う姿勢が、被災地の方に元気を出すきっかけになってくれればと思って戦いました。ペナルティの多さと、アタックが継続できないことから試合は敗れましたが、良い経験・財産として、来シーズン、強い東芝をつくって挑んでいきたいと思います。今シーズン、様々な方にいただいた、元気と、ご支援に感謝します」

──ミスの原因は?

「特にミスは後半に多かったのですが、自分たちから身体を当てられなかったのが原因です。前半は自分たちから身体を当てて、前へ出られました。後半、受けに回ったところが良くありませんでした」

──今日はいつもと違い、ショットを狙ったが?

「まず、大前提として、FWでプレッシャーを掛けることがありますが、今日は、まず、スコアして、自分たちが主導権を握ろうと考えました」

──後半、自分たちのラグビーができなかったのは?

「正直、自分の中では把握できていません。もう一度、映像を見て考えたいと思います」

──試合が終わった瞬間、両軍入り乱れて抱き合っていたが?

「サントリーさんは同じ府中市にグラウンドがあり、顔も名前も良く知っている間柄です。ノーサイドという言葉通り、お互いに称え合って終われました。もちろん、負けてすごく悔しいですが、サントリーさんの良いラグビーに挑戦して、素晴らしい試合ができたことに感謝しています。決勝でも、良いラグビーをしていただきたいと思います」

サントリー 23-8 東芝 サントリー 23-8 東芝
 

サントリーサンゴリアスのジョーンズ監督(左)と竹本キャプテン
サントリーサンゴリアスのジョーンズ監督(左)と竹本キャプテン

◎サントリーサンゴリアス
○エディー・ジョーンズGM兼監督

「東芝さんは、前半、とても良いラグビーをしました。すごいプレッシャーでした。今週、サントリーはすごく良い練習をしてきましたが、ジョージ・スミス選手は手に石鹸をつけていたのかな(笑)。トップリーグMVPの賞を返さなくてはいけませんね。今日は、相手がとてもファイトあふれるチームで、試合を通して、それに対応できたことが良かったと思います。ボールを触る回数はとても少なかったけれど、うまくそれを生かして得点できました。チームを誇りに思います。決勝はパナソニックさんとやることになると思います。今週も良い準備をして臨みたいと思います」

──ハーフタイムの指示は?

「われわれは東芝ルールというラグビーをしていると(笑)。それを後半、続けてはいけないと言いました。とても良い試合でエンジョイしました。前半はブレイクダウンに人数を掛けてしまい、まったくうちのラグビーができていませんでした。後半、アライメントの修正ができて、前へ出て、キックも前に行けて、ブレイクダウンに人数を掛けずに済み、東芝さんのディフェンスに圧力を掛けることができました。結果、ライアンが3つのペナルティゴールを決めてくれました」

──ギリギリのディフェンスだったが?

「最初の20分で1対1のタックルミスが多く、ゲインラインを越えられました。しかし、後半、最初にタックルの改善ができました。東芝さんはダイレクトパスを使うチームではなく、突き抜けてくるチームです。チームは良い修正したディフェンスができました。タックルでは、二人がチャレンジして、ボールを遅く回させましたし、パスもわざとさせることができました。この結果、ターンオーバーできて、キックも使えるようになり、われわれが優位に立つことができました」

──勝ってもあまり嬉しそうでないのは?

「まだ、1試合残っています。来週は必ず喜んでいると思います。東芝さんとのラグビーはとても難しい。今日は裏にスペースがあったので、キックを使いました。私は勝つのが大好きです。来週は今シーズンのもっとも素晴らしいラグビーをしたいと思います。パナソニックさんもそれを望んでいると思います。トップリーグ決勝は、素晴らしい展開ラグビーを、お互いにしましたからね」

──3月11日は、特別な思いを感じることはあったか?

「7月に仙台でコーチしたときに、700名の子が来ました。子供たちの両親がカレーを作ってくれました。畠山選手のラグビースクールはバスで来ました。それがスポーツの魅力です。皆を元気にさせることができます。戦争や政治は解決できないが、喜びというものを与えることができます。上手くできなかったかもしれないが、東芝さんと、お互いにチームワークやファイトを見せることができたかもしれません。東北では、引き続きファイトが必要です。チームワークで、必ず困難は解決できます。必ず、やれます」

○竹本隼太郎キャプテン

「分かっていたことですが、東芝さんはアグレッシブに、激しく来ました。良くチームで戻って、一人ひとりが耐えたなと思います。ラインブレイクされた時も、試合を通じて、一人ひとりが戻ったのが良かったです。チャンス、ピンチで、本当にしんどい時に動けていた、ほんの少しの意識の差が勝利をもたらしたと感じます。決勝に出られてうれしく思います」

──守り勝った印象だが?

「練習通り、2人がタックルに入り、残りがディフェンスできました。選手から『ファンダメンタル』という声が数多く上がり、基本的なディフェンスの意思統一ができていたと思います」

──3月11日という特別な気持ちがあったか?

「1年前の今日、サントリーのクラブハウスでベンチプレスをしていました。こんな状況になっているとは、思ってもみませんでした。大した支援はできていませんが、今の僕たちのラグビーができる環境に感謝し、会社や監督、サポートや良いスタッフと1年間努力してきました。そういう日に力を発揮して、勝つことができました。多少なりとも、自分のすべきことを全うしたことを放映していただけたので、少しでも、勇気をお見せできたとしたらありがたいです」