「第49回 日本選手権大会」プレビュー

日本選手権準決勝は、3月11日、東京(国立競技場)と大阪(近鉄花園ラグビー場)で同時刻に行われる。サントリーサンゴリアス対東芝ブレイブルーパス、パナソニック ワイルドナイツ対NECグリーンロケッツともに、今季2度目の対戦となる。ファイナリストとなるのはどのチームなのか。その戦いを展望してみよう。

サントリーサンゴリアス 対 東芝ブレイブルーパス

国立競技場で行われるサントリー対東芝戦は府中市に本拠を置く者同士の対戦であり、因縁の対決となる。1月22日、トップリーグ第11節で対戦したときは、死闘の末、東芝が21-18と競り勝った。大野均、望月雄太の両LO陣らが、何度でも起き上がって突進するさまは凄まじく、観戦者の胸を打った。「真っ向勝負を挑もうと1週間練習してきました。体を自ら当てていくことにフォーカスし、最終的に逆転勝ちをすることができました。前半から、選手が前へ出てくれたおかげだと思います」。東芝の和田賢一監督は満足げな表情を見せていたが、サントリーのエディー・ジョーンズGM兼監督は、ボールが思うように動かなかったことに、悔しさをにじませて言った。「今シーズン、(東芝には)2度と勝たせません」。

試合後、東芝の首脳陣から「最後の20分に、サントリーは落ちてくる」というコメントがあったことも、ジョーンズGM兼監督と選手たちの闘志を燃えたぎらせている。12節で福岡サニックスブルースと対戦したサントリーは、ほとんどキックすることなく、80分間走り続けてみせた。その後、他の試合の記者会見でも、「東芝には2度と勝たせない」と何度も発言。東芝も、トップリーグのセミファイナルで、パナソニック ワイルドナイツにミス連発で不甲斐なく敗れたことで、巻き返しの闘志に火がついている。決勝進出を賭けた攻防は凄まじいものになりそうだ。

トップリーグを制したサントリーはリーグ戦で敗れた東芝とのリベンジ戦に臨む(写真はSOピシとフォローするNO8竹本主将)
photo by Kenji Demura(RJP)
日本選手権に入って調子を取り戻してきた東芝は王者サントリーを破って決勝に進めるか?(写真はWTB廣瀬)
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東芝の和田監督は、勝敗を分けるキーポイントについて、「どちらが長い時間攻撃できるかでしょう」と語った。サントリーのテンポの速い攻撃時間を極力少なくし、長い時間ボールを保持して、大野、望月、マイケル・リーチ、スティーブン・ベイツの両FL、NO8豊田真人主将らが防御を縦に切り裂く。スクラム、ラインアウトなどセットプレーの精度の高さも求められる。サントリーのアタッキングラグビーは、ブレイクダウン(ボール争奪局面)で前に出続けることが生命線だ。ジョージ・スミス、佐々木隆道、竹本隼太郎のFW第三列、CTBニコラス ライアンらを軸に、接点で前に出続け、SHフーリー・デュプレア、SOトゥシ・ピシが、バリエーション豊富な攻撃を仕掛ける。

互いにボールが停滞するラグビーはしたくないだろう。東芝は縦に、サントリーは右に左に防御を揺さぶりながら防御を破る。両者ともディフェンスの反応もよく、スキのない攻防が繰り広げられそうだ。

パナソニック ワイルドナイツ 対 NECグリーンロケッツ

トップリーグでの対戦は昨年11月5日だった。38-26でパナソニックが勝ったのだが、トライ数は、5本対4本。パナソニックのSOマイク・デラーニがPGと5つのコンバージョンゴールをすべて決めての勝利だった。このときからは両チームとも進歩しており、この点差はあまり参考にならないかもしれない。

トップリーグ準優勝のパナソニックはNECと対戦。ファイナルでサントリーに敗れた後遺症を払拭できるか(写真はHO堀江)
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NECの岡村要ヘッドコーチは、準決勝への抱負を問われ、「チームカラーは似ていると思うので、シンプルに我慢勝ちできればと思います」とコメントした。トップリーグ終盤の戦いを見れば、パナソニック優位だが、タイプとしては守り勝つ者同士の我慢比べになる。ただし、今季のNECは攻撃面も磨いてきた。パナソニックの防御をNECがいかに破るかは、みどころの一つ。破りきれずにミスが出れば、瞬時に切り返され、パナソニックのWTB北川智規、CTBジャック・フーリーといったスピードランナーに一気にトライを奪われることになる。

パナソニックの防御を破るには、トップリーグのプレーオフファイナルで、サントリーが示した通り、ブレイクダウンを制圧し、ディフェンスの出足を遅らせて、次の攻撃を素早く仕掛けることだ。NECには、キャプテンのFLニリ・ラトゥの他にも、LO/FL浅野良太、LO村田毅ら、ブレイクダウンで体を張れる選手がそろっている。ここで踏ん張れれば、SO田村優のトリッキーな動きと、トライゲッターのWTBネマニ・ナドロの決定力が生かせるだろう。ナドロは攻撃起点にもなれるし、フィニッシャーにもなる。その走らせ方の工夫も見たい。

パナソニックは、12月、1月は怪我で苦しんだ霜村誠一キャプテン、ジャック・フーリーのCTBコンビになってディフェンスに勢いが出てきた。圧力をかけてミスを誘い、そのボールを拾って攻めきるスタイルは、常に選手がフィールドの横幅いっぱいにたくさん立っていることで成立している。一対一のタックルで確実にNECを倒し、得意のスタイルに持ち込めば、決勝進出が見えてくる。

text by Koichi Murakami

日本選手権2回戦では、ご存じNECの怪物WTBナドロが7トライの大爆発。準決勝で堅守のパナソニックに臨む
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注目選手
大野 均(東芝ブレイブルーパス LO)

「負けた東芝の怖さを見せたい」

大野均(おおの・ひとし)
◎1978年5月6日、福島県出身。身長192cm、体重105kg。清陵情報高校→日本大学工学部→東芝。日本代表キャップ54
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日本選手権2回戦の帝京大学戦、後半22分に登場した大野均は激しいコンタクトプレーで大学王者に圧力をかけた。ブレイクダウン(ボール争奪局面)で髪を振り乱し、押し込もうとする姿は、昨秋のワールドカップのトンガ戦やカナダ戦を髣髴させた。大野均は、相手がトンガであろうと、帝京大学であろうと手を抜かない。全身全霊をかけてプレーする。トップリーグの常勝軍団・東芝ブレイブルーパスの強さを体現する人、それが大野均なのだ。

大学1年生から本格的にラグビーを始めた大野は、東芝に入ってからめきめきと力を付けた。192cmの長身ながら、WTBでもプレーするスピードでフィールドを駆け回り、タックルでなんど倒されてもすぐに起き上がり、また走り出す。日本代表のフィットネス測定では、ほぼ限界まで出し切ったところから、もう一度力を振り絞る数値がもっとも高いという。2007年のワールドカップでは、試合後、点滴を受けなければならないほど力を使い果たしたこともあった。

いつも観客の胸を熱くするプレーぶり同様、そのコメントも聞くものの心を揺さぶるものが多い。昨年12月18日のヤマハ発動機戦ジュビロ戦で、トップリーグ100試合出場を達成した大野は、客席に向かって語った。「本日は寒い中、ヤマハのサポーターの皆さん、東芝のサポーターのみなさん、お集まりいただき、ありがとうございます。きょうの試合でトップリーグ100試合出場ということは、100通りの30人と体をぶつけてこられたということで、感謝の一言です。ラグビーに人生をかけている、ラグビーを大好きな選手たちと100試合をできたということは、一ラグビー選手として本当に幸せだと思っています。きょうの試合が、後で振り返って節目としていい試合だったと思い返せるように、これからも頑張っていきます」。観客、相手チームへの尊敬を忘れないコメントだった。

大野は激しい肉弾戦を心から楽しんでいる。試合中、試合後、大野のはじけるような笑顔を見たことがある人は多いだろう。相手選手と笑顔で言葉をかわし、その直後には強烈なタックルをお見舞いする。そして試合後もさわやかに健闘をたたえ合う。「負けたら、もちろん悔しいですけど、力を出し切ると、ここまでやっても勝てなかったかと、清々しい気持ちになります」。

準決勝の相手は、トップリーグ王者のサントリーサンゴリアス。
2月27日、トップリーグ2011-2012年間表彰式で6年連続7回目のベストフィフティーンに選ばれた大野は、壇上で言った。「負けた東芝の怖さを見せたいと思います」。次なる戦いへの決意を語った男の目は燃えたぎっていた。

text by Koichi Murakami