「第49回 日本選手権大会」プレビュー(1回戦)

25日、日本選手権が開幕する。

東芝ブレイブルーパス、NECグリーンロケッツというトップリーグのセミファイナリストに、ワイルドカードを勝ち上がった神戸製鋼コベルコスティーラーズとヤマハ発動機ジュビロがチャレンジする一方、大学選手権優勝の帝京大、同・準優勝の天理大がそれぞれ六甲ファイティングブル(全国クラブ大会優勝)、キヤノンイーグルス(トップチャレンジシリーズ1位)と対戦する。

リーグ戦終盤から好調を維持する神戸製鋼はNECとの対戦で日本選手権での戦いをスタートさせる(写真はCTBアンダーソン)
photo by Kenji Demura (RJP)
セミファイナルでは控えに回ったNECの怪物WTBナドロは日本選手権1回戦では先発に戻る
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プレーオフ進出を果たしたもののセミファイナルで敗れた東芝とNECに、ワイルドカードを勝ち抜いたヤマハ発動機と神戸製鋼が挑戦するかっこうだが、いろんな条件が絡み合って、番狂わせが起きやすいのが、このトップリーグチーム同士がしのぎを削る1回戦だったりもする。

日本選手権出場チームを決めるワイルドカードトーナメント制が導入されるようになった過去2シーズンの例をみても、必ず“下克上”は起きている。
2年前には、リーグ戦10位からワイルドカードを勝ち上がったNECがセミファイナリストのサントリーと10-10で引き分け、抽選の結果、NECが2回戦に進んだ。
昨季も、やはりワイルドカードを勝ち上がった神戸製鋼が3位のトヨタ自動車に27-17で快勝している。

何と言っても、モチベーション、あるいは勢いの差こそが番狂わせを引き起こす条件のひとつであることは間違いないだろう。

トップリーグのプレーオフトーナメント セミファイナルで敗れたチームが即座に照準を切り替えるのが難しいのに対して、ワイルドカード組はとっくに目標設定の変更は済ませて日本選手権に臨んでいるはずだ。
しかも、今季はセミファイナルおよびワイルドカードの翌週に日本選手権1回戦が行われる過密スケジュールであり、なおかつセミファイナル組はワイルドカード組よりも準備期間が1日少ない状況でもある。

中でも、最も厳しい条件での戦いを余儀なくされるのがNECだろう。
19日に東京でセミファイナルを戦ったNECが大阪に移動しなければならないのに対して、神戸製鋼は18日のワイルドカードに続いて、地元関西での一戦となる。
ちなみに、レギュラーシーズン開幕節での対戦も大阪(キンチョウスタジアム)で行われ、38-17で神戸製鋼が快勝を収めている。
プレーオフが導入されて以来初のトップリーグでの4強入りを果たしたNECだが、ここまで見て来たとおり条件的には不利な状況での一戦となる。

「ここまで来たら、(準備期間が)1日少ないというようなことは関係ない。もう一度、自分たちのディフェンスストラクチャーを信じて立て直す」と、岡村要ヘッドコーチが語るとおり、セミファイナルのサントリー戦で崩壊した守りを再構築することが、不利な状況を克服して日本選手権で勝ち上がっていくための第一条件となる。
その一方で、セミファイナルで控えに回したWTBネマニ・ナドロを先発に戻し、SOにはCTBから田村優を上げた布陣は、「前半は守り」を強調し過ぎたサントリー戦の反省もあってか、攻めの姿勢が前面に出されたものでもあるだろう。

対する神戸製鋼は、昨年末に東芝を破った(TL第8節、22-19)あたりからチームが完全に上げ潮に乗っている。
リーグ戦終盤ではパナソニック ワイルドナイツ、サントリーというファイナリストたちに敗れたものの、いずれも試合の最後で引っくり返されての惜敗で、チームパフォーマンス的にはまったく見劣りしなかった。

「自分たちは次のステージに進む段階にきている」(苑田右二ヘッドコーチ)ことを確認して臨んだワイルドカードでは、リーグ戦で敗れていたリコーにキッチリ借りを返すかたちでの快勝ぶり(32-19)。
昨季も日本選手権では準決勝に進んでいるが、今季こそ「日本一を狙う」という苑田ヘッドコーチの言葉が何の違和感もなく受け取れるほどの充実ぶりを見せていると言っていいだろう。

ヤマハとしてはFB五郎丸のゴールキックも生きてくるような接戦に持ち込みたい
photo by Kenji Demura (RJP)

スクラム、モール、ブレイクダウンと、どの領域でもFWの力強さはトップリーグの中でも1、2を争う存在。

安定したボール獲得をべースに、直線的にゲインラインを切っていくアタックで前に出た後は、SOに上がるケースの増えた正面健司が相手ディフェンスの綻びをうまくついて彩りを添える。

恐らくは、FWの重厚感で上回る神戸製鋼がボールキープする時間が多くなるだろうが、NECがかつて日本選手権を制した時代のように、ディフェンスで粘りつつ、数少ないチャンスに決定力のあるBK陣でトライをとっていくことができるかがポイントになりそうだ。

一方、東京・駒沢陸上競技場で行われる東芝-ヤマハ発動機戦は、まずはセミファイナルでまさかの敗戦を喫した東芝がどう立て直してくるかが気になるところ。
「目の前のブレイクダウンでドライブできずにボールをデリバリーする方向にばかり行ってしまった」というのが、和田賢一監督のセミファイナルでの敗因分析。
「ブレイクダウンにフォーカスして修正」(同監督)した効果がきっちり出なければ、ヤマハ発動機FWもセット、接点ともに粘り強く、接戦に持ち込まれる可能性もある。

ワイルドカードの近鉄ライナーズ戦のように、競り合いになればリーグ得点王のヤマハ発動機FB五郎丸歩の安定感抜群のゴールキックも生きてくる。
リーグ戦終盤を欠場していた切り札のCTBマレ・サウが万全の状態に近づいていることもヤマハ発動機にとっては大きなプラス材料だろう。

セミファイナルでまさかの敗戦を喫した東芝はブレイクダウンでの激しさを取り戻せるか
photo by Kenji Demura (RJP)

トップリーグチーム以外では、大学選手権優勝の帝京大学が全国クラブ大会を制した六甲ファイティングブルと、大学選手権準優勝の天理大学がトップチャレンジ1位のキヤノンイーグルスとそれぞれ対戦する。

大学選手権3連覇を果たした帝京大は、2年連続でクラブチャンピオンを大差で退けている。
六甲ファイティングブルとは2年前に対戦し、76-7で圧倒。

六甲ファイティングブルには、かつてトップリーグでプレーしていたPR島田啓文、SO良康美などの帝京大OBも含まれており、先輩としての意地を見せたいところだろう。

一方、テンポ良くワイドにボールを動かすスタイルで、今季の大学ラグビーを沸かせた天理大は、トップリーグ昇格を決めたキヤノンの胸を借りる。

トップチャレンジ勝者対大学選手権2位の対戦は、昨季のNTTドコモ-早大(66-43)、一昨季のNTTコミュニケーションズ-東海大(11-7)など、好勝負になることが多い。

1ヵ月半のブランク後の社会人チームとの対戦ということで、学生にとっては厳しい条件での対戦となるが、キヤノンがトップチャレンジ最終節で九州電力に大敗を喫したことが、天理大にとっては吉となるのか凶となるのか。
日本代表クラスとも評される天理大SO立川理道主将、CTBアイセア・ハベアなどのプレーが社会人相手にどこまで通用するのかにも注目だ。

text by Kenji Demura

2年前の対戦では帝京大が六甲ファイティングブルに76-7で圧勝
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天理大はキヤノンCTBトゥプアイレイのパワフルな突進を止められるか
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天理大SO立川主将は社会人相手にどんなゲームメイクを見せるのか
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