1月11日(祝・月) 

天理大学 55-28 早稲田大学


第57回大学選手権決勝は、悲願の初優勝を狙う天理大学と連覇を目指す早稲田大学で行われ、決勝最多の55点を奪った天理大学が関西リーグとして36年ぶりに大学王座を奪回した。

 

 天理、早大ともにチームとしてのバランスの良さが特徴であり、互いの戦力が拮抗し接戦が予想されたが、勝負はいきなり動いた。

 早大SO吉村紘のキックオフをキャッチした天理は、SO松永拓朗のロングキックで前進をはかる。待ち構える早大FB河瀬諒介が強気の判断でタテにランプレー。このプレーを待ち構えタックルに挑む天理ディフェンスの堅さが、このゲームを象徴していく。

 互いのハンドリングエラー、ターンオーバーの繰り返しから天理がボールを確保すると激しく前に出る。開始3分で天理CTB市川敬太が先制のトライ。さらに10分には早大の反則からゴール前で突進を繰り返し、LOアシペリ・モアラが中央にトライ(14-0)。

 早大はゲームの流れに乗れず、戸惑いを見せながら後退を続けた。

 それでも早大は、20分フォワード・バックス一体となった連続攻撃からPR小林賢太が天理ディフェンスを突破してトライを返す(14-7)。

 

 ここからの10分間、ここにゲームが濃縮された。

この日の天理ディフェンスの前へのプレッシャー。ワンラインで一歩でも前へ進もうとする固い意志。身を挺してのタックルの強さ、ブレイクダウンへの寄り。前に出ることへの割り切り、シンプルさが勝負の流れを作る起点となった。

 早大は果敢に身体をあてて実直にバトルを求めた。ディフェンス背後へのキックという柔軟性を捨てたのか、グラウンドを大きく使うバランスの良さも裏目となり、横に拡がるアタッカーが強いタックルを浴び、下がりながらのブレイクダウンに疲労を重ねた。

 天理は25分にSO松永のPG。31分、41分にCTB市川の連続トライで22点差を奪い主導権を握った(前半29-7)。

天理は後半開始6分にも、ゴール前で早大スクラムを押し込み、こぼれたボールをSH藤原忍が抑えてトライ(36-7)。ここで勝負を決めた。

 

天理の勝因はチーム一丸となったディフェンス。ディフェンスから迷わず前に出ることが全ての流れを作っていった。それがアタックでも開花する。

 アタックのキープレーヤーは、CTBシオサイア・フィフィタ。早大の厳しいマークにも、変幻自在にアイデアが拡がる。アングルチェンジからアンダーを狙う。ディフェンスが飛び出せば、真っすぐヒットとみせて市川敬太へのクイックハンズ。外が一歩遅れたら我慢してのオフロードパス。また、フェイズに走りこむフォワードの裏側へエキストラマンとしての攻撃は、早大にとって予測不能となりディフェンスを混乱させる。自分がペネトレイトするこだわりを捨て、ショートキック、パスというリンクプレーヤーとしての選択が天理のアタックの可能性を拡げていった。これがサンウルブズ参加の成果であれば、日本ラグビーの成長とも言える。

 

結果、このゲームの得点は予想外の大差となり、天理大が関西勢として大学日本一を持ち帰ることとなった。強豪明治大、早稲田大を倒しての優勝は見事であり、アタック、ディフェンスともに質の高さを見せつけた。

これまで勝ちきれなかった天理大小松節夫監督は、何が足りないかを自分に問い続けてきたという。このゲームへの準備は全てに周到だった。そして、勝負を決めたのは前に出るディフェンス。小松監督の狙う勝負へのポイント、「接点を上げる」ことを選手は信じた。迷いのない、こだわりの一歩がこの大きな成果を生み出したと思える。(照沼 康彦)


【会見】

早稲田大学

○相良南海夫監督

「国立競技場で2年連続立つことができ、日本一に挑戦できる舞台に立てて、こういった状況の中で、観客11,000人の中で戦えたことを嬉しく思います。結果は天理大学が今日、本当に素晴らしいラグビーをしたと思います。我々も1年間やってきたことをやり切るのがこの場所だと思って送り出しました。選手はやり切ってくれましたが、天理大学の圧力に自分たちのスタイルを出させてもらえなかったところだと思います。勝負事ですので、天理大学が今日、本当に素晴らしかったということに尽きると思います。この悔しさを学んで今後に繋げてまた頑張りたいと思います。」

○丸尾崇真キャプテン

「コロナ禍で大変な時期にかかわらず、大学選手権の決勝を迎えられたこと嬉しく思います。結果として、素晴らしい天理大学のラグビーに負けてしまいましたが、来年以降、下級生がこの悔しさをバネにしてまた日本一をつかみ取ってくれると思います。ありがとうございました。」


ー天理大学が序盤から勢いづいてブレイクダウンでもかなり圧力を掛けてきていたと思いますが、実際、彼等と体を合わせてみて、手強かったというところはありましたか?またそういったときに何か修正しようといったところはありましたか?
 ○丸尾崇真キャプテン

「やはりブレイクダウンのところでは圧力を受けて、早い球出し、いい球出しができなかったところはあったと思います。ともかく、強いキャリー、そして2人目3人目の寄りを早くして強いブレイクダウンを作ろうと話をしていました。」
  

ー(相手ボールの)ラインアウトディフェンスでは相手にプレッシャーを与えたかったと思いますが、天理にかなりキープされてしまいました。あのあたりでの誤算というようなものはありましたか?
 ○丸尾崇真キャプテン

「ラインアウトディフェンスに関しては『捕れればラッキー』位にしか思っていなかったので相手ボールを捕れなかったことに関して悲観はしていませんでした。ただし、マイボールラインアウトに関しての精度はあまりよくなかったのでそこは修正しなければいけなかったと思います。」

 

―キックオフからのアタックでFB河瀬選手がカウンターアタックを何度もしましたが相手フォワードに当たってしまってボールを捕られたり勢いを出せなかったりしたシーンが多かったですが、キックオフからのリスタートの攻め方で難しさはありましたか?

○相良南海夫監督

「タッチキックに関しては、『あそこに行こう』というのが我々のプランにあったので、用意していたことをやり続けたことが結果的にはアダになったようなところがありました。しかしその後は修正しました。質問への答えにはなりませんが、そういったところやブレイクダウンでプレッシャーを受けてのプレーとかの部分は想定していたよりも天理が素晴らしかったと思います。そういったところでは監督として選手に申し訳ないと思います。」

 

ー試合の中で天理大がやってくることで想定外の部分はありましたか?いままで対抗戦のチーム相手を中心に戦ってきたと思いますが、そういう意味で違う感じはありましたか?事前にスカウティングはされたと思いますが、事前のスカウティングによる分析よりも想像以上のところはありましたか?

○丸尾崇真キャプテン

「プレーに関しては想定外のところはなかったのですが、やはり、ブレイクダウンや接点のところでは少し想定を上回ったところがありました。事前のスカウティングではわかりきれない部分もありますので、準備の段階が足りなかったとも思います。」

 

―天理大の表彰式で松岡主将が熱の入ったスピーチをしましたが、それを聞いていてどう思いましたか?

○丸尾崇真キャプテン

「素晴らしいチームを作り上げたキャプテンだと思いました。本当に素晴らしいチームでした。」

 

ーピッチから引き上げてくるときに、天理大の松岡主将と言葉を交わしていましたがどんなことを話されましたか?

○相良南海夫監督

「『おめでとう』『ありがとう』といったことしか話していません。」
 

ー今日は泣かないようにしていたと思いましたが、試合を終わりどういう感情でしたか?

○丸尾崇真キャプテン

「とにかく、3年以下がまたこの舞台に立って、優勝を取ってくれることを信じて・・と思っていました。」

 

ー丸尾主将は、今日の試合でラグビーのプレーを終えるとも聞いていますが?

○丸尾崇真キャプテン

「留学を考えています。ラグビーを第一線でやるつもりはありません。」

 

ー早明戦から約1ヶ月、選手達の成長をどのように見ていましたか?
 ○相良南海夫監督

「急激に成長したとかいうことよりも、やはり、早明戦では自分たちでやれるという勘違いから受けてしまい、戦えていなかったと思います。“Battle”というスローガンを掲げているのにそれができなかったところで、また、特にコロナ禍の中で、とにかく一つ一つ積み上げようということをキーワードにしてやってきました。そこはぶらさずにやり切ろうとしました。早明戦の後、1週間くらいショックから立ち直れずにムードが暗い時もありましたが、その後は吹っ切れて、積み上げてきた精度を上げるとか、やってきたことを信じてやり切るとかいったところに返ってコツコツしっかりやってくれたと思います。そういった部分は成長してくれたと思います。選手達も自分がこうしたい、こうなりたいといった意思表示が出てきてそれがチーム力を上げたと思います。」

 

ー結果的に見ると天理大にかなりスコアされてしまいました。個々のタックルではいいい場面もありましたが、なかなかボールが取り切れないところもありました、あらためてどういったところで防御がうまくいかなかったと思いますか?

○相良南海夫監督

「今日は天理大が素晴らしかったということで、我々があのくらい接点で持って行ければもう少しボールスローにできるかなという想定はありました。そういった中でも天理大に速いボールを出されました。これもコロナ禍の影響か、いろいろなチームと試合ができずゲームを通じて切磋琢磨できなかったところで『引き出し』が少なくなってしまったのかも知れません。」 

○丸尾崇真キャプテン

「前で接点をおこし、ブレイクダウンからの球出しを遅くさせたかったですが、天理大の激しい強さとテンポの速さが自分たちのディフェンスを上回ったと思います。」

  

ーこの1年、コロナ禍などありましたが、丸尾キャプテンにとってどのような1年でしたか?

  ○丸尾崇真キャプテン

「コロナ禍で苦しいと思ったことはありませんでした。このような中でラグビーができるだけで幸せなことでした。対抗戦、選手権を無事に終えられて、本当にラグビーができて幸せでした。関係者の皆さん、最前線で奮闘している医療関係者の皆さんに感謝します。」

 

ーこの1年やられて、監督として得たものは何ですか? 

○相良南海夫監督

「早稲田にとっては難しい1年でした。いろいろトライアンドエラーをやって引き出しを増やすというかたちでやってきましたが、非常に不安な1年でした。対抗戦の試合を通じて選手達が成長してくれればいいと腹を括って、序盤はいろいろなメンバーを使いながらやりました。選手達が、1試合1試合成長する、また、問題の解決能力を持っているということを実感できました。」

 

ー早稲田で日本一になりたいと思って、ずっとラグビーを続けてきて今日に至ると思いますが、これまでのラグビー人生はどういうものだったですか?

  ○丸尾崇真キャプテン

「辛いこともありましたし、ここで優勝することを目的としてラグビーをやってきましたが、それが叶わず今日に至ったということは、心残りのところはあります。それでもいつか『この経験があったからこそ前に進めた』と言える人生を歩みたいと思います。」

 

 

天理大学

○小松節夫監督

「今日はありがとうございました。今まで何回か決勝で負けてきましての今日の決勝でした。今までのウチのチームは東京での大きな試合でなかなか実力を発揮出来ずに悔しい思いをしてきましたが、今日は実力を発揮出来ました。今日は強い早稲田さんのアタックに対して崩れかけたところでもディフェンスが頑張って、走って、何回も起き上がって、早稲田さんのアタックにプレッシャーを掛けられたことが今日の勝因につながったと思います。学生達がハードワークして実力を発揮してくれたと思います。素直に嬉しく思います。」

○松岡大和キャプテン

「今日の試合は早稲田大学のアタックに対して自分たちがディフェンスで前に出てプレッシャーを与えようと、早稲田大学戦に備えて自分たちが準備してきたことが出せました。その流れの中で23人が80分間通して体を張り続けてくれました。今日はディフェンスに全員が我慢し続けてくれたことによる勝利だと思います。」


  ー歴代、天理大で決勝進出したチームではいい選手も揃っていて、いいラグビーをしていました。立川理道主将の時のようなこれまでの決勝進出したチームと違ってのこのチームの強さはどういう部分に感じていますか?

○小松節夫監督

「これまでの決勝進出したチームに比べると、経験値が高かったと思います。1年生の時から3回にわたり、悔しい思いをしてきた選手がことし4年に数多くいて、決勝に賭ける思いが過去2回より強かったと思います。」

 

―関西大学リーグでコロナ禍の影響でなかなか試合ができない時期がありました。序盤戦ではゲームのクオリティも低かったと思いますが、今日の試合ではパスの通し方一つでもとても質が高いという印象でした。プレー一つ一つのクオリティの高さについてはグラウンドでどのようなことをやってきた結果でしょうか?

○小松節夫監督

「今年は試合経験を積めなかったので序盤戦はバタバタして苦しみました。関西学院大戦あたりから、ウチの悪いところが出てディフェンスの修正が必要でした。同志社大戦でも同様にディフェンスでの修正がありました。それにともなってアタックの精度も上がってきたと思います。大学選手権の流通経済大戦で、ディフェンスは前に出ようと若干システムを変えました。流経大のアタックはフラットに走り込むようなアタックをしていたので、アタックも流経大のいいところを取り入れて今まで以上に本来、天理大がやっていたフラットに走り込むアタックをやろうと修正して、そのあたりからは次の明治大戦と、試合をするたびに精度が上がってきたと思います。」

 

―小松監督の個人的なことですが、監督が同志社大学4年生の時に早稲田大に負けています(注:1988年1月の大学選手権決勝は早稲田大が同志社大に19-10で勝利して優勝。)が、そのようなことも振り返っての監督の思いは如何ですか?

○小松節夫監督

「その前に一度、花園で早稲田大と大学選手権で対戦して早稲田大に勝つという経験はしていますが、大学4年生の時には決勝戦で早稲田大に負けました。そういう意味では、天理大では過去に2回決勝戦で負けていて今年が決勝は3回目ですが、実は私個人としては『4回目』という気持ちもありました。」

 

―これまでの発言では『勝って泣くようなことはない』と言っていましたが、今日、悲願を達成していかがですか?

○小松節夫監督

「嬉しさが勝ちまして、勝って泣くということはありませんでした。学生達の涙や笑顔を見て本当に幸せだなと感じました。」

 

―小松監督は『これまでは実力をなかなか出し切れなかったが、今日は実力を出し切れた。』と言いましたが、今日は序盤から出し切れたと思います。その要因は何だと思いますか?

○小松節夫監督

「未熟な学生達がこれまでに(過去の大学選手権での)負けを経験して、『自分たちは何があっても大丈夫だ』という自信を持って、ミスもあるしトライも取られるが、まだ十分かそうじゃないか?と考えたときに学生達に修正力があり、くずれない強さがあったと思います。」

○松岡大和キャプテン

「明治大戦から言っており、試合前にも言いましたが、『試合中一つや二つミスもあるし、2つや3つトライを取られることはあるかも知れないが、それに引きずられることなく、しっかり次に向けてやっていこう、一人のミスに対して他の14人が全員でカバーしてやっていこう』と、言い続けていました。明治大にも早稲田大にも『勝つつもりで行こう』という勝つマインドが全員にあったので、それが試合の入りにしっかりつながったと思います。」

 

ー前半の最後のスクラムでは選手皆が笑顔でやっていると感じましたが?

○松岡大和キャプテン

「前の3人はレフリーとしっかりコミュニケーションを取っていましたし、僕自身もコミュニケーションとって、次どうしていこうかとしっかり修正していたので、前3人がスクラム組んで、後ろがしっかり押すというディテイル=詳細をしっかりやって押そうと組んでいました。皆の決意が高かったことが乗りに乗ったのではないかと思います。」

―例年、春・夏に関東のチームと試合を組んでブレイクダウンなどへの対策をすることができていました。今年は春・夏に関東のチームと試合を組めませんでしたが、ブレイクダウンなどをよく研究されていると思いました。どうやって関東チームのブレイクダウンへの対策をしたのかお聞かせください。

○小松節夫監督

「具体的な対策はしていません。選手権で流経大、明治大、早稲田大と関東の3チームと戦いました。関東のチームへの予備知識はなかったので『やってみないとわからない』というマインドで戦い、ゲームをしながら何があっても対応できるという気持ちでやりました。試合の中では接点のところで前に上げることで強いブレイクダウンが発揮できるので、前に走り込んで接点を上げるところで負けないようにということでやり、それがうまくいっていたと思います。練習方法は去年から特に変えていません。」

 

ー今春、CTBフィフィタ選手がサンウルブズに参加した経験を持ち帰ったことは非常に大きいと思います。フィフィタ選手がチームに帰って、具体的にどういうところでプレーを変えましたか?

○松岡大和キャプテン

「サイア(シオサイア・フィフィタ)がサンウルブズに行って持って帰ってきたことは、サイア自身がパスを使ってしっかり周りを生かすプレーができていることだと思います。アタックシステムはあまり変えてはいません。」


  ー天理大にとっては初優勝。関西勢にとっては同志社大3連覇以来の36大会振りの優勝になりました。これまでなかなか破れなかったところで今回破れたことの価値をどう思いますか?

○小松節夫監督

「関西のチームが全然勝っていませんでしたが、同志社大の後、決勝に行ったのも天理大の2回だけでした。天理大が同志社大に続いて2校目になりたいという気持ちはずっとありました。これまで準優勝はしたが、決勝ではなかなか勝てていなかったチームが、筑波大、東海大と天理大の3校、それぞれ複数回ありました。その中で、天理大がそこにたどり着きたい、優勝したいという気持ちはありました。しかし、そこに仲間入りするのは非常にハードルが高いという思いをずっと持っていました。今日、それを一つ超えて、関西で同志社大に次いで2校目になれたことは嬉しいですし、36年振りですが、関西のチームでも優勝できるんだと言う意味で、関西の大学の皆さんにも励みになると思います。これを契機に関西大学リーグの全体レベルが上がることに期待しています。」

○松岡大和キャプテン

「関西では1位になれるけれど、大学選手権では関東になかなか勝てないといったところで、今年、天理大が優勝したことによって関西のラグビーを盛り上げる意味でもすごくプラスになると思います。関西勢でも負けじと食らいついていけばチャンスはあるぞと、関西のラグビー選手に勇気を与えられるかと思います。」

 

ー優勝をした、ノーサイドの瞬間の気持ちは?
○小松節夫監督

「『ああ、日本一や』と思いました。」

○松岡大和キャプテン

「めっちゃくちゃ嬉しかったです。」