試合には多くの発見がある。それまでとは違う新たなスキルや戦力の存在を目にすると、その場に居合わせたことがちょっと嬉しくなるものだ。


 サクラフィフティーン女子日本代表の試合にも、良い意味で「あれ?!」と感じさせてくれる、そんな瞬間がある。

 例えば、2022年5月に行われた女子オーストラリア代表との対戦で、SO大塚朱紗選手(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)がタッチキックで違いを見せた。それまでの試合とは明らかに異なる距離と精度で、その後も随所に披露。現在では日本の武器の一つだ。ひと昔前の日本の女子の試合では、キック力が伴わないために大きな試合展開ができず、戦い方を限定せざるを得ない時期があった。それを思うと、アスリートとしての女子選手とラグビーの進歩と成長を感じる。

(2022年5月オーストラリア遠征 vs女子オーストラリア代表に先発出場したSO大塚朱紗選手)


 このキックの変化の背景には、べリック・バーンズ現バックスコーチの存在がある。

 オーストラリア代表として51キャップを保持するバーンズ氏は選手時代、正確無比なキック力と適格なゲーム展開を武器にパナソニックワイルドナイツで2013年から2018年までトップリーグ(現リーグワン)で活躍し、在籍中3度のリーグ制覇を含めて常勝軍団としての基盤固めに貢献した。

 サクラフィフティーンでは前出のオーストラリア遠征時のスポットでの指導をきっかけに、レスリー・マッケンジーヘッドコーチが率いる女子日本代表チームのコーチングスタッフに参画。キックだけでなく攻撃面の指導も行い、今夏のラグビーワールドカップ(RWC)へ向けてチームと歩みを共にしている。

 バーンズコーチの指導を受けた大塚選手は、「キックの使い方が明確になった」と話していた。

(ベリック・バーンズBKコーチ)


 サクラフィフティーンのコーチングスタッフの充実ぶりは目を引くものがある。

 バーンズ氏以外にもマーク・ベイクウェル氏が加わってFWと守備を強化。日本のサントリーサンゴリアスをはじめ、オーストラリア、フランス、イングランド、トンガなどでFWコーチとして実績のあるベイクウェル氏の指導で、チーム全体の守備力も上がっている。相手が望むようなプレーを簡単にさせない粘り強さはサクラフィフティーンの強みの一つで、FWを活かしてトライに持ち込むスタイルにも磨きがかかってきた。

(マーク・ベイクウェルFWコーチ)


「勝つためにRWC基準で練習」

 今季2025年のサクラフィフティーンは4月にアメリカ遠征を実施。女子アメリカ代表と練習試合1試合と26日にテストマッチを行い、後者の対戦では日本が39-33で勝利した。


(女子日本代表アメリカ遠征 vs. 女子アメリカ代表)


5月には福岡で行われたアジア3チームによる女子アジアラグビーエミレーツチャンピオンシップ2025に臨み、代表のラージグループからチームを編成して今田圭太氏がヘッドコーチ代行を務め、同15日のカザフスタン代表戦(90-0)、25日のホンコン・チャイナ代表戦(63-5)に連勝で優勝した。

(女子アジアラグビーエミレーツチャンピオンシップ2025 vs. 女子カザフスタン代表と優勝セレモニーの様子)


 チームはここまでポジション別での合宿も多く重ねてきているが、6月9日からは長野県の菅平で約3週間の全体合宿を実施した。

 マッケンジーヘッドコーチは、「試合や大会が控えたプレッシャーのない中で、パフォーマンスの要素を一つ一つ確認して基盤と基礎に集中して取り組んでいる」と語り、ワールドカップ本大会を睨んでチーム作りの重要な期間になっているとした。

 指揮官は、4月のアメリカ遠征と5月のアジアチャンピオンシップの計4試合についても「ワールドカップへ向けて良い準備になった」と手ごたえを得ている。

 「ポジション争いや良いプレッシャーがある中で、選手たちに意味のある出場時間を与えることができて、彼女たちが良いパフォーマンスを発揮できる機会となった」と振り返る。

 「選手たちが(4月、5月の)その期間に経験で培ったもの、エネルギーと良いクオリティをこの6月合宿に持ち込んでくれているので、さらに良いものを引き出すことができる」と語った。

(レスリー・マッケンジーHC)


 LO佐藤優奈選手(東京山九フェニックス)は、「ワールドカップで勝つためには、ワールドカップのスタンダードで練習しなければ勝てないとみんなで言っている」と言い、本大会へ向けた思いの強さを覗かせた。

 ラインアウトの練習では相手も自分たちのサインを知っているという厳しい状況を取り入れて精度アップを図るなど、「試合以上にプレッシャーがかかった中でやれている」と話していた。

(LO佐藤優奈選手)

7月スペイン2連戦はRWC前哨戦

 サクラフィフティーンは、7月にはスペイン代表との2連戦に挑む(19日福岡・ミクニワールドスタジアム北九州、26日東京・秩父宮ラグビー場)。

 8月22日にイングランドで開幕する女子ラグビーワールドカップのメンバー発表を前に国内で行う最後の実戦機会だ。しかも、スペインとは本大会プールCでの対戦が決まっており、今回はその前哨戦となる。

 テストマッチでのスペインとの通算対戦成績では、日本が27-19で勝利した、直近の2023年7月16日の対戦を含めて1勝2敗。世界ランキングでは日本の11位に対してスペインは13位だ。


(2023年7月スペイン遠征 vs. 女子スペイン代表)


 スペインは昨年10月にWXV3を制して、2017年大会以来2大会ぶり7度目となるラグビーワールドカップへの出場を決めた。また、ラグビーヨーロッパ女子チャンピオンシップでは2025年大会を制して8連覇を達成している。4月20日にホームでのテストマッチで世界ランキング12位の女子南アフリカ代表に26-48で敗れているが、スペインにとっても今夏のイングランド2025大会を前にした重要な2連戦であることは間違いない。

 日本はワールドカップのプール戦でニュージーランド代表、アイルランド代表との対戦も決まっており、スペイン戦は本番へ向けてチームの完成度をチェックする貴重な機会となる。

 さて、今回はそこでどんな「発見」があるのか。楽しみにしたい。


取材・文:

スポーツジャーナリスト 木ノ原句望


◇2025年 女子日本代表 今後の試合日程

7月19日(土)「太陽生命JAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2025」

女子日本代表 vs. 女子スペイン代表@ミクニワールドスタジアム北九州

>>>チケット情報はこちら

 

7月26日(土)「太陽生命JAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2025」

女子日本代表 vs. 女子スペイン代表@秩父宮ラグビー場

>>>チケット情報はこちら

 

8月9日(土)「女子イタリア遠征」

女子イタリア代表 vs. 女子日本代表

 

8月24日(日)「女子ラグビーワールドカップ2025イングランド大会」

女子アイルランド代表 vs. 女子日本代表

 

8月31日(日)「女子ラグビーワールドカップ2025イングランド大会」

女子ニュージーランド代表 vs. 女子日本代表

 

9月7日(日)「女子ラグビーワールドカップ2025イングランド大会」

女子日本代表 vs. 女子スペイン代表