日本の女子ラグビーに新たなネットワークが誕生しました。その名も「ラガールつながる 九州ガールズラグビートーク~仲間と一緒に未来を作るラグビートークLIVE」。
ラグビースクールの活動が活発な九州。幼い頃から楕円球を追いかけていた女子選手も多く、この夏にイングランドで開催された女子ラグビーワールドカップ2025(RWC2025)に出場したサクラフィフティーンでは35人中、九州出身の選手は6名。彼女たちの協力を得て、今回は九州・沖縄でラグビーをプレーしている女子中学・高校生選手を対象に企画されました。
11月15日、オンラインでのトークライブに参加したのは九州・沖縄でプレーする中学・高校生選手17名。サクラフィフティーンからは、主将を務めたFL長田いろは、LO吉村乙華、CTB古田真菜の九州出身3選手。加えて沖縄出身でRWC2017のバックアップメンバーでもあり、現在は地元でラグビー普及に携わっている加藤あかりさん、福津市出身で福岡ジュニアでプレーし、今季日本協会公認A級レフリーに選ばれた池田韻さんも参加。第1部のトークセッションでは、池田韻さんがファシリテーターを務める「先輩トークセッション」。共に九州でプレーしていたこともあり、和やかに話は進みました。

冒頭ではRWC2025に出場した3人が、大会を振り返りました。吉村選手は、滞在していた街がラグビー一色に染まり、地元の人から「日本頑張れ」と声をかけてもらったことで、「ここで勝ちたいと思える大会でした」。古田選手の振り返りは、大会までの過程。前回大会終了後、「もっと成長したい」と、すぐに練習を再開したところかえって心が疲れてしまい、しばらくラグビーから遠ざかることに。「高い理想像を求めすぎていました。休む必要性を教えてもらいました」。この2年は自分を客観的にとらえることができ、十分な準備ができたと語りました。
長田いろは選手には、池田さんから「キャプテンとしてどうチームをまとめたか」という質問が。「就任した当初は、前のキャプテンだった南早紀さんの真似をしていましたが上手くいかなかった。最終的に、言葉ではなくプレーで引っ張ろうと自分らしさを出したところ、上手くいきました。試合前に、色々な思いを抱えたメンバー外選手からの言葉が嬉しかった」。参加者は、試合だけではわからない先輩たちの心の内を知ることができました。
加藤さんは、沖縄のリゾートホテルでフルタイムで働きながらBULLS沖縄ラグビースクールを起ち上げました。「ラグビーを引退して3年はニートでした」と加藤さん。「そこで自分に何ができるのかを探して」、沖縄でラグビーを広めようとラグビースクールを設立。現在は、子ども食堂も開きながら普及に努めています。スクールに通う子供たちがラグビーを通して成長し、保護者から「ラグビーのおかげです」と言われることが大きなやりがいです。
「まずは自分に何ができるのか、自分自身の強みを見つけることが大切」(加藤さん)
続いて、池田さんからはそれぞれ学生時代についての質問が。
吉村選手は「中学校で初めてラグビーに触れて、最初はパスもキャッチも出来ずに練習が嫌でした。でもタックルが好きだったので、タックルを極めようと。それが最終的に強みになりました。まず好きなプレーをやり続けること」
古田選手からは「私は花園(=U18花園女子15人制)に一度も出ていないし、中学時代も最後まで強みがわかりませんでした、でも“いい”と言われたことは、かたっぱしからやってみました。毎日走る、毎日ウエイトをするなどして習慣づけていく。そして率先して口に出すこと。母親や友達に“走りに行く”と言っておけば、“今日は行かないの?”と聞かれて(笑)、実行することにつながります」
長田選手が語ったのは、おそらく選手としての原点でした。
「高校のとき、チームメートのほとんどが選ばれた九州代表のセレクションに落ちてしまって車の中で泣いていたら、父親に“努力していないのに泣くな”と言われました。それからは毎日“今日の目標”を決めて練習していたら、次の年は代表に選ばれた。目標を立てる大切さを学びました」
中高時代は他の部活とかけもちしつつ、タグラグビーの大会に出ていた加藤さん。タックルに魅せられ、大学で本格的にラグビーに打ち込みだしてからは、アルバイトが終わった深夜、暗闇の中でタックルやパスの練習に励んだと言います。
全員に共通していたのは「目標を立てることの大切さ」。大きな目標ではなく、達成できそうな小さなところから始めること。小さな目標を積み重ねることが、結果として大きな目標につながるということでした。
ファシリテーターを務めた池田さんがレフリーを志したきっかけは、高校時代のケガから。顧問の先生がレフリーを務めていたことで、存在を認識。その後、北九州のミクスタで女子のワールドセブンズシリーズが開催されたときレフリーの補助員を務めたことで、選手を支える様々な役割があると知り、本格的にレフリーを目指そうと決めました。
さらに先輩たちの体験談に共通していたのは、大切なことに気づくのは、実は立ち止まったり壁にぶつかっていた時期だということ。今回参加した中高生の選手たちが、心の中に留めておけば、きっと役に立つ日がくるはずです。
質疑応答では、モチベーションを上げる方法を教えてほしいという質問も。古田選手は「自分の好きなプレーを頑張って、自分をしっかり褒めること」。吉村選手は「私はおしゃべりマシンと言われてるくらい(笑)話すのが好きですが、いったんラグビーを忘れること」。ラグビーと、ラグビー以外でのモチベーションの上げ方はきっと参考になるはず。

第2部は九州・沖縄の女子ラグビーの普及やPRについて仲間と一緒に考える「アイデア・トークセッション」。今年度、九州には776人と全国の7分の1の数の女子選手がプレーしています。主な課題は、一つの県でチームが編成できないこと。高校卒業時点で、選手が3分の1に減ってしまうこと。30代以上の選手の数は14人と、30代を過ぎてプレーする選手が少ないことなど。これらは全国共通の課題でもあります。
まずは参加者と先輩たちがブレイクアウトルームに入り交流の時間。「なかなか体力がつかなくて」という選手からの質問に長田選手は「私もフィットネスでは苦戦しました。いろんなことをやる、S&Cコーチに相談して、メニューを作ってもらったらどうでしょう」と助言を送りました。
続いては「女子ラグビーを広めるためにできること」をテーマにグループディスカッション。「もっとテレビ放映を増やす」「まずは友達など、身近な人に体験してもらう」「学校で積極的に伝える」…。参加者にとっては選手の立場から少し離れ、「将来のラグビー界を担う立場」として考えて発言する貴重な時間となりました。
最後は先輩たちから応援メッセージが贈られました。古田真奈選手からは「日々、小さな“楽しい”を大切にしてください。いいプレーで“よっしゃあー!”と思うことは大切」と、ラグビーに限らず、明日からできそうなアドバイスがありました。
参加した選手たちは今回、チームや学校の枠を超え「九州・沖縄」という地域でつながりました。それはラグビーを通せば、世代を超えてつながれるということも実感したはずです。
この日生まれたつながりが、これから長く続けば、それがきっと周りを巻き込む大きな力となっていくに違いありません。
●参加者の声
[参加してよかった理由]
・女子ラグビーの先輩方である方々からラグビーで大切なこと、トレーニング方法、中高生のころ何をしていたかなどを沢山聞くことができ、貴重な体験をさせて頂いたのでこれからのラグビーに活かしていきたいと思ったからです。
・このような機会が設けられているというのは、女子ラグビーの人口は少なく、これから女子ラグビーを発展させるために、必要不可欠だと感じたから。私はC級レフリーの資格を最近とっていて、女子レフリーの池田韻さんのお話を聞いて、これから更に自分の道を突き進もうと思えるようになったから。
・いろんな人達と交流できたし、たくさんの選手のことについて知ることができたし、質問なども丁寧に回答して頂いたので、凄く勉強になったから。
・2時間長いな…と、思いましたが、とても充実した時間になり、参加して良かったなと思いました。
・先輩方のラグビー人生を聞いていく中で、目標を立てる事の大切さや強みを作るためのきっかけを学ぶことができました。
・実際に日本代表選手の皆さんのモチベーションの保ち方や、挫折を味わったからこそ今の活力が生まれているなどといったお話を聞くことが出来たから。
・進行の方も上手で、喋っていても聞いていても楽しかったし為になりました。
・同年代の子達と繋がれたし、自分たちの考えを交流する場がとっても素敵だなと思ったからです!
【参加者プロフィール】
LO吉村乙華/中1のとき、福岡レディースでラグビーを始める。東筑高、立正大を経て、現在はARUKAS QUEEN KUMAGAYAに所属。
CTB古田真菜/ラグビー歴は2歳から。かしいヤングラガーズ、福岡レディース、筑紫高、立正大と進み、現在は東京山九フェニックスに所属。
FL長田いろは/中1で福岡レディースでラグビーを始め、門司学園高、立正大を経て現在はARUKAS QUEEN KUMAGAYAに所属。
加藤あかり/沖縄の名桜大時代にラグビーを始め、ラガール7、ながとブルーエンジェルスでプレーした後、2019年に現役を引退。現役時代のポジションはSO/CTB/WTB。



