香港セブンズが、幕を開ける。今年は半世紀の歴史を刻む50周年の記念大会だ。


日本男子は招待制のメルローズカップとして、そして日本女子は大会のメインイベントであるワールドチャンピオンシップセブンズとして、共に香港セブンズの舞台に立つことになる。セブンズ選手にとって、香港セブンズは『聖地』である。セブンズにあまり馴染みがない方も、この世界的祭典である香港セブンズはご存知の方が多いのではないだろうか。

 

昨年から会場を新たにして実に11万人を超える観客を数えた。今年は既に10万枚を超えるチケットが売れているという。1976年に香港フットボールクラブで始まった一日限りのイベントが、今や現地に100億円以上の経済効果を生み出す世界的スポーツイベントとなっているのだ。世界各地から人が集い、多くの人間をセブンズの虜にした。香港セブンズという大会は、始まりから半世紀を迎えた今、ラグビーを、スポーツを超えて、「文化」となっている。

 

今年の香港セブンズは、世界トップの8チームと、下位ディビジョンから勝ち上がってきた4チームを加えた12チーム(男女計24チーム)で争う「HSBC SVNSワールドチャンピオンシップ」のひとつである。このチャンピオンシップは香港大会に続いて5月にスペインでのバリャドリード大会、6月にはフランスでボルドー大会が行われ、その最終ランキングで来季の未来が決まる。来季もHSBC SVNSを戦えるのは8カ国のみ、総合9位以下となればロサンゼルス五輪のメダル獲得の道のりはかなりの遠回りになってしまう。ここからのワールドチャンピオンシップ3大会は来季の運命を左右する「絶対に負けられない」大会となるのだ。

(HSBC SVNS ワールドチャンピオンシップ 香港大会のキャプテンズフォト)


11月からこれまでHSBC SVNS 6大会を戦ってきたサクラセブンズは、初回のドバイ大会でこそ銅メダルという史上初の成績を残したが、残りの5大会は4強の壁を再び破ることは出来ておらず、8カ国中7位の立場で今大会に臨む。これまで挑戦者であったサクラセブンズだが、銅メダルを獲得してからというもの相手チームから徹底的に分析をされるようになってきた。

(HSBC SVNS 2026ドバイ大会で銅メダルを獲得したサクラセブンズ)


サクラセブンズの強みの軸は、「スイング」というプレーにあると思っている。誰かが生み出したゲインをきっかけに、絶妙なタイミングでオープンスペースに選手がまわり込み、ATの枚数を増やして数的優位を生み出す。数的優位があるから、DFに圧力をかけるプレーが選択できる。相手タックルをズラして、オフロードでボールを繋ぐことができる。

非常にシンプルなラグビーに見えるが、彼女達の高度なハンドリングスキル、阿吽の呼吸があるからこそ成り立つプレーである。パスが10cmずれたり、走り込むタイミングが0.5秒ずれるだけで、世界レベルでは簡単にDFに追いつかれてしまうのだ。海外のチームが力技や個人のスピードでトライを取るのに対し、サクラセブンズはこういったボールを「繋ぐ」スタイルでトライを取っていく。

 

サクラセブンズのコアテーマでもある「繋ぐ」。繋ぐのは目にみえるものだけではなく、想いや歴史、選手同士の絆、そんな教育的な面も大切に紡ぐのが兼松体制だ。今季見せたサクラセブンズの粘りのDFは、そういった目に見えないつながりが育んできたものなのかもしれない。また今シーズンは、姉妹で代表デビューを果たした大内田夏月選手、葉月選手を筆頭に多くの若手選手が起用され世界レベルを経験することができた。ロサンゼルス五輪2年前からこれだけ多くの若手が新たに加わり代表入りを競い合う状況に、兼松由香ヘッドコーチの若手選手への期待の大きさを感じる。

(ゲインを試みる姉の大内田 夏月選手)


(快足を飛ばす妹の大内田 葉月選手)


(試合の状況を見つめる兼松HC)


一方、現状の課題を挙げるとすればセットプレーであろう。サクラセブンズは、他国よりやはりひとまわりフィジカルが小さい。世界2位オーストラリアの名ウィンガーであるMaddison Levi選手は184cm、サクラセブンズ不動のウィング堤ほの花選手の身長は154cmである。高いボールを競り合うキックオフは言わずもがな、このフィジカル差が如実に現れるのがスクラム、ラインアウトだ。セブンズのセットプレーは、単純に見えて奥が深い。相手と競り合うのはせいぜい3秒程度であるが、その分、レフリーのコールがかかる前の相手との駆け引きが非常に重要になってくる。フィジカルでサクラセブンズに真っ向勝負してくる相手チームと、どう駆け引きして有利な状況に持ち込むか。初戦の相手であるフィジーはキックオフの再獲得を得意とするチームでもある。フィジカルの課題をどう強みへと“繋げて”いくか、成長期のサクラセブンズに期待したい。

(キャプテンを務める須田 倫代選手)


(フィジー相手に果敢に突破を図る三枝 千晃選手)


さて、日本を含むトップ8カ国に対して、下位ディビジョンからチャンピオンシップへ上がってきた4カ国は、アルゼンチン、南アフリカ、スペイン、ブラジルである。昨季コアチームにいながらもコアチーム数の縮小(12カ国→8カ国)に伴い下位ディビジョンからのスタートとなったスペインとブラジルに加え、過去の昇格戦で何度も辛酸を舐めてきた南アフリカが順当に顔を揃えた。昇格をかけた大会は、挑戦者側の勢いにのまれると予期せぬアップセットが起こるものだ。簡単ではない戦いを勝ち抜いてきたこの4カ国はなんとか来季のトップ8の座を奪い取ろうと静かに、その爪を、牙を、研いでいるものだ。失うもののない彼女達の勢いにも是非注目したい。

 

今回の大穴はなんといっても下位ディビジョンをトップで通過したアルゼンチンである。男子代表のLos Pumas ロス・プーマスに対し、女子代表はLas Yaguaretés ラス・ヤグアレテスという愛称を持つ(※ヤグアレテはアルゼンチンの先住民族の言葉でジャガー)。アルゼンチン女子代表の台頭は、これまでのブラジル一強の南米女子ラグビーを大きく変える存在となりそうだ。ニュージランド・オーストラリアも然りだが、ブラジル・アルゼンチンのように隣国のライバルの存在はその国のセブンズ強化のキーファクターとなる。これまで10年以上、アジアにおけるサクラセブンズのよきライバルであり昨年度コアチームでもあった中国は、今季はやや失速傾向にあるようだ。パリ五輪で7位という好成績を収めながらも、今回のチャンピオンシップへの出場権は逃している。

 

(Division 2で優勝を果たした女子アルゼンチン代表)


このようにセブンズはオリンピック競技であるがゆえに、各国のオリンピック委員会の判断や協会の強化計画で未来が左右されやすい。イングランド・ウェールズ・スコットランドのチームは2021年まではそれぞれのチームとして出場していたが、国単位の出場となるオリンピック出場のレギュレーションに従い7人制では数年前から英国代表としてひとつのチームに纏められている。また、強豪であったアイルランドの男子セブンズ代表は、協会の財政状況や強化方針を踏まえて、惜しまれながらも昨年に解散となった。一方で、香港代表は男女共にコアチームからは遠ざかっているものの、今大会の合間に併催されるメルローズカップの出場国として今年の香港セブンズにも登場する。地元香港に送られる声援は、やはりすごいものがある。

 

セブンズは、五輪競技の枠を超えてカルチャーとなり得るか。

15人制代表への通過点やパスウェイとしてではなく、4年に1度のオリンピックスポーツとして消費されるだけではなく、ラグビーの文化のひとつにならなければセブンズ代表チームの継続的な繁栄は難しいようだ。この香港セブンズという大会の中に、そんなたくさんのヒントがあるはずだ。各国の代表選手達の背中には、セブンズの未来も掛かっている。その重みと尊さを噛み締めて、この特別な大会を戦って欲しい。

 

サクラセブンズはプールAでニュージーランド・フィジー・ブラジルと同プールとなった。初戦はフィジーと対戦予定。今回のチャンピオンシップで、コアチーム残留はもちろんのこと、どこまで世界ランキングを盛り返すことができるか、特別な舞台に挑む桜の戦士たちに、現地から、日本から、是非たくさんの声援を送っていただきたい。


(文:中村 知春)


HSBC SVNS ワールドチャンピオンシップ 香港大会

■女子セブンズ日本代表 大会スケジュール

プール戦 ※大会1日目(4月17日)

 

現地時間

日本時間

対戦相手

プールA 第1戦

16:44

17:44

女子フィジー代表

プールA 第2戦

20:24

21:24

女子ニュージーランド代表


■外部リンク

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