目の覚めるようなスピード、鮮やかなランとステップ、一瞬の判断力、目まぐるしく移り変わる攻防と展開──。
15人制ラグビーとはまた違った魅力を持ち世界中で愛されている7人制ラグビー「セブンズ」で、男子セブンズ日本代表の飽くなき挑戦が続いている。
今回はセブンズの競技特性や現況に加え、8月29日・30日に開催されるアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ・中国大会をターゲットに、日々鍛錬を続ける男子セブンズ日本代表の声をお届けする。
合宿、トレーニングを幾度も重ね、選手間の連係のみならずチームとしての一体感も日増しに高まっているSDSのメンバー
(男子SDS福岡合宿 2026.02.28)
◇15人制とは似て非なる「セブンズ」というラグビーの特性
7人対7人、7分ハーフの、フルコートでのランニングバトル──。
7人制ラグビー「セブンズ」になじみがなくても15人制ラグビーを一度でも見たことがあれば、同じサイズのグラウンドで行われるセブンズでは1選手が広大なスペースを受け持つこと、それによってダイナミックかつスピードあふれるランが生まれることは想像に難くないだろう。
防御網が長く厚い15人制では遠く感じられるトライゾーンが、セブンズでは一瞬で到達し得るものに変わる。常にトライと隣り合わせであることが、セブンズの最大の魅力であり、裏を返せば危険性でもある。
セブンズが正式にオリンピック競技となった2016年のリオデジャネイロ五輪から、男子セブンズ日本代表は3大会連続での出場を果たしている。しかし世界を転戦する国際大会「HSBC SVNS」、旧称「ワールドラグビーセブンズシリーズ」からは遠ざかっており、昨季もアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025・スリランカ大会の決勝でホンコン・チャイナに敗れ、新たな世界大会「HSBC SVNS 2026」ディビジョン3への出場権を逃した。
現在、男子セブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)はそこへの昇格に向けて福岡県福岡市のJAPAN BASEを中心に合宿を重ね、チームと個人を日々高め合っている。
2024年9月の就任から3年目を迎えようとしている元15人制・7人制イングランド代表のフィル・グリーニング ヘッドコーチは、セブンズの競技特性や選手に求める能力についてこのように語っている。
「セブンズは15人制よりもスピードを伴ったプレーをする必要があります。人数が少ないぶんフィールドのスペースが広いので、そのプレースピードに追いつけるだけの体作りをしていくことが重要になります。もちろん15人制と似ているところもありますが、セブンズはディテールの部分がより大事になってきます」

熱心なコーチングを通じて、SDSのみならず15人制も含めた日本ラグビーそのものの強化と発展を目指すグリーニング ヘッドコーチ
(男子SDS福岡合宿 2026.02.28)
人数や一人あたりのスペース、試合時間は異なるものの、得点方法や基本的なペナルティなどは15人制と共通している(ただしコンバージョンはドロップキックで行う)。しかし同じ楕円球を使う球技でも似て非なるセブンズというラグビーに適応し、世界に伍していくためには長期間にわたる連係が不可欠だ。SDSが継続的に合宿を行っているのはそのためであり、是が非でも成果を収めたいとチーム全員が考えているだろう。
◇15人制での活躍を促す「パスウェイ」としてのセブンズ
同時に、男子SDSの活動には7人制強化のプログラムを通してリーグワンや15人制代表で活躍できる選手を育てていく、という目的も含まれている。グリーニング ヘッドコーチは「パスウェイ」という育成の意味合いを持つ言葉をよく用いるが、その真意をあらためて説いてくれた。
「(15人制代表の)トップチームを見ると、若い選手が早い段階でセブンズをプレーして成長の機会を得ています。実際にフランスやオーストラリアのコーチは15人制の選手を育てる場としてセブンズを利用していますので、日本もそのような形で若い選手を成長させて15人制でいいプレーできるようにしていきたいです。日本のリーグにはプレーする機会に恵まれない若い選手がたくさんいますので、そういう選手を(SDSに)呼んで他国のようにセブンズで育てていき、いずれ15人制に戻すというシステムを構築したいと考えています」
グリーニング ヘッドコーチは、男子日本代表のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチと密に連携を取り合っている。J SPORTSの番組で企画された対談でも忌憚なく意見交換し、あらためて相互理解を深めていた。
「エディーとの対談は大きな意義がありました。私もエディーも才能のある若い選手のプレー機会が限られていると感じていますので、(セブンズという)パスウェイを通じてそういった選手を育てて各所属チームに適合させ、プレーする機会を増やしたいと考えています。あらためてそれを確認できたエディーとの対談は重要な機会になりました」

対談時も日本ラグビーの育成について、議論を重ねたエディー・ジョーンズHC(左)とグリーニングHC(右)
近年では、15人制日本代表でも継続的に活躍しているWTB石田 吉平(横浜キヤノンイーグルス/東京五輪男子セブンズ日本代表・パリ五輪男子セブンズ日本代表主将)やWTB植田 和磨(コベルコ神戸スティーラーズ/パリ五輪男子セブンズ日本代表)がセブンズの経験を糧に成長した顕著な例として挙げられる。もちろん各大学、各リーグワンのチームの成果でもあるはずだが、オリンピアンとして国を背負いセブンズ最高峰の舞台で戦った貴重な経験、そしてその舞台へたどり着くまでのハードワークが15人制日本代表への「パスウェイ」になったこともたしかだろう。
現在の男子SDSのメンバーはその大半がリーグワンのチームに在籍しており、現時点ではセブンズでの活躍を誓いながら、15人制の所属チームでのパフォーマンスにもつなげたいと考えている選手もいる。その一例として、これまでNECグリーンロケッツ東葛に所属し、JR東日本グリーンウォリアーズ東葛の一員となった荻田 直弥は今後のビジョンについて包み隠さず話してくれた。
「リーグワン2026-27シーズンは15人制(所属チーム)にフィットするつもりです。(まだ出場機会のないリーグワンの)公式戦にも出たいと考えています」
SDSへのコミットを大前提に、まずはセブンズで最高の結果を残し、その経験を15人制に活かしていく。そんな「パスウェイ」のサイクルは日本のラグビーをさらなる高みへと押し上げる要素の一つになりそうだ。
○SDSにおけるオリンピアンの存在
その一方で、15人制のチームには所属せず、セブンズにのみコミットし続けている選手もいる。(公財)日本ラグビーフットボール協会と男子7人制専任契約を締結している津岡 翔太郎だ。
佐賀工業高校、帝京大学、コカ・コーラレッドスパークス(2021年に活動終了)と15人制で活動し、2019年には男子セブンズ日本代表に初選出。2024年にパリ五輪出場を果たし、今なおSDSの中心メンバーとして存在感を示し続けている。6月にはハイデラバード(インド)で開催されたセブンズのプロリーグ「HSBC ラグビープレミアリーグ シーズン2」にカルカッタ・バンガ・タイガーズの一員として出場。異国の地でさらなる進化を目指した。
残念ながら同大会では出場機会が限られてしまい「もっと試合に出たかったです。周りはHSBC SVNSに出場している選手ばかりでしたが、彼らと比べて劣っているとはまったく思わなかったです」と唇を噛んだが、その悔しさこそが津岡のセブンズへの向き合い方を示している。
「(SDSに若い選手が増えてきて)もちろん刺激を受けています。自分の年齢(30歳)にふさわしい振る舞いをしなければ、という思いもありますが、僕はみんなとフラットでいたいタイプなので、変わらず(若手からも)刺激をいただきながら学べるところは学ばせていただいています。オリンピックに出たから、ワールドシリーズ(現HSBC SVNS)に出たから(上からのスタンスをとる)という気持ちは1パーセントも持っていません」(津岡)
合宿初日から精力的に体を動かす津岡 翔太郎。アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ、アジア競技大会での優勝への思いも強い
(男子SDS福岡合宿 2026.08.19)
津岡のように経験豊富なオリンピアンでも初心を忘れることなく、フラットな立場で競争している。そのスタンスは、同じくパリ五輪のメンバーとなった古賀 由教(リコーブラックラムズ東京)とも共通している。
「(パリ五輪の12位という結果は)自分たちが望んだものではなかったので、次に目指す選手たちにはそういう思いをしてほしくないという気持ちはあります。ただ、自分が(オリンピックなどを)経験したから上から何かを言うことはありません。同じ立場で競い合って、試合に出られるよう互いに切磋琢磨して、その場その場で伝えられることは伝えますが、オリンピックがこういうところだった、みたいな話はあまりしたくないですね」(古賀)
チーム随一のスピードを誇る古賀 由教。練習でもチームを引っ張る精神的支柱
(男子SDS福岡合宿 2026.07.10)
リコーブラックラムズ東京に所属している古賀だが、津岡と同じように長きにわたりセブンズにフルコミットしている点は同じだ。二人のオリンピアンがSDSのなかで特別な存在になりすぎることなく、若い世代の選手たちと一体となって高め合う姿勢は、世界に照準を合わせるチームに好影響をもたらしている。
◇中国大会もアジア競技大会も「優勝しか見ていない」
男子セブンズ日本代表としての直近のターゲットは8月29日(土)・30日(日)に開催される「アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026・中国大会」だ。初日にインド、シンガポール、アラブ首長国連邦とグループBで対戦し、翌日の順位決定戦で優勝を目指すことになる。
「中国大会は(来季の)SVNSディビジョン3でプレーするための大きなチャンスになりますので、いい結果を残したいです。そのために速いペースでプレーできるよう準備しています。そしてプレー精度の一貫性を日々の練習で高めています。それが(9月開幕で10月1日からセブンズが開催される)アジア競技大会に向けての良質な競争にもなると考えています」
(グリーニング ヘッドコーチ)
チーム内でも高い経験値を誇る、(公財)日本ラグビーフットボール協会と男子7人制専任契約している中野 剛通(トヨタヴェルブリッツ)も中国大会へ並々ならぬ意欲を燃やす。
「アジアで一番にならないと次のステップ進めません。いいプロセスを踏んで一歩ずつ成長していけばいい結果が出ると思っています。アジア競技大会もありますがそこまで先を見るのではなく、朝のメニューから始まる日々の練習を一日一日大切にして(まず中国大会で)優勝したいです。僕たちがやりたいラグビーをできれば(相手が)どんなチームであっても力を出し切り、いい結果が収められると思っています」(中野)

先を見過ぎずに今現在に集中する中野 剛通。アジア競技大会の前に、まずはアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズに全力を注ぐ
(男子SDS福岡合宿 2026.02.28)
他のSDSの選手たちにも優勝に向けた現在の取り組みを聞いた。
「(自身の課題である)体力をもっとつけて、14分間走れるようにしたいです。そのために合宿で走るだけでなく、集まれない期間にどう過ごし、いかに主体的に行動できるかが大事です。そして練習から一貫性を持ってプレーできるようになる必要があります」(植村 陽彦/栃木ホンダヒート)
「個人としては自分の強みであるワークレートの部分を(中国大会に向けてさらに)伸ばして、苦しいときにチームを助けられる選手になりたいと考えています。10年前の自分では想像できなかったところまで来ていると実感しています」
(大内 錬/マツダスカイアクティブズ広島)
「練習のスタンダードは上がっていますし、積み重ねができています。他の国と比べてサイズが大きいチームではないので『いっぱい走ろう』とみんなで話しています。フィットネスの平均値も上がったことでディフェンスの基礎ができ、アタックとの連動も向上していると感じています」
(高井 良成/JR東日本グリーンウォリアーズ東葛)
各自のアプローチや表現はそれぞれ違えども、求める結果は一つだ。そして、津岡の力強い言葉がチームのターゲットをより明確に示している。
「中国大会は優勝以外考えていません。そのためにも昨シーズン足りなかったところ練習で補いつつ、今のチームのいいところを伸ばしています。もちろんアジア競技大会も優勝しか見ていません。チームも僕個人もその2大会で優勝することを最大のターゲットに据えてハードワークしていますので、自信があります」(津岡)
これまでの研鑽を証明する場となる8月の中国大会、そして10月のアジア競技大会での男子セブンズ日本代表の傑出したパフォーマンスを、しかと目に焼き付けたい。
(文・齋藤 龍太郎)
