ヤマハ発動機が初の日本一に上り詰めるのか
サントリーが2年ぶり7度目の選手権制覇か

 

28日、東京・秩父宮ラグビー場で第52回日本ラグビーフットボール選手権大会決勝戦が行われる。

text by Kenji Demura

日本選手権大会
決勝に勝ち残ったのは、今季のトップリーグのファイナリストであるヤマハ発動機ジュビロと、トップリーグではプレーオフトーナメント LIXIL CUP 2015進出を逃しながらも、ワイルドカードトーナメント2試合と日本選手権3試合を勝ち抜いてきたサントリーサンゴリアス。
昨年8月22日のトップリーグ開幕から半年。今シーズンの日本ラグビーのフィナーレにふさわしい激しいラストバトルが繰り広げられることになりそうだ。

「一番倒したい相手」
ヤマハ発動機の清宮克幸監督は少しも臆することなく、決勝戦で対戦するサントリーについてそう言い切った。
現役時代はサントリーでプレーし、2006年から2009年シーズンまでは同チームで監督を務めただけに、「いまの立場を離れれば、サントリーファミリー」と、強い思いを持つ対戦相手であることに疑いの余地はないだろう。
「サントリーに勝って優勝する。僕と一緒に来た長谷川(慎FWコーチ=元サントリー)にとっては、一番やりたいこと。
そうやって過去にいたチーム、仲間たちに対して、新しいチームをつくってチャレンジできる。ここで勝って初めて、ここに来て良かったなという試合になる」

清宮監督がヤマハ発動機の監督に就任して4シーズン目。
トップリーグで対戦してきたチームで、唯一勝っていないのがサントリーでもある。
今季はセカンドステージ第1節で対戦。サントリーが16-12で勝利を収めている。
「下手だった。笑っちゃうくらい、いまとは違う」と、同監督は3ヶ月前の対戦の印象を語る。
日本代表組が欧州遠征から帰国したばかりで万全な状態ではなかった面もあるし、何より若い選手も起用しながらシーズンを通してほぼ不動のメンバーで戦ってきたヤマハ発動機というチームがこの3ヶ月で、大きく成長したのは紛れもない事実と言っていい。

一方、「今シーズンは世代交代がテーマ」と、大久保直弥監督がことあるごとに語ってきたサントリーにとっても、わずか勝ち点1差でLIXIL CUP 2015進出を逃した後、ワイルドカードトーナメント2試合、日本選手権3試合の厳しい試合をものして日本一を争う場に勝ち上がった事実こそ、チームの進化の証明と捉えていいだろう。

「必要でないものを削って、シンプルに、選手が迷いなくプレーできるようにした」と、終盤の戦い方の方向性を語る同監督は、対戦相手である“先輩”の清宮監督に対して以下のような尊敬の念を持ち合わせてもいる。
「サントリーのクラブの中でも清宮監督へのリスペクトは高い。今年、強いチームをつくってこられた点も尊敬に値することだし、そのチームと日本一を争えるのは意義がある。勝って、恩返しできれば」

当然ながらサントリーには、HO青木佑輔、FL佐々木隆道、PR畠山健介といった早稲田大学監督時代からの教え子をはじめ、清宮監督から指導を受けていた選手が多く現存するだけに、「成長した姿を見てもらいたい」(LO真壁伸弥主将)と、こちらもモチベーション高くヤマハ発動機にチャレンジしていくことになる。

試合写真

準決勝の東芝戦で激しいタックルを見せるヤマハ発動機FL三村主将。セットプレーなどコンタクトと気持ちでサントリーを上回り初の日本一へ

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成長したところを見せたい」と語るLO真壁主将など清宮監督時代の教え子の多いサントリーにとってもモチベーション高く臨む頂上決戦となる

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シーズン終盤、上昇気流に乗るチームに合わせて調子を上げるCTBサウなどの決定力を生かすのもFW陣の頑張り次第のヤマハ発動機

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セットでプレッシャーをかけたいヤマハ発動機
サントリーはハーフ団のコントロール力が鍵か

今季トップリーグでの対戦は前述の1度しかなかったものの、ある意味、お互いを知り尽くしている同士の対戦となった日本選手権決勝。

まず一番の注目ポイントはセットプレーのすう勢だろう。
もっと言えば、スクラムに絶対的な自信を持つヤマハ発動機が優位に立てるどうか。
「当然、プレッシャーをかけないと。相手に余裕のあるプレーはさせたくない」(清宮監督)
サントリーがシンプルな戦い方で上昇気流に乗れたのは、「FWが9番、10番に良い選択肢を与えられるように」(大久保監督)戦術を組み立てているからであり、卓越したゲームコントロール力を誇るSHフーリー・デュプレア、切れ味鋭いランニングのSOトゥシ・ピシのハーフ団の存在感によるところも大きい。
それだけに、ヤマハ発動機としては鍛え上げてきたセットプレーで優位に立ち、サントリーのハーフ団に自由にプレーさせないようにしたいのは当然だろう。

もっともサントリーも「(ヤマハ発動機には)長谷川慎さんもいらっしゃるので、しっかりセットピースの部分でも成長した部分を見せて勝ちたい」(真壁主将)と、真っ向から受けて立つ構えだ。
「体を当てる部分と気持ちで勝つ」(FL三村勇飛丸主将)というヤマハ発動機ラグビーの根幹を支えるセットプレーで互角に戦えれば、それだけサントリーのアタッキングラグビーの威力が増すのも間違いない。

スクラムでの優位性にもよるが、「(LIXIL CUP 2015ファイナルのパナソニック戦では、相手のSH田中史を)意識しすぎてしまったところがあった。今度は世界でトップのSHが相手なのでポジションとしては負けたくないが、意識しすぎずヤマハのSHとして自分のプレーをするようにコントロールすることがキーワードになってくる」というヤマハ発動機SH矢富勇毅がデュプレアにどう対峙するのか。

また、両チームともに、CTBにマレ・サウ(ヤマハ発動機)、松島幸太朗(サントリー)という日本を代表すると言っていいラインブレイカーが顔を揃えるが、それぞれ対面に立つ中村亮土(サントリー)、宮澤正利(ヤマハ発動機)の2人のハードタックラーがどんなディフェンスを見せるのか。

監督同士をはじめ、多くの興味深い個々のマッチアップでも目の離せない日本選手権は14時キックオフ予定。
ヤマハ発動機にとっては初の日本一、対するサントリーは2年ぶり7度目の日本選手権制覇を目指す戦いとなる。

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SHデュプレアと共にサントリーのキーマンとなるSOピシ。トリッキーな走りでゲインを稼げるかは前8人のセットプレーでの頑張り次第か

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ヤマハ発動機にとっては両チームの先発メンバーで最も小柄ながらハードなプレーを続けるCTB宮澤が対面のサントリー松島を止め切るかもポイント

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「どんな状況でもチームを前に出してくれる」と大久保監督も高く評価するCTB松島はサントリーを2年ぶりの頂点に導けるか

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