マッチリポート
「第52回 日本ラグビーフットボール選手権大会」

ヤマハ発動機ジュビロ 21-9 東芝ブレイブルーパス

【準決勝/2015年2月22日(日) /大阪・近鉄花園ラグビー場】
雨上がりのピッチ、春の強風がゲームを左右しそうな予感の準決勝第一試合は、風上の東芝ブレイブルーパスのキックオフ。
滑り出しからリズムに乗ったアタックを繰り返すヤマハ発動機ジュビロに対し、我慢のディフェンスで対抗する東芝は、セットプレーで活路を見出したい。
アタックの精度で上回るヤマハ発動機は8分、東芝ゴール前でフェイズを重ねた後、左展開からBKの枚数を余らせて左中間ゴール前でタックルを受けながらもトライかと思われたが、TMO判定の結果、ダブルモーションとされ得点ならず。流れに乗れない。
15分までのスクラムでヤマハ発動機のコラプシングを2度誘発させた東芝は落ち着きを取り戻すと、FW周辺でフェイズを重ね突破を図るが攻めきれない。その中で17分、自陣10m付近での東芝のアタックに耐えきれず、反則を犯したヤマハ発動機。東芝SH小川が着実にPGを決め、0-3と東芝が先制。
FB15五郎丸のケアレスミスもあり、徐々にリズムが狂い出すヤマハ発動機は、相手ボールスクラムでも押されだす。これに対し東芝は23分、ヤマハ発動機陣ゴール前でのスクラムという絶好のチャンスを得たが、今度は東芝がコラプシングで自滅してしまう。
25分、流れを手繰り寄せるべく、強引に突破を目論んだヤマハ発動機だったが、逆に自陣30m付近で反則を犯し、東芝に加点を許す(PG成功0-6)。
その後もヤマハ発動機にケアレスミスが続き、流れが東芝に傾くかと思われた32分。数回フェイズを重ねた後の東芝陣ゴール前10m中央でのラックから、SH矢富が持ち出したボールに、アングルチェンジで走り込んだFL6トゥイアリイが中央にトライ(G成功7-6)。粘る東芝もホーンが鳴る直前のヤマハ発動機のゴール前スクラムで意地を見せ、コラプシングを誘発。PGで再逆転し(7-9)、前半を折り返す。

後半風上のヤマハ発動機に対し、東芝FWは粘り強い連続アタックで押し気味の展開。しかし、前半でFB宇薄が、後半開始5分でSO10森田が交替とBKのキーマンが次々と抜けた東芝は、FW戦での勝負とならざるを得ない状況に陥る。
13分、自陣22m付近の攻防を凌いだヤマハ発動機はFB15五郎丸のラインブレイクからタッチ際のLO5クリシュナンに繋ぎ、爆走。クリシュナンはゴール前で潰されるが、ラストパスを受けたフォロアーSO大田尾がトライして再逆転(12-9)。FW周辺でのブレイクダウンで優勢を保ってきた東芝だが、21分にヤマハ発動機にPGを許してしまう(15-9)。
東芝は17分にLO5大野、26分FL6ベイツ、SH小川を入れ替え勝負をかけるが、一般プレーヤーの交替枠を使い切った東芝は、ブレイクダウンでの安定感が落ちたことと相俟って、流れはヤマハ発動機に。
32分には、東芝の反則からFB15五郎丸が35mのPGを難なく決め18-9。37分にも、ハーフライン中央付近でのスクラムで競り勝ったヤマハ発動機に東芝FWは耐えきれず、コラプシングを犯し万事休す。最終スコア21-9でヤマハ発動機が今季対東芝3連勝で決勝進出を決めた。

ゲーム後、「厳しいシーンでトライを獲りきったヤマハ発動機と、獲りきれなかった東芝の差」と振り返った富岡ヘッドコーチ。多くの故障者を抱えた東芝に対し、「ストレングス&コンディショニングコーチ陣の充実で故障者が少なくなった」(清宮監督)ヤマハ発動機。チームとしての総合力で明暗が際立ったゲームとなった。

 

会見リポート
 

ヤマハ発動機ジュビロの清宮監督と三村キャプテン

ヤマハ発動機ジュビロ

○清宮克幸監督

「東芝さんは去年までずっと勝てない相手でしたが、今年は3回勝てたことでチームの成長を感じるし、頼もしく思えました。
冨岡ヘッドコーチとはトップリーグの中では考え方が似ていて、シーズン当初から最後は決勝戦でやろうと話していました。
ゲームの中でのセットプレーにこだわって、お互いが修正してステップアップしていけたのでいいゲームができました。この経験を活かして次のゲームを戦い、チャンピオンを狙いたいと思います」

──チームの成長とは具体的に?

「東芝さんにはフィジカルで負けていては絶対に勝てないのでそこを作ってきましたが、1-2年ではそれはできません。チーム全体の取り組みで、足りないところを作ってきました。まだ伸びしろはあるので、現状に満足せず限界まで引き上げたいです」

──今日の内容は予想していたか?

「何点差で終わるかの予想はしていませんでした。接点のところなど一つ一つ丁寧に戦っていった結果、ノートライに押さえられましたし、ファイトすることで相手が攻めたいタイミングでボールを出させなかったし、タックルは必ずゲインの前ですることを続けられました」

○三村勇飛丸キャプテン

「接点の体を当てる部分で、気持ちで負けていなかったので勝てたと思います。勝っても負けても次で終わりなので、笑って終わりたいです」

──ブレイクダウンでの攻防は?

「前半、2人目がたまに遅れるところがありましたが、仕事の精度をあげてプレーした結果、『行ける』と感じました」

──3試合のブランクがあったが?

「今シーズンは勝ったり負けたりを繰り返してきたが、プレーオフで得られた経験を糧にしてここまで成長できたと思います」

──最初のスクラムで2回ペナルティーを取られたが?

「3番が相手と合っていなかったので考え方を変え、しっかり後ろを使って8人で押すようにしました」

──五郎丸選手のキック処理でミスがあったが?

「これまでのヤマハ発動機は精神的支柱がミスをしたらパニックになりましたが、今日はあの時点でディフェンスで取り返そうという雰囲気があり、そこが今年のチームの強さだと思います」

 

東芝ブレイブルーパスの冨岡ヘッドコーチと森田キャプテン

東芝ブレイブルーパス

○冨岡鉄平ヘッドコーチ

「まず、1年間通して東芝ブレイブルーパスに絶大なる応援と報道をしていただき感謝いたします。
そして今日素晴らしい戦いをしてくれたヤマハ発動機さんに、『おめでとう』と、『決勝戦も頑張ってください』と申し上げます。
今日、しっかりとした試合をして選手権のファイナルへ向け、ここからスタートするつもりで準備してきました。選手は厳しいプレーをして頑張ってくれましたが、勝負を分ける厳しいシーンでヤマハ発動機さんはしっかりスコアを取ってきました。東芝は取り切れませんでした。そこが勝負のあやだったと思います。しかしいいプレーをしてくれた東芝の選手に感謝しています」

──スクラムを含めてFWでもう少しノミネートしたかったのでは?

「スクラムは間違いなく優位に立てると思っていました。そこは誤算でしたし、レフリングに対してもしっかりアジャストしていかなければなりませんでしたが、セットピースのラインアウトではシャットアウトし、東芝としてはよくやってくれたと思います。選手はよくやってくれました」

─勝負を分ける一番のシーンは?

「ゲームは水物ですからこのシーンで、といったことでなく、(ヤマハ発動機が)ファーストトライをしっかり決めたことです。簡単に見えますが、あの緊張状態で一人ひとりが間違いない仕事をしたことです」

──来シーズンに向けて?

「今シーズン初めてヘッドコーチを務めて、チームの方向性や大きな幹を作ろうと1年間走ってきたつもりで、ファイナルに出て優勝するチームとそんなに差はないと思います。しかし大きな違いは、『正確性と責任』。この部分は戦略、戦術が決まってからでは間に合いません。選手だけでなく携わるものとして私の最大の反省点です。
人間力を磨きながら、丁寧に自分と向き合って、来シーズンはそれが出せるようにマネジメントしていきます」

○森田佳寿キャプテン

「過去2戦はヤマハ発動機さんに負けているので、1回戦、2回戦と自分たちのやろうとしているラグビーの理解と自信を深めて、今日はいい状態で臨みました。
そうした中での勝負を分ける局面で、ヤマハ発動機さんは精度が高かったですが、我々はそこで反則やミスを重ねてしまったのがこの結果になったと思います。
タフで素晴らしいゲームをしたヤマハ発動機さんに敬意を表します」

──ヤマハ発動機の一番良かったところは?

「正直にエリアの取り合いの勝負では決して悪かったとは思っていません。ただヤマハ発動機さんは密集でのファイト、そこを1年間フォーカスして鍛えて来たのだと思いますが、そこが一番素晴らしかったです」

「最後に一言、今シーズンさまざまな形で報道していただきありがとうございました。東芝として日本ラグビーを盛り上げるためにこれからも頑張っていきます」