日本代表 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ
2016年総括および2017年に向けた記者会見

「パシフィック・チャレンジ、ARC、スーパーラグビー
3大会それぞれ異なるチームで臨む」

19日、東京都内でジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチが記者会見に臨み、2016年の総括および来たる2017年シーズンに向けた抱負を語った。

まず語られたのは、就任後、日本代表の初のテストマッチとなった「リポビタンDチャレンジカップ2016」アルゼンチン戦(11月5日)および「リポビタンDツアー2016」欧州遠征3試合(対ジョージア、ウェールズ、フィジー)に関する総括。

「昨秋11月のテストマッチシリーズ前の3ヶ月は自分のコーチ人生の中でも大変な時期だった。
2015年のラグビーワールドカップ(RWC)の成功もあって、再び日本代表として日本に戻ってきた時、ラグビーはとても人気のあるスポーツになっていた。日本代表の将来に関する期待もすごく高まっているのを感じた。
RWC2015での成功というのは、8ヶ月あるいはそれ以上の長い期間の強化プログラムを経て、得られたもの。
そして、RWC2015で活躍した日本代表メンバーの半分くらいは、私が指揮を執ることになった昨年の秋の時点では代表からの引退を表明してもいた。
その一方で、日本代表のコーチングスタッフは他のスーパーラグビーチームや企業チームなどでコーチをしており、現実的には私ひとりで日本代表選手を選んでいかないといけない現実もあった。
とても難しい状況だったが、11月のテストマッチでは、正しい方向で成長することができたと思う」

「事前にあまり多くの強化時間が持てない厳しい状況だったが、最初のアルゼンチン戦では、とてもタフな相手に対して、クリエイティブでいいラグビーをすることができた。何より、若い選手たちがこういうタフな相手に対しても自分たちの特徴を生かすプレーができることを体感できたのが大きかった。
次のジョージア戦。ジョージアはホームではとても強いチームだが、アルゼンチン戦での経験を経て、いい内容での勝利を収めることができた。
ウェールズに対してはタイトな経験を経て、さらにいいラグビーをすることができた。ゲームプランがよくなり、選手たちの理解度も上がった。
やはり、アルゼンチン、ジョージアという2試合の厳しいテストマッチを経験したことが、いい内容のパフォーマンスにつながったと思う。
最後のフィジー戦は少々残念だった。テストマッチが続いていく状況では、いかに短い時間の中、メンタル面でしっかりセットアップしていくことが重要になっていくが、そこが難しかった」

与えられた厳しい条件をものともせず、大きな成果も得たと言っていい16年11月のテストマッチシリーズ総括の後、話題は2017年の日本代表の活動方針に移った。

「今後のプログラムについては、日本選手権が終わった後、私だけではなく、ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズやその他の日本代表チームに携わっているコーチ陣でどのように日本代表チームを強化していくべきかを話し合いながら進めていくことになる。
私にとって、このようなかたちでチームを始動できるのは、今回が初めてとなる。
今シーズンは3つの大会がある。そして、それぞれの大会に関しては3つの異なるチームで臨むことになる。
ひとつが「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ」。これはフィジーでの開催。
そして、ARC(アジアラグビーチャンピオンシップ)。この大会にはサンウルブズのメンバーに、大学生など若い選手が加わることになる。
そして、もちろんサンウルブズが参戦するスーパーラグビーがある。
スーパーラグビーはとても難しいコンペティションであり、40人以上の選手をセレクトしている。
その中で問題になるのは、試合に出られない、遠征に行かないノンメンバーをどのように強化していくか。そこに、学生などを加えたグループをつくり、そういった選手たちを将来の日本代表を支える存在になってもらうために、しっかりコーチしていくことも私の責任であり、私自身は3〜5月に関しては、そこの部分を担当することになる。
それによって、自分自身、多くの日本のトッププレーヤーの現状を把握できることになり、おそらく6月のテストマッチシリーズの前に、計70人ほどの選手たちを直に見ることになる。
そうした強化が6月のテストマッチの準備にも、11月のテストマッチの準備にもつながり、さらに2019年にもつながっていくと考えている」

以下は記者との一問一答。

——RWC2015での成功の後、日本代表に対する大きな期待が寄せられている状況でのチャレンジ。どのように期待に応えていくのか。

「RWC2015からは多くの時間が経過し、過去のものとして考えないといけない。その代わりに私が見ているのは未来。
その未来に向かって、しっかりとしたプランをマネージングスタッフとともに作っている。
そのひとつの柱となるのは、やはりスーパーラグビー。その存在が日本の選手たちの成長に大きく寄与することになる」

——11月の欧州遠征が終わった後、どのような活動をしていたのか。その間、日本のラグビーシーンに関しては、どのくらい見て、どのように把握し、また、特に印象に残って、日本代表に呼びたいと思ったような選手はいたか。

「欧州遠征後はロンドンでワールドラグビーのミーティングに出席。ラグビーという競技をいかに発展させていくかというテーマのワークショップなどもあり、刺激的な経験となった。ラグビーコーチになってからはニュージーランドをベースにして活動してきた自分自身にとって、新鮮な感覚を持ちながら参加できる内容だった。
クリスマス休暇をニュージーランドで家族と過ごした後に日本に戻り、トップリーグや大学の試合を視察した。
セレクションという観点では、日本の場合、大多数の選手がアマチュアであるため、選手との契約に時間がかかるという現実がある。
その事実は、逆に言うならば、我々にとっては選手をじっくり見ることができるというメリットもある。
例えば、サントリーサンゴリアスの選手たちに関しては、ジャパンラグビー トップリーグで優勝に至る、そのプロセスの中でじっくり見ることができた。
トップレベルでの戦いの中で、高いパフォーマンスを維持し続けることのできる若い選手の存在も確認することができた」

——日本の国内大会がすでに秋からスタートしている一方、スーパーラグビーはこれからシーズンが始まる。日本代表の選考に関して、サンウルブズと交渉したりしているのか。

「ひとつのチャンネルから選べる方がシンプルだが、いまの日本の現状としてはトップリーグのチームだったり、大学のチームだったり、あるいはさらにスーパーラグビーのチームとも契約している選手からも日本代表に選ぶことになり、難しい面があるのは確か。
そういう難しい状況でも他のコーチ陣とよくコミュニケーションをとりながら、しっかり選手の能力を見極める努力をしている」

——昨年の11月のテストマッチでは、数多く初キャップを獲得した選手がいたが、今年も昨年同様、幅広く選手選考をしていくのか。今回、サンウルブズと契約していない2015年組、特にリーチ(マイケル)や五郎丸(歩)についてどのように考えているのか。

「サンウルブズに関しては、FBのフィルヨーン(リアン)以外は外国人選手も日本代表資格がある選手か、2019年までに日本代表資格を獲得できる選手ばかり。これは日本代表を強化するためにつくった基準でもある。
さらに、そこに若い選手や、逆に経験のある選手を加えて、スーパーラグビーという厳しいコンペティションを戦っていくというのが、サンウルブズの選手選考に関する基本的な考えとなる。
ひとつのスコッドとして考えていきたいというのが根底にはある。
もちろん、選手として異なる環境に身を置き、ハイレベルな戦いを経験しながら、成長するという面は必ずあるし、そういう挑戦を続ける選手のことはリスペクトしている。
五郎丸さんやマイケルはまさにそういう素晴らしいお手本だ。
その一方で、我々のプランの中にはARCがありスーパーラグビーもある。そういう我々が選手たちを直接見ることのできる環境で選手を育てていくことも、チームの成長につながると考えている」

——若い選手たちの育成方法は? どんな点で成長してほしいか。

「スキル面はもちろん、フィジカル面でもしっかりと成長してほしい。
昨年に関しては、サンウルブズが遠征に出た時にはノンメンバー(遠征に参加しない選手)は国内で各所属チームに戻っていた。今年はそこを変えて、たとえばサンウルブズが南アフリカに遠征中、残った選手は東京で一緒に過ごし、月〜木曜は一緒にトレーニングをする、もちろん、そこには自分や他のコーチも加わり、常にひとつのスコッドとしての一体感を持ちながら成長していくプログラムを考えている」

——今年の秋にも強豪国とのテストマッチが予定されている。2019年に向けて、今年はどのような位置付けにある年だと考えているのか。

「秋にも、少なくとも2つ(オーストラリア、フランス)の強い相手とのテストマッチが予定されている。もちろん、強い相手と戦うことはチームのレベルアップにつながる。
まず大事なのは、そういう強いチームと戦うツアーにどのような準備をして臨めるかということ。
ひとつの現実として、選手たちの中には引退が近い選手がいるということ。
その現実を見た時に、彼らの次の世代の選手たちを育てていかなくてはいけないのは明らか。その若い選手たちが今のレベルのままではいけない。
例えば、FWを例に挙げるなら、堀江さん(翔太)、畠山さん(健介)といった選手の状態を見極めながらも次の世代の選手を育てていく。
堀江さんの場合、8月から1月までトップリーグでプレーして、2月にはスーパーラグビーが始まり、6月の日本代表のテストマッチの後、7月にスーパーラグビーは終わる。11月にもテストマッチはある。
単純に言って、それは不可能なスケジュールだと思う。日本のトッププレーヤーはそうした厳しいサイクルでのプレーを余儀なくされている。
この現状は日本のトッププレーヤーにとってベストな状況ではないという点をしっかり考えていく必要がある」

text by Kenji Demura