公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第71回が2月16日、港区のみなとパーク芝浦・男女平等参画センターリーブラホールで開催された。

 

今回は「ラグビー観戦講座 〜スーパーラグビー編〜」と題し、講師に日本チーム・サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパンエスアールCEO(最高経営責任者)の渡瀬裕司氏、ゲストにサンウルブズ戦のスタジアムDJを担当するKaopangさんを招き、司会はラグビージャーナリスト・村上晃一さんが務めた。

 

■スーパーラグビーは華やかな雰囲気

Kaopangさんがラグビーに関わるようになったのは、昨年にサンウルブズのスタジアムDJを担当してから。最初はルールもほぼわからず、ラグビーそのものも見たこともない状態だったという。それでも「お客さんの年齢層は幅広い」「室内と違い屋外だと音が抜けてしまう」とスタジアムの様子を想像することから始め、経験を積むにつれて手応えをつかんでいった。

 

 

「初勝利を挙げたジャガーズ戦(4月23日)が最初の担当試合で、勝利を経験したことですっかりラグビーの虜になりました。スポーツの現場も初めてでしたが、こういうエンターテインメントは楽しめるものなんだなと」

 

ラグビーは静かに見るスポーツという印象があるが、KaopangさんのようなDJが入ったり、試合終了後に選手が気軽に記念撮影に応じたりと、スーパーラグビーに限ってはその印象は異なる。運営側の責任者である渡瀬氏も「これが本当のプロフェッショナルであり、興行というところ。すごく華やかな雰囲気で、われわれにとっても新しい発見です」と話した。

 

■過酷な遠征は「一つの実験」

スーパーラグビー参戦2年目のサンウルブズ。今季はニュージーランドカンファレンスに所属し、オールブラックスのメンバーを擁するチームと数多く戦うことになる。

 

渡瀬氏は4~5月のクルセイダーズ(4月14日)、ハイランダーズ(22日)、チーフス(29日)のニュージーランド勢と敵地で戦い、その後アルゼンチンでジャガーズと戦う(5月7日)という日程を「厳しい」と語る一方、過酷な遠征に大きな意味を見いだそうとしていた。

 

 

「これは誰も経験したことがない。ニュージーランドとのチームとやるだけでも大変なのに3連戦を戦って、さらにすごい勢いでアルゼンチンに行って試合をしなければならない。組織としてその4週間にどれだけチャレンジできるのか、われわれの一つの実験みたいなところもありますね」

 

また現在のサンウルブズは51人という大きなスコッドになっているが、「シーズンの間にARC(アジアラグビーチャンピオンシップ)がありますし、どうやって選手を消耗させずにコンディションを整えながら交代していけるか。それに対応するには必然的に選手の数が増えてしまう」と説明した。

 

■アジアが今後のターゲット

スーパーラグビーには大都市に本拠地を置き、財政がしっかりしたチームもあれば、地方都市が本拠地ゆえ知恵を絞りながら資金を集めるチームも存在する。比較的歴史の浅いサンウルブズの場合は、プロスポーツとしていかにスポンサーやファンを確立させていくのかを課題としている。

 

渡瀬氏はリーグを運営するSANZAR(サンザー)とのミーティングで「彼らがわれわれに期待しているのは、ラグビーをいかに普及してくれるのか」だと感じたそう。

 

「世界の中で今後アジアが一つのターゲットになるので、サンウルブズにはラグビーを普及するという使命もあるのかなと感じました」

 

チーム強化はもちろん、ビジネス面や普及面でもやることはたくさんありそうだ。

 

■選手はもっとメディアに露出すべき?

ハーフタイムを挟んだのち、来場したファンからの質疑応答が行われた。以下はその要旨。

 

――Kaopangさんはラグビーの試合に向けて、選曲や盛り上げ方はどのようなところに気を遣っていますか?

 

Kaopang 年齢層が幅広いので、みんなが知っている曲を混ぜるようにしています。マイケル・ジャクソンだったり、ビヨンセだったりとか。基本は“お祭り”だからと言われているので、雰囲気は音楽フェスに似ていますね。

 

――日本でのサンウルブズ戦はもっと増えませんか?

 

渡瀬 今年はホームの試合のうち4試合が秩父宮ラグビー場、3試合を準本拠地のシンガポールで行います。興行的にはわれわれも日本でやったほうがメリットはありますが、ワールドラグビーとSANZARはアジアでのラグビーの普及を考えていますから、これをゼロにするのはなかなか難しいと感じています。

 

――今年のサンウルブズの注目選手、好きな選手は?

 

Kaopang フルバックの笹倉康誉選手、松島幸太朗選手が好きですが、木津武士選手もかっこいい。堀江翔太選手は頼もしいです。レジェンドの“均ちゃん”(大野均選手)や、キャプテンのエドワード・カーク選手も好きですね。

 

渡瀬 なかなか個人名を出すのは難しいですが……。10番のヘイデン・クリップスという東京ガスから来てもらった選手は、背は高くないですけど非常にクレバーでパスやキックもうまいので楽しみです。

 

――ライト層のファンを獲得するには?

 

渡瀬 試合前のイベントやパフォーマンス、こういったことを含めて会場に来ることが楽しいと思っていただき、「楽しいな」と思ったところでラグビーに触れていただく。その流れでいくつか企画していきます。

 

Kaopang もっとメディアに出ても良いんじゃないかなと思いました。筋肉がすごい選手もたくさんいますし、ファッション誌に出たら喜ぶ女子は多いと思いますよ。

 

■専用練習場とスタジアムは普及に不可欠

――専用練習場やクラブハウスの計画はありますか?

 

渡瀬 これはわれわれの課題と思って考えています。専用の練習場、あとはホームスタジアムの存在がラグビーの普及には必要ですね。五郎丸歩選手が所属するRCトゥーロン(フランストップ14)のスタジアムはすごいなと思います。昨年12月にはJリーグのガンバ大阪のスタジアム(市立吹田サッカースタジアム)を見せていただき、これはやはりグラウンドがないとダメだなと。日本は土地が限られていて難しい部分もありますが、あきらめずに動いていきたいと思います。

 

――今後サンウルブズ以外の日本チームが参戦する可能性は?

 

渡瀬 あると思います。先日オーストラリア協会の人にも「個人的な意見で良いから」と同様の質問を聞かれ、外国からも関心を持たれているのを感じました。個人的にはスーパーラグビーのチームが増えることはイコール日本代表が強くなる、それが日本のラグビーファンをより多くすることに間違いなくドライブしていくと思います。ただ、問題はそのクオリティーですね。プレー面もですし、運営面も。

 

――アウェーの試合でパブリックビューイングを開催する予定は?

 

渡瀬 今年は企画しております。特に時差が少ないニュージーランドでの試合ですね。クルセイダーズ戦は金曜なので難しいですが、秩父宮は使えなくても何らかの形で。ひょっとするとスポーツバーを貸しきってやることも考えられます。居残りの選手が来られたら良いなと思いますね。

 

Kaopang その時はぜひDJもよろしくお願いします。

 

――ずばり今年は何勝を狙いますか? 前回、ティアティアヘッドコーチは明言しませんでしたが。

 

渡瀬 「やるからには全部勝ちたい」のが彼の本音だと思います。ただ運営する側からすると、今後どんな形で上昇していくのかを考えたとき、昨年の1勝からそれより3つ4つ多く勝てると良いなと考えています。

 

■あなたにとってラグビーとは?

Kaopang 私にとっては「モチベーション」。サンウルブズがきっかけでスタジアムDJをやらせていただき、普段はあんなに多くの人を前にDJをすることがないので、すごく刺激を受けてモチベーションにつながったという意味です。同時に、選手たちが2019年に向けてみんなで一致団結して向かっていく姿を見て、「私もまだまだ頑張りたいな、一緒に成長したいな」という思いも含まれています。

 

渡瀬 「自分のバックボーンのすべて」です。大学時代までラグビーをやっていたときは一生懸命準備して、プランを立てて、試合になるととにかくガッとやる。終わったら反省して、次のゲームに向かい、最終的に大きな達成感を得る。そういうサイクルが今の仕事でも生かされていて、人生の基盤ができたと思います。恩返しじゃないですけど、ラグビーの仕事で少しでも日本のためにできたらと思っている次第です。