Japan Way体現する
NZ生まれスキッパー
Japan Way。すなわち日本らしさ。
正確に定義するのは難しいところもあるが、現在、日本代表を率いるニュージーランド生まれのスキッパー(キャプテン)が、“その資質”を持ち合わせていることは、彼と接したことのある人の多く感じているはずだ。
「日本のスタイルが世界で一番優れている」
元々、15歳で日本にやってくる前にクライストチャーチで知り合った日本人留学生との交流の中で自然と日本的なものの素晴らしさに引きつけられたことが日本でラグビーをするきっかけになっただけに、リーチ マイケルのJapan Wayは筋金入りと言っていい。
「高校時代には毎日3時間猛練習をして、大学では4〜5時間に毎日の練習時間が増えた。そんな生活に7年間も耐え続けることは普通のニュージーランド人には不可能だ」
自らも、日本代表にほぼ毎日3部練の猛練習を課してきたエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは、リーチキャプテンがJapan Wayを標榜する世界一のハードワーキング集団を引っ張る存在として相応しい人間であることを、そんなふうに説明する。
もちろん、当たり前だが猛練習に耐えられるだけが日本人らしさではない。
細やかな気配りができること。
改めて書くと、やや気恥ずかしい感じもするが、これも一般的に言われる日本人らしさの範疇にある性質ではあるだろう。
個人的にはリーチが日本代表を率いるのに相応しい人物であることを再認識したのが、この夏のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)時のことだった。
4月6日から宮崎を拠点に前述のような猛練習を続けてきた日本代表だが、リーチキャプテンも含めたスーパーラグビー組が参加したのはこのPNCからだった。
7月18日のサンノゼ(米国西部)での対カナダ戦を皮切りに、同24日にサクラメント(同上)、同29日にはカナダ東部のトロントに移動して対フィジー戦、そしてPNC最終戦のトンガ戦(8月3日、バーナビー=カナダ西部)。
多くの移動を要する厳しいスケジュールにも関わらず、いつも通りの激しい練習が続けられたが、その中で100%を出し切っていないようなところがあると感じたシニアメンバーからの厳しい言葉が選手たち自身に向けられる場面があった。
もちろん、その厳しい言葉は「ワールドカップで勝つため」に必要だからこそ投げかけられたものだった。
その厳しい言葉を受けて、リーチキャプテンはその場でチームみんなに意見を求め、反論がなかったのを確認した上、さらなるハードワークをしていくことを全員に約束させたのだ。
とにかく人の意見をよく聞くこともリーチキャプテンが持つ日本人らしさだろう。
そんなふうにJapan Wayまっしぐらのリーチキャプテンだが、ラグビーをプレーする時は実は自分が日本人だとは思っていない。
ラグビーをプレーする時の彼はあくまでも「ニュージーランド人」なのだ。
「高校や大学の時は半分は日本人で半分はニュージーランド人だと思っていたような気がする。でも、自分がニュージーランドで生まれたのは事実だし、ラグビーではニュージーランドは世界一の国。『いかにタフであるか。いかにファイティングスピリットを持って戦えるか』を誇りにしてもいる。自分もそうありたいと思っている。もっと言えば、『自分は自分のままでいたい』ということ。ニュージーランド人だと思っている割には、普段のニュージーランド人ってどんな感じだったか忘れた部分もある」
一般的に考えて、海外出身の選手が日本代表のキャプテンを務めることは並大抵のことではないことのような気もするが、リーチにとっては「難しいことではない」とも。
「なぜなら、自分はずっと日本人と一緒にラグビーをやってきて、日本人がどう考えて、どう感じるかわかっているから」。
すでにU20日本代表時代にキャプテンを務めていた経験も生きているのだろう。
2008年にウェールズでジュニアワールドチャンピオンシップを戦ったチームのことをいまだに「最高のチームだった」と感じていて、「その最高のチームのキャプテンをできた経験が生きている」というのだ。
そんなふうに、日本代表のキャプテンになるためのラグビー人生を歩んできたようなリーチだが、14年春にジョーンズHCからキャプテン就任の打診を受けた時には即答はできなかった。
ジョーンズHCが求めたのは「言葉ではなくプレーで見せること」であり、すでにスーパーラグビーのチーフスでの実績から言っても日本のベストプレーヤーとして試合に出続けられるリーチがキャプテンに適任なのは、「日本人らしさ」を持つ点も含めて明らかだったが、彼自身が考えたのはそれが本当にチームのため、他の仲間たちのためになるかどうかということだった。
リーチ自身から相談を受けた前キャプテンの廣瀬俊朗はその決定を「次のキャプテンがリーチだったからこそ、受け入れられた」と言う。
リーチだけに、前任者の気持ちを真っ先に考えたことは想像に難くないし、廣瀬の後押しがあったからキャプテンになることを引き受けたのだ。
リーダーには「あいつのためなら」と思わせる資質があった方がいいことには異論がないだろうが、リーチキャプテンは、間違いなくそういうタイプの人間だ。
「日本人のチームでキャプテンを務めるのはそう難しいことではない。みんなが協力してくれるし、自分が気をつけるのは自分がいいプレーといい判断をしていくこと」
15歳で冬は雪深い札幌に来た時には「179㎝しかなかったし、痩せていた」というリーチ。
「日本に来ていなければ、今のようなプレーはできるようになっていなかった。高校(札幌山の手高)、大学(東海大学)、そして東芝と日本風のハードトレーニングをしてきたからこそ、今の自分がある」
南アフリカに対する歴史的勝利を皮切りに歴史を塗り替えるチームを引っ張るキャプテンは、自分を成長させてくれた日本への恩返しの気持ちを込めて、チーム一激しくプレーし続けるのだ。
text by Kenji Demura
RWC2015第2戦のスコットランド戦でも前に出るプレーでチームを牽引したリーチ主将
photo by Kenji Demura