公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第39回が1月28日、東京都・港区スポーツセンター 会議室で開催され、日本スポーツボランティアネットワーク理事の宇佐美彰朗氏、東正樹氏をゲストに迎え、『スポーツイベントに新しいバリューを与える「スポーツ・ボランティア」』をテーマに講演が行われた。
近年、スポーツ活動においては従来の「する」「見る」に加え、「支える」という面が大きな役割を果たすようになってきた。その「支える」スポーツの中で必要不可欠と言えるものが、スポーツボランティアだ。ただ、ボランティアと言ってもなんとなくイメージはできるが、具体的なものまでは実際に経験した人ではないと分からない部分も多い。そこで今回のフォーラムではスポーツイベントにおけるスポーツボランティアの役割や活動の意義など、宇佐美氏、東氏がそれぞれ別の視点・立場から語った。
■ロンドンオリンピックはスポーツボランティアとしても成功
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宇佐美彰朗氏、東正樹氏
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宇佐美氏は1968年メキシコ、1972年ミュンヘン、1976年モントリオールの3大会連続でオリンピックマラソンに出場したランナー。その経験や観点をもとに、09年東京マラソン、12年ロンドンオリンピックにおける実例から、まずはスポーツボランティアとは何か、その定義や活動分類などを説明した。
ロンドンオリンピックのボランティア人数は、なんと約7万人が参加した。しかも24万人もの応募があり、そこから書類選考や面接をふまえた上で7万人に絞ったという狭き門だった。また、オリンピック組織委員会とは別にロンドン市が独自に8000人のボランティアを採用し、市内の主要箇所で活動したという。
「ロンドンオリンピックはスポーツボランティアとしても成功した大会でした。6年後の東京も一つの指標となるでしょう」と宇佐美氏。また、ロンドンオリンピック組織委員会のセバスチャン・コー会長がボランティアに対して言った「ボランティアこそオリンピックの主役」「ボランティアはオリンピックにとって血であるという。そしてボランティアはそのユニフォームをプライドとともに着てほしい」というメッセージにも、深い感銘を受けたと話した。
「ロンドンでは、ボランティアをボランティアと呼ばず、ゲームを一緒に作る“ゲームズメーカー”と名付けた。そしてコー会長のメッセージがすごかった。さすがスポーツ先進国だと思いましたね」
■市民のためのイベントに
一方の日本ではどうだろうか?
「各年代の男女にアンケートをとった結果がありまして、ボランティア実施率は7.7%しかありませんでした。どうして伸びないのか? 日本でのスポーツボランティアの捉え方がまだ浸透していないのかなと思います」
実際、何万人規模のメガイベントにはボランティアの応募がたくさん集まるものの、数百人規模のイベントだとなかなか手が上がらないのが現状だという。
「メガイベントだからボランティアをやる、というだけで終わってほしくない。その後の継続参加をどうするか、今後工夫していく必要があります」
ただその一方で、データによるとボランティア希望率は実施率の倍の数字が出ている。これは日本でもスポーツボランティアへの関心が高まっている証拠であり、今後この潜在している“希望層”をそのまま“実施層”へとつなげていきたいところだろう。
「市民が自ら運営に関わることから始めないといけないと思います。そう簡単ではありませんが、市民が主催者といっしょになってイベントを作り上げること。サッカーの各地域での盛り上がりはこの例の1つだと思います。各スポーツが市民との関わりを強めていき、市民が参加したら、いやがうえにもイベントが盛り上がることは東京マラソンでみなさん経験済みです。そのイベントは市民のためのイベントになる。スポーツボランティアとはそういうものです。2019年のラグビーワールドカップでもそうなるように期待しています」
宇佐美氏は最後にこのようにまとめ、東氏へとバトンタッチした。
■良いボランティアリーダーになるためには?
東氏は日本スポーツボランティアネットワークの講師としても活動している。その立場から、ここでも実際にリーダー養成で行っている方法をフォーラム参加者に実践してもらいながら講演をスタートさせた。例えば、近くの人と握手してもらい何人と握手できたか?
「ダブルハンドで、微笑みながら目を合わせる、そしてひと声かける、これがボランティアのはじめの一歩です」
ボランティアはリーダーを中心にチームで活動するもの。それだけに「人間関係をどうしたらスムーズに築けるか。空気感を打ち解くにはどうするか」が重要となってくる。
「いい空気、疎通感というのは人間関係をものすごく加速してくれる。そのような環境を作ることがボランティアにとって大事であり、一番のポイントです」
そのためには“笑いながらやることが第一歩”と東氏は説明。実際に東氏がフォーラム参加者といっしょにやった体操や記憶力のテストも、自身の軽妙な語り口もあいまって笑い声が絶えない時間となった。
「コミュニケーションを取れると、チームワークも強くなる。一般ボランティアにとってはリーダーの良し悪しが運命の分かれ道。今回フォーラムに参加したみなさんには、良いボランティアリーダーになってほしいと思います」
東氏はそう呼びかけ、将来的にこのフォーラム参加者から“良いリーダー”が誕生することを期待したところで、フォーラム第1部は終了となった。
■東京オリンピックでボランティアに選ばれるには?
休憩を挟んだ後、第2部ではフォーラム参加者の質問に宇佐美氏、東氏が答えた。質疑応答の内容は以下の通り。
──まず、ボランティアに参加するにはどうすればいいのか分かりません、という質問です。
東氏「パソコンで『スポーツボランティア』と検索すると、『日本スポーツボランティアネットワーク』がでてきます。私どもは、会員であるスポーツボランティア団体の情報を掲載していますので、自分でこれならできそうだなというものに問合せをしてください。私どもは主催団体がしっかりしているところしかご案内しませんのでご安心ください。」
──2019年ラグビーワールドカップや2020年東京オリンピックにボランティアで参加したいという人がたくさんいると思います。この5年、6年でどうすればこういった大会のボランティアに選ばれる人になれるのでしょうか?
宇佐美氏「まだ東京オリンピック・パラリンピックにおいては、組織委員会ができたばかりですので、ボランティア募集の道筋はまだ協議されていません。
これまでの経験をもとにお話ししますと、ボランティアは人数だけ揃っていても仕方ないのです。スポーツができます、時間があります、英語ができますという方が集まっても機能しません。スポーツボランティアの本質を理解し、知識や技術がある方。もちろんやる気があり、スポーツボランティアを楽しく長く続けられる方が求められると考えています。
何が必要なのかを伝えるために、スポーツボランティア研修会を開催しています。一般の方を対象に関心のある方に学ぶ機会として提供しているのでが、スポーツボランティア研修会です。そこで、スポーツボランティアの基本的なところを身につけてもらいます。そして、その中から志のある方がスポーツボランティアリーダー養成研修会に進みます。これがオリンピック規模となると何千人のリーダーが必要となる。そうすると、今度はリーダーを取りまとめる上級リーダーが必要になってきます。さらに、とりまとめ役として、コーディネーターという存在が必要となります。日本スポーツボランティアネットワークは、市民が望む形で自発的に学び、活動する階層を設けることによって円滑な運営を日本スポーツボランティアネットワークで行っています。」
■競技の知識は必要ない、でも語学力は有利
──上級リーダーやコーディネーターにはどうすればなれるのでしょうか?
東氏「特にコーディネーターさんによりますと、いろんな専門的な知識や、イベントとしての総合的なことまで関わってきます。例えばオリンピックで言えば東京都との関係だとか、組織委員会との関係だとか、文科省との関係だとか、ある程度把握できるような力がないと困る。ただこれから6年先のことを考えると、いろんな種目に関わって経験をつんでいくこと。おそらく今までの経歴書を出すと思うんです。そこにしっかりと書ける、こんなことをやってきましたという人の方が、当然ボランティアをリストアップして実際に活動していく場合には断然有利だと思います。今から少しずつ準備しておかれるといいと思います。しかし、そうですね、オリンピックはあと6年後ですけど、今ここに80歳以上の方はいらっしゃいますか? 80歳以上だとほぼ難しいかなと。それ以外ならばいろんな仕事がありますので、どのような活動ができるか、切符のもぎりや座席案内とか道案内とか非常時誘導だとか、そういうことも含めていろんな経験を積んでいる方がいいかなと。これはやっていればやっているほどチャンスは広がると思います。ぜひ80歳以下の方はおススメいたしますので頑張ってみてください」
──関連した質問で、一般ボランティアに競技の知識はどれくらい必要でしょうか?という質問です。
宇佐美氏「イベントのボランティアには、審判や医療などの専門ボランティアと、一般市民が参加できる一般ボランティアがありますので、専門的な競技経験がなくてもできると考えてください。一般ボランティアの活動は、その場で手を挙げて集まってくれた方ができるような活動が中心です。」
──それに関連して語学のことなんですが、通訳じゃない方で語学はどれくらい有利になるのか、という質問です。
宇佐美氏「語学を含む活動条件は、主催者の定めとなりますので一概に言えません。通訳に限らず、ある一定の取りまとめをする方であれば、全ての方とコミュニケーションをとることが必要となります。当然、語学を壁と感じることのないレベルとなるでしょう。語学が壁となるのであれば、活動範囲に制限が生まれるかも知れません。色々な方とコミュニケーションを図る一つの手段として、前向き考えるとよいのではないのでしょうか。」
──これまでのイベントで何語が足りなかったとか、そういうのはありますか?
東氏「4年前に三重県で新体操の世界選手権を開催し、役員として2週間関わりました。新体操は、共産圏・旧共産圏が圧倒的に多いので、ロシア語やブルガリア語などを使う方もいました。各国に対応する専門の語学ボランティアが活動していましたが、ほとんどは英語でコミュニケーションを図っていました。ただ、ロシア語のメディアの人は、都合が悪くなるとロシア語でしゃべり、うまくできてるなぁという経験をしました。
ラグビーワールドカップですと、特殊な言葉の国はあるのでしょうか?(参加者から『ロシア』の声)やっぱりロシアですか(笑)」
■ボランティアへの報酬の実態
──視点は変わりますが、クオリティの高いボランティアの育て方の注意はありますか? ボランティアになっただけでえらくなった気になってしまう人がいますが、その方の注意はどうしたいいですか?という質問です。
宇佐美氏「ボランティアに、そのイベントや属するスポーツボランティア団体に愛着を持ってもらうことだと思います。双方の意見に耳を傾けることにより、お互いが求めることの理解につながるのではないでしょうか。また、ボランティアへの注意の仕方は、リーダーからと主催者からの二つの方法があると思います。
ボランティアの仲間づくりについての事例です。ボランティアはすぐ仲間作りができる反面、継続的な活動となると、新しいボランティアがボランティアの輪に入れなくなることがありました。本人たちは悪気ないのですが、仲間が集まるとどうしても新しい人が入る雰囲気を作れず、自分たちが楽しむだけの環境となっているのです。これには主催者が意図的に活動場所を変えることや、講習会などでボランティアリーダーに事前に好循環を促すなどの対応方法を伝えているところです」
──関連して、困ったボランティアの事例を教えてください、という質問です。
宇佐美氏「リーダーが、過去とまったく同じやり方を押し通してしまうことです。例えば、給水係では、作業内容はほぼ変わらないのですが、昨年はこうだったから、と決めつけることなく、その環境に合った柔軟な方法を見出してほしいとお願いしています」
──ボランティアの支払いはどういうものなんでしょうか?という質問です。ボランティアとはいえ、交通費だったり一部有償ボランティアとかいろいろあると思いますが、実際のところはどうなんでしょうか?
東氏「ボランティアは、無償の活動です。報酬と目的とした活動はボランティアではありません。活動によっては、交通費や食事代が手当されることがありますが、その内容によって主催者の良し悪しではありません。但し、ボランティアから人気のあるボランティアウェアが支給されると、モチベーションがあがるのは事実です。モノや思い出として残るものがあると、イベントのイメージ向上やボランティア活動のリピーターとなるでしょう」
──ウェアというのはだいたいどんなボランティアでももらえるものなのでしょうか?
東氏「これは主催団体の予算により大きく異なります。もし選手が着たジャージをもらえるならば、全国から人が集まってしまいます。ウェアを支給された場合、用意してくれたお揃いのユニフォームを身にまとって活動しようとボランティアに伝えてあります」
■スポーツボランティアで得られる感動
──開催期間中すべてに参加できないとボランティアとして応募してはいけないのでしょうか?という質問です。
宇佐美氏「私は、自身の生活や仕事に影響を及ぼしてまで行う活動は、望ましくないと思います。できる範囲で活動することがボランティアだからです。主催者は、募集人数や期間などを考慮して、募集を行ってほしいと思います」
──スポーツボランティアをやって得られるものは何でしょうか?という質問です。私自身、ボランティアの経験はそんなにないのですが、ファンとしてうれしかったのは2002年サッカーワールドカップのロシアとの試合だったと思いますが、横浜国際スタジアムで日本が勝ったときに、帰りの出口にボランティアの方がたくさん並んでいて、みんなでハイタッチをしながらファンが帰っていく。今考えても鳥肌が立つようなあの瞬間にいれたボランティアの方も良かったし、あの瞬間に何十人のボランティアとハイタッチできたサポーターもそうですし、たぶんスポーツはテレビで見た方が分かりやすいと思いますが、スタジアム観戦ってこうなんだなというすごい経験がありました。同じようにスポーツボランティアの立場として、ここがいいぞ、こんな経験はまずできないぞ、ということを教えていただければと思います」
宇佐美氏「私は、視覚障害者と伴走するボランティア活動をしています。10マイルを約2時間かかる選手と2、3年ご一緒していますが、毎回一緒にゴールする瞬間は感動します。自分自身が走ってゴールしてもあそこまで感情は高ぶらない。人と一緒に活動したからこその感動だと思います。この違いがアルバイトとボランティアだと感じています。
スポーツは、先ほどもご紹介したように『プレーする』『観戦する』そして『支える』という分野から成り立ちます。スポーツというものはモノではなく、自身が汗をかく、眼で見る、心で感じることです」
──最後に、ラグビー協会の方へ。ラグビーワールドカップでのボランティア採用のロードマップがあれば教えてください、という質問です。
ラグビー協会「具体的にはまだスケジューリングはされておりません。これまでのケースですと、2年ほど前くらいからご紹介して、1年ぐらい前からさまざまなトレーニングなどをしていく形になりますので、2019年ワールドカップですと、2017年ぐらいをメドにおそらく募集を開始するような形になると思います。そちらの方はこれから組織委員会の中で詳細を決めていくことになると思います」
あなたにとってラグビーとは?
宇佐美氏「『オールフォアワン、ワンフォアオール』ですね。あれは最高の、どの部分でも通用するものなんじゃないかなと思います。素晴らしいチームワーク作りの土台ですね。これの一言だと思います。個人競技では味わえないスパイスですね」
東氏「日本のラグビーを取りまとめる方々は、ラグビーの愛好家をサポーターではなく、もっと主体的な『あなたはラグビーを盛り上げるスタッフ』『JAPANを支えてくれるスタッフ』という想いで関わることができれば、もっとラグビー愛好家が熱くなり、ファンが増えていくのではないかと思います。2019年のワールドカップが楽しみです。
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