日本ラグビーフットボール協会に所属する、松尾勝博リソースコーチが、男子7人制ラオス代表のコーチとして派遣(1月24日-2月13日)されました。今回の松尾コーチ派遣は、ラオス協会による要請から、IRB(国際ラグビーボード)が日本ラグビーフットボール協会に打診したものです。その依頼を受け、日本ラグビーフットボール協会は、アジアで初となる、2019年ラグビーワールドカップの日本大会成功に向けた、アジアラグビーの底上げ、そしてアジアの国同士の協力体制構築を見据えた活動の一環として、今回の派遣が実現しました。

7人制ラオス代表は、2月11-12日にタイ・バンコクで開催されたHSBCアジアセブンズ「タイセブンズ」に初参加。松尾リソースコーチは、大会前から7人制ラオス代表の練習に合流しました。過密な日程のなかで、言葉の壁を乗り越え、代表チームの底上げのため、短期間でチームを1つにして、大会に臨みました。そして、見事ボウルトーナメントで初優勝という快挙を達成しました。

今回、松尾勝博リソースコーチの貴重な経験を、7人制ラオス代表コーチ奮闘日記としてご紹介させていただきます。

こんにちは。リソースコーチの松尾勝博です。私の今回の大きな役割は、初めて参加する国際大会で、7人制ラオス代表が結果を出すこと、ラオスでのラグビー普及を根付かせることでした。HSBCタイセブンズの18日前(実質練習9日間)にラオスに渡り、まずはラオスの人たちと接し、相手を理解し積極的にコミュニケーションに取り組むようにしました。言葉の壁、ラグビーを取り巻く環境の違い等、自分自身、試行錯誤しながら、ラオスのラグビー発展を優先に考え、ラオスでの準備をスタートさせました。2つしかないクラブチームの練習や10人制ラグビーの試合を見て、数える程の練習しかできないなかで、自分がラオスに来た意義を考えて、「ラオスのラグビーに関わる全ての人の心を動かす事」を最終の目標としました。

7人制ラオス代表コーチ奮闘日記   7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
真剣なまなざしで7人制ラオス代表選手たちを指導する松尾コーチ 松尾流コミュニケーションで言葉の壁を乗り越えました

最初のチームミーティングにおいて、代表の重みや責任、クラブチームと代表の違い(メンバーが殆どクラブと同じである為)、チームの規律などについて話しました。そして、初の国際大会:タイセブンズに挑戦する意義、最低2勝、チャレンジ3勝という目標を提示しました。英語でプレゼンテーションをし、英語をラオス語に通訳してもらいながらのプレゼンテーションでした。

やはり言葉の壁はありました。選手のひとりが、一定の英語を理解し、2-3人がほんの少しだけ英語を理解する、その他は全滅状態でした。また、ラグビー用語が全てラオス語と言うのも、指導する上でネックになりました。英語の話せる選手に簡単な通訳をしてもらいながら、練習がスタートしました。2日目からルールを決め、ある事に挑戦したら、お互いが理解し合うことを意識したことで、うまく練習が流れ始めました。常に選手たちには、私が選手を褒めているのか、注意しているのか、何を伝えたいのかを「考えるのでは無く感じて欲しい」と言うことを強調しました。感じ取る方法として、声のトーン(大きさ、激しさ)、顔の表情(笑顔、難しい顔)、ジェスチャー(拍手、身振り、手振り)などを交えながら、選手たちも、私から何を言われているのか理解した時は、「満面の笑顔」、理解できなければ「首を傾げて難しい顔」をするだけで言葉の壁を超える事ができました。

7人制ラオス代表コーチ奮闘日記   7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
セブンズの基礎的な動きを、ひとつひとつ理解するまで徹底指導 ラオス代表チームへのプレゼンテーションを英語で行いました!

40名のセレクションメンバーから、スコットメンバーを17名に絞りました。そして最終の12名を決定する予定でした。ただ、仕事や結婚式、遠くて練習に来られない選手など、17人のスコッドが入れ替わりで12-14人集まっての練習を実施。セレクションゲームも予定していたのですが、結局人数が揃わずアタック・デフェンス形式での練習に切り替えて、セレクションの対象としました。パスができない、理解力がない、身体ができていない等、メンバーを選考するにあたり、様々な障壁にぶつかりました。しかし、最終的な決め手は、大会に連れて行っても怪我をしなさそうな身体つきの選手、メンタル面の強い選手、そしてラオスの魂を持っている選手でした。そして外国人を使わず、全員ラオス人でメンバーを選考する事に挑戦しました。

短期間のラオス生活ではありましたが、チームに意識改革や気持ちの変化が見られました。最初に見学した練習では、練習時間ギリギリか遅れて練習に参加する選手達。練習もピリッとした緊張感が無い練習でした。しかしその選手達が、練習前に自発的にウォーミングアップし、グラウンドでの動きが徐々に機敏になってきたのです。その最大の理由は、「集合!」と言う言葉と意味を教えると、選手達は日本語で「SYUUGOU」とかけ声を掛け合いダッシュで集まる様になりました。また、練習で解からない事を、質問したり教え合ったりしている等、小さな事ではありましたが、チームの成長に繋がったことを嬉しく思いました。

7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
選手からも積極的な質問を受けました
7人制ラオス代表コーチ奮闘日記   7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
出発前に記者会見に応じる7人制ラオス代表メンバー 出発前のチームディナー
タイセブンズ大会第1日目(2月11日):

短期的なチーム作りで、セブンズとは何か、セブンズのアタック、ディフェンスはこのようにするんだと言う所まで、何とか落とし込みラオスを出発しました。どのようにでも対応出来る様にだけは練習出来たので、後は私の方で試合毎にどのような戦術を立てて、彼らのパフォーマンスを引き上げるかだけです。
この様な流れで、初のセブンズ大会、初の国際大会となるバンコクセブンズに臨みました。

7人制ラオス代表
平均年齢 21.5歳
FW平均 169.8cm/75.4Kg
BK平均 170.6cm/67.8kg
全体平均 170.2cm/71.6kg

第1試合 対7人制日本選抜 ●10対34 (前半5対12)

先制トライをするも、自分たちのミスからトライを取られてしまいました。後半、さらに点差を広げられました。目標としていた3トライには1本届きませんでしたが、同じプールで、日本選抜から2トライを挙げたのは、ラオス代表だけでした。
選手には、ラオス21点(3トライ3ゴール)、20点(日本4トライ)で勝ちに行くと仕込みました。(*ラオスは、最高でも3トライ、攻撃している時間を差し引いて考えたとしても、日本に4トライを奪われるので、この点差でしか勝てないとメンバーに言い切りました。)

第2試合 対7人制フィリピン代表●5対25(前半5対7)

体格差で相手チームに力負けした試合でした。個々のタックルでは止めきれず、人数をかけ過ぎて、余られてトライを取られるパターンが多く、アタックのチャンスはありましたが、自分たちのミスからトライを取り切れませんでした。

第3試合 対7人制UAE代表●14対17(前半14対0)

最高の立ち上がりで先制し、2トライを挙げましたが、ミスで追加点が取れず前半を終わりました。後半は、疲労困憊の選手たちにけが人も出たこともあり、残り1分で逆転負けをしてしまいました。経験不足のなか、体力の限界まで戦った選手たちに勝たせてあげたかったのですが、力不足でした。勝利は挙げられませんでしたが、ラオスのラグビー関係者は、結果に大満足していました。初めてのセブンズ大会出場で、選手たちの勇気ある健闘に感激していました。

他の参加チームとの体格差は歴然としており、バンコクセブンズ第1日目は、3敗でプール戦4位という結果に終わりました。私としては満足していないのですが、負けた原因がはっきりしているので、今後強化をしていく上では意味のある3試合だったと思います。大会2日目、ラオス代表にとって、初めての国際舞台で、チームを勝たせたいという気持ちが高ぶりました。

7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
試合前、ゲームプランを確認する7人制ラオス代表
タイセブンズ大会第2日目(2月12日):

第1試合(準々決勝)対7人制香港代表 ●0-40
第2試合(ボウルトーナメント準々決勝)対7人制フィリピン代表 ○17-10
第3試合(ボウルトーナメント決勝)対7人制パキスタン代表 ○38-5

大会2日目、Bグループ1位の7人制香港代表戦からスタートしました。結果は大敗に終わりました。選手たちは肉体的にも、精神的にも疲れがでていたにも関わらず、充実感があるのか、皆の目の輝きが日を追って変わってきていることを強く実感しました。

そして、ラスト2試合は戦術を変えて臨んだ事で、1日目に負けたフィリピンに勝ち、パキスタンを破り優勝する事が出来ました。アタックでは身体が小さいため、コンタクトを避ける様なプランでしたが、スペースを作って突破を図るよう指示をし、誰かが仕掛けたら全員でサポート。それが間違いであろうと、仕掛けたプレイを尊重し付いて行く。これで選手に勢いがつき、ディフェンスでも身体をぶつけて行き、1人が詰めたら全員が詰めて行くディフェンスが完成しました。その結果、チームの目標であった2勝を達成することができました。大きなけがもなく無事に、バンコクセブンズをボウルトーナメント優勝で終えることができました。

初めてのセブンズの大会出場、初の国際試合でボウルトーナメント優勝というラオスラグビーの歴史に1ページを刻む大会になりました。ラオス国内でも試合をした事が全くないメンバーが、1試合1試合成長しながら掴んだ優勝です。私も久しぶりに「感動」するという体験をさせていただきました。今回、肌で感じた貴重な経験や知識を生かして、アジアラグビーの普及・発展に力を注いでいき、アジアラグビー全体のさらなるレベルアップに貢献できればと思います。

7人制ラオス代表コーチ奮闘日記
ラオスチームがひとつになった日。HSBCアジアセブンズ「タイセブンズ」ボウルトーナメント見事優勝
◎ラオスラグビー協会からのコメント

「松尾さんのラオスにおける活動全般およびラオス代表のボウルトーナメント優勝についてラオスラグビー協会は、今回松尾さんとともに活動し、松尾さんから学ぶ機会を持つことができたことを光栄に思っています。松尾さんは、3週間でラオスラグビーの中に溶け込み、地元の学校におけるラグビーの普及活動にも参加したり、クラブチームにコーチング支援を行ったりする一方で、本来の任務である、代表チームのセレクション、指導を行い、HSBCタイランドセブンズでチームをボウル優勝に導いてくれました。松尾さんは、そのプロフェッショナルな練習方法により、会った人すべてから尊敬を集め、選手はみな、新たな規律を身につけ、代表選手としての自分達の役割に集中し、重んじるようになりました。最も大事なことは、松尾さんが彼らに、適切なリソースと練習を受ければ、アジアのラグビー中で戦えるだけでなく勝つことができるという自信を植え付けたことです。私達は、そういったことを実現してくれた松尾さんの尽力と日本協会のサポートに感謝します。ラオスラグビー協会は、今後も日本ラグビー協会との継続的な協力関係と強いきずなを期待しています」

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タイセブンズ終了後のワンショット(日本語でのメッセージ)
◎Savanhxay Xayyasone主将コメント

「私達は、松尾さんと一緒に練習することができ、とても恵まれていました。彼は素晴らしいコーチであり、チームにアイディアを伝えるため、言葉の壁を超えることもできる人です。短い期間に沢山の知識を私達に伝達し、私達のプレー能力に自信を与えてくれました。他のコーチは、私達の大会初戦、日本との試合の結果について、もっと勝つ見込みのある試合にエネルギーを注ぐべきだったと言って、取り合わないかもしれませんが、松尾さんは私達を日本に勝たせようと指導してくれました。力は及びませんでしたが、松尾さんが考案した戦術に従うことで、競り合う戦いができました。ブレイブブロッサムズから、2トライを取ったのです! 私達のパフォーマンスは、試合を重ねるごとによくなり、日曜日には、本当にチームになった気がしました。フィリピンやパキスタンといった、体力的にもサイズ的にも上のチームに勝ったのは、最高の気分でした。私達は、小さいけれど、限られたリソースの中で成長中である協会の選手です。松尾さんと私達の経験は、協会同士がリソースと学びを共有すれば、なんでもできることを示しています。私達は、アジアンスクラムプロジェクトに、とても明るい未来を見ています。チーム全員、松尾さんと日本ラグビーフットボール協会の好意とサポートに感謝をしています」

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タイセブンズ終了後のワンショット(英語でのメッセージ)

松尾コーチは、ラオス滞在期間中、ドラッグ・リハビリテーション・センターでの慈善活動にも積極的に参加し、施設の少年たちにラグビーの指導を行いました。

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