10月14日(日) カップトーナメント

HSBCアジアセブンズシリーズ第三戦「ムンバイセブンズ」に参加した男子7人制日本代表は大会最終日の14日、カップトーナメント決勝に進んだが、香港に7-28で敗れ、準優勝に終わった。この結果、香港がHSBCアジアセブンズシリーズの総合優勝を飾り、日本は総合2位となった。

(text by Kenji Demura)

ムンバイセブンズ
韓国戦で3トライを奪った後藤(写真)など成長著しい若手にとっては多くのものが得られる大会となった
photo by Kenji Demura (RJP)
ムンバイセブンズ
タイ戦ではトライアウトからメンバー入りした加藤もトライを奪うなど勝利に貢献

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 頂点への道のりは順調に思えた。難敵フィリピンに後半一度は追いつかれた大会第1日のプール最終戦。「今までの寄せ集めチームなら負けていた」(横山健一)という厳しい展開も、終盤に2トライを奪って競り勝ったことで、誰もがチーム力の高まりを感じて最終日を迎えていた。

 長旅の後、調整もそこそこに35度を超える過酷な条件の中で第1日の3試合を戦い、選手のコンディションが心配されたが、「選手たちは『合宿の方がきつい』と言っていた。朝から明るく元気で、問題ない」という瀬川智広ヘッドコーチの感触どおりに、最終日のカップトーナメント準々決勝、同準決勝は完璧とも言える内容で勝ち抜いた。

 午前中に行われた韓国との準々決勝では、試合開始のキックオフを後藤駿弥がキープした後、鶴ヶ崎好昭が力強い走りで前に出て相手ゴールに迫り、PKから左サイドを攻めて後藤のトライで先制。さらに8トライを重ねて53-0(後藤=3トライ、和田耕二=2トライ、横山、仲宗根健太、シオネ・テアウパ、荒牧佑輔=各1トライ)。
気温が上がってきた午後に行われた準決勝のタイ戦も、やはりキックオフからロテ・トゥキリが快走したのを皮切りに、一方的に攻めて7トライを奪い、43-0の圧勝だった(トゥキリ=2トライ、和田、荒牧、加藤祐太、鶴谷知憲、横山=各1トライ)。

 前日は温存した和田耕二が2試合とも先発。「後ろからの声がしっかり出るようになってディフェンスでの統一感が高まってきたし、アタックでもしっかり意思統一ができている」と瀬川ヘッドコーチが手応えを感じる完勝で、順当に、順調に、決勝に勝ち進んだ。

ムンバイセブンズ
カップ決勝。前半5分の横山のトライ(写真)で流れをつかんだかに思われたジャパンだったが……
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ムンバイセブンズ
香港戦でキックオフをキープするトゥキリ。セットプレーも課題に再浮上した

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ムンバイセブンズ
激しいプレッシャーを受けながら必死にボールキープする荒牧。後半は香港の一方的なペースに
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 「ミスなく日本の強みを出して、頂点をとります」(四至本侑城主将)。そんな意気込みで臨んだ決勝の相手は、予想どおりアジア最大のライバルの香港。勝者がHSBCアジアセブンズシリーズの総合優勝を決め、来年3月のHSBCセブンズワールドシリーズ第六戦「香港セブンズ」のメイントーナメントの出場権を獲得するという条件での決戦となった。

 これまでとは違う重圧もあったはずだ。香港がかけてきたプレッシャーも、今までとは違っていた。様々な圧力が影響したのか、立ち上がりから、日本に細かいミスが目立つ展開。3分、PKをタッチに出せず、デッドボールラインを割ったために自陣に戻されたスクラムから、香港にサイドを突破されてトライを先取された。

 日本は直後のキックオフをしっかりキープした後、和田が判断良く前に出て、フォローした横山につなぎ、すぐに追いつく。今大会5本目のトライを決めた横山は「あれで、乗っていけると思ったんですが」と試合後に振り返ったが、キックオフのミスやハンドリングエラーが重なり、さらに香港ゴールに飛び込んでトライかと思われたプレーがノット・リリース・ザ・ボールの反則になるなど、日本は試合の流れをつかみ切れないまま、7-7でハーフタイムを迎えた。

 試合の流れは、後半に入ると一気に香港のものとなる。日本のミスのカウンターやキックオフから一気に走られて3トライを重ねられ、完敗と言える21点差での敗戦。「勝負のアヤのところで、チャンスをものにできたか、できなかったかの差が出た」と瀬川ヘッドコーチは振り返った。この日、ムンバイのボンベイ・ジムカーナでラグビーセブンズの祭典を楽しんだ観客の中で、決勝の21点差を両チームの実力差通りと受け取る観客は少なかったはずだ。前半に流れをつかみ切っていれば、スコアが逆になっていた可能性も十分ある。しかし、「勝負のアヤ」をつかんだのは香港だった。

 「いい意味でも、悪い意味でも、若いチーム」。セブンズの経験豊富な成田秀悦は、瀬川ヘッドコーチ率いる男子7人制日本代表の特徴をこう語っている。香港との決勝では、悪い意味での「若いチーム」らしさが顔を出した。22歳の後藤も「(決勝では)自分たちのラグビーができなかった」と悔やむ。

 ただし、ベテランと言える立場になった成田は、その若いチームに大きな可能性を感じている。「いままでやってきたチームの中で一番ポテンシャルを感じている。だから、次の合宿にみんなどんな顔をしてやってくるのか、今からそれが凄く楽しみ」。若いチームが敗戦の経験を活かすチャンスは早くも3週間後にやってくる。11月2、3日に、ワールドカップ・セブンズアジア地区予選を兼ねた「シンガポールセブンズ」が控えているのだ。

 「シンガポールに向けて気持ちを切り替え、今回負けた経験を生かして成長していくしかない。(決勝の香港戦は)テンポの遅い試合になってしまった。試合のテンポを上げていくために、ブレイクダウンの作り方や球出し、ラインの深さなどを、もっと突き詰めていく」と瀬川ヘッドコーチ。四至本主将は「負けたのは悔しいが、チームは間違いなく成長している。練習からプレーの精度を高めて、必ずシンガポールで借りを返します」と話した。

ムンバイセブンズ
決勝で香港に敗れたものの、若いチームには得難い経験となった(写真は鶴ヶ崎)
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ムンバイセブンズ
結果は準優勝に終わったが、若いチームの一体感は間違いなく増した
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ムンバイセブンズ
会場には多くの日本人も駆けつけてくれたが、優勝の報告はできず。悔しさはシンガポールで晴らす

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10月13日(土) プール戦

HSBCアジアセブンズシリーズ第三戦「ムンバイセブンズ」に参加している男子7人制日本代表は、大会第1日の13日、プールAでフィリピン、シンガポール、アフガニスタンと対戦した。日本は第一戦「ボルネオセブンズ」(9月1、2日)で優勝を飾ったものの、第二戦「上海セブンズ」(9月22、23日)は中国国内の情勢から不参加を余儀なくされている。シリーズ総合優勝のために、「ムンバイセブンズ」は勝たなければならない大会だ。

(text by Kenji Demura)

ムンバイセブンズ
アフガニスタンとの歴史的な一戦となった初戦は58-0で大勝(写真は鶴谷)
photo by Kenji Demura (RJP)

 初戦の相手は、この「ムンバイセブンズ」がHSBCアジアセブンズシリーズでの国際舞台へのデビューとなるアフガニスタン。瀬川智広ヘッドコーチが「まったく情報がない」と話していた相手だったが、日本は格の違いを見せつけた。開始1分の後藤駿弥のトライを皮切りに、前後半ともに5トライずつを重ねて58-0で快勝した(トライスコアラーは後藤、荒牧佑輔=各2、四至本侑城、ロテ・トゥキリ、鶴谷知憲、横山健一、シオネ・テアウパ、加藤祐太=各1)。事前に四至本主将が「前日練習でいい汗をかけたので、コンディションは問題ない」と語っていたとおりに、乗り継ぎ時間も含め計約15時間の長旅を経て大会の前々日の深夜にムンバイ入りするハードスケジュールの疲労を感じさせない上々のスタートを切った。

 続くシンガポール戦でも、試合開始直後の敵ボールのラインアウトをしっかり競って自ボールにした後、横山が50m以上を一気に走り切って先制トライ。さらに4トライを重ねて2試合連続のシャットアウトとなる31-0で順調に白星を重ねた(横山=2トライ、後藤、仲宗根健太、荒牧=各1トライ)。

 今大会で日本の最大のライバルと目されるのは香港。日本が優勝した「ボルネオセブンズ」の決勝でも、前半は12-17と苦しめられている。シンガポールは白人と中国系の混成チームで、ややオーソドックスなスタイルの面からも仮想香港と言える相手。その点からは課題も多く残る試合となった。5トライを奪ったものの、「日本が意図した形でのトライはなかった」と瀬川ヘッドコーチ。日本がボールを持ち込んだブレイクダウンでスムーズな球出しができないシーンも目についた。それでも、相手ボールをターンオーバーしてのトライも多く、「ディフェンスでボールを取り返す」(瀬川ヘッドコーチ)ことに多くの練習時間を割いてきた成果も見て取れた。

ムンバイセブンズ
四至本主将は常に体を張ったプレーでチームを引っ張り続けた
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 プール最後の対戦相手はフィリピン。「ボルネオセブンズ」では53-5と大勝していたが、思わぬ大苦戦を強いられた。日本は試合開始のキックオフから攻め込み、相手ゴール前のPKからテアウパが飛び込んで、1分で先制トライを挙げた。2分にも右サイドをトゥキリ、荒牧らの好走で大きくゲインした後、ワイドに左展開して後藤が走り切って連続トライ。いきなり12-0とリードした。ところが、ここからフィリピンの反撃にあう。前半4分と後半開始直後に連続トライを奪われて、同点に追い付かれた。

 気温35度を超える炎天下での3試合目。「上海セブンズ」不参加の影響で「ゲーム勘がない状態」(瀬川ヘッドコーチ)のチームは、そのままズルズルと崩れていきかねない状況だったが、終盤に2トライを重ねて22-12でフィリピンを振り切った。後半に途中出場して、貴重な勝ち越しトライを奪った横山は「今までの急造チームなら負けていた」と、「上海セブンズ」の不参加にもかかわらずモチベーションを落とさずに国内合宿を続けてきた成果を口にした。「替わって入ってきた選手がトライを取っているし、チームの力で勝った」、振り返ったのは、7人制代表として多くの経験を積んで来た成田秀悦。確かに、だめ押しのチーム4トライ目を決めたのが、瀬川ヘッドコーチが「思い切ってスペースに入っていけるようになった」と成長を高く評価する初代表の加藤(途中出場)だったことも、チームが着実に力をつけている象徴だった。四至本主将は「いいブレイクダウンが随分あった」と振り返り、シンガポール戦で停滞する場面も多かった攻撃面で大きな収穫があった試合となったことも間違いない。

 ひとつのチームとして戦っているからこそ、「ムンバイセブンズ」第1日の激闘は大きな成長につながるはず。「第2日もしんどい試合が続くが、意地でも勝たないといけない」と瀬川ヘッドコーチ。自らの未来は自らの力で勝ち取ってみせる──。「香港セブンズ」出場、そして、その先にあるHSBCセブンズワールドシリーズのコアチーム入り、さらには、リオデジャネイロオリンピックへとつながる道程を確かなものにするためにも、ムンバイで頂点に立つことがいかに重要かは、選手自身が一番わかっていることだ。

注:第二戦終了時のHSBCアジアセブンズシリーズ獲得ポイントは、香港が「31」、日本は「16」。ただし、日本は「ボルネオセブンズ」と「ムンバイセブンズ」で獲得したポイントの平均ポイントを、不参加だった「上海セブンズ」でのポイントとして付与されることになっている。「ムンバイセブンズ」までの3戦の総合ランキング1位のチームは、HSBCセブンズワールドシリーズ第六戦にあたる「香港セブンズ」(13年3月22-24日)のメイントーナメントに出場できる。

ムンバイセブンズ
激闘となったフィリピン戦でトライを奪うなど活躍した後藤
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ムンバイセブンズ
フィリピン戦で勝ち越しトライを奪うなど、持ち前のスピードで勝利に貢献した横山
photo by Kenji Demura (RJP)