マッチリポート 第50回 全国大学選手権大会

帝京大学 50-7 筑波大学
【ファイナルステージ決勝 2015年1月10日(土) /東京都・味の素スタジアム】
快晴の味の素スタジアムで迎える決勝戦は、6連覇のかかる王者帝京大に対し、シーズン後半にチーム力を充実させた筑波大が挑んだ。同じ対抗戦グループにおいてブレイクダウンに強さをみせる両チームの登場に、互いの前に出る力とタックルが真っ向からぶつかる好ゲームが期待された。

青く澄んだ空は微風。緊張のキックオフから、互いがランプレーでの応酬をみせた。帝京はSH流、そしてSO松田からFWがタテに起点を作り、ディフェンスを崩せば一気に外側にBKを走らせる。筑波のディフェンスはこのアタックに充分に対応し、特にグラウンド中央付近では激しいダブルタックルで一歩も下がらない。ゲーム前半に予想されたキックは互いに封印され、筑波にとってはブレイクダウンでの攻防に期待がもたれる展開と見えた。
しかし、ゲームは筑波に余裕を与えなかった。互いが意地をかけたブレイクダウンのその前で、タックルの強さが勝負を決める。この日の帝京はFW、BKがワンラインに揃って前に飛び出す。しっかり肩を当てたビッグタックルから、起きてスイープ。その激しいインパクトが筑波の攻撃を寸断し、ボールを奪って逆襲する。
早くも7分、ディフェンスからエリア獲得した筑波ゴール前のスクラムでビッグプレー。森川、坂手、東恩納のフロントローが完全に相手を制圧し、筑波のボール投入と同時にスクラムを背走させ、そのこぼれ球をSH流が逃さず奪って先制のトライ。(7─0)
21分には、筑波ゴール前で帝京FWが突進を繰り返し、必死の筑波ディフェンスが内側に寄ったところを外へ展開してFB森谷がトライ。(14─0)
25分にもFW、BKのループプレーからポイントゲッター磯田にボールがわたり、快足を飛ばして3連続のトライ。(21─0)

筑波はスクラムを押されながらも後半立ち上がりは良く耐え、7分に唯一のトライを奪う。BKは帝京ディフェンスの内側からの圧力をうまく抑えると、CTBのムーブ、WTBの表裏に変化を加えてエース福岡を走らせた。しかし、この後も帝京のタックルが強烈なインパクトとなり、FW、BKの一体となった筑波のペースを継続することはできなかった。(21─7)

帝京は後半も激しいタックルから筑波のボールを奪い、豊富な運動量から4つのトライに結び付けた。観衆を魅了したプレーは後半27分。スクラムからFW河口、SH流が横に動き、タテに切れ込んだCTBの背中越しのSO松田にボールが渡る。筑波ディフェンスが外側を抑えにかかったその圧力を感じて、ブラインドサイドから内側に走りこむWTB磯田に瞬時のパス。セットプレーからのオプションでの見事なトライだった。

この日の帝京はスクラムで筑波を圧倒。攻撃の起点を奪って得点に繋げた。
そして秀逸だったのが、強いタックルからのターンオーバー。倒して、起きて、奪ったボールからの速攻が帝京のリズムを引き出し、同時に筑波の攻撃のエネルギーを失わせた。
また、SO松田の判断は冷静で、ゲームプランに忠実だった。自陣、中盤で相手ディフェンスを崩しきれないフェイズでは、無理せずにロングキックで一度筑波にボールを渡す。そのキックにチェイスするプレーヤーの数が筑波の攻撃を制圧する。スタンドの観衆の誰もが、蹴られた空中のボールを目で追うその視界に真っ赤なジャージーが休むことなく集まり続け、守るべきエリアを埋め尽くしていく。筑波BKがキャッチしたボールをグラウンド中央に不用意に戻す時には、その集団が襲い掛かり、一気にラックを乗り越えて地上を制圧すると、攻撃へ転じた。全てが準備され、ひたむきにプランを遂行する選手たち。
帝京大が6年をかけたこの成熟は、他大学に付け入る隙を与えない見事な勝利といえるだろう。

 

(照沼 康彦)
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(c) JRFU 2015, photo by H.Nagaoka
会見リポート
 

監督・キャプテン
帝京大学の岩出監督と流キャプテン

帝京大学

○岩出雅之監督

「よろしくお願いします。1チームとしてやろうとしてきたことをやろうと、チーム状態も良くなってきました。試合の中身も成長があったが、監督として勝利できてホッとしています。まず、1年やってきた我々の強みを出そうと臨みましたが、何より選手の努力に敬意を表したいと思います。出られる選手、出られない部員のいろんな思いをエネルギーに変えて、とにかく1プレー1プレー、相手の時間と挑戦する気持ちを摘み取ろうと臨みました。ゲーム自体は、もう少し休まず攻めた方がよかったとは思いますが、筑波さんのきちっとしたディフェンスも良いので、難しい部分もあったかと思います。筑波さんの特徴としては、過去のゲームから、21点取られたら勝てないと分析していました。大外に持って行かれないように、強みであるコンタクトで相手のエネルギーを奪おうと、セットプレーとブレイクダウンに焦点を当てていましたが、選手は粘り強くディフェンスしてくれました。8割方、良かったのではないかと思いますが、あと2割は、ちょっと中盤に休んでしまったところです。ますます動けるチームに改善したいと思います。筑波さんの粘り強いディフェンスに敬意を表します。ブレイクダウンも頑張っていましたので、やりがいのあるチームだったと思います」

──改めて6連覇を振り返って?

「僕自身、とても嬉しいです。使命感として達成できたことを一番嬉しく思います。学生、スタッフの喜んでいる姿を見るのも嬉しいです。多くの方のサポートもあったので、そういう思いに応えることができました。出場する選手の人事権を持っている者として、そういう思いにどう応えるか、最終的には勝利して応えるしかありません。出られない選手の番号24番は全員同じ、全員で戦おうとよく話をします。終わったあとのTシャツには背番号はない。皆同じです。18歳から22歳の若者です。いろんな思いがある。反発も葛藤も迷いもある。その中で、自己コントロールして努力をラグビーに向ける学生がいます。積み上げたこと、4年間の喜びが後々まで続くよう、達成感を持たしてやりたい。人間的成長もしっかりできるのがこのクラブの良さです。学生と関係性を持って、できるだけのことをしてやりたい。結果的に6連覇は嬉しいが、メンバーを外した学生の顔がよぎります」

──今年のチームは、6連覇の中でどのくらいの手ごたえがあるチームなのか?

「理想はトップリーグに勝つチームです。ただ、結果を求めるのは一度では無理で、消化不良やマイナスをもたらします。今年はV1ともV2ともレベルは違うと思います。1年、1年では感じないが、学生がしっかりモチベーションをもち、ゲームでプランニングし、日々の生活の高さを維持するコントロールする力を身に付けています。キャプテン、学生コーチ、4年生が中心となり、帝京の良さをつくってくれて、勝てたのは、一番は学生の成長に尽きると思います」

──今日のこだわり、パフォーマンスについて?

「80分をどう使うか、攻撃の時間も大切だが、相手のボール受けてディフェンスから攻撃に転じ、相手の心のエネルギーと体力を奪っていくことでした。チャンスは相手からいただくものだと」

──対トップリーグに向けて?

「まだ、分かりません。今日は大学選手権を取れたことを心から喜んでいます。今日は学生にとってのすべての時間でした。スタッフも選手も。マインドセットできていません。もちろん、挑戦ですので、一つ一つ、我々のチャレンジとして良い準備をして臨みたいと思います」

○流大キャプテン

「よろしくお願いします。1年間、帝京の目標としてきた大学日本一を達成でき、嬉しく思います。多くの人の支えがあってのことですし、今日の素晴らしいピッチにも感謝します。142人の部員全員の気持ちと、今までやってきたことを信じて、今日は狙いどおり良いトライも獲れて、激しい筑波さんに対して、要所要所に力を出すことができたと思います。1年間とおして、自分たちのやってきたことを出せましたが、優勝して出られなかったメンバーを笑顔にすることができて嬉しく思います。帝京は、この後も、まだ進化する余地があるので、上を目指していきたいと思います」

──先制トライした場面は?

「僕は、もう、FWがスクラムを押すと、FWの顔を見て確信していました。たまたま僕が押さえただけで、あれはFWのトライです。本当にFWは80分ファイトしてくれて、持続することが大切だと思いました」

──勝利Tシャツの意味は?

「あまり見ていないので、よく分かりません(笑)」

──21対0になって勝ちを確信したか?

「自分たちの意識としては、まだ勝利は決まっていないという意識でした。点数を取るより、しっかり一つ一つディフェンスし、1個1個のプレーを積み上げていこうと。ほとんど点数を意識せず全力で戦っていました」

──対トップリーグに向けて?

「まずは、今日の優勝をしっかり喜びたいと思います。一年間、やってきたことを大切に、今日の課題を修正して、日本一に向けてマインドチェンジしたいと思います」

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(c) JRFU 2015, photo by H.Nagaoka
 

監督・キャプテン
筑波大学の古川監督と松下キャプテン

筑波大学

○古川拓生監督

「本日はありがとうございました。この素晴らしいスタジアムで試合できたことを幸せに感じ、関係の皆様に感謝申し上げます。50対7という結果は残念ですが、要所では力を出せましたし、筑波の成長を感じました。選手は決して引くことなく身体を張ってくれました。ただ、それでも、帝京さんという相手には通じず、まだまだの部分はあったと思いますが、選手も、全力で応援した部員たちも誇りに思います。ありがとうございました」

──ハーフタイムの指示は?

「前半は、接点回りの向こうのディフェンスが良いので、3チャンネルにボールを運んだのですが、うまくいかなかったと思います。自分たちのミスでした。ハーフタイムにはいかに自分たちの良さを出すか、ボールを継続するしかないと送り出しました。しかし、帝京さんのブレイクダウンに最後まで抵抗し切れませんでした。後半、最初に流れをつかませてくれなかったのが、帝京さんの強さだと思います」

──キャプテンとハーフの選手の早期交代は?

「キャプテンの松下もスクラムハーフの吉沢も、決して本調子ではなかったのですが、今週最初の練習を見て、やはりモノが違うと。チームに活力を与えてくれるのはキャプテンの松下だと感じて起用しました。残念ながら痛めていた部分を二人ともやってしまい、交代を余儀なくされました。実際、二人とも80分もたないと考え、今日の戦い方は練習からリザーブには徹底していました」

──対抗戦4連敗から立ち直ってのシーズンを振り返って?

「本当に最初は怪我が多かったのですが、怪我人が一人ずつ戻ると、チームの成長が加速度的に感じられました。そこに、SOの山沢が入り、チームの力が一気に上がりました。残念ながら、そこでまた怪我人が出てしまいましたが、選手権大会の中で勢いが作れた部分があり、今季、成長できたところだと思います」

○松下真七郎キャプテン

「先生がおっしゃったとおりですが、部員全員で戦おうと臨みました。試合ではメンバーがよくやってくれたと思います。勝てなくて自分たちに足りない部分を感じさせられたが、来年は、後輩たちがそこを補ってやってくれると信じています」

──改めて、帝京の強さを感じたところは?

「やはり、試合前から、ブレイクダウンのところで引かずにやれるかをターゲットにして来ました。しかし、逆に帝京さんにプレッシャーを掛けられて、ボールの継続ができませんでした。接点で負けたのが敗因です。今年、特に3年生は伸びましたし、下級生はよくやってくれましたので、来年は接点の激しさ、精度を高めるために、今の3年生中心にやってくれると思います」