帝京大学 34-15 明治大学 マッチレポート
今シーズン無敗の帝京大学は3連覇をかけて、そして挑む明治大学は創部100周年の強い想いを抱き、共にチームの完成度を高めながら順当に決勝戦へと登りつめてきた。学生最強の破壊力を発揮する王者帝京に、多彩な攻撃オプションを持つ明大がアタックを武器にどこまで追い詰めることができるのか。両チームの登場を待つ国立競技場は暖かな日差しに包まれ、観衆の期待が高まる。
その一方で、15時19分のキックオフが近づくにつれ、空の気配がいつの間にかあやしく変わり始めていた。
明大SO伊藤耕太郎のキックオフが吹き上がる風に押し流され、帝京ボールのセンタースクラムからゲームがスタートする。帝京FWは、開始直後からショートサイドで強いインパクトを与えながら前進。またBKラインのランナーとして、時にはパッサーとしても磨かれた才能を魅せる。SO井上陽公はFWランナーの縦の突破を見せつつ、連携したループで崩し、飛び出す明大DFに対しサポートプレーヤーでボールを活かす。最後はタッチ際のフィニッシャーWTB高本とむにつないでいきなりの先制トライを奪った。(7-0)
しかし、このトライで両チームの緊張が少しずつ和らぐ。
ゲームは動き出し、ボールの移動、攻防がダイナミックにグラウンドを横断する頃、今度はなんと空から雷鳴が響いた。小雨が雪に変わり、ついには小さな氷の粒が固まりとなってプレーヤーの身体を叩く。
前半22分、マッチコミッショナー、レフリーは、雷の影響により安全確保のために試合を止める。プレーヤーはロッカーへ戻り待機。大学選手権としては初めての55分にも及ぶ中断となった。
その後、雷鳴が遠ざかり、安全と判断が下されてゲームは再開する。
国立競技場のライトに雪が舞う。スタンドから観るグラウンドは、白く霞んでまるで幻想世界とも写る決勝戦。
ここから両チームが覚醒し、ゲームが再び動き出す。この時間でやるべきことを絞り込んだ帝京の最大の見せ場が先にやってくる。BKラインが起点を作り、速いテンポでボールを動かすと、そこへ走り込む強力なペネトレーター。FL奥井章仁、青木恵斗、HOキャプテン江良颯。日本ラグビーの未来を担うべき3人の突破が、帝京を一気にゴールに近づける。
26分、固いラインアウトモールを一気に押し込み、HO江良がゴールに飛び込む。強い帝京を示す勝利へのかたちに、ファンが安堵した。(12-0)
しかし、15人の攻撃力という点では、今年の明大も観衆を沸かせてきた。SO伊藤、インサイドセンター廣瀬雄也、FB池戸将太郎の3人がそれぞれプレーメーカーとして機能することで、一気に大量点を奪えるチーム。さらに11番を背負う海老澤琥珀の変幻自在のボールタッチは魅力。173cmの身長ながらフィニッシャーとしてだけでなく、相手DFが迫るタイトな状況を、身体半分のズレを活かして突破する。あのチェスリン・コルビを想わせるプレーヤー。1年生という存在を忘れさせる気迫で、このゲームで何度か帝京の大型FWにもマッチアップに挑むことになる。
35分、FB池戸のロングキックで前進し、その後のボール確保からチームが前へと走り出す。右サイド待つFL森山雄太のビッグゲインから、大きく逆サイドに展開すると最後はCTB秋濱悠太がトライ。(14-5)追撃が始まる。
さらに39分、相手陣スクラムからスペシャルプレーを繰り出す。右のオープン側に立つSO伊藤はボールの投入と同時に左に移動。SH萩原周は、DFを引きつけ伊藤にパスを通し、フィニッシャー海老澤にボールが渡る。帝京DFの強さは数で負けてもバッキングの早さと厚み。帝京のFW第3列がカバーするその間を海老澤がすり抜けた。(14-12)
互いが力を出しあった前半40分。互いを認め、勝負を決める後半が始まる。
そこで、王者帝京はセットプレーに絞り込む勝負に出る。
スクラムからのムーブに自信を持ち、一気に突破したい明大BKのラストパスが雪と風に乱れる。そのミスが帝京にボールを渡し、帝京の求めるセットプレーが始まる。
明大は後半4分、8分と帝京の強いプレッシャーを受けてPGを与える。帝京FB山口泰輝が確実に得点を重ね引き離す。(20-12)
明大もさらに攻めた。帝京陣のスクラムからSO伊藤がDF裏へのショートキック。快速WTB海老澤が追う。トライを狙う海老澤と帝京DFのバッキングが交錯する。ゴール寸前で互いの身体が当たり、明大はトライを奪えない。
得点に焦る明大を帝京DFの強烈なタックルが襲う。じわじわと明大陣へ押し下げると狙い通りにスクラムが増えていく。
帝京は後半20分、奪ったボールから攻撃に転じ、CTB戒田慶都がトライで突き放す。(27-12)
明大は23分、CTB廣瀬のPGで迫るがトライを奪えない。(27-15)
そして、終了間際の37分、帝京はゴール前のラインアウトモールからHOキャプテン江良が勝利を確実なものとするトライを決めた。(34-15)
ノーサード直前からキャプテン江良の涙は止まらなかった。「一年間、積み上げてきたセットプレーが後半効いてきた」「みんなを見ていて、目指してきたワン ハートについになれた」。仲間の、赤いジャージの躍動をそう感じられた瞬間だったという。
この悪天候にも、帝京は全くブレることなく狙ったかたちで勝利を掴んだ。HO江良のプレーヤーの資質はもちろんだが、リーダーとしての存在も魅力であり注目すべきものがある。
試合終了後に、ブレザー姿の明大WTB海老澤を見つけることができた。「僕が負けて泣いたのは初めてです。帝京大のDFは強い。ミスをせずに、いいアタックをする。それができなければ勝てない」。少しうつ向きながらもしっかりと語ってくれた。
第60回大学選手権は、優勝キャプテン江良颯を送り出す。そして、これからも未来に躍動する新しい芽を次々と育てていくことになるのだろう。
(照沼康彦)
記者会見レポート
▼明治大学共同記者会見
神鳥裕之監督
「今日はどうもありがとうございました。色んな事がある中でもこうやって最後まで試合ができた事、本当に関係者を含め、皆様に感謝したいと思います。それと、帝京大学さんの3連覇、おめでとうございますと伝えたいと思います。やはり、強かったです。なんとか、このチームを超えたいと思ってやって来たのですが、やはり、できなかったという事に関しては監督としても本当に責任を感じていますし、彼らを勝たしてあげられなかったという事に関しては申し訳ないという気持ちで一杯です。この100周年という大きなプレッシャーの中で、廣瀬キャプテンを中心にここまで戦って来た選手たちを本当に誇りに思いますし、彼らの次のチャレンジを心から応援したいと思っています。また、3年生以下の学生たちは、この姿を見て、必ずまた成長してくれると信じていますので、しっかりとリベンジするような強いチームを作って行きたいと思います。今日はどうもありがとうございました」
ー中断中、選手たちとどんなやり取りを?
「そうですね、再開する時間の確認を取りながら、まあ、その時間も刻々と変化するような状況で、非常に難しかったのですが、コーチを中心に、今、雄也が言ったように、前半の戦い方の整理をしたり、振り返りをしたり。あとは、ロッカーの隣にも人工芝で身体を動かす部屋がありますので、そこでウォーミングアップを含めたSCコーチのリードがあったり。まあ、そうした形で上手く時間を作っていくようなやり方は取っていました」
ー1年間、やろうとした事は、ある程度できたのか?
「この選手権を通して、準々決勝からスタートして、準決勝から廣瀬キャプテンが帰って来て、チームのムードとしては、本当に良い形で決勝を迎えましたので。また、その戦いぶりも、一戦一戦成長して行く姿を、私も目の当たりにしていましたので、今、このチームが持っている力というものは十分発揮できたのではないかと私は思っています。ですから、戦った選手たちには胸を張って欲しいですし。ただ、やはり勝てなかったという事実に関しては、残ったメンバーたちがしっかりとその気持ちをつないで、来年度以降に持って行って欲しいなという意味で、今年の選手たちは持ってる力を全部出したと思います」
ー後半、少しスクラムでやられてしまった所は?
「まあ、やはり、相手の強みである事も間違いないですし、我々の方もこだわっていた部分でありましたし、試合を通して、当然圧倒できる関係ではないと思っていましたので。最後の最後、少しやられたという印象があるかもしれませんが、我々はスクラムに関しては試合を通してやり切れたかなという思いはありますので。後半、替わったメンバーたちの思いも含めて、次に繋げて行きたいなと思います」
廣瀬雄也主将(CTB)
「今日はありがとうございました。この前の地震の事もそうですし、今日の天気の事もそうですが、ちゃんと最後まで明治のラグビーを、しっかり今までやって来た事を、決勝という素晴らしい舞台で最後までラグビーできた事はすごく幸せですし、帝京大学さんには敵いませんでしたが、こうやって100周年という節目に於いて今のメンバーと出会えた事をすごく嬉しく思います。まったく悔いはないです。神鳥さんからもありましたが、後輩たちにはこの悔しさをバネに、また明治が100年続くように伝統を継承して欲しいなと思います。どうもありがとうございました」
ー試合中、雪が降って来た時の気持ちと、中断中の対応は?
「雪が降って試合をした事が僕はこの4年間なくて、自分たちの、明治の中の雰囲気は、結構リラックスしていたし、雪を見て、雪の早明戦を思い出しながら、今、この瞬間にラグビーできている事をすごく幸せに思いました。一旦、中に入って間が空いている時は、明治としては流れがあまり良くなかったので、しっかりそこで断ち切れた事、それをしっかりポジティブにとらえながら。また、お互いに難しい状況の中で、まず先手を取るというのが明治としてすごく大事なので、そこで一気に波に乗れるんじゃないかと話していました。そこに関しては、別にネガティブに感じる事はなかったです」
ー前半、ペナルティをもらって、ショットとトライをそれぞれ選択した事があったが、どういう判断だったのか?
「まあ、(山本)嶺二郎(バイスキャプテン)中心にモールで崩せるという自信もあったし、そこで3点で刻むというのも有りだと思うのですが。やはり、明治の持っているプライドと言うか、重戦車の所は、嶺二郎がFWを4年間、引っ張ってくれたし、自信を持って臨んでいたので。そこはBKの僕からしたら、嶺二郎の持っている言葉の自信というものは、信じないといけないし。そこは、しっかり明治を信じて判断しました。まあ、15点差という場面でしたので、2トライ1ゴール差にするという意味でショットを選択しました。まあ、時間帯もありますし、そこで明治のプライドにこだわっていると。そこは冷静に判断できたと思います」
ーある程度点差が離れて、終盤を迎えた時の気持ちは?
「あまり、点差を気にせず、自分たちがやって来た事をやろうと。準備して来たものをしっかり出せば、前半の最後の方で連続してトライも取れたし、しっかり通用すると分かっていましたし。ただ、帝京さんのプレッシャーに圧力が掛かってしまい、あまり上手く行くことがありませんでしたけど。まあ、そこに関しては、あまり焦ることなく、最後まで明治として、紫紺を着る者として、プライドを持って戦おうと言っていました」
ー最後、並んでいる時に込み上げて来た気持ちは?
「・・・。やはり、スタンドを見た時に、4年間、ファンの方にしてみたらもっとずっと長い間、この明治を変わらず応援していただいて。ずっと、僕が明治に入る前から、入ると決まってからもずっと応援してくださっていて、すごくメッセージもくれたり。そういうファンの方たちの顔を見た時、今年、100周年だし、そこで優勝を見せることができなかったという悔しさと言うか、ファンの方たちに申し訳ないという気持ちが込み上がって来て。そして上を見上げると、4階席に同期や部員たちが居て、手を振ってくれたし、最後には自分の名前をコールしてくれて、本当にこのチームで主将をやらしていただいて、明治大学を選んで良かったなという気持ちがすごく湧いて来て。そこで涙が出て来ました」
ー後半、良い流れの中で点差をつけられてしまったのはどこに原因が?
「まあ、ずっとチームでラグビーしてしまった部分もあるし、やはりペナルティの数が増えてしまうと、向こうにも精度の高いキッカーがいるし、徐々に3点ずつ刻まれて、精神的にも肉体的にもちょっとずつ向こうの勢いが増して。僕たちも下がっているつもりはないのですが、やはり、点差が開くとちょっと気分も変わって来るし。そういう所が後半の入りの所で、帝京さんに流れを掴まれた所だと思います」
神鳥裕之監督、廣瀬雄也主将
▼帝京大学共同記者会見
相馬朋和監督
「本日は協会関係者の皆様、そして明治大学の皆様、ファンの皆様、どうもありがとうございました。雷での中断もあり、雪も降る中、本当に明治さんの厳しいプレッシャーを受けながらもいつもとは違うプレッシャーを受けた学生達を見ながら、ただやってきたことを信じて、1秒1秒積み重ねていく、本当にその姿を誇らしく、頼もしく、嬉しく試合を見させてもらいました。本当に江良キャプテンが率いたこのチームを素晴らしいチームだなと思い試合を見ておりました。結果として優勝することができて何より嬉しく思っています。また、ジュニア選手権では明治さんにやられ、明治大学さんには本当に勝ったり負けたりしながら1年間かけて、最後こうやって勝つことができて、本当に嬉しく思う部分です。今日はまとまりなく喋っており、すみません。本当にいいチームをキャプテンが作ったなと、そんな気持ちです。本日はありがとうございました。」
―明治に攻め込まれている場面で、監督は少し微笑んでいらっしゃるようにも見受けられましたが?
「ピンチになればなるほど、江良は楽しそうにプレーするので、プレーの質も変わるし周りの選手が疲れれば疲れるほど彼等は生き生きとするし、本当に頼もしい選手たちだと思います。そんな気持ちが顔に出たのではないでしょうか?」
―中盤にあった試合中断について、断続的に再開予定時間が延びたりして、なかなか計算するのも難しかったのではと思いますが、あの時間をどのように使おうと思っていましたか?
「実は、私は以前、雷でキックオフが遅れた経験がありまして、雷の位置がどのようなのか?30分以内にするかしないのか?という判断もします。試合再開の前にウォーミングアップの時間を取れることもわかっていましたし、その判断が2転3転するということも把握できていたので、そういうことを事前に選手たちに伝えました。『今はこうなっているけれど、こうやって変わるから、そのつもりで準備しよう』と、また、それよりもいつもとは違う環境に置くことが大事だと思い、ロッカールームではなく室内練習場の少し広いスペースに椅子を並べて、そこからリセットし直しました。1回気持ちを切ってしまうことが一番不安でしたし、難しいと思いました。そこは岩出先生にお任せして、1回リラックスして、ジャージーを脱げる子は1回ジャージーを脱いで、というようなことをしました。案の定、(試合再開予定時間は)2転3転、全部で3回変わりましたか?それに向けてウォーミングアップは何をするか?天気の状況、気温の状況を見て、最初は外に出て10分間ウォーミングアップする予定だったのを、全部、中で済ませてから外に出ました。選手のメンタル部分は岩出先生にお任せして、それ以外にできることを他のスタッフの皆さんと力を合わせて、温かい飲み物を準備したりなど、できることをいろいろしました。再開後すぐにトライを取ったので、うまく行ったと思いましたが、その後に(明治に)2つ取られてウーム、といったかたちでした。」
江良颯主将(HO)
「今日の試合では、この帝京の深紅のジャージーを着ているメンバーが仲間の中で『体を張り続けよう』『走り続けよう』というのを80分間、常に言葉に出し続けた試合でした。本当に、自分自身もいろいろな思い、感謝というのがすごく大きくて、僕たち1年間、”ONE HEART”という目標を掲げてやってきましたが、最後に今日、(部員)全員が観客席から降りて、下で喜んでいる姿や顔を見ると本当に1年間積み上げてきたのが間違いなかったのだと、全員の顔・姿を見て”ONE HEART”になれたなあという実感がすごく湧いて、自分の中で、涙が出てきたのがすごく印象的で、本当に嬉しかったというのが、一番の大きなところです。」
―60回になる大学選手権で、今日は初めて落雷による中断という大変な試合になりました。落雷の中断によるプレーへの影響はありましたか?
「プレー面のところではすごく滑りやすくなったというところはありましたが、僕も初めての経験で、『どうチームをもう1回ギアを上げていくか?』というところを考えながらやっていました。岩出先生が『あと60分の中で(試合)時間が延びたというのを、自分たちのものにする、本当は80分で終わるところを100分以上に延びたというところは自分たちにとって嬉しいことだ』ということを僕たちに伝えていただきました。そうやって考えれば、自分たちも皆大丈夫になるのだということについて、言葉の重みを感じて、もう1回この仲間でできることを噛みしめながらラグビーをできたと思います。中断になってからは、まず体を少し休めて、試合が再開されるところに照準を合わせてウォーミングアップしていきました。」
―後半はスクラム、モールで行けるということに自信はありましたか?
「僕たちは常にセットプレーのところを1年間積み上げてきたので、本当にその成果が全て出た試合でした。本当にプライドを全員が持ち続けて、常に自信があったので、オプションに対して迷いなくできました。」
―ハーフタイムでの声かけは?
「ゲームの運び方やどうなっているかというところをもう1回、振り返りながら、岩出先生から上(の座席)から見てどうなっているというのを教えていただき、最後に本当にあと40分しかないこの最高の舞台で、戦い続けようという話をしっかりできました。『仲間のために体を張る』とか、『1年間やってきた基本に戻る』というような言葉を僕からも選手たちに伝えました。僕たちはセットプレー、フィジカルを土台にして帝京ラグビーを作り上げてきているので、そこを逃げずに戦い続けようということを話しました。そこで全員が同じ絵を見られて、明治さんに圧力をかけられたと思います。(試合が終わって部員)全員がベンチへ走ってきた時には、今まで感じたことのない嬉しさを感じ、嬉しくて幸せで、噛みしめていました。」
―雷による中断では、残り60分という時間でしたが、その後どのようにプレーしようとしましたか?
「点差を広げることは全然考えていませんでした。『1つ1つのプレーを、今まで積み上げてきたものをしっかり出し切ろう。1秒1秒を大切に』と相馬監督が試合前に言われたので、1秒1秒、1プレー1プレーを大切にしてゲームを運んでいきました。帝京大では(加藤)慶さんというフィットネスコーチを中心にフットネスを上げていっているのですが、本当にシンドすぎて吐く選手も出るくらい厳しいのですが、80分間やりきれるフィットネスをやり続けてきたので、最初からしっかりスタートして出し切るということを全員ができたと思います。」
―中断時やハーフタイムにレフリーと話していたようですが?
「まずは『このチームに何か(問題は)ありますか?』ということを質問させていただいて、『特に何もないよ』との返事をいただき、次にスクラムのところについての質問をさせていただき、答えをいただきました。」
―特に前半、スクラムでペナルティを何回か取られたことについては?また、PKでショットを選択したシーンがありましたが、PG選択については?
「自分たちが『押せる』という感覚があったのですが、SHがボールを入れるタイミングなど先を見すぎて、先に出てしまうところがありました。ヒットの後、しっかりプレスを押し続けて、もう1回全員で押せるようにまとめようと話をしました。ファイナルの中で、簡単にトライを取れるとは思っていませんし、明治はそこが強みだと思うので、スコアできるところはスコアを取るとしていて、山口(FB)はいいキッカーで、敵陣に入ればどこからでも決められるような選手ですので、自信を持ってPGを選択しました。スコアできるところはPGでスコアを取るというのは、試合前から決めていました。」
―後半37分の江良主将自らによるトライシーンについては?
「やはり、『ここで取れば試合が決まる』と思ってでのプレーでしたので、取った時はすごく嬉しかったですし、皆がモールを押し続けて、空いたスペースに僕が飛び込んだだけですが、皆が喜んでいる姿を見ると嬉しかったです。しかし、自分は(あのプレーで)足を攣ってしまい、それが痛すぎて、その喜びをあまり感じられなかったというのが正直なところです。でも、皆が喜んでいる姿を見られた瞬間はその痛みを忘れて喜ぶことができました。(トライに飛び込む前、)モールを出るときには足が攣っていて、『やばい』と思いましたが、『やるしかない』と思って飛び込みました。足は両足とも攣りました。」
―試合が終わった直後、眼に涙が浮かんでいましたが?
「この1年間、仲間達と盛り上げてきたプロセスは間違いではなかったということが、すごく嬉しくて、皆で作り上げてきたものだったので、本当に幸せだなと言う実感が湧いてきました。今まで味わったことのないような幸せで、仲間に感謝しかないとすごく思いました。」
―今日、このような(雷と雪の)天気でしたが、荒天による試合中断まで予想していましたか?
「雨や雪が降ることは考えていましたが、雷については考えていませんでした。このような経験は初めてで、どうすればいいか全然わかりませんでした。しかし、仲間と一緒に試合ができるのもラストなので、もう1回、『60分のゲーム』としてイメージして、前半の最初からと思って、一から作り直そうというイメージでやりました。」
―トライがTMOで取消しになってから、直後のプレーでトライを取り直しましたが?
「TMOがあるのはわかっていたので、全然焦ることなく、もう1回モールを組めれば、(トライを)取れるという感覚はありました。『敵陣深くまで行けば、絶対スコアしよう』という話もできていました。そこに関しては自信があったのであのような選択をして、取り切れたのだと思います。」
―江良キャプテンの代はコロナ世代です。コロナ禍でラグビーができない時期がありました。パンデミックが(帝京大の)ラグビーを強くしましたか、あるいは弱くしましたか?
強くしたのであれば、誰のどのような発言が背中を押してくれましたか?
「コロナという環境で、僕自身もそうですが、たぶん、帝京大学ラグビー部としてもラグビーができるということの幸せを全く感じずにラグビーをしていたので、そのような当たり前のことが当たり前ではないと言うことを気づかされて、もう一度ラグビーに向き合う時間が多くなりました。本当に一日一日を大事にしなければいけないという自覚が帝京大学ラグビー部の中で芽生えたと思います。そこからまた、一つの練習を大事にすると言うところが強みになったと思います。僕たちの代でコロナというものがあり、Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチームと分けることがすごく多くなり、そこを混ぜてC・Dでコロナが出て、A・Bも一緒に練習してしまうと部の活動が止まってしまうという状況だったので、きれいにチームを分けて練習の時間などを分けました。そのため、A・BとC・Dのチームの意識の差がすごく大きくなってしまいました。そこがコロナで一番、悪かった影響点だと思います。そこについて、4年生で話をして、もう1回、A・B・C・Dチームや学年の仲間の意識を高めるために、僕たち1年間”ONE HEART”という言葉を目標に掲げて活動してきました。それがまた、仲間の意識が高まることになり帝京大学の強みになったかと思います。
―最初のスクラムあたりから手応えはあったと思いますが、その一方で、ハンドリングミスも多くあったと思いますが、その原因は?
「僕は皆の顔や行動をいつものと比べますが、『緊張かな?』というのが一番大きく思います。練習でも、今週1週間通して緊張が目立って、ボールを落としてしまうようなことが多くありました。僕自身もあまり緊張するプレーヤーではありませんが、昨日の夜からはあまり寝られませんでしたし、朝、『緊張しているなあ』と久し振りの感覚だなと思いました。皆はもっと緊張しているだろうとは思いました。今年1年間、仲間のために体を張ろうと言い続けて、背負っていたものも大きかったかと思います。」
相馬朋和監督、江良颯主将