試合記録はこちら
フォトギャラリーはこちら


「コウシ・シマネ・コカジ!」の大きな声が天理大学のノンメンバー(試合に出ない部員たち)が座るスタンドから響く。この声援に応えるように、天理大学1列目の加藤滉紫、島根一磨、小鍛治悠太がスクラムを押す。すると、ゴールラインまで10m以上距離のあるポイントで組まれたスクラムは、ゴールライン前2mのところまで押し込まれた。
スクラムを押し込まれた帝京大学FWがコラプシングの反則をとられ、戸田京介レフリーは天理大学にペナルティートライを与えた。前半19分、これでスコアは帝京大学0-12天理大学となった。
今年の帝京大学はスクラムを強みとしてはいないかもしれないが、これほどまで一方的にスクラムを押し込まれてのペナルティートライは帝京大学FWには屈辱でしかなかったのではないか。

前半11分の天理大学の最初のトライも、スクラムでの天理大学のプレッシャーから帝京大学がアーリープッシュをとられ、そのフリーキックから天理大学が敵陣に攻め込み、最後はWTB久保直人がインゴールに押さえたものだった。
この日の天理大学は80分間、スクラムで優位に立って試合を進めただけでなく、ナイスタックルを繰り返し、得点力のある帝京大学アタックを止め続けた。

0-12のスコアのままとなっていた前半31分、帝京大学は敵陣でPKを得たもののショット(PG)は狙わずにラインアウトからのトライを狙う。帝京大学がラインアウトからのモールを押し込むが、モールからボールを出せず天理大学ボールのスクラムに。
しかし、帝京大学はもう1回ラインアウトのチャンスを得て、ゴール前でのフェーズを重ねる。
帝京大学のLO秋山大地、今村陽良らが次々とポイントを作り、FB竹山晃暉からCTB本郷泰司へとボールをつなぐが、天理大学は大柄なLOアシペリ・モアラやNo.8ファウルア・マキシだけでなく、共に身長167cmと小柄なFL岡山仙治、佐藤慶らも次々とナイスタックルを決める。このアタックでも帝京大学は我慢を続けられずにオーバーザトップの反則をとられ、帝京大学は前半に得点ができないまま0-12のスコアでハーフタイムとなった。

帝京大学にとっては前半開始早々、司令塔SO北村将大が天理大学CTBシオサイア・フィフィタにタックルに入った際の負傷で交替となったことが痛かった。しかし、後半、帝京大学もBKによるスマートなアタックを見せた。
後半4分、ラインアウトを得た帝京大学が敵陣内でフェーズを重ねてアタックを続ける。ボールをWTB奥村翔—CTB本郷泰司とつないだところで本郷が天理大学ディフェンスに捕まったが、FB竹山晃暉がうまくカバーに入ると竹山が天理大学のディフェンスラインをよく見て、その裏にグラバーキック。これを帝京大学の切り札右WTB木村朋也がチェイスし、インゴールに転がったボールを押さえた。
帝京大学のチャンスメーカーである竹山とトライゲッター木村の息の合った見事なトライだった(7-12)。

しかし、天理大学の好ディフェンスの前に帝京大学は得点チャンスを続けることはできず、逆に天理大学がスクラムでの優位性を生かして得点を重ねていった。
後半13分、帝京大学のスクラムコラプシングから敵陣ゴール前でのラインアウトを得た天理大学は、モールからのトライを狙う。LOアシペリ・モアラ、No.8ファウルア・マキシと大柄なFW選手が核になってゴールラインに迫るが帝京大学FWもよく止める。しかし、最後はCTBのシオサイア・フィフィタまでもがモールに入り、フィフィタがボールをキープしてモールをプッシュ。モールサイドをフィフィタがゴールラインに飛び込んだ(7-19)。
天理大学は後半18分にもスクラムをプッシュして余裕のあるボールをBKに回すと、WTB久保直人がゴール前までボールを運ぶ。久保はゴール前で捕まったが、ゴール前のラックからNo.8ファウルア・マキシがうまく体をかわしてゴールポスト下にボールを押さえ(ゴール成功)、7-26とすると、残り時間と点差から勝負が見えてきた。

SO北村を前半開始早々に負傷交替で欠いている帝京大学は、後半、9番小畑健太郎をSOに下げるとバックス全体の動きは良くなったものの、天理大学のバックスラインもタックルを繰り返し、決して帝京大学にトライチャンスを与えない。
天理大学は後半29分にPGで3点追加し、勝利をさらに確実にする。最後の10分間は帝京大学がよくボールをキープしてアタックを続けるが、これに対し、天理大学はFWもBKも全員がタックルしては起き上がり、またタックルに入るという飽くなきタックルを続け、この大事な試合の勝利をつかんだ。

帝京大学は第46回大会から続いていた大学選手権連覇記録が「9」で途絶える結果となってしまった。一方、天理大学は当時の立川理道主将が決勝で涙をのんだ第48回大会以来、7年ぶりの決勝進出となった。天理大学は1月12日に初の大学日本一をかけて明治大学と戦う。(正野雄一郎)


■帝京大学

岩出雅之監督

「相手の素晴らしいラグビーが、全ての敗因に繋がったと思います。スクラムやスタンドオフの早々の退場など、細かなことが影響したとは思いますが、何よりも今日は、天理大学さんの素晴らしいラグビーをチーム全員が感じたと思います。決勝戦に出られる2チーム、明治大学さんと天理大学さんは、今日の素晴らしい出来を見ていると、学生ラグビーの最後の決勝戦として期待が持てると感じています。
相手チームに挑戦した選手には、よく頑張ったとほめてあげたいと思います。終盤には得点上では厳しい状態でしたが、力を振り絞ってよく頑張っていたと思います。選手はロッカールームで泣いていましたが、今まで多くのチームの涙を見てきましたので、我々も同じように涙して、次に笑えるよう頑張ろうと選手には話をしました。選手の頑張りをうれしく思います」

——スタンドオフの北村選手が早々に交替となりました。また、前半と後半にスタンドオフを交替しました。北村選手がいないケースをどの程度想定したのでしょうか。今日の試合ではどのように対処したのでしょうか。

「怪我はつきものなので、北村がいないケースも考えていましたが、代わりの選手をウィングで使っていたので、交替の選手としての準備は、いつもの試合のようにリザーブから代わることよりかは少し劣っていたと思います。想定はしていましたが、ウィングで使っていたことで本人のリズムも少し違っているようで、動きが若干違っていたのと、リズムが合わされやすいということや、目の前の反応に対して難しそうだったので途中で代えました。
北村は強烈なヒットを受け、本人は(プレーが)できそうな感じでしたが、ドクターストップがかかりました。残念だったと思います」

——9連覇で止まりましたが、止まるということは考えていたのでしょうか。

「負けることを試合前から想定はしていません。きちっとしたチームに仕上がるよう、今年も準備してきました。細かなところ、特にスクラムは思っていた以上に押されました。我々の出来、不出来より天理大学さんの出来が良かったと勝者をたたえたいと思います。
当事者は連覇を望みますが、それを止めるために多くのチームが挑んでくるわけですから、そこを超えていくことに一層の醍醐味があり、成長があると思います。一年一年積み上げてきましたが、連覇が止まったことを悲しいこととしてではなく、4年生は次のステージで、後輩たちは本当の悔しさを大切にして、挑戦する姿勢を高めてほしいと思っています。結果は取り戻せませんので、前を向いて育ってくれることを期待します」

秋山大地キャプテン

「今日の試合では、1年間準備してきたことを100%出し切ろうということで臨み、内容としては100%出し切りました。残念な結果になりましたが、グラウンドに立ったメンバー、立てなかったメンバーも含め、帝京大学全員で戦った結果が今日の結果です。共に戦ってくれた仲間を誇りに思います。この結果をしっかりと受け止めて、4年生はこれから、1、2、3年生は来年につなげてほしいと思います」

——スクラムで苦しんでいましたが、相手の強かったところ、またうまく対応できなかった点を聞かせてください。

「天理大学さんのスクラムは、まとまりと低さがあり8人で組んでいて、一度当たってからのセカンドプッシュが強く、そのまとまりで帝京の8人が崩されたという感覚です」

——天理大学のディフェンスをどのように感じていましたか。

「天理大学さんは前に出てきて、二人で仕留めるという印象でした。帝京が走り続けることで、バテてくると思い頑張っていましたが、天理大学さんは粘り強く80分間ディフェンスしていたと思います」


■天理大学

○小松節夫監督

「帝京大学さんの10連覇がかかっている中で、チャンピオンチームとして相当な圧力をかけてくると予想していました。監督さんもコメントの中で厳しさを出していく、と仰っていたので、それがどの位のものなのかを感じながらゲームに入りました。前半は風下でしたが、イーブンに試合ができていたので手ごたえを感じながらも、スペースを与えすぎていました。帝京大学さんはアタックしだすとテンポ、スピードがあり、止めることが難しくなるので、規律を守り、しっかりとディフェンスしようということで後半に入りました。結果として、規律あるディフェンスの力が勝利につながったと思います」

——大学日本一には、今まで同志社大学以外は全て関東のチームがなっています。打倒関東ということで特別なチーム作りをされたのでしょうか。

「元々は打倒関東と思っていましたが、最近は打倒東海大学や打倒帝京大学と、具体的に目標を定めています。大括りの『関東』ということではなく、帝京大学さんに勝つにはどうしたらよいかということで、ここ数年は活動しています」

——帝京大学に勝つために、具体的にどの部分で、どのように練って臨んだのでしょうか。

「帝京大学さんと試合をすると色々な学びがあります。夏合宿では一人ひとりの強さ、体幹の強さ、ブレイクダウンの強さを感じました。今日の試合ではそのブレイクダウンのところにこだわり、1対1で負けない、あるいは二人で来るところには二人で、三人のところには三人でと、夏合宿の経験から、特に接点のところで負けないようにしました。大東文化大学さんの時は“スクラム”で、今日は“ブレイクダウン”です」

——夏とは違う帝京大学に対して、選手の対応力についてはどのようにご覧になりましたか。

「選手は肌で感じていたので、指摘するまでもなくわかっていました。試合前にもその点は意識できている、と感じていました。ゲーム中も慌てずにその点にはこだわり、どんどんリロードして、起き上がり、前に出ることを実践してくれていました」

——決勝戦ではどのようなゲームをして勝ちたいですか。

「明治大学さんとは春、夏と2回ゲームをしていずれも勝ちました。ですが我々としてはそれを忘れ、明治大学さんも対応をしてくるでしょうから、決勝戦までにしっかりと準備をしたいと思います。我々が、いかにチーム力を出せるかにかかってくると思います。今日は相手が帝京大学さんで、大観衆の中でチーム力を出せるかがポイントだと思っていましたがそれをできたと思っています。決勝戦でも、もう一度しっかりと自分達の力が出せるよう、準備していきたいと思います」

——以前は、関西のチームが秩父宮ラグビー場に来ると、周りの観衆や慣れない雰囲気に浮ついたところがあるように感じましたが、今日は、最初から非常に落ち着いて見えました。どのように変化されたのでしょうか。

「天理大学は2年前にもここ(秩父宮ラグビー場)でやっています。慣れていないメンバーもたくさんいましたが、天理大学ラグビー部としては浮き足立ったり、緊張したりすることはチームとしては超えているということを、昨夜、選手に話をしました。それは今までの先輩たちが体験、経験してきてくれたことなので、自分達は天理大学ラグビー部だという意識をしっかりと持って、戦いましょうと話をしました」

——帝京大学を倒した選手にどのような言葉をかけますか。また、これからの10日間をどのように調整するのでしょうか。

「帝京大学さんに勝てたことは大きいですが、天理大学としては日本一を目指してやってきています。決勝に向けての準備が大切なので、その点を引き締めていくようにと声をかけたいと思います。決勝戦までに10日間あります。けが人もいますので、しっかりと調整しながら良い準備をしていきたいと思います」

島根一磨キャプテン

「今日の試合は、日本一になるための大きな壁だと思って戦いました。その中でディフェンスとブレイクダウンを意識して試合に臨みました。前半の最初など自分達が勝負をしにいった時に得点につながりましたし、ディフェンスに回った時でも、しっかりと全員が戻って体を張り、何度も起き上がり、リアクションをしてもう一度ディフェンスするという意識で、前後半にわたってプレーできたことが勝因の一つだと思います。また、自分達が自信を持っているスクラムでプレッシャーをかけられたことも良かったと思います」

——スクラムのどこが良かったのでしょうか。

「マイボールの時に8人が低く、一つになってプッシュして前に進むことができたことが良かったと思います」

——前回の大東文化大学戦と比べると、最初から最後まで集中しているように感じました。どのような変化があったのでしょうか。

「天理大学のチームカラーはディフェンスですが、その部分が大東文化大学戦ではできておらず簡単にトライを獲られる、もしくは受けてしまうという反省がありました。そこをもう一度見直しました。特に自陣ゴール前あるいは相手が22メートル内に入って来た時に簡単に獲らせない、という意識を強く持ちながら練習してきました。それがこの試合で出たのだと思います」

——決勝戦ではどのようなゲームをして勝ちたいですか。

「自分達が自信を持っているところで勝負をしにいきたいと思います。相手も強みを出してくるので、しんどい展開にもなると思いますが、今日の試合のようなしんどい状況に耐え、修正することを心がけてやっていきたいと思います」

——以前は、関西のチームが秩父宮ラグビー場に来ると、周りの観衆や慣れない雰囲気に浮ついたところがあるように感じましたが、今日は、最初から非常に落ち着いて見えました。どのように変化されたのでしょうか。

「たくさんの経験をした選手もいますし、自分達も大学選手権の経験がありますのでそれが生きた、ということもあります。昨夜選手だけで行ったミーティングでも、大観衆となることは想定済みでした。しっかりとイメージすることで、本番で落ち着いてプレーすることができたのだと思います」

——帝京大学には、高校時代に対戦した御所実業高校出身の竹山選手らがいます。そういう選手へのライバル意識はあったのでしょうか。また、去年の成績の関係で関西勢の出場枠が減りました。チャンピオンチームとして勝っていかなければ、という思いはありましたか。

「竹山選手や菅原選手のことはライバルとして戦ってきました。高校時代、自分達は負けて花園に出場することができませんでした。自分の中で悔しさはありましたが、もう高校生ではないので、天理大学として、今まで勝てなかった帝京大学さんを倒しにいく、という気持ちでいました。また関西勢の出場枠については、京都産業大学や立命館大学の主将からメッセージをもらいました。“チーム関西”として戦ってきたので、もちろん強い思いはありました。関西と関東で差があると思われがちですが、関西も切磋琢磨して戦っています。来年の関西のチームもしっかり戦ってくれると思います」

——竹山選手に勝った今の気持ちを教えてください。

「竹山選手はいいライバルだと思っていますので、帝京大学さんを倒すことができて自信になりました。最後に『勝ってくれ』と言われたので、自分達の目標である日本一に向けて頑張っていきたいと思います」