チャンスを生かしきれず、悔しい逆転負け
歴史を変える戦いは次週、東京・秩父宮で

(text by Kazuhiro Tamura)

photo by H.Nagaoka
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 好天に恵まれた大阪・近鉄花園ラグビー場のスタンドは、2万152人のファンで埋め尽くされた。熱気が充満したピッチでは好ゲームが展開された。

 オーストラリアに遠征中のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに15名の主力が参加しているとはいえ、今年のシックスネーションズで優勝したウェールズを迎えての『リポビタンDチャレンジ2013』。日本代表は6月8日に行われた第1テストで18-22と肉迫した。

 豪雨だったこともあり、ジャパン・ウェイをほとんど出せなかった『IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)2013』第2戦、対フィジーから1週間。桜のジャージーの男たちは不安定だったセットプレーを立て直し、タックルを繰り返した。

 先にゲームの流れをつかんだのは日本代表だった。前半15分、20分とFB五郎丸歩がPGを決める。22分、28分にSOダン・ビガーにPGを決められ同点に追いつかれても、前にでる意志は保ち続けたから勢いは衰えなかった。

 同点で迎えた前半37分には、攻め込んでつかんだチャンスをものにした。ウエールズ陣深くで行われたラインアウトでサインプレーが見事に決まる。FLマイケル・ブロードハーストがライン際の僅かなスペースを切り裂き、11-6とふたたびリードを奪って前半を終えた。

 攻守で前へ出る戦い方をリードしたのはハーフバックスだ。スーパーラグビーのハイランダーズで活躍し、このシリーズからチームに合流したSH田中史朗と、インサイドCTBから上がったSO立川理道。立川は「自分でもフラットにボールをもらって仕掛けようと思ったし、キレのある両CTB、速いWTBをどんどん使っていこうと思っていた」と語り、田中のことを「判断力、FWの動かし方がさすが。久しぶりのSOのときにフミさんとコンビを組めてよかった」と振り返った。

 PNCでのトンガ戦、フィジー戦では立ち上がりにペースを失った。見違えるような戦いを実践できたのは、目の前の闘争に集中したからだろう。選手たちは繰り返しててきたアタックシェイプの形成と組織的防御を意識の中に持ちながら、それより先にファイトした。田中がラックに頭を突っ込む。レベルズで揉まれているHO堀江翔太が、赤い壁にも怯むことなくボールを前に運ぶ。周囲も続いた。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が「選手たちの努力を誇らしく思う。誰もが、歴史を変えようとプレーしていたと感じた」と振り返ったように、その気迫にウェールズは押されていた。いい空気で後半を迎えられた。

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「日本は思った以上の力があった」(ウェールズ代表マクブライドHC)

 しかし、それでも後半に逆転されたのは、チームが正しい方向に歩いてはいても、まだまだ道の途中にいる何よりの証拠だろう。ジョーンズHCはその現状を、「テストラグビーとは、いかにチャンスをつかむかが大事。タフなプレーを続けることが、一貫性を持つことにつながる」と表現した。

 後半に入って、より一層オーソドックスな戦い方を貫いたウェールズに対し、日本代表は細部を詰め切れなかった。

 2分、11分に得たPGのチャンスをFB五郎丸が逃す。相手は6分、19分にSOビガーがきっちりとPGを蹴り込んで逆転すると(11-12)、23分には日本が手放したボール(WTB福岡堅樹のショートパントを切り返された)を攻め、僅かなチャンスをWTBハリー・ロビンソンのトライに結びつけた。日本代表は29分にスクラムから攻撃を継続させて、WTB藤田慶和のトライを呼んだものの、38分にもPGを許して結局届かず。福岡は「判断能力が足りなかった」と唇を噛んだ。

 史上初めてのウェールズ戦勝利に近づけた80分。NO8菊谷崇主将は、「悔しい。得点につながるチャンスを自分たちで活かせなかった」としながらも、「このまま1週間過ごしても仕方ない。切り替えて、来週は成長した姿を見せられると思う。花園で、これだけの人たちの前でプレーできたのは誇り」と語った。壁を破ることはできなかったけれど、手応えを感じたからこその言葉だ。

 誰よりも闘争心を見せた田中は、「負けは負け」と勝負師らしい視点で試合を振り返り、「前半にいい形を作れたが、そこで取り切れなかった。もう一歩(相手より)動けていれば取れたはず」。もっと集中し、もっと走る。日本代表が勝ち切るには、その道しかないことを強調した。その思いは、「いいプレーもあつたけど、勝てずに悔しい。どれだけ接戦でも、(負けたら)歴史は変わらない。ジャパンの方がチャンスはあったけど、少ないチャンスを生かし切ったウェールズが勝った」と淡々と語った藤田も同じだった。

 ウェールズ代表のロビン・マクブライドヘッドコーチは日本代表を評して、「思った以上の力があった。来週も心して戦う」と言った。1週間後のレッドドラゴンは、花園での何倍もの集中力で向かってくるのは間違いない。しかし、その舞台で歴史を変える勝利を手にしてこそ、進化する日本代表の姿は世界に発信される。そして、その後の加速が約束されるだろう。

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