エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ率いる日本代表はヨーロッパ遠征初戦となった10日のルーマニア代表戦に34-23で勝利した。欧州勢と相手の地元で戦ったキャップ認定試合では、1973年のウェールズ代表戦以来26戦目にして初という歴史的な白星。また、この試合でLO大野均が元日本代表ナンバー8伊藤剛臣と並ぶ歴代3位でFW最多の62キャップ目を獲得した。

(text by Kenji Demura)

photo by RJP
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 欧州の強豪相手のアウェー戦で、日本代表はこれまでにない安定した戦いぶりを見せた。「スクラム、スクラム、スクラム」。ジョーンズヘッドコーチは試合前日の公式記者会見でルーマニア代表の印象をこう評していた。警戒していた通り、後半32分にペナルティトライを奪われるなど、スクラムでは完敗。しかし、この日の日本代表はスクラム以外ではほぼ自分たちのラグビーを80分間続けた。

 「立ち上がりが良かった」とジョーンズヘッドコーチが振り返ったように、キックオフ直後から圧倒的な割合でボールを支配した。4分にルーマニアにPGを許したが、自分たちの攻めの型を守って確実にゲインラインを突破。耐えきれなくなったルーマニアが反則すると、FB五郎丸歩が確実にPGを重ねた。

 ルーマニアも日本のスクラムでの反則などに乗じて3PGを決め、前半のスコアは0-3、3-3、6-3、6-6、9-6、9-9、12-9と小刻みに推移した。日本は圧倒的にボールを保持して攻め続けていただけに、40分の五郎丸の4本目のPGで12-9とした後、さらに点差を広げてハーフタイムを迎えたかったはずだ。その試合の流れを決定づけるポイントで、日本代表は過去にはなかったような勝負強さを見せた。

 前半のロスタイム。しっかりと攻撃を継続して相手ゴール前に攻め込んだ。最後は、左オープンに回ったボールをCTB立川理道が左タッチライン際のナンバー8菊谷崇に大きな飛ばしパス。菊谷のトライで17-9として前半を終了した。「あのトライで、試合に勝つポジションに入っていくことができた」と、ジョーンズヘッドコーチ。折り返し前に試合の流れを完全につかんだトライを高く評価した。

 後半に入ると、ルーマニア代表はスクラムでの優位性を前面に押し出してパワーゲームを仕掛けてくる。ルーマニア代表FWについて「ボールを持たせると力技でゲインしてくる」と大野。それでも、「IRBパシフィック・ネーションズカップやトップリーグのレベルも上がっているので、フィジカル面で圧倒されることは少なくなった。いまのジャパンは強い相手に対してもボールキープすることができる」という大野の声を裏付けるように、日本代表は相手のパワーアタックを分断し、ボールを取り返せば、確実にゲインを切るアタックを続けて試合の主導権を手放さなかった。

 後半19分には、スクラムでプレッシャーを受けてマイボールを失い、一気にトライを許して16-17と1点差に迫られたが、10分後にモールにこだわってペナルティトライを勝ち取り、引き離す。しかし、32分、自ゴール前のスクラムで今度はペナルティトライを奪われ、再び1点差。それでも、最後まで焦ることなく自分たちのラグビーを貫き通した。

 「相手のペースになった時も、自分たちのやり方を信じ、それをやり通してくれた。よく我慢した」とWTB廣瀬俊朗主将。36分、相手陣10mライン付近のキック処理からフェイズを重ねて攻め続け、最後はWTB小野澤宏時が相手防御の綻びを突き破ってチーム3トライ目を挙げ、再び突き放す。その後のゴール、さらに終了間際のPGを、共に五郎丸が確実に成功。日本代表は34-23で歴史的な勝利をものにした。

 「新しい歴史をつくった。選手たちのハードワークと勇気を讃えたい」と、ジョーンズヘッドコーチ。もちろん。「取られたトライは2つともスクラムでのペナルティトライと言いたいくらい」と認識しているように、スクラムを筆頭に課題はまだまだある。

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 それでも、ラインアウトは自ボールを100%確保した。大野は「練習で、翔太(HO堀江)から『(留学先のニュージーランドの)オタゴ代表とジャパンでは、ラインアウトの時に手の平ひとつ分くらい差がある』と指摘された。そこで翔太のレベルを下げるのではなく、ジャパンが世界のレベルに追いつくようにしようと、一段と工夫するようになった」という。また、バックスの課題の一つと考えられていた地域獲得のための戦術的なキックでは、本人が「神がかっていた」と振り返る五郎丸のキックがモールでのペナルティトライ獲得につながるなど、随所に効果的なプレーが見られた。

 この日、日本代表は後半25分にPR山下裕史を畠山健介、LOトンプソン ルークをマイケル・ブロードハーストに替えるまで、先発メンバーのままで戦い続けた。15人全員がしっかり自分の役割を果たしていた証拠でもある。「スタートの15人はとてもいいプレーを続けてくれたし、最後の15分間で入ったメンバーもいい仕事をしてくれた」とジョーンズヘッドコーチ。まさに、チーム全員で勝ち取った欧州での歴史的1勝だった。

 試合後、廣瀬主将は「このチームとして新しい一歩を踏み出せた。でも、大事なのは欧州で2勝すること。今日は勝ったことをしっかり喜び、明日からは切り替えて、グルジア戦に向けて練習していきたい」。ブカレストで確実に進歩した姿を見せて歴史的な勝利を手にしたチームは、一瞬だけ歓喜の夜を過ごした後、翌朝には次なる戦いの場であるトビリシに向かった。

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