注目度上昇中のウィルチェアーラグビー
日本代表が語る競技の魅力とリオへの抱負

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第64回が6月30日、東京都港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。今回はウィルチェアーラグビー日本代表の池崎大輔氏、今井友明氏、島川慎一氏(以下、文中敬称略)を招き、「いざリオへ ウィルチェアーラグビーの激しさと魅力」というテーマで講演が行われた。

■ウィルチェアーラグビーってどんな競技?

まず話題は6月23~26日に行われ、日本が銅メダルを獲得した「2016カナダカップ」に及んだ。日本は現在、世界ランキング3位となっているが、この大会で史上初めて世界1位のカナダに勝利した。今井は「ミスが少なかったことが勝因」と語り、島川は「チームの力を出せた」と手応えを口にし、冒頭からリオに向けた調整が順調であることをうかがわせた。

講演では、ウィルチェアーラグビーの紹介動画や選手たちの実演を交えて、まずはどんな競技なのかを紹介した。ウィルチェアーラグビーはバスケットボールと同じ広さのコートを使い、1チーム4人で行われる。ボールもラグビーで使用する楕円形のものではなく、バレーボールを基に開発された専用球を使用する。選手がボールを持ち、決められたゴールラインの上に達するか、通過すると得点となる。

選手たちには障がいの度合いによって決められた「持ち点」があるのも特徴で、0.5点~3.5点までの7段階に分かれている。4人の合計点は8点以内に抑えなければならない。女性が一緒にプレーすることもでき、女性のプレーヤーが入ると、合計点が1人につき0・5点上乗せされる。障がいの度合いや性別に関係なくプレーできるようルールが工夫されている。

■2種類の車いすとそれぞれの役割

車いすにもオフェンス用とディフェンス用があり、障がいの比較的軽い選手はオフェンス用、重い選手がディフェンス用に乗る。講演では、持ち点が3.0でオフェンス用の車いすに乗る島川と、1.0でディフェンス用の車いすに乗る今井が自身の乗る車いすを例に、それぞれの特徴と乗りこなす選手たちの役割を説明した。

ディフェンス用の車いすには前方にバンパーと呼ばれる箇所があり、車いすにひっかけて相手の突破を妨害することができる。今井は、「速く動くのが難しかったり、ボールを持つことは少ないけれど、ボールを持っていないプレーヤーを生かす動きであったり、スペースを作る動きをやっている。地味なプレーだけれど、それがゴールにつながる」と自身が担う役割の魅力を語った。

■車いす同士の激突に、会場がどよめく

そしてウィルチェアーラグビーの最大の特徴は、車いす競技の中で唯一、車いす同士がぶつかることが認められている競技であるということだ。講演でも池崎と島川が実演し、勢いをつけた池崎が島川の車いすにぶつかると、会場には激しい衝突音が鳴り響き、会場はどよめいてこの日一番の盛り上がりを見せた。池崎は「(全力の)半分ぐらい」と語ったが、タックルを受けた島川がつんのめるほどの衝撃だった。司会の松瀬学氏からはけがを心配する声も聞かれたが、池崎は車いすが体を守ってくれていることを強調した。

国際試合では日本人よりもさらに大柄な選手たちに突進される。試合中にタイヤがパンクすることもよくあるのだが、そういったタックルから守ってくれるのが前述のディフェンスの選手たちだ。そういった体の大きさや機能の違いを、チームワークや頭を使った相手との駆け引きで補えることも、ウィルチェアーラグビーの大きな魅力となっている。

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■リオに向けた意気込みと期待すること

競技の魅力を説明し終えると、話題は9月に行われるリオデジャネイロパラリンピックへと移った。日本は2004年のアテネ大会で8位、08年の北京大会では7位、12年のロンドン大会では4位と、着実にメダルへと近づいている。ロンドン大会にも出場した池崎は4位という結果について「悔しいという言葉しかない」と語り、リオに向けては「メダルを勝ち取るためにやってきている」と意気込みを語った。

リオに向けてポイントを聞かれると、今井は「自分たちがミスをしないこと。自分たちに勝てるかどうか」と語った。島川も今井と同様の見解を示し、「今の代表は絶対に勝ちにいけるチーム。自分たちの実力が出せれば結果はついてくる」と自信をのぞかせた。

最後に、選手たちはリオをきっかけに、ウィルチェアーラグビーを「純粋にスポーツとして楽しんで見てほしい」と語った。障がいがあることは関係なく、競技スポーツとして結果を追い求めること、アスリートとして競技に取り組む姿勢を見てもらいたいと願っている。池崎は「見て感じる部分がたくさんあると思うので、まずは見に来てほしい。ウィルチェアーラグビーをもっともっと知ってもらいたい」と呼びかけて、第1部の講演を締めくくった。

■諦めずに、チャレンジし続けることが重要

講演に続いて、松瀬氏と会場からの質疑応答が行われた。以下は質疑応答の要旨。

——モットーにしている言葉は何か?

池崎「『挑戦』です。何をするにしても楽なことばかりではないし、できることばかりでもない。自分が成長して高めていくためにはできないことにも挑戦しなければならないし、できることもより精度を高めていかなければならないと思っています」

島川「『Never give up』です。長い競技人生の中で楽しいこともつらいこともありましたが、諦めないことによって道を切りひらいてきたと思っています。常に諦めないでいれば、常に前を向いていられる。これからもこの気持ちを持ったまま突き進んでいきたいと思います」

今井「『為せば成る』です。何事もやらなければ達成できない。常に走り続けないと結果は出せないと思うので、試合に向けての準備もそうですし、試合中もしっかり汗をかかないと勝利をつかめないので、そういう意味を込めてこの言葉を選びました」

——切実に必要なサポートは何か?

池崎「まずは練習する場所が必要です。ウィルチェアーラグビーは転倒もするし、床に傷がつくこともあるので、いろいろな制限があるので場所の確保が難しい。場所があればもっと練習ができるのではないかと思います」

——車いすの車輪が斜めについている理由は?

今井「斜めになっているのはターンをしやすかったり、左右に動きやすいからです。当たった衝撃に耐えやすい、バランスを取りやすいという理由もあります」

——1チームは何人で構成されていて、日本には現在どのくらいチームがあるのか?

島川「ベンチに入れる人数は12名。その中でラインアップを変えながら4人が出場します。交代人数の制限はなくて、ボールがデットになっていれば自由に交代ができます。国内には11チームあります。もう少し増えてほしい気持ちもあるので、パラが終わったあとは普及活動をして選手を発掘したいですね」

——体格差やスピードの差をどう埋めるのか。当たり負けない技術とは?

池崎「車いすは前後に移動しますが、横にはなかなか動かないので、車いすの側板で受ける技術があります。あとはフェイクを使って、かわしたりすることもあります」

——ウィルチェアーラグビーにおける日本人選手の特徴とは?

島川「スピードは他の国よりも速いと思っています。あとは細かな技術は日本の方があると思いますね。パワーだけで戦うチームもある中で、細かく戦略を詰めてやっているのは日本の強みだと思います」

今井「体格が大きいほうが有利だとは思いますが、速く動かなければいけないので、重さと速さを兼ね備えた選手が一番強いです」

■目標は金メダルと明言

——パラリンピックでライバルになりそうなチームの特徴を教えてほしい。

今井「カナダはミスをしないチームなので、バランスがいいチームです。オーストラリアは世界トップレベルの選手がいて、その選手たちのパワーがすごいです。米国は全員のパワーとスピードがあるので、こちらもバランスが取れたチームです。自分たちがミスをしないようにしないと、勝てない3チームです」

——練習はどのくらいやるのか?

池崎「僕は週に5~6回ぐらいです。筋力トレーニングをやりながら、所属チームの練習もあります。ほぼ毎日ですね」

——試合時間はどのくらい? 1試合で何点ぐらい取れば勝てるのか?

島川「試合時間は8分の4ピリオド制です。ボールがデッドのときは時計が止まるので、1試合で大体1時間半~2時間ぐらいですかね。点数は50~60点ぐらいです」

——施設以外でこれから必要だと思うサポートは?

島川「車輪に松やにを使っているので、練習をするとタイヤの跡などで汚れがつきます。今は練習が終わったあと、選手たちが1時間半ぐらいかけて掃除しているので、そこを手伝っていただけるボランティアの方がいればうれしいです」

——パラリンピックの目標は?

池崎「勝負であり、勝ち負けがあり、順位が決まる以上は世界一を取りたい。金メダルを目標にしてやっています」

今井「目指すところは頂上なので、みんな同じだと思いますが金メダルを取りたいです」

島川「本当に負けるという言葉が大嫌いなので、金メダルです」

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■あなたにとってラグビーとは?

今井「『生活の一部』ですかね。これがないと生活にハリはないというか、すべてのことがラグビーに向けてやっているようなものです。今は栄養指導も入っているので、ご飯を食べることもそうだし、トレーニング環境も変わって仕事もトレーニングがメーンになってきているので、ラグビー自体が生活の一部です。なくてはならないものですね」

島川「いつも答えているのは『人生そのもの』。この競技をやっていなければ出会わない人、今まわりにいる人は出会わない人ばかりです。海外の選手やスタッフであったり、いろいろなところにも行ったし、本当に「人生そのもの」というしかないと思います」

池崎「ラグビーとは、家族みたいなものですね。すごく大事でなくてはならないものです」