リポビタンDチャレンジ2012 JAPAN XV-フレンチ・バーバリアンズ第2戦が24日、秩父宮ラグビー場で行われた。日本代表スコッドの選手で編成するJAPAN XVはエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が「最強メンバー」と評した顔ぶれで臨んだが、攻守に懐の深いフレンチ・バーバリアンズのプレーに圧倒され続けて18-51で完敗。欧州強豪チームに喫した大敗は「いま我々がどこにいるかを物語る」(ジョーンズHC)貴重な体験となった。

(text by Kenji Demura)

攻めながらのミスが響いて大敗も、自分たちのスタイルは貫く
前半終了間際のWTB竹中トライで逆転勝ちモードになったJAPAN XVだったが、後半引き離され18-51で大敗
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 若手メンバーがファイティング・スプリッツを見せられなかった第1戦での惨敗を受け、「しっかりと準備し、選手全員気持ちを入れて、グラウンドに立った」(LO大野均ゲームキャプテン)というJAPAN XV。4日前に圧倒され続けたセットプレーでも、ファーストスクラムでは逆にプッシュ。前半11分には早い球出しで自陣ゴール前のピンチを逃れるなど、第1戦の課題を修正しようとする意図が感じられた。

 「コンタクトレベルでも圧倒されているわけではなかったし、セットも前回よりも改善されていた」とFL菊谷崇。10分、キックチェイスから抜け出したフレンチ・バーバリアンズCTBユーゴ・ボヌバルがインゴール直前で落球するなど幸運な面もあったが、20分過ぎまで失点はPGのみという一進一退の展開が続いた。

 開始10分間で2トライを重ねられた第1戦と比べ、しっかりとした試合の入りができたはずのJAPAN XVだが、この後、IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)から課題だった時間帯に失点を許し、主導権を失う。25分、フレンチ・バーバリアンズが自陣深くからカウンターアタック。WTBオリー・フィリップスが大外を大きくゲインして足にかけたボールを、15分前には安易なノックオンでトライを逃していたCTBボヌバルがしっかりインゴールで押さえて初トライを挙げた。30分にもSOピエール・ベルナールのキックからSHティエリ・ラカンプが同じようにトライを奪い、28分に五郎丸歩がPGを決めたのみのJAPAN XVとの差を広げた。

 試合前、「ファーストクラスのチームと対戦した時、相手が得点を挙げるのは25分から50分にかけて。この時間帯をいかに乗り切っていくかが課題」と話していたジョーンズHCの分析通りとなる悪い展開。それでも、前半終了間際に飛び出した若武者によるビッグプレーで、日本は「勝つポジションに入った」(ジョーンズHC)状態でハーフタイムを迎えることになる。

「プレースタイルの確立に関しては大きな進歩があった」(ジョーンズHC)

 前半40分が経過した後に自陣深くでPKを得た日本は、SH日和佐篤が迷わず速攻を仕掛ける。CTBニコラスライアンを経由したボールは右WTB竹中祥へ。「スペースはあったので、自分で勝負できると思って必死に走った」という19歳のスピードスターは、期待通りにタックラーを振り切って約80mを独走。後半の逆転に望みをつなぐ追撃トライを決めた。

後半17分にはLOブロードハーストもトライを挙げたが、攻めながらのミスが響いて追いつけず
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 点差をひと桁に縮めて迎えたハーフタイム。ジョーンズHCは「プレッシャーをかけていくために、ボールをキープし続けること」を指示して選手たちを後半のピッチに送り出した。後半3分に五郎丸がPGを加え、点差は1トライ1ゴールでひっくり返る6点差に。逆転への期待は高まったが、この後、ジョーンズHCの指示とは裏腹に、セットでもブレイクダウンでも後手に回る時間帯が続く。自分たちのペースで攻められない中、9、12分とフレンチ・バーバリアンズにPGを重ねられる。さらに15分、停滞し始めた攻撃のバリエーションを増やすために先発SO小野晃征に替わって5分前から途中出場していた田村優のパスをSOベルナールにインターセプトされ、独走トライで点差を広げられた。

 JAPAN XVも直後に自陣10m付近のラインアウトからナンバー8ヘンドリック・ツイが大きくゲインしてオフロードでCTBニコラスにつなぎ、さらにフォローしたLOマイケル・ブロードハーストへとボールが渡ってトライ。五郎丸のゴール成功で18-30としたが、反撃もここまで。PNCでは最後の20分間はフィットネスで相手を上回って追い上げる試合もあった日本代表だが、今回は終盤に3トライを重ねられ、最終的には18-51での大敗となった。

 スコアでは第1戦(21-40)よりも点差が広がったが、試合後のジョーンズHCの表情は4日前とは全く違うものだった。「今日は選手たちのことを本当に誇りに思う。フレンチ・バーバリアンズはその名に相応しい素晴らしいプレーを見せた。セットピースが素晴らしく、ブレイクダウンでのコンテストを最小人数で対応。そういう素晴らしいチームに対して、我々は勝者になるポジションまで行けそうだった」と、選手たちの頑張りを賞賛した。一方、大野ゲームキャプテンは「スキルなのか、個人の集中力なのか。ちょっとしたミスが出て得点に結びつけられないと、こういう国際試合では厳しい」と、敗因を冷静に振り返ることも忘れなかった。

NO8として定着した感のあるツイはこの日も度々ボールを前に運ぶプレーでチームに貢献した
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 フレンチ・バーバリアンズに奪われたトライのほとんどが、自分たちが攻めながらミスで失ったボールをカウンターから取られたものだった。「ミスさえなければ」の思いは、選手、スタッフ、そしてハーフタイム前後にはジャパンの逆転への期待感を高めたファンに共通するものだろう。「今日の結果はいま我々がどこにいるかを物語っている。今後はプレッシャーのかかる場面でコンスタントに高いスキルでプレーしていく能力を伸ばしていくことが必要だ」とジョーンズHC。現時点では、セットプレーでも、ブレイクダウンでも日本を上回るファーストクラスの相手のプレッシャーの前では、ミスを多発するのがジャパンの現実だ。

 スタートして3ヵ月のチーム。目標は3年後の世界トップ10入りだ。PNCからフレンチ・バーバリアンズと2試合を戦ったリポビタンDチャレンジ2012まで5連敗となったが、その中でもチームは確実に成長した。「今年やりたいと思っているのは、プレースタイルの確立。それが将来、競争力のある磨きがかかった部分としてチームの強みとなっていく。そのエリアには大きな進歩がみられた」とジョーンズHC。欧州最強レベルのスクラムと初めて対峙したPR長江有祐は「こういう相手もいるんだ、と本当にいい経験になった」と得たものの大きさを強調。フレンチ・バーバリアンズとの第1戦を除けばPNC以降先発の位置を守り続けたFL望月雄太も「ブレイクダウンのところでファイトできたし、通用する手応えを感じた」と胸を張った。

 「リスクを負ってアタックしているので、アタックし切らないといけない。でも、攻撃しよう、点を取りにいこう、という意思統一はできている。『これをしようとしたが、できなかった』というのが明確なので、次につながっていく」とWTB小野澤宏時。3年後の目標達成に向けて、着実に前に進んでいることが感じられる敗戦だった。

試合後の記者会見から

◎フレンチ・バーバリアンズ
○ロラン・トラヴェール コーチ

「試合については暑さについて言及せねばなりません。来日し、数多くの行事を組んでいただき感謝申し上げます。あれだけの気持ちを持ってJAPAN XVは戦ってくれました。満足すべき素晴らしいチームでした。賞賛したいと思います。前半はとても良い試合展開でした。守備、攻撃ともJAPAN XVは良かったと思います。我々の選手も良いタックルをしてくれて、ターンオーバーもしっかりできてトライを決めることもできたと思います。JAPAN XVに対してもバーバーズに対してもブラボーという声を掛けたい試合でした」

──エディ・ジョーンズHCからアシスタントを頼まれたら、どこから手を付けるのか?

「私としては、あのエディ、ですよ。あれだけの実績を残している方です。彼は、私たちが教えてもらう存在です。私はキャストル(自身の所属チーム)とバーバリアンズに力を注ごうと思っています」

この日が現役引退となった仏バーバリアンズHOセルヴァ主将は快勝に大喜びでこんなパフォーマンスも
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○ロラン・ラビ コーチ
「私どもといたしましては、今回のこの試合でしっかりと勝つことができたと言う事で大変な誇りに思っています。この勝利をしっかりと味わって、この勝利に満足したいと思いますが、今度の日曜日には大変な試合が待っていると言うことは分かっています。日本としてはプライドに賭けて次の試合を戦ってくるでしょうから私どもにとって難しい試合になるだろうと予想され、しっかりとそれに対して我々も準備してかからなければいけないと思っています」

○ウィリアム・セルヴァ キャプテン
ジャパンXVのチームに対して、あれだけの精神性を持って、そしてあれだけのクォリティを保ってこの試合を戦った事について心から賞賛したいと思っています。そして日本という国は年々その力を上げてきているチームでありますし、特にワールドカップでその力の進歩というものが見てとれます。次のワールドカップに向けても必ずや日本がその力を上げてくるだろと予想できます。そして私達フレンチ・バーバリアンズも、かなり良いゲームメイクをする事ができましたのでチームに対しても誉めてやりたいと思っております。やはり準備の時間があれだけ少なかったにも関わらず、しっかりとした精神性を持って今回の試合を戦うことができたという事で良い夕べとなりました。ありがとうございます」

──試合の総括を。

◎JAPAN XV

○エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ
「フレンチ・バーバリアンズはその名に相応しい素晴らしいプレーを見せた。彼らのファンダメンタルの部分は本当にしっかりしていた。セットピースが素晴らしく、ブレイクダウンでのコンテストを最小人数で対応してきていたのも、とても有効だった。そして、ターンオーバー・ボールから多くの点数を取っていった。我々にとって良かったことというのは、精神的に素晴らしい状態のチームと対戦できたこと。そして、そういうチームに対して、勝者になるポジションまで行けそうだったこと。残念ながら、イージーなミスによって、結果は伴わなかったが。でも、今日は選手たちのことを本当に誇りに思う。できる限りの対抗はしてくれたと思う。今日の結果はいま我々がどこにいるかの現実。ここから進んでいかないといけない。2年後のターゲットがこういうチームに勝つこと。そのためには、練習方法を考え直す必要があるかもしれない」

チームの成長に手応えを感じる最年長WTB小野澤は19歳の竹中に関して「速いし、元気なのも大事」と評価
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○大野均ゲームキャプテン
「まずはこういう機会を与えてくださった大正製薬さんをはじめ、ゲームに携わっていただいた全ての方に感謝いたします。今日のゲームに関しては、前回の敗戦を踏まえて、しっかりと準備し、選手も全員気持ちを入れて、グラウンドに立っていた。しかしながら、個人個人のパワーであったり、スキルであったり、そういう部分でちょっとずつ後手を踏み、このような結果になってしまったことを本当に悔しく思っている。ただ、下を向く必要は決してない。ジャパンはこれからどんどん伸びていくチームであると確信している」

──就任してからの3ヵ月で、達成できたこと、できなかったことをどう捉えているか。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「今年やりたいと思っているのは、プレースタイルの確立。それが、将来的に競争力のある磨きがかかった部分としてチームの強みとなっていく。そのエリアには大きな進歩がみられた。その点に関しては喜んでいる。今日は本当に自分たちよりいいチームに敗れた。スコットランドは豪州を7-6で破った。サモアは我々に27-26で勝った。そのサモアは1点差でスコットランドに敗れた。我々に足りないのは、コンスタントに力を出し続けること。その点は本当に進歩しなければいけない。セットピースのテクニックを上げること。そして、ストレングス&コンディショニングに関しては言い続けているとおり。プレッシャーのかかる場面でコンスタントに高いスキルでプレーしていく能力を伸ばしていくことが必要だろう。今日の試合で10点ビハインドの場面。キックオフはうまくキャッチしたが、その次のフェイズでボールを失った。いいチームはこういうミスをしない。次のレベルに進むためには、そういうところを進歩させていかなければならない」

──今日はクラッシュするポイントが外だった印象を受けたが、特別な指示があったのか。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「相手がとてもヘビーパックだったので、我々としてはアームレスリングのような戦いには持ち込みたくなかった。それで、ワイドな攻めをしていこうという意図はあった。チャンスはつくれたと思う。ただ、それをものにするだけのスキルがまだ足りなかった」

──相手にDFラインの裏にキックを蹴られてトライを取られたが。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「現在の問題点としては、アタックからDFへの移行がうまくいっていないという点もある。DFにおけるSHのポジションを見直していく必要があるかもしれない。いまはSHがトラディショナルな位置に入っているが、南アフリカのように第2FBのような役割を担わせることを考えていくかもしれない」

──若手の成長をどう考えているか。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「ヤングボーイの竹中(祥=WTB)は本当に凄いポテンシャルの持ち主。3年後、素晴らしい選手になっているはずだ。ひどい負け方はしたが、何人か大きな成長を果たした選手がいるのは間違いない。ゴロー(五郎丸歩=FB)は自分のフォームを取り戻した。竹中と藤田(慶和=WTB)は将来のWTBとして確かなものを感じさせた。晃征(小野=SO)、田村(優=SO/CTB)、立川(理道=SO/CTB)もみんな素晴らしい選手に成長していくだろう」

試合中、厳しい表情でJAPAN XVのプレーぶりを見つめるジョーンズHC。大敗にも手応えを強調していた
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──3年後のW杯へ向けて予定どおり進んでいると言えるか。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「いくつかの部分は時間がかかる。もちろん、今日敗れたことに関しては責任を取らないといけない。ただ、ストレングス&コンディショニングを8週間だけでインターナショナルレベルに引き上げるのは難しい。やはり、それは3年かかるものなのだ。自分たちが目指しているのはハイスキルゲーム。もちろん、それも時間がかかる。今日の結果に関しては全く嬉しくないが、いま自分たちがいる地点に関してはハッピーだと考えている」

──竹中のトライで追い上げてのハーフタイム。具体的に選手に指示したことは。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「勝つポジションに入ってきたことを選手たちには伝えた。前半、3回以上フェイズを重ねられたのは3度だけだった。プレッシャーをかけ続けるためにもボールをキープし続ける必要があるということは言った」

──選手たちが各チームに戻ってから期待すること。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「各チームがスタイルを変えてほしいとは思っていない。代表選手はインターナショナルなトレーニングを続けてほしいだけ。スキルレベルの持続性をキープしなければいけないので。今日のブレイクダウン。相手は基本的にひとりだけが入ってくるスタイルだったにもかかわらず、こちらはその回りの選手たちが頭を下げて入っていってしまったために、3、4人ブレイクダウンに入っていくケースもあった。数学的にはターンオーバーできるはずなんだが‥‥。2人目のプレーヤーが正しいエリアに入っていくことが必要。そういうスキルを持続的に伸ばしていく。各チームに戻っても、そういうインターナショナルプレーヤーとして求められるトレーニングを続けてほしい」

──ニュージーランドでITMカップでのプレーを目指している堀江(翔太=HO)と田中(史朗=SH)は11月のセレクション対象になってくるのか。

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「まずはITMカップでプレーしてもらいたいし、そこでいいプレーができるようであれば、2人ともいい選手であるし、可能性があるなら選考対象に入ってくるだろう」

──大野ゲームキャプテンは東芝に戻った時、ジャパンでプレーしてきたことでチームのプレースタイルを変えることになると思うか?

○ジョーンズ ヘッドコーチ

「(答えようとする大野を制して)間違いなくそうはならない。保証する。我々は府中の友人同士なのでよくわかる(笑)」

○大野ゲームキャプテン

「確かに、エディーさんの言うとおり、東芝のプレースタイルを変えることにはならないと思う。ただし、エディーさんの下でこの3ヵ月取り組んできた、ハイスピード、ハイフィジカル、ハイフィットネスという部分は東芝に帰っても意識してやっていきたい。それによって、またエディーさんの目に留まって、また代表に呼んでもらえるように努力していきたい」

試合後、日本代表SAKURA基金によって招かれた福島の子供たちが両チームの選手たちと記念写真を撮る一幕も
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