6月17日、「IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)2012」第3節、日本-サモア戦が行われ、前半30分までに2トライ、2PGを挙げ16-0とリードした日本だったが、中盤サモアにペースをつかまれて逆転を許し、終盤の追い上げもあと1点届かず、26-27で惜敗。日本は3戦3敗となったが、PNCでは初めてとなる対戦相手全てから勝ち点を挙げるなど、4月にスタートしたばかりのエディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる新生ジャパンにとっては、収穫の多い大会ともなった。
トライ数で上回るも1点届かず! 着実な成長を印象づけた惜敗
前半19分にトライを決めるなどボールを運ぶプレーでチームに貢献したNO8ツイ
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 FB五郎丸歩の2本のPGと、NO8ヘンドリック・ツイ、そしてFL菊谷崇のトライで前半30分過ぎまでは16-0。
 試合の中盤で失速して、サモアに3トライ、3ゴール、2PGを決められ、後半25分時点で16-27とリードを広げられたものの、終盤2トライを返して1点差での惜敗。
「トゥシ・ピシがいないことを除けば最強メンバーのサモアに対して、我々は素晴らしいスタートで立ち上がりは勝者のポジションにいたし、試合終了時点でも勝者になっていてもおかしくなかった。ただし、現実はまだ試合の勝者になるほどには優れてはいなかったということ。勇敢だった選手たちは賞賛に値する。ただ、結果が伴わなかっただけ」

 そんなエディー・ジョーンズヘッドコーチの総括は、後半37分に飛び出したWTB廣瀬俊朗主将のトライで1点差に迫った時には総立になり、直後の逆転を狙ったCTBニコラス ライアンのゴールキックがわずかに外れた際には大きなため息をついた、5386人の熱心なファンの多くが共有したものでもあったはずだ。

 トライ数では4本対3本と上回ったとおり、間違いなく勝てた試合であったことは確かだろう。
 勝ちきれなかったマイナス要因もあったが、4月にスタートを切ったばかりの新しいチームが自分たちのスタイルを貫き通して、最強のサモアを追い詰めたことを素直にポジティブに受け止めたい──ジョーンズHCが公言する2015年の世界トップ10入りに向けて、この先着実に歩を進めてくれそうな可能性を感じさせる惜敗だった。

 開始2分にサモアSOキー・アヌフェが距離のあるPGを外した後は、前述どおり日本ペースで試合は続いた。
 7分には、自陣でのキック処理からWTB小野澤宏時からFB五郎丸へとボールをつないで前に出た後、近場、近場と確実にゲインラインを切りながらフェイズを重ねて、サモアの反則を誘い、五郎丸のPGで先制。
 五郎丸が11分にもPGを重ねてリードを広げた後、18分にはサモアLOイオセファ・テコリがSO立川理道への危険なタックルでシンビン退場。
 この数的優位を確実に生かすかたちで、日本はリードを広げる。

CTBニコラスを中心にしたフロントスリーは攻守に安定したプレーでチームを引っ張った(左奥はSO立川)
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 19分、敵陣深く右サイドでのスクラムからSO立川とCTBニコラスのループでチャンスをつくり、WTB小野澤がゴールに迫った後、ラックからの素早い球出しからNO8ヘンドリック・ツイがサモアDFを打ち破ってインゴールに飛び込んだ。
「自分の仕事はボールを前に運ぶこと。チームメイトから『ボールを渡せば必ずゲインしてくれる』と信頼される選手になりたい」というツイだが、2試合連続でチームメイトを勇気づけるトライを記録して、十分に役割を果たせる存在であることを証明したかっこうだ。

 さらに、26分には敵陣22m付近のラインアウトから、ニコラス、仙波智裕のCTB陣がタテに相手DFを切り裂いた後、FW陣とSH日和佐篤が前に出てチャンスを拡大。左展開から仙波→小野澤→FL菊谷とボールをつないで、リードを広げた。
 この日が代表復帰後、初先発となった菊谷はサモアにいったん逆転された後の後半28分にも同じようなかたちから追撃トライを決める活躍ぶり。
 本人は「みんながボールを運んでくれたおかげ」と謙遜したが、ジョーンズHCは「ボールに対する嗅覚が素晴らしい」と絶賛。
 ただし、最終的には勝利の立役者にはなり損ねることになる、PNCを知り尽くす前主将が一番のポイントに挙げていた「ディフェンス」面の乱れもあって、この後サモアに27連続得点を許してしまうことになる。

「少しずつ自分たちの意図どおりになってきた」(廣瀬主将)

 31分にラインアウト→モールからチャンスをつくったサモアは、内側のスペースをハーフ団が連続して突破して初トライ。38分にもモールからトライを追加して、アッという間に2点差に追い上げてハーフタイムへ。
 後半に入っても、サモアペースは変わらず、1トライ、2PGを決められ、後半20分過ぎには16-27まで点差を広げられた。
「勝負どころでドライビングモールにBKが入ってきたり、サモアが試合巧者だということはわかっていた。相手の後半の入りがいいから、大事だという指示も出しが、経験のなさもあって徹底できなかった」(薫田真広アシスタントコーチ)

前半19分のNO8ツイのトライにつながる好走など攻撃面ではもちろん、ディフェンスコミュニケーションでも貢献大のWTB小野澤
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 それでも、4月2日の初集合以来、最後の20分間で相手に走り勝つことを目標に、徹底したフィットネス強化に取り組んできた成果を見せつけるかのように、終盤は再びペースをつかんだ日本が2トライを追加。
 後半、37分に右隅に飛び込んだWTB廣瀬主将は「(劇的な逆転勝ちという)シナリオどおりかなと思った」と語ったが、結局、トライの後のコンバージョンが1本も入らなかったことも響いて、あと1点届かなかった。

 4つのトライがいずれも日本らしくボールを動かした末のもので、いずれのゴールキックも難しい角度からだったこともあり、キッカーは責められないだろう。
 その一方で、勝負どころでのスクラムの反則やラインアウトでのノットストレート、あるいはノータッチキックなどのミスでチャンスを逃した場面もあったし、試合の中盤で流れが悪くなった時になかなかペースを引き戻せない点も厳しいゲームをものにしていくためには、克服すべき課題だろう。
 それでも、「少しずつ自分たちの意図どおりにボールを動かせるようになってきた」(廣瀬主将)という実感は、恐らくメンバー全員に共通するもののはず。

後半37分のWTB廣瀬主将のトライで1点差に追い上げたが、右隅からのゴールが決まらず逆転はならず
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「3連敗は残念だけど、フィジー、トンガ、サモアに対して3試合全てで勝ち点取ったのは初めて。それをほとんど日本人だけの若いメンバーでできた点はポジティブになれる。まだ、相手のペースになった時にはモロい面もあるけど、それは経験していくしかない」
 アジア5カ国対抗から全試合で先発出場を果たしてきた、PNCを知り尽くすベテランLO大野均は、そんなふうに現時点での手応えを口にした。

 トンガ戦を経て、課題のエリアとされていたフロントスリーに関して、ジョーンズHCが「10番(立川)、12番(ニコラス)、13番(仙波)のバランスが良かった」と合格点評価を与え、FWの強化ポイントとされていたバックロー陣も菊谷、ツイで3トライを記録するなど、期待に応えたかっこう。
 3年後のトップ10入りを見据えながら、一歩一歩成長していうことを印象づけたPNCでの成果をさらに先に進めるためにも、20、24日に控える「リポビタンDチャレンジ2012のフレンチバーバリアンズ戦でのパフォーマンスが重要になることは言うまでもない。

text by Kenji Demura

前半26分、後半28分(写真)の2トライなど、攻守に存在感を示したFL菊谷の貢献度も光っていた
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2年ぶり2度目のPNC制覇を決めたサモア。試合終了後には勝利を祝うシヴァ・タウも披露した
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