7人制日本代表・瀬川HCが語る「世界を驚かせる方法」

4月19日に開催された、東京都港区と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」に、7人制日本代表の瀬川智広ヘッドコーチ(HC)が登場した。

ラグビージャーナリストの村上晃一氏を進行役に迎え、東京セブンズ(3月31日・4月1日)で最下位に終わった日本代表の強化策について、瀬川HCが語った。

■「相手に捕まる前提」で試合を進め、自分たちの土俵に引きずり込む

瀬川智広氏
瀬川智広氏

村上氏:7人制の日本代表HCの話が来た時に迷いはありませんでしたか?

瀬川HC:東芝の15人制の監督をしていたので、7人制の話が来るとは思っていなかったです。五輪競技に決まったので応援したいとは思っていましたが、自分が指揮をとるとは正直、想像できませんでした。今は毎日7人制漬けですし、世界を驚かせたいと思ってやっています。

村上氏:今の世界の7人制をどう見ていますか?

瀬川HC:7人制が15人制に近づいていると感じています。15人制もラグビーをより速く、より面白くするためにルール的にも7人制に寄ってきていると思います。
 7人制の傾向としては、番狂わせも起きやすくなっています。ラスベガス大会では日本がスコットランドに勝ちました。東京セブンズで優勝したオーストラリアは香港大会ではプレートトーナメントで負けています。多くの国にチャンスがある競技になっているという印象です。

村上氏:東京セブンズでは「日本はこの競技では勝てないのでは?」と、差を感じてしまったが?

瀬川HC:まず、ボール保持率を上げないとダメですね。日本はボールを相手に奪われてから30、40秒でトライを取られてしまいます。ですから、トライを取られないためにはボールを相手に渡さないことが重要です。粘り強く守ることも課題ですし、セットプレーの安定も大きな要因になります。スクラムは1試合で平均4回、ラインアウトは2回、キックオフは7回あります。日本は全てで獲得率が低いので、このセットプレーでボールを確保するのが課題です。

村上氏:日本が勝つためにどのような方法をとりますか?

瀬川HC:セットプレーの安定がまずひとつです。また、世界のトップと戦う時に、長い距離を走ることについて優位性は生まれません。日本人は10、20メートルなら良い勝負ができます。そこで、「相手に捕まることを前提」で試合を進める必要があると思います。サポートの意識を持って、組織で戦います。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)をたくさんつくることがキーワードになります。

村上氏:相手に捕まることを前提にするということですが、コンタクトでも日本人は厳しいのでは?

瀬川HC:この話をすると、みなさんに「間違っている」と言われます。ただ、単純にぶつかるのではなく、有効な当たり方をして、自分たちの土俵で戦いたいと考えています。
日本人は「寝て、起きて」という動きが得意です。逆に外国人勢は倒れることを嫌います。そこで日本は相手にタックルさせて、両方が倒れる状況をつくります。そして相手より早く起きて、というプレーを繰り返して、こちらの土俵に引きずり込みます。

そのためにまず「ゲインラインに仕掛ける」。スペースに走るよりも、ギャップに走り込んでゲインラインの裏に出たボールキャリアに対して相手にタックルをさせることで、タックラーも倒れる状況をつくり出します。そしてラックからクイックボールを出して勝負します。

東京セブンズでのラック回数を見ると優勝したオーストラリアが1番多く、強豪国のニュージーランド(NZ)は16番目、フィジーは15番目です。ボール保持率もオーストラリアが1番長く、NZは11番目、フィジーは16番目となっています。NZやフィジーはボールを持ったら一気に走り切るだけのスピードがあるので、ボール保持率は低くても問題はないのです。しかし、世界トップレベルのオーストラリアでさえ、NZやフィジーにスピードで勝てないので、違う戦い方をしているわけです。

日本もボール保持率を上げる必要があります。7人制では日本は世界から3年、遅れています。世界はキックオフやラインアウトで1人がリフトしてキャッチします。日本は2人のリフトが必要です。世界と戦うにはこうした技術や身体能力が必要になってきます。

■強化の方向性はエディージャパンと同じ 五輪でメダルを狙う

村上氏(左)、瀬川氏
村上氏(左)、瀬川氏

村上氏:そうした身体能力の高い選手を選ぶためにはどうしますか?

瀬川HC:エディーさん(ジョーンズ日本代表HC)とも話をしました。15人制と7人制をどっちもプレーする選手を増やすことは、結果的に15人制も7人制も損をしてしまいます。ですから、若い選手は世界に出るために7人制をプレーする。そして、15人制に移っていくということを考えています。18-24歳を中心に選びたいので、トップリーグの各チームにも若手を出してもらう話をしています。

村上氏:それだけの準備をしても、16年の五輪まで時間がないように感じます。

瀬川HC:強化の方向性としては、15人制でエディーさんが目指す形と変わらないと考えています。ボールリサイクル力とそのためのフィットネスを高めることです。共通のトレーニングはたくさんあります。今も7人制のS&Cコーチは15人制代表の合宿に帯同して勉強しています。これから若手世代も同じように、世界一のフィットネスを目指して強化していくので、7人制で集まることが少なくても、フィットネスの準備はできているはずです。

村上氏:五輪の出場枠はどうすれば手に入るのでしょうか?

瀬川HC:正式決定はしていませんが、いま有力視されているのは、12チームが出場する案です。ワールドシリーズの上位4カ国と各大陸予選、プレーオフから8カ国です。日本としてはアジアで1位になる必要があります。ライバルになるのは韓国、中国、香港あたりです。韓国は情報があまり出てこない不気味さがありますし、中国もかなり強化をしています。
そして、出場権を獲得して、五輪に出るからにはメダルを狙っていきます。ラグビー界は少し元気がないですけど、7人制がどんどん強くなって、ファイナルまで残るところを見てほしいと思います。日本ラグビーの未来がかかっていると考えています。

■ジャパンスタイルを確立「走って、リサイクルして、ボールを動かす」

以下は質疑応答の一部。

──五輪は国籍主義なので、外国人選手を起用するより、日本人選手で固めた方が良いのでは?

瀬川HC:7人制五輪はパスポートなので、日本国籍がある選手を選ぶことになります。基本はもちろん日本人強化ですが、ワールドシリーズのポイントを獲得するためにも、外国人選手は起用していきます。桑水流(裕策)のように長身でスピードがあって、ボールハンドリングに優れている選手は日本人では少ないですから。

──7人制でリーグをつくったほうが良いのでは?

瀬川HC:理想は7人制のリーグをつくることです。そこに向けて働きかけています。まずは大会を増やすことを始めていて、5月27日には日本のトップチームが参加する「セブンズ・フェスティバル」を行います。これまでより7人制の大会が増えたことで、適性のある選手を発掘するためにプラスになります。
また6、7月に選考合宿で若手選手を集めます。そして8月にスコッドを発表。9月のアジアセブンズシリーズを戦っていきます。

──いつから結果を出せますか?

瀬川HC:16年五輪でメダルを取るのがミッションです。その前に13年のセブンズW杯がありますので、その前年のアジア予選を勝つ必要があります。そして、W杯の本大会でも勝てるチームになることを目指します。オリンピックでメダルを取るということについて実現することは難しいかもしれませんが、「難しい」で終わっていたらいつまでもできません。今までは「ジャパンスタイルとは?」という質問に答えられませんでした。しかし、これからはその部分をしっかり持っていきます。ジャパンスタイルとは、「走って、リサイクルして、ボールを動かす」。この形で進めていきます。

■瀬川智広氏に聞く「あなたにとってラグビーとは?」

「ラグビーを通じて人とつながることができましたし、いろいろなコミュニティーに入っていけました。ラグビーというコンテンツがあったから高校、大学、社会人、世界へと自分の道が広がりました。ラグビーは僕の可能性を広げてくれるパスポートです」

■村上晃一氏に聞く「あなたにとってラグビーとは」

「僕の一番、大切なものです。仲間と協力したり、自分の責任を果たすことなど、ラグビーに人生を教えてもらいました。ラグビーがない人生は考えられないですね。日本だけでなく、世界のラグビー、ラグビーそのものをもっと知ってもらいたい。そう思って今の仕事をしています」

今回のみなとスポーツフォーラムにおいて、参加者からの参加費と、会場での募金額の合計41,100円は、東日本大震災の義援金として日本赤十字社へ寄付させていただきます。