IRBパシフィック・ネーションズカップ
text by Kenji Demura

試合はいきなり象徴的なシーンで幕を開けることになった。
開始1分。PGを狙ったCTBライアン・ニコラスのキックがゴールに届かず、自陣深くからサモアがカウンター。ボールを持って突進したサモアFLマナイア・サラベアがタックルにいったFL菊谷崇主将を吹き飛ばす。
地面にヒザをついたままの姿勢で、なかなか起き上がれない日本代表スキッパー。
まるでよく練られた映画のオープニングシーンのように、うずくまる赤白ジャージの主将の姿は、「IRBパシフィック・ネーションズカップ」(PNC)初戦、対サモアの戦いを象徴しているようでもあった。

日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表

「今日からが本当のテストマッチだ」(ジョン・カーワンヘッドコーチ)

パワーの面でも日本が圧倒できたアジア5カ国対抗とは次元の違うフィジカルバトル。

世界11位ながら、単純なフィジカル面での強さで言えば、そのランキングよりも遥か上位に位置づけられることは間違いない南太平洋の大男たちは、その肉体の優位性を誇示するかのように80分間、日本にフィジカルプレッシャーをかけ続けた。

いきなりキャプテンが痛めつけられたことに動揺した面もあったのか、立ち上がりの日本は、サモアのフィジカルを前面に出したプレーに後手に回り続けてしまう。

2分に、サモアはサントリーの指令塔として活躍するSOトゥシ・ピシと弟のCTBジョージ・ピシの息の合ったプレーでチャンスを掴み、イングランドプレミアシップのスターWTBアレサナ・トゥイランギが余裕を持って走り抜けて先制。

12分に元NZ代表NO8ロドニー・ソーイアロの弟であるFBジェームズ・ソーイアロがPGを加えた後、14分にはFWがタテに突破した後、左展開して再びWTBトゥイランギがジャパンゴールを陥れた。

「PNCになるとレベルが一気に上がるのは、わかってはいるつもりではいたんですけど、(サモアからの)思っていた以上のプレッシャーがあって、ワンオンワンのタックルでミスが出た」(PR平島久照)

確かに、「HSBC アジア五カ国対抗 2011」(A5N)を戦った後に迎えるPNCの初戦は、ジャパンにとって難しいゲームとなるのが常だ。

頭ではわかっていても、アジアとのプレッシャーの違いにミスが多くなる。

2年前のサモア戦では攻め込みながらのミスでカウンターを食らって逆転負け。昨年もフィジーにセットでプレッシャーをかけられて大差で敗れていた。

残念ながら、今回も同じ轍を踏むことになってしまい、立ち上がり0-15とリードを許す展開となってしまった日本だが、時間の経過とともに、このレベルの戦いを体が思い出してきたのか、前半20分以降は「プレーのレベルを上げることができて、トライチャンスも作れた」(カーワンHC)と、自分たちのペースで戦う時間帯が多くなる。

日本に初トライが生まれたのは20分。サモアゴール前での相手ボールスクラムにプレッシャーをかけてボールを奪い、そのままNO8ホラニ龍コリニアシが飛び込む。

さらに32分にはWTB遠藤幸佑のインサイドブレークから敵陣に入って、SOショーン・ウェブのPGで加点したものの、直後の34分にウェブのグラバーキックを確保されたサモアにカウンターアタックを決められて、結局8-24で前半を折り返すことになった。

「1対1のタックルをしっかり。ボールキープできるようになっているので、そのまま早い展開で攻めていこう」(カーワンHC)

ハーフタイムでそんな指示を受けたジャパンは、後半、一気に自分たちのペースをつかむ。

スクラムからいったんNO8ホラニがブラインドサイドを突いた後、左展開。右WTB遠藤が両CTBの外側に走り込んでくるムーブで、SOウェブ→CTBライアン・ニコラス→同・今村雄太→遠藤→左WTB宇薄岳央とつないで、日本らしいボールをよく動かすアタックは完結した。

ニコラスが難しいゴールを決めて、点差はひと桁台になり、約1万人が埋めた観客席もジャパンの逆転勝ちを期待するファンの熱気で一気に盛り上がった。

日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表   日本代表 15-34 サモア代表

実際、この後の約10分間、日本はサモアをゴール前に釘付けにするかたちで攻め続けた。

スクラムでプレッシャーをかけて、PKからタッチからモールでトライを取りにいくが、ラインアウトでミスが出たり、モールで押し切れなかったりするシーンが続き、結局この勝負の分かれ目とも言えた時間帯で得点を挙げられず仕舞い。逆に、後半19分にまたもサモアにカウンター一発のトライを決められ、トドメを刺されるかっこうとなった。

「自分たちのミスで負けた。悔しいのひと言」(PR畠山健介)

恐らく、それはチーム全員に共通する思いだろう。

逆に言えば、ミスさえなくせば、世界11位の相手にもしっかり勝てる実感を再びつかんだからでもあるのか、試合後のカーワンHCの表情は意外なほど明るかった。

「トライチャンス、たくさんあった。でもミスしたら、このレベルでは勝てない。ワンオンワンのタックル、そしてラインアウトをレベルアップする必要がある。今から上げていきましょう」

"W杯で2勝"を実現するためにも、サモア同様フィジカルな相手が待ち受けるPNCフィジーラウンド残り2戦では、プレッシャーを受けてもミスしないラグビーが求められることになる。