「女子ラグビーワールドカップ2017 アイルランド大会」
第1戦 対フランス代表戦レビュー

15年ぶりの世界最高峰の舞台で前回3位の強豪に大敗も
自分たちのスタイルで2トライ奪うなど次戦へ収穫あり

9日、アイルランドで女子ラグビーワールドカップ(WRWC)2017が開幕。

現地時間の同日夕刻(日本時間10日未明)、初戦でフランスと対戦した女子日本代表(サクラフィフティーン)は、相手のキックオフからわずか十数秒で先制トライを奪われるなど、前回3位の強豪に対して計12トライを献上。

前半25分にNO8マテイトンガ・ボギドゥラウマイナダヴェ、後半39分に途中出場のSH野田夢乃がいずれも高めてきた「高速フェイズアタック」を続けた末に2トライを奪って世界に通用する部分も見せたものの、14—72で大敗を喫した。

15年ぶりに出場したWRWCでベスト8進出という高い目標を掲げるサクラフィフティーンは13日(日本時間14日)に控えるアイルランド戦に向けて、短時間でこの日明らかになった課題を修正して世界へのチャレンジを続ける。

W杯の大舞台で100%を出し切る難しさを学んだ女子日本代表。課題を修正して8強入りへの挑戦を続ける
photo by Kenji Demura

15年ぶりとなるWRWC初戦前夜。チーム周辺に漂っていたのは、自分たちができる範囲での準備はすべてやったという充実感溢れる空気だった。
「キャプテンズラン(前日練習)は、いままでで一番良かった。緊張はしていたが、ノーミスだったし、動きが連動していた。こういうのは初めて。100%の地力が出せればいい勝負ができる」(有水剛志ヘッドコーチ)

それでも、全てが未知だった世界最強を決める場で、いきなり前回3位の強豪チームに対して100%の地力を発揮することが至難の業であることが明らかになるのに、さほど時間は必要ではなかった。

フランスが蹴ったキックオフからわずかに十数秒後。
日本がレシーブに失敗したこぼれ球を拾ったフランスFLロマヌ・メナジェルが、日本DF陣を置き去りにして、ほぼまっすぐ走り切って先制。
日本のメンバーの誰よりも身長があり、同FW第1列の3人よりも体重がある仏バックローにパワフルかつスピードのある走りを披露されることで世界トップのレベルを体感した影響もあったのか、試合開始直後のサクラフィフティーンは一種のパニック状態に陥ってしまう。
「入りの20分にこだわってきたのに、初めてのワールドカップということで、最初硬くなって自分たちのプレーができなかった。それに対して経験値のあるフランスは落ち着いて自分たちのプレーができていた」(HO齊藤聖奈キャプテン)

パワーとスピードについていけずタックルを外される場面も多かった。2人目の早さもポイントに
photo by Kenji Demura

5分には自陣ゴール前のFKからスピードで外側を振り切られ、13分にはスクラムの反則からのラインアウト→モールで、17分にはちょっとしたムーブから外側のスペースを相手のアウトサイドCTBに走り切られた。

「初戦がすべて。入りの20分、ラスト10分をテーマにしてきた」(有水HC)と、こだわってきたはずのフランス戦の立ち上がりだったが、結果的には計4トライを重ねられ22点のリードを許すという想定とは全く異なる試合展開となってしまう。

「ベスト4のフランスにもフェイズをしっかり重ねてトライを取り切ったのは自信になる」(齊藤キャプテン)

日本らしいアタックで2トライを奪うなど通用した部分も多かっただけに次戦以降に手応えも
photo by Kenji Demura

「フランスに通用する入りの地力をつけさせて上げられなかった」
試合後、有水HCはそう悔やんだが、皮肉なことにこだわってきた20分が過ぎ、相手にシンビン退場者(前半20分)が出たあたりからは、日本らしいプレーが随所に見られるようになる。

25分に磨き上げてきた高速フェイズアタックを披露して、最後はゴール前ラックからNO8マテイトンガ・ボギドゥラウマイナダヴェが持ち前の突破力を生かしてフランスゴールに飛び込んだ。

前半31分にフランスにトライ(+コンバージョン)を加えられて、ハーフタイムのスコアは7—29。

「フェイズアタックをすれば取れる。だから我慢して攻め続ける。DFも我慢」
有水HCからそんな指示を受けて後半に臨んだサクラフィフティーンだったが、結局、2トライ目が生まれたのは、試合時間が残り1分を切っていた後半39分。いいテンポでの高速フェイズの流れに乗って途中出場していたSH野田夢乃が、「FWでこだわった後、BKが空いたからBKに回して、『もう一度FW』と思ったら前が空いた」スペースを突いてトライラインを越えた。

一方、フランスには後半も7トライを重ねられた。
「しっかり体もつくってきて臨んだつもりだったのに、想像以上の強さだった。相手の体の大きさにタックルが通用しない」(LO櫻井綾乃)

「走力の違いを実感した。ハーフなので、裏に回ってカバーしないといけないのに、いつもの感じで回っていたら全然追いつかない」(SH津久井萌)

「通用しなかったのはDFでボコボコ抜かれしまったところ」(FB清水麻有)

選手たちは率直に個々のパワーとスピードの差を認めていたが、その一方で初めて戦った世界最高峰の相手にも自分たちのスタイルでトライを取り切れたこともあり、DF面やセットプレーなど組織で対抗できる部分での課題を修正できれば、残りのプール戦2試合で勝機を見出せる手応えもつかんだ。

「ベスト4のフランスにもフェイズをしっかり重ねたら敵陣でプレーできるというのがわかったし、2トライを取り切れたのは自信につながる」(齊藤キャプテン)

日本の次戦は現地時間13日のアイルランド戦。同17日には豪州戦が控える(いずれも日本時間翌日未明)
photo by Kenji Demura

次戦の相手は地元アイルランド代表。
6月のアイルランド遠征では、同選抜チームと22—24、15—24と善戦してもいる。

「2ヶ月前のいいところは参考にはするが、全く別物として、あくまでもフランス戦で出た課題を修正した上でアイルランドにベストゲームをするという方向で臨みたい。
初戦の内容に関しても点差ほど悲観していない。80分を通して、通用する部分を継続して出し切れない。それが、あの点差につながった。フェイズアタックも通用したしDFも我慢できる場面はあった。それを継続しないといけない。80分間、ギリギリのところで自分たちの良さが出せるようにフォーカスしていく。フェイズアタックだったり、DFだったり、エリアマネージメントだったり。やってきたことは変わらない」(有水HC)

未知だった世界最高峰との戦いを体感したサクラフィフティーンは、中3日という短い時間で高いレベルの試合の中でも自分たちの良さを出し続ける方向で課題を修正し、今年の6カ国対抗でフランスを破っている次なる強敵に挑む。

text by Kenji Demura