1月31日(水)14:00。
20余りの報道各社が来場した秩父宮ラグビー場の会見室で、シンプルなジャケット姿のマッケンジー新ヘッドコーチ(HC)が記者会見に臨みました。

会見は、日本ラグビーフットボール協会の坂本典幸専務理事、女子15人制強化委員会の浅見敬子委員長が、女子15人制ラグビーの方向性や体制などの基本方針の説明から始まりました。

【坂本専務理事】

日本のスポーツ界においても外国人女性をHCに迎える例は珍しく、ダイバーシティーやジェンダーの視点でも今回の人事は先を言っているのではないかと自負しています。

日本の女子ラグビーには約30年の歴史があり、2002年に日本協会内「女子ラグビー部門」が設立され、サクラのエンブレムを抱く日本代表が活躍をしてきました。

近年、日本の女子ラグビーは世界から遠ざかっていましたが、ワールドラグビーが世界的に女子のラグビーを発展させる方針を明確に示したこともあって、日本協会としても女子15人制の強化を進め、レズリー新HCの下、来る2021年の女子ラグビーワールドカップ(@ニュージーランド)での決勝トーナメント進出を目指して参ります。

【浅見委員長】

これまでの女子15人制日本代表のHCは男性が務めてきました。今回、レズリーをHCに迎えたのには、単に女性であるという事ではなく次のような明確な理由があります。

まず、この1年間、埼玉県熊谷市に住みながら女子セブンズのコーチとして取り組んできた実績と、指導に対するパッション、選手に寄り添う姿や人柄を見て、適任と判断しました。カナダ代表キャップ25を持つ実力と、カナダやニュージーランドで様々なカテゴリーでのコーチ経験を重ねている点は、女子15人制日本代表のヘッドコーチに相応しい経歴です。

 二つ目に、女子選手にとってのキャリアの選択肢として、選手生活後に指導者という立場でラグビーに関わり続けるというロールモデルに相応しい人物である、ということがあります。

 以上の理由で、レズリーこそこれからの女子15人制日本代表のHCに最適な人材であると確信しています。

続いてレズリーHCがメディアの前で初めて抱負を語りました。

「こんにちは皆さん。このたび女子15人制日本代表HCの機会を頂き、とて光栄でありがたく思っています。
既に先週、和歌山で合宿(キャンプ)を行いました。このキャンプでは、参加した選手達はやる気と向上心に満ちている印象で、全員に大きな可能性を感じることができました。今後がとても楽しみです。
2021年の女子ラグビーワールドカップで決勝トーナメント進出を目標に掲げる以上は、来年に実施されるであろう予選を勝ち抜かなければなりません。それまでにやるべきことはたくさんあるのですが、まずは選手一人ひとりを知る必要があります。知っていることと知らないことを明確にして、個々の選手の理解を最優先にして始めました」

 この後、記者との質疑応答に移りました。

【主な質疑応答】

Q:現時点での選手に求める課題は?

A:コンタクト、フィジカル、マインドのすべての部分で改善の必要があると思います。

男子の15人制やサンウルブズもそれらの部分での改善を重ねて強くなってきています。同じことを女子15人制も実行することで強くしていきます。

 

Q:強化する方法は?

A:何といっても国際経験を積むことが大事です。そのためにも今年の7月にオーストラリアに遠征して試合をします。そこまでの合宿や所属チーム活動を通じて、たくさんの選手をチェックし、誰がどこまで何ができるかをチェックしていきます。2017年の女子ラグビーワールドカップ(アイルラド大会)の時は若手選手中心で臨みましたが、身長も体重も強豪国とは比べ物にならないほどの体格差がありながら、11位という結果を残せました。ですので、まだまだ潜在的な可能性はあるので、各チームを回って選手の発掘、ベースアップを図っていきます。

さらに、ワールドラグビーから情報をキャッチして、今後の女子15人制のカレンダーを把握していく必要があります。これに従って強化スケジュールも明確になります。

 

Q:日本人選手の特徴として何を評価しているか。

A:カナダやニュージーランドでのコーチ経験と比べて、日本人のラグビーに取り組む姿勢は高く評価できます。細かい所までの意識の高さや反復練習をいとわず、すべてに全力で取り組むことができる選手ばかりです。

体格では勝てないかもしれませんが、全力で反復練習することはワークレート(運動量)の向上やチームビルディングの確立につながる、日本人選手の大きな強みです。

 

Q:新たなチームスローガンは?

A:「SAKURA WAVE」を候補の一つと考えています。

WAVE「波」というのは水がまとまって動くと同時に、多様性があってしかもパワフルでもある。そういう「波」のイメージが重なって思い浮かびました。

これから選手やスタッフ関係者と協議をして決定致します。

 

Q:今後の日本の女子ラグビーについて、協会としての方針は?

A:セブンズでは太陽生命ウィメンズセブンズシリーズという大きな国内大会が春先からあり、15人制では会長杯、東西対抗戦などある程度の国内カレンダーは定着しつつあります。

一方で、女子ラグビーの競技人口はまだまだ少なく、セブンズと15人制の両立をしている選手が多いため、休む時期もなく、トレーニングに費やす日数も少ない中で大会参加を繰り返すような状態で、選手のウェルフェア(心身の十分な休養)の観点からは好ましくない状況が生じるリスクがあります。

選手自身の選択によるのですが、競技人口そのものが増えれば15人制の大会も成熟していきます。そういう余力はまだまだ地域大会でもあると思います。実際に、15人制の大会はかつて合同チームばかりでしたが、ここにきて単独チームが増え、各地域ともに、セブンズだけではなく15人制の活動もやりたいという若い選手たちが増えてきています。高校生の15人制の大会もあるので、セブンズと15人制の棲み分けの状況も可能です。

ですから、これからは日本代表が国際大会で勝つことにより、ラグビーに憧れる女子選手たちがさらに増えてくれるのが一番よい姿だと思いますので、まずは今回再始動した女子15人制日本代表のチーム活動に期待して下さい。