11月はテストマッチの季節。日本代表は、アメリカ代表を迎え撃ちます。日本とアメリカが対戦するのは、2003年のワールドカップ以来。両国の現在の力関係が測りにくいのが現状です。今季より日本IBMビッグブルーに加入したマイク・ハーカス選手は、2007年のワールドカップでアメリカ代表のキャプテンを務めた選手です。11月もアメリカ代表の中心選手になることは間違いありません。ハーカス選手に今のアメリカ代表のこと、アメリカのラグビー事情などを伺いました。

リポビタンDチャレンジ2008
日本代表 vs アメリカ代表

日本IBMビッグブルーに所属するマイク・ハーカス選手
日本IBMビッグブルーに所属するマイク・ハーカス選手

──ハーカス選手は11月はいったんアメリカに戻るのですか?
「私は、10月29日に日本を離れ、アメリカのソルトレイクシティ(ユタ州)で行われる40名~45名の代表スコッドのトレーニングキャンプに参加します。アメリカB代表として1試合こなし、11月8日にはウルグアイ代表と試合し、確定したメンバーで来日する予定です」

──アメリカ代表は年間どれくらい活動するのですか。
「テストマッチはだいたい年間4試合から5試合。基本的には、試合の1週間前に集まってトレーニングキャンプをします。トレーニングだけのキャンプはありません。ウルグアイ代表、そして日本代表との2つのテストマッチができることは、アメリカ代表にとってハッピーだし、今後もこうした機会が増えることを希望しています」

──日本はパシフィックネーションズカップで、サモア、フィジーといった国と戦うことができます。
「オーストラリアAや、ニュージーランドマオリともね。我々にはチャーチルカップがあります。ここでは、カナダ、アルゼンチン、スコットランドA、アイルランドA、イングランドサクソンズ(A代表に相当)と戦います。レベルはPNCと大差ないでしょう。しかしながら、PNCに比べてテストマッチが少ない。半分はA代表です。激しい試合にはなりますが、我々はフルテストマッチを求めています。テストマッチの意気込みとはどうしても差が出てしまうからです」

──2008年1月からアメリカ代表のヘッドコーチに、以前、ウエールズ代表のアシスタントコーチ、そしてオーストラリア代表のアタッキングコーチも務めたスコット・ジョンソン氏が就任しました。何か変化はありましたか。
「多くの変化がありました。新しい選手が入り、ゲームプランも変わりました。これは詳しく言えません。11月に試合がありますからね(笑)。私にとっては代表の3人目のコーチです。世界的に名のあるコーチが就任したことは嬉しいことです」

──すると、2003年に日本と対戦したアメリカ代表とはかなり違うということですね。
「おそらくそうなるでしょう。違ったメンバー、違った戦略、これに加えてルールも違う。ELVの影響です。2003年のアメリカ代表は、プロ選手がFWに4人、BKに2人でした。いまは、BKにプロ選手が多い。戦い方も変わってくるでしょう」

──アメリカ代表には何人くらいプロ選手が選ばれそうですか。
「6、7名ほどになるでしょう。アメリカ国内にはプロでプレーする環境がないので、すべて海外でプレーしています。PRマイク・マクドナルドは、イングランドのリーズアカデミー、CTBポール・エメリックはイタリアのパルマ、CTBサレシ・シカは、フランスのベジエ、WTBタクズワ・ングウェニアは、フランスのビアリッツ、FLトッド・クレヴァーは、スーパー14ライオンズ(南ア)、FBクリス・ワイルスは、イングランドのサラセンズです。そして、私。他はアマチュア選手です」

──アメリカのラグビー人口は増えていますか。
「競技人口は次第に増えています。しかし、メインは、グラスルーツラグビーです。今後は普及活動も大切になってくるとおもうのですが、ハリウッドでラグビーを題材にした映画『フォーエバーストロング』が作られましたが、それがいい影響を与えればいいのですが」

──アメリカで現在、一番強いクラブはどこですか。
「私がかつて所属したクラブ、ベルモントショアです。南ロサンゼルスにあります。スーパーリーグ(18チームが所属)で8年、決勝に進出しています。アメリカでは西海岸のほうが強い。サンディエゴ、ロサンゼルス、シアトルにそれぞれ1チーム、そしてサンフランシスコに2つ、強いチームがあります。このほか、シカゴ、ニューヨークにもいいチームがありますが、西海岸のほうが強いですね」

──ハーカス選手自身のキャリアを教えてください。
「家族はみなオーストラリアに住んでいますが、父の仕事の関係で私はアメリカで生まれました。すぐにオーストラリアに戻り、22歳でベルモントショアでプレーするまでオーストラリアにいました。NSWの州代表ワラタスで2試合(リコーカップ)、19歳以下と21歳以下オーストラリア代表でもプレーしました」

──なぜベルモントショアに。
「ベルモントショアでプレーしている友人から声がかかり、3か月だけプレーするつもりで行きました。そこでアメリカ代表のコーチに誘われたのです」

──オーストラリアの頃からプロですか。
「オーストラリアではアマチュア、アメリカではセミプロでした」

──アメリカ代表になると、報酬は得られるのですか。
「仕事を休んで代表に参加するので僅かばかりの日当が出るだけです」

──プロ選手としてのキャリアを教えてください。
「イングランドのセールシャークス、ウエールズのスラネスリースカーレッツ、ニューポートドラゴンズでプレーしてきました。そして日本へ。イギリスのラグビーは、FWのスマッシュが主体です。日本は、素速く動く、とても速い。まったく違うラグビースタイルです。日本のスタイルに合わせるのに、時間がかかりそうです」

──たとえば、セールシャークスと日本のトップチームが戦ったらどちらが勝つと思いますか。
「イングランドのチームのほうが強いでしょうね。イングランドのFWは試合経験が豊富で、セットピースが強い。プレミアシップでもFWの強いチームが勝っています。世界最高のBKを持っていても、FWが優位に立たなければ勝つのは難しい」

──では、ベルモントショアと、サントリーが戦ったら?
「現時点ではサントリーが勝つと思います。アメリカのスーパーリーグがプロ化すれば、2、3年後は分かりませんよ」

──日本のプレー環境はいかがですか。
「日本のプレー環境は素晴らしい。大きな会社がクラブをバックアップしているのもいいシステムです。アメリカもそうすべきだと思う。イギリスの友人に聞かれたら、日本はいいと勧めるでしょう。今後はもっと世界各国の選手が来日するようになり、さらにトップリーグのレベルは上がるのではないでしょうか。チームとの契約もありますが、できるだけ長く日本でプレーしたいと思っています」

──日本代表に対する印象は。
「春に、日本代表(正確には、ジャパンフィフティーン)がクラシック・オールブラックスと対戦した試合を見ました。日本は私が2003年ワールドカップで戦った時とはまったく別のチームでした。プレーヤーは大きく強くなり、フィットしています。ジョン・カーワンヘッドコーチが正しい方向に導いている。アメリカにとって、11月は、厳しい戦いになる。日本代表は近い将来、世界のトップ10に入るでしょう」

──しかし、日本代表は、アメリカ代表に過去3勝しかあげておらず、12敗しています。この数字をどう思いますか?
「本当ですか? 以前のアメリカ代表のFWは大きく、2003年ワールドカップで日本と対した時のゲームプランはシンプルでした。FWが縦突進を繰り返してディフェンスを崩す。日本を崩すのは簡単でした。今は日本も大きくなったので、そうはいかないでしょう」

──ラグビーファンのみなさんにメッセージを。
「スタジアムに試合を見に来てください。とてもエキサイティングな試合になると思います。スタンドをぜひとも満員にしてください」

聞き手 村上晃一(ラグビージャーナリスト)