「被災された皆さんの回復と復興をお祈りしています」箕内主将の勝利チームインタビュー第一声は、前日に発生した岩手・宮城内陸地震による被災者への気遣いの言葉だった。試合開催すら危ぶまれたこの日、ジャパンの闘志あふれるプレーと勝利は東北のラグビーファンに勇気を与えてくれた。
世界ランキング12位、昨年のリベンジに燃えるトンガと、オーストラリアA戦の後、課題修正を図り、この試合を重要なターゲットと位置づけてきた同16位ジャパン。前回は三点差で薄氷の勝利を手にしたものの、トンガは昨秋W杯で優勝した南アフリカにフィジカルの強さで互角に渡り合い、先週はNZマオリとも接戦を演じるなどチーム力の向上を感じさせ、厳しい戦いになることが予想された。さらに、主将のニリ・ラトゥや急遽合流したピエーレ・ホラなどトップリーグに所属し、日本を知る選手が多く揃ったことも不気味な感じを与えた。

トンガSOホラのキックオフで試合開始。トンガのカウンターアタックからの大きなパスをWTB小野澤が、あわやインターセプトかという見切りの良い飛び出し。ノックオンにはなったが、序盤から集中力の高さを見せる。前半3分、ジャパンのオーバーザトップの反則からトンガSOホラがPGを決め3点を先制。ジャパンも5分、トンガ陣10m付近からSOアレジがPGを決め、すかさず3-3の同点とする。アグレッシブにパワーで攻めるトンガに、ジャパンは低く前に出るタックルとボールへの素速い働きかけで対抗するが、6分、ラックにハーフを巻き込むオフサイドを取られ、再びSOホラにPGを決められて3-6とリードを許す。ジャパンは慌てずにキックとカウンター、ショートパスにワイドなライン攻撃を効果的に組み合わせて敵陣に攻め込む。互いにハンドリングエラーがあり、決め手を欠くが、徐々にWTB小野澤、遠藤、FL菊谷のランニングがトンガDFを混乱させ始め、テリトリー、ポゼッションともにジャパンが支配する。速い展開を阻止したいトンガは、ラックの球出しを遅らせようと明らかなオフサイドをおかす。26分、SOアレジPG成功で6-6と再び同点とする。トンガ陣ゴール前のラインアウトからドライビングモールでトライラインに迫るが、オブストラクションでチャンスを失うものの、この後もジャパンの速い展開を嫌がるトンガの反則が目立ち、SOアレジが31分、39分と2本のPGを決め、12-6で前半を折り返した。

後半も主導権はジャパンが握る。3分にPGを決めて15-6とリードを広げると、6分には敵陣中央のラックから出た球をFL菊谷がDFライン裏にSOばりのグラバーキック!!知っていたかのように鋭く飛び出したFBウェブがタッチライン際で倒れながらも掴むと同時のポップパスでボールを残す。宙に浮いたボールにトップスピードで走り込んだCTBニコラスがタックルを受けるが、素早くサポートについたFL菊谷につないで待望の初トライを挙げた(ゴール不成功20-6)。一見トリッキーにも思えるトライまでの過程は、今のジャパンのレベルを端的に表していた。それは、勝つための戦略・戦術を明確に示されていることによって、どのポジションでも選手全員が深い理解を持てているということである。理解度に差があれば、すべてのタイミングが合致したこのトライは生まれなかったはずである。10分に自陣ゴール前ラインアウトのこぼれ球を拾われトライを許す(ゴール成功20-13)が、その後もジャパンの攻撃が光る。
WTB小野澤は接近した間合いからの突破と抜群のボディバランスで何度もチャンスを作り、低く速いラックから攻める。15分にはCTB平のカットアウトからWTB小野澤につないでトライ(ゴール不成功25-13)。キックでタテに、長短のパスでヨコにと揺さぶられたトンガに疲労が見え始める。19分、自陣でキックのこぼれ球を拾ったFBウェブがDFの隙を突いて90m独走トライ(ゴール不成功30-13)。そして終了間際には、ボーナスポイントの獲得となるトライをSOアレジの飛ばしパスを受けた21ロビンスが奪った(ゴール不成功35-13)。日本中のラグビーファンが待ち望んだ快勝は、選手とスタッフがチームを信じ、80分間やり遂げる力をつけたジャパンにふさわしい内容のものであった。継続強化が実り、ジャパンはW杯より強くなっている。
修正点がないわけではない。スクラムの練習よりもラインアウトの対策を練ってきたトンガに多くのターンオーバーを許した。組み立ての軸にキックがある以上ラインアウトの整備は重要である。次の相手はW杯で追い詰めながらも届かなかった難敵フィジー。今日の勝利の自信に試合までのハードな準備を上乗せしてフィジーを倒す強いジャパンが見たい。

IRBパシフィック・ネーションズカップ
IRBパシフィック・ネーションズカップ
日本代表 35-13 トンガ代表   日本代表 35-13 トンガ代表   日本代表 35-13 トンガ代表

ジョン・カーワン ヘッドコーチ
ジョン・カーワン ヘッドコーチ

箕内キャプテン
箕内キャプテン

日本代表 35-13 トンガ代表
(6月15日(日)14:00 at宮城・ユアテックスタジアム仙台)

◎日本代表
○ジョン・カーワン ヘッドコーチ
「今日の試合の結果はとてもハッピーに感じている。この一週間厳しくやってきたことに選手はこだわって一生懸命に80分間通してできた。テクニックの面でもディフェンスでも統率が取れておりリーダーの成長があると思う。ゴールがもっと決まればよかったが」

○箕内拓郎キャプテン
「この一週間、準備してきたことやこの試合に勝利を収めるための戦略を80分通して選手が実行できた結果だと思う。この一週間はハードだったがレベルUPできた。自分たちのやってきたことに自信も持つことができて、次の試合につながる出来だったと思う」

──ターンオーバーができていたが?
○箕内キャプテン
「豪州A戦の課題であったDFで、一対一のしっかりした対応(低く前に出るDF)と二人目のDFの見極め(人に入るか、ボールを狙うかなど)がうまくできたからではないか」

──体を直に当ててみてトンガはどうであったか?
○箕内キャプテン
「一人一人のパワーがある。タックルの低さを意識して真っ向から当たるのとは違うDFがうまくできたと思う。トンガ相手にやれたことは自信につながる」

──フィジカルの強い相手だったが、前半のPGによるスコアリングは戦略として予定どおりか?
○カーワン ヘッドコーチ
「戦略的には最初の20分が大切だと考えて臨んだ。相手のフィジカルの強みを出させないような展開を目指し、思ったようなプレーをさせないことで相手に自信を持たせないようにキックとDFをうまく行えたと思う」

──勝利した上での反省、次週に向けてフォーカスする点などは?(ラインアウトをずいぶん取られたが)
○カーワン ヘッドコーチ
「セットピース。スクラムは始めプレッシャーを感じたが試合の中で修正されていった。レフリーへのアジャストを含めてうまくできたと思う。ラインアウトは速さを求めていたが、レフリーのコントロールなどもあり、素速くスペースに投入するという求めるラインアウトにはならなかった。修正していきたい」

──二年前はトンガに50点取られ、今年は30点取った。短期間でのこれだけの違いにはどんな原因があると考えられるか?
○カーワン ヘッドコーチ
「コーチングというよりは日本人らしさを強みとするJAPANスタイルの理解と確立が進んでいることが挙げられる。武士道の精神のように、リスクにひるまず勇気を持って果敢にボールの継続に挑む姿勢の強さが育っている」

──ボーナスポイントを獲得したが、攻撃力UPを実感しているか?
○箕内キャプテン
「はい。(笑)トンガのような強い相手にもやれるという手応えを感じている。トライを奪うことに貪欲になれた。これからさらにもっと高いレベルに進んでいけると思う」

──試合の最中に4トライを意識したか?
○箕内キャプテン
「目の前のプレーに集中してそこまで意識する余裕はなかった。ただ、プランを遂行できたこととDFのギャップを見逃さずに冷静に攻めることができたことがこういう結果をもたらしたと思う」

──チームとしてレベルUPの実感は?
○箕内キャプテン
「今日の試合で一つ上のレベルに上がったと思う。ただゴールはまだ先であり、厳しさを持って準備を行うことで、来週も今日よりレベルを上げた試合をお見せできると思う」

──次のフィジー戦に向けて。
○カーワン ヘッドコーチ
「昨晩はナーバスになった。フィジーのことを考えてビデオも三回見た。相手に合わせて戦略を修正するのが私のやり方、もちろんそこにはJAPANスタイル、武士道があるのは言うまでもない。今日は選手も素晴らしい勝利の喜びに浸っても良いと思う。そしてフィジー戦に向けたその後の一週間は、これまで以上にハードなものになることを覚悟しなければならない」
○箕内キャプテン
「JKの言ったことを選手にやらせるだけ(笑)」

──先週やられた豪州Aのようにタックルポイントをずらしてくる相手に対するより、正面から当たりにくるトンガはやりやすかったのではないか?次戦のフィジーはずらしてくると思うがDFの対応はどうか?
○箕内キャプテン
「今日は体を張ってしっかり前に出てDFできたと思う。豪州Aに対しては、前半受けに回ってしまった感じで、ずらされたという感覚はなかった。今日やりやすかったということは確かにある」
○カーワン ヘッドコーチ
「フィジーは、トンガの強さと豪州のうまさを兼ね備えているような感じ。今週はタックルにおいて一人目がしっかり低く鋭く入り、ボール周りを二人目がうまく詰めることができた。ターンオーバーやブレイクダウンのスローダウンに効果があったと思うので、来週もボール周りを狙い、フィジーに対抗したい」

──スタッフのアダム・リーチ氏が以前トンガでコーチを務めていた。その経験からの情報は今日のゲームに生かされたか?
○カーワン ヘッドコーチ
「彼だけでなく、スタッフにも私の周りにもトンガを知る人物はいる。相手を理解し、弱みを突くのは私の戦い方である。そのために参考にしたことはいろいろとある。特にマーティン・ヒューメは、トンガ戦に向けてフィットネス重視のセッションを行って試合に臨むことが効果があると分析し、その通りとなった。このことは、選手が自分たちがやってきたことに自信を持てるようになるという効果もあった」

──ホラニ龍コリニアシの怪我で、急遽先発出場となった菊谷のパフォーマンスは?活躍していたと思うがどうか?
○カーワン ヘッドコーチ
「現在、選手全員が一つのポジションを二人で競っている状態である。選手全員にプレッシャーがかかっていることは競争による向上をもたらしてくれている。しかし、選手のレベルが向上して、最もプレッシャーがかかっているのは、我々コーチである」

──最後に。
○カーワン ヘッドコーチ
「いつもながら皆さんの温かいサポートに感謝します。それに応えられるよう来週も頑張りたい。ハードな一週間にします。ありがとう」

日本代表 35-13 トンガ代表   日本代表 35-13 トンガ代表   日本代表 35-13 トンガ代表

フィエレアヘッドコーチ
フィエレアヘッドコーチ

ラトゥーキャプテン
ラトゥーキャプテン

◎TONGA代表
○クドゥス・フィエレア ヘッドコーチ
「期待していた内容にはほど遠く大変落胆している。次節の豪州A戦に向けて建て直して頑張りたい」

○ニリ・ラトゥー キャプテン
「とてもがっかりしている。二年連続の敗戦である。日本のスピードへの対抗策を考えたが実行できなかった」

──昨年よりスコアが開いたが、JAPANはどう感じられたか?
○ラトゥー キャプテン
「JAPANは我々にとって簡単な相手ではない。試合の初めはプランどおりにいったが、途中からは思うようにいかないままゲームが進んでしまった」

──日本戦のプランとは?
○ラトゥー キャプテン
「タックルをしっかりと決めて、ワイドなオープン展開とスピードに負けないように練った。日本にいる選手も多いので日本の特徴を分析確認して試合に臨んだ」

──チャンスでハンドリングエラーがあった。惜しいプレーもあり、精度が上がればという向上の余地も見えたのでは?
○フィエレア ヘッドコーチ
「新しいメンバーも入って一週間という短期間ではコンビが合わないこともある。単純なミスもあったので修正していきたい」

──若いメンバーも多かったが、本当はヨーロッパなどから呼びたかったメンバーは何名ぐらいいたのか?
○フィエレア ヘッドコーチ
「スコッドはW杯メンバー中心だが、フランスはクラブの試合が続いているので仕方がない。ただ今日のような若いメンバーを伸ばしたいと思うし、ベテランとうまくかみ合わせてチームを充実させたい」

──昨日の地震の影響はなかったか?
○フィエレア ヘッドコーチ
「…ない。…公式コメントとしてはない(笑)。トンガでも地震はあるが、ホテルの客室が四・五階だったので、その高さであのように大きな地震は経験がなかったためショックを受けた選手もいたようだ。部屋に戻れずロビーで寝た者もいた。精神的な影響はあったかもしれないが、ホテルの気遣いでロビーにベッドを出してもらい、体は十分休められたはずだ」
○ラトゥー キャプテン
「部屋には戻ったが、余震もあってあまり寝られなかった」

──ラインアウトを6本ターンオーバーしました。取りやすかったのでしょうか?日本にいる選手が多いので何かサインの解読や癖に気づいたことがあったのでしょうか?
○ラトゥー キャプテン
「そうです。日本にいる我々が観察分析しました。また、豪州A戦を研究した結果でもあります。そのためにラインアウトはかなり練習しました。もっと取りたかったのですが」