女子セブンズ日本代表が世界最高峰のステージ、『HSBC SVNS 2025』 ワールドチャンピオンシップに挑む
そのシーズンのセブンズ(7人制)の世界王者を決める大会なのに、前年まで日本のファンにとっては、「それ、聞いたことがある」程度の認識だったかもしれない。
しかし今年は、サクラセブンズ(女子セブンズ日本代表)がみんなを、その魅力的な世界に連れていってくれる。
世界最高峰のセブンズのステージ、『HSBC SVNS 2025』(HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ)の年間チャンピオンを決めるワールドチャンピオンシップ(男女開催)に、赤×白のジャージーが挑む。5月3日、4日にロサンゼルスで開催される。
2024年12月のドバイ大会(7位)から、ケープタウン(6位)、パース(5位/当時史上最高位タイ)、バンクーバー(4位/史上最高位)、香港(7位)、シンガポール(5位)と各地で開催された6大会の通算獲得ポイントが、上位8位であることが出場資格。総合順位で5位のサクラセブンズも同大会に参加する。
他の出場チームは1位から順位順に、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、カナダのトップ4と、アメリカ、フィジー、英国。日本はプールステージをニュージーランド、カナダ、英国と戦い、てっぺんを目指す。
(ロサンゼルス大会キャプテンズフォトの様子)
ワールドチャンピオンシップ(旧:グランドファイナル)で優勝チームを決めるシステムは前年から採り入れられた。初年度はマドリード(スペイン)が開催地。日本も同地に向かったものの、サクラセブンズが戦ったのは、同時に開催された、コアチームを決める昇降格プレーオフ。だからサクラセブンズが2025シーズンに戦うステージが大事なファンにとって、王座決定戦は「もう一つの大会」だった。
しかし今季は、世界の目が集まる大会の方を日本のファンも見る。今季の世界一が決定する場に自分たちの代表チームがいるなんてシアワセだ。
2015年のラグビーワールドカップで南アフリカを倒したり、2019年大会で8強に入った日本代表と同じように、サクラセブンズは世界への扉を開いてくれた。
男子15人制代表が世界を驚かす結果を残すと、強豪国が日本との試合を望むようになったことをファンは覚えているだろう。日本ラグビーの居場所が変わった。
強ければ魅力ある試合を戦えるのはセブンズも同じことだ。
(ロサンゼルス大会でキャプテンを務める田中笑伊選手)
サクラセブンズは日本ラグビーの可能性を示していると言っていい。上位8か国に限らず、シリーズの各大会に参加するチームの中でどこより体のサイズは小さく、個々のスピード、パワーも対戦相手の方が上回っていることが多い。
外国出身選手が何人もいるわけでもないのに、素早く、たくさん動いて、一人ひとりがつながり続けて大きな相手から勝利を得る。トレーニングの方向性を間違えず、世界と戦い続けていれば自分たちのスタンダードが高くなる。そして他と違うスタイルを築き上げれば、少なくとも前後半7分ずつ、7人で戦う競技では世界と伍すことができるのだと勇気をもらえる。
いまサクラセブンズは、世界各地、どの大会でも大きな応援を受ける存在だ。
例えば香港など、セブンズ愛好家が集まる地に足を運んだファンなら分かると思う。そんなスタジアムで人気を得るには、強いだけではいけない。見ていて楽しいラグビーでないと熱烈な声は届かない。
しかし、特に今シーズンのサクラセブンズの戦いは観る人を惹きつけた。低く鋭いタックルで倒す。ボールを動かし、相手の懐に飛び込んでおいてパスをつなぐこともある。相手より走れるから、終盤の逆転劇が多いのも人気の秘密。
(パース大会でアメリカ代表に逆転勝利し、歓喜に沸く選手たち)
4月27日にワールドラグビーが発表した『HSBC SVNS アワード』の中のトライ・オブ・ザ・イヤー候補にノミネートされたうちの一つが、日本が挙げたものから選ばれたのもサクラセブンズの現在地を表していると言っていいだろう。
そのトライは、バンクーバー大会(2025シーズンの第4戦)の準々決勝、アメリカ戦で谷山三菜子が挙げたものだった。
17-17で前後半を終えて始まった延長戦。キックオフのボールを自陣でレシーブしたサクラセブンズは、2分間ボールを保持し続けてトライに結びつけた。
その間、攻め続けて相手の2つの反則を誘発し、20のパスで攻め切った。スタジアムは大歓声に包まれた。
(バンクーバー大会準々決勝でゴールデントライを決めた谷山三菜子選手)
ロサンゼルスでのワールドチャンピオンシップに向かうサクラセブンズ、13選手の中で最多の、34キャップを持つ堤ほの花は、世界と戦う時のワクワク感を「うわっ、とか、うまっ、はやっ、とか感じる相手がいる世界です。どうやって止めたらいいんだろう、って思うけど、そんな相手と戦うのが楽しいんですよ」と話す。
「長く戦っていると、通用する自分の強みが分かるし、体が小さいからこそ相手よりはやく動けたり、嫌がることができるようになる。それはチームとしても同じなんです」
「ワールドチャンピオンシップは強い相手ばっかりだけど楽しみ」と言う表情がニコニコだった。
(相手の動きよりも早くスティールを狙う堤ほの花選手)
初めて立つ最上級の舞台に向かう仲間には、強気の塊で突き刺さるタックル、迷いなき走りでチームに勢いを与える大谷芽生(めい)もいれば、トライ・オブ・ザ・イヤーの実演者である谷山もいる。
また、経験豊富な選手たちが「怖いもの知らずばかり」と笑う若い選手たちも伸び盛り。何かをやってくれそうな予感。
(ロサンゼルス大会でも強気なプレーが期待される大谷芽生選手)
(シンガポール大会で俊足を飛ばす松田向日葵選手)
チームを率いる兼松由香ヘッドコーチは、「ワールドチャンピオンシップは、誰かに出場させてもらったのではなく、今シーズンここまで戦ってきた自分たちでつかんだもの。それぞれ、そのチームの一員として戦ってほしい」とエールを送る。
(兼松由香HC)
世界最高峰シリーズの中の頂点を争う舞台に、自分たちの代表チームが立つのは世界で8つだけ。ぜひ、中継映像を見つめよう。ゴールデンウイーク真っ只中だけど、その幸福感を逃してはいけない。
(文・田村一博)
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■「HSBC SVNS 2025 ワールドチャンピオンシップ ロサンゼルス大会」 大会1日目(5/3) 試合スケジュール
<プール戦>
現地時間(5/3) | 日本時間(5/4) | 対戦相手 | |
プールA 第1戦 | 10:00 | 2:00 | カナダ代表 |
プールA 第2戦 | 13:23 | 5:23 | ニュージーランド代表 |
プールA 第3戦 | 16:07 | 8:07 | 英国代表 |
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