日本代表2025秋シーズンの初戦にして唯一の国内テストマッチとなる「リポビタンDチャレンジカップ2025 日本代表 vs オーストラリア代表」を前に、都内で元代表レジェンドを迎えたトークセッションが行われた。
2017年にそれぞれ自国の代表ジャージーを着て対戦したことがある元日本代表の田中史朗氏(キャップ75)と元オーストラリア代表のマイケル・フーパー氏(キャップ125)が、ラグビージャーナリストの村上晃一氏と共に、これまでの対戦を振り返りながら、今年の注目選手や今回の対戦への期待、そして2027年にオーストラリアで開催されるワールドカップに向けた熱い思いを語る。
左:村上晃一氏、中央:マイケル・フーパー氏、右:田中史朗氏
村上: 日本とオーストラリアの試合は1975年から行われていますが、田中さんはオーストラリアとの対戦で何か印象深い思い出はありますか?
田中: 僕はワラビーズ※がずっと好きで応援していました。日本代表になってオーストラリアといつか試合をしたいと思いながら、2017年にその夢が叶いました。実際に対戦してみて、本当に強いという印象がありましたね。あの頃のワラビーズは非常に強く、選手個人の能力も高かったです。世界のトップに挑むという感覚でした。もう一つ思い出に残っているのが、試合後にニック・フィップス選手(キャップ72)とジャージーを交換したことです。5、6年後にニックが日本に来て再会した際に、交換したジャージーを見せた時にすごく喜んでくれたのは、とても思い出に残っています。
※ラグビーのオーストラリア代表チームの愛称。カンガルー科の小型動物「ワラビー」が由来
田中史朗氏とニック・フィップス選手(2017年)
田中史朗(元日本代表・キャップ 75) ポジション:スクラムハーフ / 1985年1月3日生まれ、京都出身 ラグビーワールドカップ 2011、2015、2019に出場
村上: なぜワラビーズに憧れていたのですか?
田中: やはりジョージ・グレーガン選手(キャップ139)とスティーブン・ラーカム選手(キャップ102)がいたので、当時はワラビーズの映像を見ながらずっと練習をしていましたね。
村上: フーパー選手は日本でワラビーズとして臨んだ試合で、どんな思い出がありますか?
フーパー: 2017年の日本代表との試合では、非常にタフな展開で、後半の40分間、非常に接戦であったことを今でも覚えています。ヨーロッパ遠征の直前の時期ではありましたが、センターのサム・ケレビ選手(キャップ50)が非常に良いパフォーマンスを見せ、その試合で活躍していました。また、2018年には横浜の日産スタジアムでニュージーランド代表とブレディスローカップを戦いました。2019年ワールドカップの決勝会場となる横浜で、決勝を想定しての試合だったのですが、我々は決勝の横浜でプレーする機会はありませんでした。
マイケル・フーパー(元オーストラリア代表・キャップ 125) ポジション:フランカー / 1991年10月29日生まれ、シードニー出身 ラグビーワールドカップ 2015、2019に出場 ※2025年 9月~トヨタヴェルブリッツスポットコーチ(ブレイクダウン)
村上: 2017年は姫野和樹選手(キャップ36)がデビューした試合でもありました。
2017年11月に横浜で開催された「リポビタンDチャレンジカップ2017」オーストラリア戦で初キャップを得た姫野和樹選手は当時23歳
フーパー: 当時から姫野選手は非常に良いプレーヤーであると噂を聞いていました。2年後に行われたワールドカップで、そのポテンシャルを十分に発揮し、日本代表チームでの姫野選手のパフォーマンスは非常に圧巻でした。彼のプレーを見届けるだけでなく、トヨタヴェルヴリッツで一緒にプレーできたことは、非常に感慨深いものです。
村上: 今の日本代表チーム、オーストラリア代表チームの印象はいかがですか?
田中: 日本は今、テンポの速い展開ラグビーができていて、パシフィックネーションズカップ(以下、PNC)決勝のフィジー戦の時もそうでしたが、トライを取る能力が上がっています。ディフェンス時にトライを簡単に取られるところがあるのですが、アタックは世界と戦えるのではないかと思います。 オーストラリアは今、とても強いですね。少し前まで力が落ちている印象でしたが、最近はスタイルが変わり、フォワードでガツガツ行ってバックスで綺麗にトライを取り切る。この前のオールブラックス戦でも最後にアーディ・サベア選手(ニュージーランド代表キャップ105) にトライを取られましたが、それまでの繋ぐラグビーというのは、相手がオールブラックスじゃなかったらトライが取れていたのではないかと期待させる戦いでした。
フーパー: 2021年と2025年の過去2シーズン日本でプレーをしましたが、4年間で試合の厳しさが増し、僅差の試合が増え、日本のレベルは非常に上がっています。日本にワールドクラスの選手が集まっていることが、代表選手だけでなく国内の選手を含め、非常に良い影響を与えていると思います。また、PNCに参加できていることも非常に大きいと思います。定期的にトップレベルのチームと試合ができること、そういったところを含めると、リーグワンやPNCでのパフォーマンスが、日本のラグビーの成長に今後良い影響を与えていくと思います。
オーストラリア出身の日本代表ジャック・コーネルセン選手(キャップ24)は大分で開催された「リポビタンDチャレンジカップ2021」でオーストラリアと対戦。父親のグレッグさんは元オーストラリア代表(キャップ25)の名選手
見事にビルドアップされた上半身がトレードマークの日本代表ベン・ガンター選手(キャップ14)はオーストラリア育ち。2021年の対戦で初キャップを獲得した
フーパー: 日本代表と対戦するとなったときに持つ印象は、非常にフィットネスがあるのと、またフィジカルで差し込んできて、特にブレイクダウン周辺でも強い。どこのエリアからでもランをしてアタックを仕掛けてきます。改善点を挙げるとするならば、国際レベルでプレーする、ワールドクラスの強さがあるタイトファイブ(プロップ、フッカーとロックの前フォワード5人)が必要と考えています。どうしても、速いテンポでプレーすることに重きを置いていると、その後にミスが起こってしまう可能性も高くなります。その中でセットピースであるラインアウト、スクラムなどを強みにすることができれば、国際レベルでも十分に戦っていく力があるのではないかと思います。
日本とワラビーズの対戦ですが、2021年の大分での春のツアー以来の対戦になります。現在のワラビーズのチームは、ジョー・シュミットヘッドコーチのもと、非常に自信に溢れ、若手を中心としたエナジーのあるチームです。今シーズンに関しては、試合序盤でやや出遅れてしまいがちながらも、後半に盛り返すといったチームの展開が見られます。9月6日のアルゼンチン代表との試合でも前半21-7からの逆転勝利、また南アのエリスパークにおける南アフリカ戦の勝利でも、後半で盛り返す試合展開が見られます。あとは2027年にオーストラリアでワールドカップが開催されることも、ワラビーズにとって非常に大きなモチベーションになっています。
2017年、2021年の対戦ともにオーストラリア代表のキャプテンはマイケル・フーパー氏だった
村上: 両チームの注目選手は?
田中: オーストラリアは能力の高い選手が本当に多いですよね。僕は9番の選手をよく見るので、ジェイク・ゴードン選手(キャップ32)はサイド攻撃もすごく強いし、ディフェンスも強くて、チームを前に押し上げる能力が高いです。ゴードン選手がスペースにボールを運ばせて前に出れるかというのが試合展開の大きなキーポイントになると思います。 今の日本代表にはスクラムハーフに良い選手が多いです。福田健太選手(キャップ5)と北村瞬太郎選手(キャップ1)。北村選手もリーグワンではすごくトライも取っていますし、チームを前に上げる能力が高いので、藤原忍選手(キャップ5)と福田選手とこの3人のポジション争いも注目になっていると思います。
超速ラグビーの鍵を握るスクラムハーフの一人、福田健太選手は直近のパシフィックネーションズカップで活躍し注目を集めている
フーパー: 福田選手は、2021年にトヨタヴェルブリッツで一緒にプレーすることができました。現在は東京サントリーサンゴリアスでプレーしていますが、非常に良いスクラムハーフになることは当時から確信していました。ぜひ同じポジションの選手として、田中選手がどのように思うか気になります。またリーチ マイケル選手も代表での出場を継続している中で、変わらず印象的なパフォーマンスをしています。 日本代表は、非常に危険なチームであると思っていて、特にターンオーバーや、クリーンなブレイクダウンでの球出しを相手に与えてしまうと、どこからでもプレーしてくる、そういった印象を抱いているチームです。 またワラビーズに関しては、今シーズンは非常にフォワードパックが印象的です。どこからでもゲインラインを突破する能力、ブレイクダウンでの存在感を発揮し、バックスリーが活躍できるよう貢献しています。マックス・ジョ-ゲンセン選手(キャップ17)、ジョセフ=アウクソ・スアリイ選手(キャップ14)、またレン・イキタウ選手(キャップ48)。そして田中さんも注目しているジェイク・ゴードン選手に関しても、怪我から復帰して注目しています。
村上: スクラムハーフの福田健太選手にはどのような印象を持っているのでしょうか?
田中: 福田選手はリーグワンでは、自分でという感覚ではなく周りについていっているなという印象があったのですが、この前のカナダ戦の時にすごく覚醒したというか、チームを自分の言葉とプレーで引っ張っていた印象がありました。みんながそんなにパフォーマンスが良くなかった時に、福田選手が出た瞬間にチームに良い影響が出て、そこからまたトライを量産するような攻撃をしていたので、これから福田選手と藤原選手と北村選手の戦いというのは、すごく過酷なものになるんじゃないかなと思います。福田選手は体幹もあってタックルもすごく強いので、ディフェンス面では一歩リードしているんじゃないかなと思います。
村上: 田中選手の話を聞いて、フーパー選手はどうですか?
フーパー: 福田選手は成長し続けている印象です。フィットネスのレベルに関してもとても高いですし、彼の体の大きさを加味すると非常にフィジカルの強い選手で、ディフェンス、また非常に効果的なタックルができる選手となっています。また積極的にボールに絡んでスペースを見つける、そしてスクラムハーフとしてのボール捌きも非常に良いと思います。これからワールドクラスの9番になっていくと思います
村上: いよいよ2年後に迫った2027年のワールドカップに向けて、今年の10月25日の日本代表戦は、チームにとってどのような位置付けで、どんな意味合いがあるか、どのような見どころがあるか教えていただけますか。
フーパー: 今回の試合は両チームにとって非常に良いチャンスであると考えます。次のワールドカップで実際に対戦する可能性があるチームとの試合です。秋のシリーズ終了後、12月3日に行われるワールドカップのプール組み分けを左右する世界ランキングに影響を与える試合です。ワラビーズは日本より上のランキングに位置しているため、勝利してランキングを維持したいという思いがあります。日本からすると、勝利してポイントを獲得し、よりランキングを上げたい。どのプールになるかわからない中で、日本との対戦はワラビーズにとって良い準備になると思います。若い選手の中には、日本代表と対戦するのが初めての選手もいます。ワールドカップの大一番で、相手のチームのことについてよく知っている、真新しいことがないというのは重要です。 日本に関しては、調子を上げているワラビーズと試合ができる機会で、勝利してランキングを上げられるかが鍵となるでしょう。
2021年国歌斉唱時の様子
10月6日から始まった今秋の合宿には、ワーナー・ディアンズ選手(キャップ27)が範と仰ぐリーチマイケル選手(キャップ89)が復帰。ベテランへの期待も高まる
村上: 10月25日は国立競技場で臨むテストマッチとなります。その点はいかがでしょうか。
田中: やはり日本代表として国立競技場で試合ができるというのはすごく嬉しいことですし、国立競技場にたくさんの観客が入ってスタジアムが満員になることが、これからの日本ラグビーにとって素晴らしい経験になると思います。選手にとっては、ワールドカップに向けて大舞台で戦う機会、そして日本のラグビーにとっても、たくさんの国民の皆さんに日本ラグビーを見てもらうとても良い機会になると思います。本当にそこで日本代表が勝って、これから日本ラグビーの文化をもっともっと築いていってほしいなと思います。
フーパー: オーストラリアでワラビーズとしてプレーする醍醐味というのは、異なるスタイルの他国代表と、国立競技場のような美しいスタジアムで試合をできることだと思っています。
村上: チケットも好評発売中で、当日は多くのファンの皆さんで国立競技場が熱くなりそうです。12月のワールドカップの組み分け抽選会に向けても、世界ランキングを左右する非常に重要な1戦となります。10月25日は、また日本が世界を驚かすことを期待しています。 本日はありがとうございました。
~ GO FOR 2027!ジャパン覚醒。その瞬間を見逃すな。~
現在の世界ランキングはオーストラリア7位、日本13位(10月9日付)。2年後に迫ったワールドカップに向けて、ランキング争いでも緊張感の高まる今年の秋シーズンがいよいよ始まります。
10月25日(土)「リポビタンDチャレンジカップ2025 日本代表 vs オーストラリア代表」国立競技場(東京)で繰り広げられる白熱の戦いを、ぜひスタジアムでご体感ください。
チケットは現在好評発売中!皆様のお越しを心よりお待ちしております。
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