日本のファンに最高の結果を見せるはずだった第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)。男子セブンズ日本代表はその大舞台で金メダルを手にすることはできなかった。しかし、敗れた準決勝から見事にチームを建て直し、銅メダルという最低限の結果を残した。
この時、チーム内で「切り替え」や「コネクト」が図られたことがメダル獲得につながったという。そしてそれらの要素はまもなく開幕するアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026 スリランカ大会でもキーファクターとなりそうだ。

○アジア競技大会で得たのは「切り替え」と「コネクト」
またしても、表彰台の頂点に立つことはできなかった。
男子セブンズ日本代表は、8月に行われたアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026 中国大会で決勝まで進出したもの、ホンコン・チャイナ代表に7-19で敗れ準優勝で大会を終えた。捲土重来を期して臨んだ10月のアジア競技大会は、プールBを1位通過して迎えた準決勝で中国代表に7-10で敗戦。この時点で金メダルの可能性は潰えたが、3位決定戦で韓国代表を17-5で退けて銅メダルを獲得した。
どちらの大会も目指していた色のメダルではなかった。アジア競技大会の3位決定戦を終えた直後、ピッチから引き揚げてきた白國 亮大(大阪府警察ラグビー部)は大粒の涙を流していた。
「(日本のファンのみなさんが)こうして応援し、支えてくださり、ここまで一緒にやってきた仲間たちからの思いも伝わっていたので、最後にみんなの前で(3位決定戦で)勝てたことはよかったのですが、この結果では全然ダメです。今後1年でホンコン・チャイナ代表に勝ち、中国代表には必ず勝てるようなチームを作っていきたいと強く思いました」

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)で全試合に出場しプールB韓国代表戦でトライを決めるなど活躍した白國 亮大
チーム全員が白國のように悔しさをあらわにしていた一方で、キャプテンの古賀 由教(リコーブラックラムズ東京)の受け答えは少しだけ違っていた。3位の表彰台に立った瞬間の古賀には笑顔がなかったように見えた筆者から、その時の胸中を聞くと古賀は「いえ、でも」と否定して言葉を続けた。
「特別な時間でしたし、私たちはあの時間を楽しめたのかなと思っております。準決勝で負けた後、若いメンバーたちがすごく落ち込んでいたのですが、私たちは3位決定戦までに切り替えて銅メダルを獲ることができました。それはみんなの人間としての面も含めて大きな成長だったのかなと思っています」

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)でキャプテンを務めた古賀 由教。引き続きチームを牽引する
中野 剛通((公財)日本ラグビーフットボール協会 / トヨタヴェルブリッツ)の言葉も古賀と重なる部分があった。
「準決勝で負けた瞬間はチームとしてすごく落ち込みましたが、切り替えて3位決定戦に臨むことができて、その結果自分たちのやるべきことがしっかりできて、結果につながって銅メダルを獲得できたので、その切り替えについては僕たちの成長かなと思います。古賀キャプテンを筆頭に『引きずるのはここまでにしよう。ラストもう1試合ホームでできるのだから』と強調してくれたので、それによって各々がしっかりと(3位決定戦への)準備でき、チームとしてのコネクトにもつながったのかなと実感しています」

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)でチーム初トライを決めるなど豪快なランで貢献した中野 剛通
フィル・グリーニング ヘッドコーチも、準決勝での敗戦から立て直したことを高く評価した。
「本当に大事なのは中国代表戦で負けてからチームがどう対応し3位決定戦に臨むか、ということでした。実際にうまく対応できたので、その勢いを(10月9日からの)合宿でも継続してスリランカ大会にも勢いを引き継ぎたいと考えています」
ただただ悔しい銅メダル、で終わったわけではない。10月17日に開幕するアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026 スリランカ大会に受け継いでいくべき「切り替え」や「コネクト」というポジティブな要素はチームにとって大きな収穫だったと言えるだろう。
○スコッドの一貫性を保ちながら精度を上げることに集中
10月9日、チームの練習拠点である福岡県のJAPAN BASEでSDS(セブンズ・デベロップメント・スコッド)は再始動した。アジア競技大会のセブンズ最終日からわずか6日後の合宿初日に、スリランカ大会に向けて重点を置いて取り組んでいくことについてグリーニング ヘッドコーチに聞いた。

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)7人制ラグビー競技3日目に51歳の誕生日を迎えたフィル・グリーニング ヘッドコーチ(1番左)
「今回の合宿では精度を高めることに集中していきます。それが(アジア競技大会準決勝)中国代表戦で落ちたことが結果に影響し、最後まで我々らしいプレーができませんでした。簡単にポゼッションを相手に与えてしまうのはジャパンらしいプレーとは言えませんので、やはり精度の向上に集中して練習していく必要があります」
たしかに、男子セブンズ日本代表らしくない場面が多かった。なぜプレー精度が落ちたのだろうか。
「敗因として考えられるのは、ホームである(開催地の)名古屋での開催ということでプレッシャーがあったかもしれないということです。準決勝の段階で決勝を見過ぎていたかもしれず(それによる)気の緩みも出ていたのかもしれません。ミスでポゼッションを失うのはジャパンらしい姿ではなかったので、選手たちとともに改善方法を探しながらスリランカ大会に臨みたいです」(グリーニング ヘッドコーチ)
合宿に参加する選手はこれまでのコアメンバーが中心となったが、初めて15人制日本代表の合宿参加メンバーとなった時任 凜空(東芝ブレイブルーパス武蔵)、各所属チームでプレシーズンの活動に備えるというケレビ ジョシュア(豊田自動織機シャトルズ愛知)やマシヴォウ アセリ(栃木ホンダヒート)といったアジア競技大会で存在感を見せた選手たちがチームから離れた。
「今回のセレクションで重視したのはスコッドの一貫性です。もちろん時任選手、ケレビ選手、マシヴォウ選手らが抜けた分を埋めなければならないので、アジア競技大会に参加できなかった選手にもう一度チャンスを与え、長くセブンズをやってきた選手たちと一緒にプレーしてもらいます。共に成長するチャンスだと思っているので、このようなセレクションを行いました。新たに参加する楠田 知己選手(栃木ホンダヒート)にはこの合宿でセブンズの能力を見せてくれることを楽しみにしています」(グリーニング ヘッドコーチ)
グリーニング ヘッドコーチは男子セブンズ日本代表、またはSDSの活動が15人制での活躍を促す「パスウェイ」にもなる、という考えを強調してきた。時任の男子セブンズ日本代表での活躍が評価され、所属の東芝ブレイブルーパス武蔵で実戦デビューする前に男子日本代表として招集されたことに、グリーニング ヘッドコーチは強い手応えを感じていた。
「時任選手はセブンズから直接15人制代表合宿に参加すると発表されました。これこそセブンズと15人制のつながりの好例であり、セブンズの成功例だと思っています。(アジア競技大会での)時任選手はチームの中でもトップのパフォーマンスでした。それは毎週のトレーニングで取り組んできた一貫性の成果だと考えています。(15人制日本代表の)エディー・ジョーンズ ヘッドコーチも名古屋で直に時任選手のパフォーマンスを見て、強く印象に残ったということです。チームの中で一番足が速いわけではないのですが、SDSに入ってから身体能力を大幅に向上させ、筋肉量やスピード、フィジカルの面で大きく成長しています。ラグビーの理解度が高い選手でもあり、特にアタックの面でスマートさを感じます。セブンズで培ったスキルを15人制でも活かしてほしいです」(グリーニング ヘッドコーチ)

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)でプールBのフィリピン代表戦の3トライを含む5トライを挙げた時任 凜空
○我々のDNAを大事にしながら日本代表らしいプレーを
スリランカ大会に臨むチームを牽引するキャプテンはすでに決まっているのだろうか。引き続きグリーニング ヘッドコーチに聞いた。
「今回も古賀選手キャプテンを務めてもらう予定です。彼はキャプテンになりたがらない選手なのですが、自分をひとつの例にしながらチームをリードする姿勢があります。それが古賀選手の魅力でありキャプテンに据えている理由です。他の選手の強みを引き出すようなキャプテンでもあります」
アジア競技大会ではキャプテンとして悔しさをにじませつつ、すぐに前を向いた古賀キャプテン。大会終了後はメダルを獲れたことへの一定の喜びが入り混じった様子が印象的だった。
「選手はもちろんチームとしてもスタッフも、そしておそらく観客のみなさんも日本代表が勝つと思っていたでしょう。しかし結果はそうではありませんでした。悔しい結末でしたが、セブンズという競技は常にポジティブな部分を見つけなければなりません。試合は(前後半合計)14分と時間がなく、そんな状況下ではポジティブに考えないことには前に進めません。数時間後には次の試合で再びプレーする必要があります。後ろを向くのではなく次のことにしっかり向き合っていく必要があるわけです。ポジティブに考えないと前には進めないので、古賀キャプテンの前を向くマインドは重要です」(グリーニング ヘッドコーチ)
当の古賀も銅メダルを首にかけた直後から早くも次を見ていた。
「アジア競技大会では自分たちのラグビーができませんでした。もっとおもしろいアタックもありますので、そういうところを見せられればと思っています。こうした(悔しい)経験は大きいので、スリランカ大会では成長したところを出したいです。私たちは前に進むしかないと思っていますし、また2週間後(のスリランカ大会)では同じようなチームと試合することになりますので、そこでやり返さなければと考えています」

第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)は銅メダル。悔しさと学びを糧にさらなる飛躍を目指す男子セブンズ日本代表
グリーニング ヘッドコーチからも古賀の言葉と似たコメントを残している。
「セブンズには自分たちが成長する要素しかありません。いろいろなチームと対戦し、いろいろな環境でプレーし、そしていろいろな結果が出ます。成長できるチャンスがたくさんあるので、スリランカ大会も成長の機会の一つになると思っています」
来季のHSBC SVNSのDIVISION3への昇格を目指すうえで、スリランカ大会は優勝が絶対条件となる。さらにアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026における得失点差がシリーズ王者を左右することから、ひとつでも多くのトライを重ねることも大きなターゲットになる。
「目標は優勝です。今シーズンはアジア競技大会でのメダルと、アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026で優勝することを目標に据えてきました。アジア競技大会は望んでいたメダルではありませんでしたが、ここで一旦仕切り直します。アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026中国大会でも決勝でホンコン・チャイナに敗れてしまったので、次こそ優勝します。そのために必要な準備を整えて100パーセントの努力をして挑みます」(グリーニング ヘッドコーチ)
トライの必要性についてもグリーニング ヘッドコーチは冷静に語った。
「得点、つまりトライ数はどうしても意識することではありますが、最優先となるのは各試合での勝利です。プール戦も含めノックアウトステージの決勝までタフな試合が続きますので、得点に集中するよりも試合に勝つことが大事になります。そのようにして(首位を走る)ホンコン・チャイナに追っていき、我々のDNAを大事にしながら日本代表らしいプレーをしていきたいと考えています」
悔しい結果をばねに、男子セブンズ日本代表は短い期間で“らしさ”を取り戻し、思い描いていた本来のラグビーを見せてくれるはずだ。10月17日・18日のアジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2026スリランカ大会は見逃せない試合の連続となるだろう。
(取材・文/齋藤龍太郎)

