魅力ある新国立競技場に必要なもの
夢のスタジアム計画の現状を担当者が語る

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第43回が5月18日に東京都港区の男女平等参画センター「リーブラ」で開催された。今回は独立行政法人日本スポーツ振興センターの新国立競技場設置本部長・山崎雅男氏をゲストに迎え、ノンフィクションライター・松瀬学さん進行のもと、2019年W杯、2020年東京五輪・パラリンピックでメイン会場となる「新国立競技場」をテーマに行われた。

■歴代入場者数トップ5のうち、3つがラグビー

山崎雅男氏

山崎雅男氏

山崎雅男氏

山崎氏が勤務する日本スポーツ振興センターは国立競技場、秩父宮ラグビー場、味の素ナショナルトレーニングセンターなどの維持・管理や、スポーツ振興くじ「toto」などの運営を通じて、国内のスポーツ振興と児童・生徒らの健康保持を目的に活動している。山崎氏は昨年10月より現職。以前は文部科学省で施設、設備の設計などを担当し、2012年に行われた新国立競技場の国際デザインコンクールにも関わっていた。

現在の国立競技場は1958年アジア大会と1964年東京オリンピックのメイン会場として建設され、その後は日本のスポーツの聖地として、ラグビー、サッカー、陸上競技などの大会、あるいはコンサートなどに利用されている。山崎氏は国立競技場の歴代入場者数のトップ5を紹介し、1964年の東京オリンピック開閉会式を除く3イベントはいずれもラグビーの試合だったことを伝えた。

■国際競技大会の会場に欠かせないこと

新国立競技場を考える上で海外の競技場は参考になる。山崎氏は最近のW杯や五輪でメイン会場となった競技場を例に挙げながら、新スタジアムに必要なポイントを解説し、「大規模な大会を開催する会場には(来賓をもてなす)ホスピタリティーエリア、選手控室、記者会見場などの設備があります」と述べた。これに加え「天候に関わらずイベントを開催するための開閉式の屋根が必要です。また、五輪・パラリンピック招致の際に約束した収容人数8万人、ホスピタリティーエリア、アクセスしやすくバリアフリーな競技場といった点を考えながら現在、基本設計を進めています」と語り、最新のスタジアムは多岐に渡る設備、設計が求められることが紹介された。

日本が世界に誇り、世界が憧れる次世代型スタジアムを目指す新国立競技場。国際デザインコンクールでは、イギリスの女性建築家ザハ・ハディド氏らによるグループのデザインが最優秀案に選ばれた。現在は設計の詳細や建築スケジュールを立てるべく調整が行われている。

流れるようなアーチをかけたハディド氏の設計は、「元気が出る日本」や「スポーツの躍動感」を表現した外観となっているという。内部ではサッカー・ラグビー、陸上競技、コンサートなど開催するイベントに合わせて観客席が可動し、臨場感あふれるイベントを楽しめるスタジアムとなる予定だ。

■すべての人に魅力的なスタジアムに

概要、コンセプトなどを紹介した山崎氏に松瀬氏は、「新国立競技場の建設はW杯、五輪・パラリンピック開催のために必須ですか?」と切り込んだ。これに対し、山崎氏は「現在の競技場は完成から50年以上が経過し、耐震性や競技を行うための国際基準も満たせていません」と回答。建て替えは避けられないという認識をあらためて示した。さらに魅力を発揮し、長期に渡って活用されるスタジアムにすべく以下の点を挙げた。

1)プレーする選手のための快適な芝生
2)快適に観戦するための開閉式の屋根
3)50年以上活用するべく、FIFA(国際サッカー連盟)W杯招致も視野に入れ、その要件も満たす

さらに山崎氏は私見として、「選手の高揚感を高めるべく、競技場の入り口には特別な施しをしたい」という考えも示し、選手、観客双方にとって素晴らしいスタジアムを作りたいという思いを明かした。

「売店、レストランなどは改善されますか?」と松瀬氏は飲食面でのさらなる充実を要望。これに山崎氏は「今は表に出ないと買い物に行けませんが、コンコースに売店を設置します。また、イベントがない日でも場内のレストラン、カフェに来てもらって街のにぎわいを作り、パリのエッフェル塔、シドニーのオペラハウスのようにしたいです」と述べ、新スタジアムを東京の新たな観光名所にする案も披露した。

■多様な意見が出る新国立競技場問題

第2部では質疑応答が行われた。新国立競技場計画についてはメディアなどを通じてさまざまな意見が飛び交っているが、会場からも山崎氏に対して、多くの意見、質問が寄せられた。

──新国立競技場によって周辺環境はどのようになりますか?

「国立競技場のある神宮外苑は風致地区にも指定されています。これまでにいただいたご意見も踏まえて、規模はコンパクトにして周りとの調和を目指し、植栽をするといった取り組みを考えています。今後も多くのご意見をいただくと思いますが、真摯に受け止めていきます」

──総工費はいくらくらいで、その財源はどこから出ますか?

「東京五輪・パラリンピック開催決定後、政府内の協議を経て、1692億円という総工費が決まり、それにあわせた設備を考えています。財源は国費、スポーツ振興くじの収益などで全体の工事費を賄う予定です」

──外観ばかりが話題ですが、バリアフリーは考えられていますか?

「パラリンピックを開催するということもあり、その点は配慮します。最寄り駅から段差なくフラットに移動できるデッキ、車いすの方が安心して楽しめる観客席、エレベーター、トイレなどの設備は充実させたいと思っています」

──今の国立競技場の芝生は販売しますか?

「5月末まで『SAYONARA国立競技場』というイベントを開催していますが、芝生だけでなく座席が欲しいという要望もあります。なので、内覧会などを行って記念品として引き取ってもらうことも検討しています」

あなたにとってラグビーとは?

「高校時代には授業でフッカーをやりました。その時はしんどいスポーツだと思っていましたが、昔からラグビーを見るのは好きで、先日の香港セブンズも楽しみました。W杯が日本で開催され、東京五輪でも7人制が正式種目として行われます。そのためにも、選手が気持よくプレーできる競技場を作りたいです。
これからもラグビーを見て、関わっていきます。2019年W杯を目指して新国立競技場は作られるので、これからもラグビー関係者のみなさんと対話をして、楽しんでいきたいと思っています」