2019年ラグビーW杯の開催都市はどこ?
決定まで1年足らず、その裏側を語る

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第42回が4月30日に東京都港区の麻布区民センターで開催された。今回は公益財団法人ラグビーワールドカップ(W杯)2019組織委員会事業部長の伊達亮氏をゲストに迎え、ラグビージャーナリスト・村上晃一さん進行のもと、来年3月に決定する開催都市の選考をテーマに行った。

W杯は経済効果に加え、国際交流などさまざまな影響を開催都市に与える。その選考がテーマとあって会場はファン、関係者らで立ち見が出るほどの大盛況。開催都市決定までのプロセスや、参加各国が大会期間中に滞在するキャンプ地の選考など、開幕まで6年を切った中で話は具体的な点まで及んだ。

■開催都市選びのポイント

伊達亮氏

伊達亮氏

伊達亮氏

第1部の冒頭、伊達氏は15年イングランド大会のプロモーションビデオを上映し、「イングランド大会のPRにも関わらず、日本の選手、ファンが多く映っています。これは国際ラグビーボード(IRB)の19年に向けた覚悟の表れです」と述べ、すでにIRBの目は19年の日本にも向いていることを紹介した。

大会は約7週間かけて48試合が日本全国で開催される。すでに60を超える自治体が開催都市決定に向けたプロセスへの参加意思を表明。今年10月末の立候補締め切り、現地視察や、立候補ファイルの確認などを経て、来年3月末に10から12の開催都市が決定する。立候補の条件は、19年の時点で1万5000人以上を収容するスタジアムを持つことが必須。その上で大会を開催するだけでなく、試合を盛り上げて安全に管理する基盤、世界中から集まる多くのファンや関係者が寝泊まりして楽しめる環境の提供、といった大舞台を運営するための基本的な能力を備えている街であることを伊達氏は求めた。

さらに「開催都市には責任と義務があります。W杯を求めていない地域に試合を持っていくと失敗することもあります」と語り、W杯を求めていることが最重要であるという認識を示し、すでに誘致に関してメディアで取り上げられている都市名をいくつか紹介しながら、W杯は単なるスポーツイベントというだけでなく、都市を世界に発信する大舞台にもなりうるという見解も明かした。

参考として伊達氏は15年イングランド大会で各地に分散する13の開催都市を紹介し、「これにはイングランドにラグビーを広めたいという思いがあります」と解説。また収容人数の大きい会場で多くの試合を開催することは収益のみを追求しているのではなく、子ども料金や周辺住民向け料金などを設定し、より多くの人にラグビーを見てもらう目的があることも補足した。

■キャンプ地、ボランティア募集も話題に

各国が滞在するキャンプ地選びについては「15年大会終了後のフィードバックが行われてからですが……」と前置きしつつ、適切な過程を経た上で、活動すべきとの考えを示した。各国のキャンプ地は大会期間中、同じ場所に滞在するパターンもあれば、試合ごとに複数の場所を転々とするパターンもあり、それは大会によって流行が分かれることにも言及した。

大会運営に欠かせないボランティアの話題ではまず、過去大会の人数といった規模を紹介。特に五輪と異なり全国の開催になるため、建設、イベント運営などさまざまな企業が関わるチャンスがあると語り、実際に説明会を行ったところ100を超える企業が参加したことを明らかにした。また、大会はラグビーという競技だけでなく、都市の振興、国際交流といった目的で活用してもらうことが自然で、競技の面は組織委員会が担当し、開催都市と協力して大会を盛り上げたいという意向を表明し、第1部を締めくくった。

■19年、20年はラグビーのターニングポイント

休憩を挟んだ後、第2部では質疑応答が行われた。会場にはW杯の開催都市立候補を検討している自治体の関係者も多く集まり、開催都市の選考に関わる具体的な質問や、キャンプ地の選考、さらにボランティアの公募方法まで多岐にわたった。

──冒頭のプレゼンテーションで「IRBの決意」とおっしゃっていましたが、その思いについて詳しく教えてください。

「ラグビーはターニングポイントを迎えています。16年のリオデジャネイロ、20年の東京で7人制が五輪競技となり、19年には日本でW杯が開催されます。今後世界の中心となるアジア、南米で行われるW杯、五輪のラグビーを成功させて、真のグローバルスポーツにしたいという狙いがIRBにはあります」

──開催地選定の上で、震災復興は考慮されますか?

「個人的にはこれは国のテーマだと考えています。ラグビーW杯が世界に発信できるプラットフォームということを考えると、11年にあのような悲劇が起きた後、8年後の日本がここまで復興したことを世界に伝える、お礼をする場として使っていただくのは、いいかと思います」

──02年のサッカーW杯に向けて建設された会場が多くありますが、それらは19年にも活用されますか?

「優先的に選定するということはないでしょう。ただ、02年に良いスタジアムがたくさんできたことは事実です。その中で質を考えれば、スタジアムの基準は02年のものになり、結果として02年の会場を使うことはあるでしょう。また、開幕戦と決勝戦は新たに作られる新国立競技場で開催することが決定しています」

■協力して19年W杯、20年五輪・パラリンピックを成功へ

──キャンプ地の選定スケジュールは?

「15年のイングランド大会終了後、参加チームへのヒアリング、15年組織委員会から19年組織委員会への引き継ぎなどが行われて報告書が作成されます。16年の後半には各国からキャンプ地への要望がまとめて紹介され、そこから立候補していただいて、海外チームへの「お品書き(キャンプ候補地リスト)」のようなものを作ります。その後、出場権を獲得しているチームの視察などが進み、17年くらいから少しずつ決まって、18年の夏ごろには一気に決まると思います」

──ボランティアの募集については、組織委員会と自治体、どちらが行うのでしょうか?

「これについては、組織委員会でボランティアプログラムというものを作ります。発表、公募する場合には自治体の広報媒体を使って、組織委員会で受け付けします。募集予定はまだ決まっていません。大会の2年前くらいにはアクションを起こしたいと考えています」

──20年東京五輪・パラリンピック組織委員会と協力はしていますか?

「もちろん考えています。東京五輪・パラリンピック組織委員会とはマーケティング、広報など連携をとって進めています。世界に対して、同じことを発信するわけですからね。同じ新国立競技場をメインスタジアムに行う大会です。それぞれが言っていることが異なっていたら世界のメディアは混乱します。国益を損なってしまうので、ベクトル、温度感などは足並みをそろえて実施していこうと思います」

あなたにとってラグビーとは?

「個人的にラグビーは学生時代にやったスポーツで良い思いもしましたし、苦い思いもしました。この国で初めて行われるメガスポーツイベントの準備に中心となって関わる機会を与えてくれたラグビーというスポーツには感謝しかありません。これから5年間、緻密な計画と準備をしていきます。恩返しという意味も含めて国民の皆さんが笑顔で、「ラグビーを見ることは楽しいよね」と言ってくれるスポーツにするべく、ささやかながら貢献できればと思っています」