公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第40回が2月24日、東京都・港区スポーツセンター会議室で開催され、国内のスポーツボランティア団体のネットワーク化を行う、日本スポーツボランティアネットワーク講師の二宮雅也氏を迎え、「スポーツボランティアとしての携わり方」をテーマに講義が行われた。二宮氏は、文教大学専任講師としてスポーツボランティアの研究も行っている。
近年、スポーツはイベント性やビジネスの側面が強くなり、情報はテレビやネットでやり取りするというスポーツライフが定着してきた。メディアスポーツの発展からすれば、それは当然のことであろう。しかし、二宮氏は「その一方で、もっと生々しい、味わい深い関わり方もスポーツの醍醐味です」と語る。『するスポーツ』『見るスポーツ』だけでは、そのスポーツに興味がある人のみの参加にとどまっていた。だが、『支えるスポーツ』であるスポーツボランティアの形態が生まれてからは、そのスポーツそのものに興味を持っていなかった人でも関わる機会が多くなってきたという。

■共通するのは『自らの意思において活動すること』

二宮雅也氏
二宮雅也氏

ここで二宮氏が解説するのはフットボール(ラグビー)の起源と、『スポーツ』と『ボランティア』という言葉の起源。フットボールはもともと、中世の欧州では日常から離れる“祭り”として行われており、スポーツ(Sport)という言葉はラテン語の『Deportare(生活から離れる)』に由来し、英語のDisport(気晴らし、遊び、楽しみ)が変化した言葉である。Dis(away=分離)+port(carry=運ぶ)、つまり『日常的苦労からの開放、気晴らし、休養、遊び』という意味となる。
 同様に、ボランティア(Voluntee)もラテン語の『Voluntarius』に由来し、これはVolunt(意欲)+Arius(傾向)、つまり『無償性・社会性といった意味は含まず、『自発性』のみが意味される。

これらから、『スポーツ』と『ボランティア』という言葉に共通するのは、『自らの意思において活動すること』。「この考えが2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック五輪までに定着するように、この数年で考えていかないといけない」と二宮氏は説明する。

例としてあげたのは2012年のロンドンオリンピック五輪。この大会では、いわゆるボランティアの人たちは『ゲームズメーカー』と呼ばれていた。つまり、単にサービスや業務を提供するだけではなく、自らスポーツを作り上げる一員として関わっているという意味である。それは先日行われた東京マラソンでも同じだ。
「給水所のボランティアの方たちは、ただ水を出しているだけじゃないんです。“頑張って”とか“あと何キロですよ”と必ず声を掛けていました。これはマニュアルに載っている業務ではありません。それぞれの判断でゲーム、空間を作り上げているんです」

2019年ラグビーワールドカップのボランティアを志望している人たちも、マニュアルどおりの業務をこなすだけではなく、「ラグビーの文化、歴史など色々と勉強して、どうしたらもっと面白い空間が作れるのかが求められると思います」と二宮氏。大会の質を上げるために、ボランティアは観客以上の存在じゃないといけないとも付け加えた。
「ボランティアは業務だけで完了するものではありません。もう一歩先にあるものが、ボランティアの本質だと思います。マニュアル+アルファが相当影響するものだと思います」

■目立つものだけがボランティアではない

また、講習会を受けて要請される明確なボランティアだけがスポーツボランティアではなく、草の根活動的なものもスポーツボランティアの1つである、と二宮氏。例として挙げたのは北海道マラソンで見られた『ハイタッチ普及協会』、また、J2コンサドーレ札幌の練習場のメンテナンスを手伝う『すいか隊』。なぜ、これらを挙げたかというと、「東京マラソンのようにすぐにボランティアの定員が埋まってしまうイベントもある一方で、1カ月、2カ月経っても埋まらないイベントもあります。みなさん、ボランティアを考えるとき、どこか線引きしてしまっているのでは? これをマイナスに移さないように」という思いを込めてのことだ。

そして、もう1つ挙げた事例が、山口県萩市で行われているウルトラマラソン大会「山口100萩往還マラニック」での出来事。最長で250kmコースという途方もないマラソンなのだが、これを完走した直後に踵を返してボランティアに従事したランナーがいた。なぜ、こんな過酷なレースを走ってすぐにボランティアをするのか?と二宮氏が聞いたところ、返ってきた答えが「後続のランナーにボランティアしたい。自分たちで支えていかないと、この大会がなくなってしまうから」。
これこそがスポーツボランティアの精神であり、「専用のウエアを着て行うことだけがボランティアではない。色んな人の支えがあって、大会やイベントは成功しているということを知ってほしい」と二宮氏は語った。

一方、この“支え”という視点では障がい者スポーツのボランティアがある。スポーツをする障がい者に対し、誰かの支えがないと成り立たないという面は確かにあるが、二宮氏が見てきた経験から、実際はそればかりではないという。
「障がい者のサポートをすることで、逆に生きがいを得られているという人が増えています。自分が支えているからゴールできたというのではなく、実際はそれの逆。あなたがゴールできたから、自分も生きがいを得られたという人がたくさんいるのです」

そういった障がい者を支えるスポーツボランティアの中で、例えば視覚障がい者を支えるボランティアにマラソンの伴走、ブラインドゴルフのペアなどがあるが、これらは一緒にプレーするタイプのボランティア。先に挙げた大会・イベントを支えるボランティアと合わせて、「スポーツボランティアは幅広いタイプで広がっており、多様な関わり方があることをご理解していただければ」と、二宮氏は説明した。

■継続への鍵は「認められる」こと

こうして挙げてきたスポーツボランティアだが、1回やって終わり、となってしまうのが一番いただけないパターン。継続的な活動にするためにはどうすればいいのか? 二宮氏が考えるシナリオとして、
・楽しさの発見(想像以上に面白い関わり方がある)
・ともに楽しむ(喜び2倍)
・スポーツそのものに詳しくなる(まだまだ隠れたスポーツボランティアがある)
上記のことが大切になってくるが、そのためにはスポーツボランティアを支えるスポーツ環境も必要である、と説く。どういうことかと言うと、スポーツボランティアにとって一番の喜びは、全力でプレーした選手からの「感謝」の言葉。そして、周囲から「認められる」ことである。スポーツ実践者が、いかに自分たちがボランティアに支えられているかを認められるか、ボランティアを認める社会を形成できるか――こうした環境をスポーツをする人、みる人、支える人の間で互いに構築できるかが鍵。

二宮氏は「そうしたスポーツボランティア文化の醸成が、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピック五輪までに目指すところです。スポーツボランティアはまだまだ発展の余地があります。自分なりの楽しみを見つけてほしいですし、スポーツをやった後と同じ爽快感を味わうことも可能です」と締めて、第1部の講演は終了となった。

■ボランティアのモチベーションを上げるには?

休憩を挟んだ後、第2部ではフォーラム参加者の質問に二宮氏が答えた。質疑応答の内容は以下の通り。

──スポーツボランティアでゲームやランナーを見ることができなくなりますが、その場合のモチベーションアップはどのようにしていますか?という質問です。

「荷物係とか事前受付とかのボランティア活動をされる方は、当日にあまりゲームなどに関わりがないと思います。また、ソチオリンピックでもあったと思いますが、オリンピックが始まると同時に終了するボランティアもあります。そういった方々のモチベーションをどう上げるのか? それは難しい問題だと思うのですが、まず認識をどこに置くのかということが1つあります。と言うのは、みんなの力がないと大会やイベントは出来上がらないんです。それは選手が見える、見えないはあると思うんですが、その人がもしいなかったら大会は成立しないくらいに思っていいと思うんです。代替がきかないのがボランティアのいいところじゃないかなと思います。つまり、それはアルバイトじゃない。ちゃんとした思いの強い人たちが、自分たちの思いによって、しっかりとした役割の中で活動している。つまり、最終形をそのイベント・大会のゴールに設定していただいて、そこにコミットするということがまず1つ。

もう1つは、そういう見えない方々に対する参加者、あるいは周りの人たちの感謝の言葉ですね。つまり、分かりやすいボランティアの方たちだけに“ありがとうございました”というメッセージを発信するのではなくて、裏で見えない活動をしてくれた方々にも感謝の意をこめていけるかということが、モチベーションを上げていけるかの大きなポイントだと思います。つまり、今の質問の1つの裏側の要素にあるのは、表に出る人だけが認められるのではない。ボランティアというのは周りの問題でもあります。我々がボランティアをどこの段階で認識しているのか。つまり、ボランティアのウエアを着て、当日お水を渡している人だけをボランティアと認識するのか。もうちょっとそれを広い視点で見ることができるのか、という我々の問題でもあると思いますので、そこをお互いに切磋琢磨しながら、視点を上げていくことが大きなポイントではないかなと思います

──二宮先生が知っている事例の中で、海外の事例で特に興味を強くもたれたものはありますか?という質問です。

「もちろん色々とありますが、みなさんご存知のニューヨークのマラソンとか、ロンドンのマラソンとかには、チャリティーというものが歴史的にあって、色々な大会のお金が様々な慈善事業に振り分けられています。そういったタイプの大会が国際的には大きな大会として成立しています。そういうところに参加されるボランティアの方というのは、大会の性格を認識されていることが多いと聞いています。それが1つ印象に残っていることです。

もう1つは、あまり目立たないような国際大会、例えば民族スポーツの大会(イベント)とかいうのがあったりするんですが、そうすると地元のおじさんたちが丸太を運んできたりするんですね。バスク地方のイベントなどが有名です。さまざまな地方イベントでは、片手にビールが置いてあって、ボランティアなのか単に楽しんでいるのか分からないような形態を見たことがありまして、そういうのは逆にすごいセクションがしっかりしてなくて、形式的ではないですけど、すごく笑顔にあふれていて、いいなぁと思うようなことがありました」

■「素直な動機から始めればいい」

──次の質問です。スポーツボランティアの経験がまったくない人がスタートとして、どのようなボランティアから始めればいいでしょうか?

「やっぱりご自身が興味のあるところを優先していただきたいなと思います。自分の性格も反映されやすいかなと思います。例えば、チャリティー精神が非常に強くて、この大会を自分が支えたいという思いが強い方が運営に関わるボランティアをされる場合もあります。あるいは、全然そうではなくて、自分自身が走ることが得意だとか、この特技を生かしてボランティアをしたいという方だと、専門的要素が強いボランティアになってくるのかなと思います。まずは自分自身がどこにエネルギーを出せるのか、ぜひ冷静に分析していただきたいなと思います。やっぱりボランティアの原点は自発性です。自発ということは、なんらかの動機がないとできないことです。その動機は素直な動機でいいと思うんです。少し変な言い方かもしれないですけど、やりたくない人はやらなくていいと思います。無理してやるのはボランティア活動ではないと思いますので、本当に素直にどこら辺に興味があるのかなというところを第一にしていただいて、そして、その関連のボランティアで何ができるかを、インターネットでいいと思うので検索していただいて、あるいはボランティアの団体にお問い合わせいただければいいかなと思います」

──では、次の質問です。来月、スポーツボランティア・リーダーの講習を受講します。二宮先生も東京マラソンでリーダーをご経験されたとのことですが、リーダーに必要なスキルや、リーダーとして現場に出るときの心構えなどについてアドバイスをいただけるとうれしいです、よろしくお願いします。ということですが?

「これはかつて私も東京マラソンのボランティア・リーダーを養成する講座を何回か登壇させてもらったことがあるんですが、そのときにいつも言っていたのは、自分で背負い込まないということですね。人の上に立つ人が自分で背負い込んじゃうと何でもかんでも自分の責任になってしまうので、ついつい指示を自分から出して、自分が統制しないといけないような形になってしまうんですが、私がボランティア・リーダーをさせてもらったときに一番感じたことは、まず、特にマラソンでのことですが、自分よりもマラソンのことを詳しい人が多いです。だから、任せた、と。つまり、リーダーの養成講座を受けるから自分はリーダーなんだ、ということではなくて、リーダーよりもすごいリーダーがこの中にいると思ってください。実際にいます、心強い人が。それで、そういう影のリーダーを自分の中で作ってください。そして、うまくその人に“すみません、この辺をお願いできますか?”と言って、リーダーのリーダーを増やしていくと、最終的には全員リーダーになれます。そうすると、みんな自己判断でいい仕事をするようになって、自分は少し遠くからフォローするような形になって、一番いい関係性ができてきます。これが、僕がやってきて一番いい形かなと思います。だから、あんまりリーダーだからということで、あれはこうしてください、これはこうですと言う風にやらなくてもいいかなと思います。
やっぱりスポーツボランティアって、色んな世代の方、色んな経験を持った方がいますので、時には自分よりも優れているものを持っている方が多いんですよ。その能力をいかに開花させてあげるかというのが、リーダーの仕事で、そのために何が必要かというと、その人たちといっぱい話をすること。探るということ。業務が始まる前までが勝負です。業務が始まる前にたくさんしゃべって、任せられる人に任せていくということが一番重要かなと思います」

■「関わりがアイデンティティの形成に大きく影響する」

──ありがとうございます。それではもう1つ。スポーツボランティアは生活や人間性にどのような影響を与えると考えていますか?と言う質問です。また、するスポーツ、見るスポーツとは違う関わり方であるボランティアが、する・見ることによる影響と違う影響を生活や人間性に与えるとしたら、どのような違いがあると考えていますか?

「これはたぶん、スポーツボランティアだけではなくて、まずボランティアが人間性にどのような影響を与えるのかというところは、現代社会の中で進行してしまっているので仕方ないところはあるんですけど、阪神淡路大震災、東日本大震災、今回の大雪であったりとか、様々な災害というのは次から次と出てくるんですね。その中でニュースを見ていた人が、どのようにその状況を自分の身体で感じるのか。つまり『こんなことがあったんだ、大変だね』で済むのか、『こんなことがあったんだ、何か自分にできることがないかな』と次の瞬間に心の中にもやもや感みたいなものが生まれているのかどうかというところが、やっぱりボランティア活動みたいなものを自分の生活の中に色々と取り入れてきたかが一番現れてきているんじゃないかなと思います。それはスポーツボランティアだけではなくて、様々なボランティアがそこに影響するのかなという感じがあります。

そしてもう1つは、地域とかいわゆる自分のアイデンティティを構築との関連です。僕は九州の片田舎生まれですので、ものすごく地域アイデンティティが強いんですが、自分を振り返って、なぜ地域アイデンティティが強くなったのかと言うと、やっぱり地域に関わったからですね。地域に関わると言うのは、お祭りであったり、イベントであったりとか、様々なものに関わってきた。その関わりというのは、これはやっぱりあくまでボランティアなんですね。自分から関わっていくということ。それはもちろん、ボランティアと人間性という関わり方ではないんですけど、やはりボランティアの活動を行ったということが強いわけですね。ですから、スポーツボランティアもしかり、ほかのボランティアでもそうですけど、やはり地域というところと関わったりとか、イベントと関わったりというのは、自分のアイデンティティの形成に大きく影響を与えるのではないかなというところが、人間性の部分と関連するところなのかなと考えています」

あなたにとってラグビーとは?

「私自身がスポーツと社会の関係性を研究していることもありまして、サッカーとラグビーが分化する前のフットボールというのが、ラグビーにおいても原点なのではないかなと思います。それはやっぱりお祭り的なものであって、多くの人たちが関わりあって、そしてルールもない中で一晩中騒いで、1点決めた勝者を称えるというお祭り的な要素が、そのスポーツの原点じゃないかなと思うんです。もちろん近代化と同時にそれがサッカーとラグビーに分かれてきて、今の形になっているんですけど、やはり私は原点はそこにあるような気がします。観客もそうですし、プレーヤーもそうですし、それからボランティアもそうですし、そういったみんなで楽しめるスポーツ、つまりプレイヤーだけでなく関わっている人すべてが熱くなれる要素を持っているところが、ラグビーのすごい魅力じゃないかなと思います」