マッチリポート 第50回 全国大学選手権大会

帝京大学 41-34 早稲田大学
【ファイナルステージ決勝 2014年1月12日(日)/東京・国立競技場 】
現在の国立競技場を舞台として行われる最後の大学選手権決勝は、これを祝うかのように穏やかに晴れわたった。第50回を迎え、キックオフ前に歴代の優勝キャプテンが出席し記念セレモニーを行った。その中で、第30回大会で優勝した元木由記雄氏は、「この日にふさわしい歴史に残る試合が行われることを期待する」といったコメントで挨拶を行った。

帝京のキックオフで始まった試合はあまりにも劇的な幕開けとなった。帝京キャプテン中村亮土選手が浅めに蹴ったボールを確保した早稲田。ラックから出たボールをSO小倉順平→FL布巻峻介とつないで、布巻が帝京ディフェンスラインを突破して帝京陣に入ったところでWTB荻野岳志にパス。荻野はそのまま50m近くを走り切って左中間にノーホイッスルトライ。30数秒しか経過していないところで早稲田が先制した。SO小倉のゴールも決まって0-7とする。

しかしながらこの後、帝京がブレイクダウンで強烈な圧力をかけて、早稲田は防戦一方になる。かつての早稲田を彷彿させるような低いタックルで耐える状況となり、早稲田陣での戦いが続く。しかし帝京もリズムにのれず、ミスを繰り返してすぐには得点に結びつけることができない。

そして12分、早稲田が密集で圧力を受けたところで思わずペナルティ。これを帝京はタッチに蹴り出してラインアウトモール。ゴールライン目前でサイドを突き、ピック&ゴーからLO小瀧尚弘がインゴールに抑えてトライ。ゴールははずれて5-7とする。

この直後のキックオフ。帝京の中村キャプテンが蹴ったボールはダイレクトタッチ。そしてセンタースクラムで帝京がコラプシングの反則。早稲田SO小倉順平がゴールを狙うが惜しくも右側にはずれ畳み込むことはできなかった。

次の得点は帝京。早稲田ゴール前でのラインアウト。早稲田はうまく対応してモールを作らせなかったが、サイドを突く帝京が圧力をかけ続け23分、密集サイドでPR深村亮太が早稲田の低いタックルの上から手を伸ばしてトライ。ゴール決まって12-7と逆転。

この後も帝京が攻め続け、早稲田が守る展開が続くがなかなか得点は動かない。次に動いたのは終了間際、早稲田SO小倉が帝京ディフェンスライン裏へ自分で取りに行こうとするキックを蹴る。帝京SH流大がキャッチしたところに小倉が自らプレッシャーをかけたところで40分のホーンが鳴るが、早稲田は攻め続け左右に展開する。ここで帝京がたまらず反則。42分早稲田SO小倉順平がPGを決めて12-10と点差を縮めたところで前半終了。

後半はまたもやノーホイッスルトライで始まった。早稲田が深く蹴ったキックオフボールを帝京は大きく蹴り返す。早稲田も負けじと帝京陣内へ攻め込むが、10m付近でできたラックから帝京LO小瀧がLOとは思えぬほどの見事な走力で60m近く大きく前進する。早稲田はゴール前でかろうじて止めるが、そこでできたラックから大きく左へ展開しWTB磯田泰成が左隅にトライ。ゴールも成功、19-10とする。

ここから帝京は驚異的な集中力を発揮する。8分にSO中村が蹴ったPGがゴールポストに当たって失敗となるが、早稲田はこの跳ね返りボールをノックオン。ここで得たゴール前正面のスクラムで早稲田が反則。9分にSO中村がPGを決めて22-10としたあと、帝京らしい素晴らしいトライが生まれる。12分、自慢の快足を飛ばしてキックチェイスしたWTB磯田が早稲田WTB荻野を早稲田陣内左側10m付近で止める。ここでできたラックでターンオーバー、右へ大きく展開。12→10→14→15とつなぎ、FB竹田宜純が縦に割って前進。直前にパスをした、この大学選手権で1年生ながらその才能を買われてSOに起用されている松田力也が外側にフォロー、そのまま20mを走り切って右隅へトライ。ゴールも決まって29-10と突き放す。

その直後またもや帝京SO松田力也が才能を発揮する。早稲田が深く蹴りこんだキックオフを帝京FL杉永亮太が大きく前進ハーフウェイまで戻す。ここでできたラックから出たボールを受けた松田がそのまま縦突破、ステップも織り交ぜて50mを走り切ってまたもや右隅にトライ。ゴールは失敗、16分34-10、24点差と大きく差を広げた。

早稲田ここまでかと思われたが、ここで息を吹き返す。浅く蹴ったキックオフボールを確保。左右に振りつつ、垣永慎之介主将、金正奎副将が前進する。左右に振ったラックを連取して最後にWTB荻野が左隅にこの日二つ目のトライ。難しいゴールをSO小倉が決めて34-17と喰らいつく。

続けて早稲田。蹴りあいから約50mを繋ぎ切ってFB藤田慶和から内に返したボールを受けたCTB坪郷勇輝が粘って左隅になだれ込んでトライ。ゴールは失敗したものの、20分22-34と追いすがる。早稲田は次のキックオフからもなお攻め続ける。ここへきて早稲田がブレイクダウンで帝京に対抗できるようになってきた。しつこく攻め続けたところ、ゴール前で帝京がたまらず反則。WTB荻野岳志がクイックタップからそのままゴール左中間へ持込みこの日3つ目のトライ。荻野は14番を付けていながら右左関係なく動き回った。ゴール決まって34-29、残り12分となったところで1トライ差と迫る。

しかし王者帝京も黙ってはいない。直後のキックオフから早稲田ゴール前に攻め込み、ラックをしつこく繰り返し、30分HO坂手淳史が左中間にトライ。ゴールを決めて41-29と突き放す。

この後早稲田が帝京陣内で攻め続けるも帝京にボールを渡してしまう。帝京は自陣ゴール前で時間を使う作戦に出て密集を繰り返すが反則を犯してしまう。早稲田はなんとかCTB坪郷勇輝がこの日2つ目のトライを返したところで80分のホーン。ゴールを失敗したところでノーサイド。41-34、双方で11個のトライを取り合う死闘に終止符が打たれた。

帝京大学がブレイクダウンを制圧、後半開始から15分間の圧倒的集中力で貫録を見せつけて前人未到の五連覇を達成した。このまま当初からの目標である打倒トップリーグにむけて磨きをかけてほしい。

一方、敗れた早稲田も前半圧倒されたブレイクダウンでも徐々に対応できるようになるなど、かなりの部分で通用しているなど、確実に差が縮まっているという印象を受けた。このまま覇権奪還に向けて切磋琢磨を続けてほしい。

 

(澤村 豊)
試合写真 試合写真 試合写真 試合写真

 

photos by RJP H.Nagaoka
会見リポート
 

監督・キャプテン
帝京大学の岩出監督と中村キャプテン

帝京大学

○岩出雅之監督

「よろしくお願いします。ノーサイドと今と同じ気持ちです。率直なところ、学生がよく頑張ったと思います。また、早稲田さんの、最後まであきらめないスピリットに敬意を表します。最後に早稲田さんと当たるのではという思いを積み上げて、それを超える様々な取り組みを毎日やってきて、国立競技場最後という最高の舞台で、最高の相手とやれました。我々は松田の連続トライで決まったかと思いましたが、早稲田さんの最後の最後まで気持ちを切らさないプレーにクロスゲームとなりました。選手たちにとって、とてもやりがいのあるゲームになりました。初優勝の時も1点差でギリギリでしたが、その思いに近いものを感じました。ラグビーの醍醐味が味わえるゲームだったのではないでしょうか。立ち上がり、ノーホイッスルトライをスカッと獲られて、ゲームプランが違いましたが、今日の勝利はFWの頑張りに尽きると思います。ゲーム前から早稲田さんもセットピースに自信を持っているようでしたが、我々の対策がしっかりできて、努力が報われたかと思います。ありがとうございました」

──セットスクラムでターンオーバーがあったが?

「早稲田ボールからスクラムが始まるという幸運もありました。準備してきたことを最初に出せましたから。こちらの3年生、2年生もそろそろ大人になるころかなと。受け身から能動的になる成長も感じていたところです。昨日のミーティングでもプロップのことしか言いませんでした。やってくれるという感触は持っていました」

──ブレイクダウンの評価は?

「相互とも、アタック力のあるチームなので、ボール保持するチームが優位かなと思っていました。ボールを動かすことは大事ですが、キャリアーと二人目がしっかり切って行こうとしました。リロードは集中力に尽きます。今日の出来は80点です。寄りが速ければ、ターンオーバーからのトライは一瞬の集中力の差で生まれます」

── 5連覇の喜びと要因は?

「まず、喜びよりホッとする気持ちですね。これまでのシーズンより楽なゲームが多かったと見えますが、逆に疲れました。厳しいゲームだと学ぶものがありますが、楽をすると年齢相応に戻ってしまうのではと心配をしていました。今年はジュニアも含めて完全勝利を収めることができましたが、守りに入らせない、油断させないことが重要でした。連覇のことより、目の前に集中させることが大事でしたが、逆に難しさを感じました。しかし、それができたことには、学生の精神的な成長を感じます。今日は、学生に、心の強さから生まれる笑顔を作り出そうと伝えました。しんどい80分間、世の中のこと、出られない選手のことを考えれば、幸せなことだと。80分間、楽しんで来なさいと声を掛けました。コーチ、リーダーもよく理解してくれて、一歩一歩、信頼と実力を付けることができたと思います」

──社会人に対しては?

「例年、うちのチームも他のチームも、ここから社会人対策を立てていました。正直、2-3週間でゲームを挑める力の差ではありません。今年は、少なくとも1年間かけて、挑戦の準備を意識させてきました。そういう学生の活動があってもよいのではと思います。ここから1週間程度は、学生を休ませますが、優勝チームの責任としても、挑戦させたいと思います。やってみて、どこまで差が縮んでいるか、学生代表がうまくチャレンジできるようにしたいです。今年は4チーム、それぞれアイデアをもって、胸を借りるのでなく、ぶつかっていくと思います。若さを出してぶつかってほしいと思います」

○中村亮土キャプテン

「よろしくお願いします。このゲームに当たり、最高の舞台で最高の仲間とやれる幸せを感じていました。トライを獲られた後も、(決勝で戦えることを)幸せに思おうと選手に声を掛けました。結果として、勝利することができました。早稲田さんは素晴らしいチームでした。今までラグビーをやってきて、これだけのチームはありませんでした。FWが力強くやってくれて、なんとか勝利できました。BKからも自分個人からも感謝したいと思います」

──早稲田の藤田選手の走るスペースがなかったが?

「外に素晴らしいBKがいる早稲田さんなので、その前にブレイクダウンでプレッシャーを掛けて、整って速く出させないようにしました」

──松田選手の連続トライの場面は?

「チームの状態として、後半は興奮していました。ペナルティをなくして、キックオフから確実に敵陣へと。具体的には、ペナルティが重なって自陣に釘付けになっていたので、まず、ペナルティをしないことと、熱くなりすぎてブレイクダウンで必要以上にファイトしないことを伝えました。その結果です」

試合写真 試合写真 試合写真 試合写真

 

photos by RJP H.Nagaoka
 

監督・キャプテン
早稲田大学の後藤監督と垣永キャプテン

早稲田大学

○後藤禎和監督

「1年間ありがとうございました。結果は非常に残念です。この試合に臨むに当たって、帝京さんには、失点を20点以下のロースコアに抑えなくてはと考えていました。結果として、40点以上獲られては勝てません。時間帯としては、後半最初の20分は我慢して、最後の20分で走り勝とうというイメージでしたが、そこでの集中力は帝京さんが上回ったと思います。具体的にはブレイクダウンで、想像以上にプレッシャーを受け、ターンオーバーされたり、プレッシャーからのミスが出たりして、つけ込まれました。こういう課題を真摯に受け止め、明日からチームを作っていきたいと思います」

──有利と言われたスクラムの印象は?

「前半の前半は後ろのボールコントロールが乱れました。少し、もったいなかったです。スクラム自体の数も少なく、結果論ですが、もっと組みたかったです」

──もう少し早く反撃できなかったか?

「前半に関して言えば、自陣に閉じ込められた状態で、スクラムのボールコントロールミスがあり、結果的にディフェンスの時間が続いたので、致し方なかったのかなと思います」

○垣永真之介キャプテン

「前半、良い形で先手を取れたのですが、後半の最初に帝京さんの素晴らしい集中力を見せ付けられました。厳しさが帝京さんの方が上だったと思います」

──声掛けは?

「試合中、あんなにトライを獲られても、僕自身はまったく負ける気はしませんでした。心の中で思っていたので、皆で共有したいと声を掛けていました」

──スクラムの出来は?

「僕としては優位に組めていたと思います。相手にサイドステップを踏ませたのは大きかったと思います」

──50mPGを狙ったときは?

「まず、ドロップアウトになっても、敵陣に居られるし、マイボールリスタートができると思って狙わせました」

──もう少し早く反撃できなかったか?

「今の実力で、最高の選択だったと思います」