マッチリポート 第50回 全国大学選手権大会

慶應義塾大学 10-7 東海大学
【セカンドステージ 2013年12月22日(日) /埼玉・熊谷ラグビー場 】
大学選手権2ndステージの最終戦。混戦のC組から、熊谷での勝利にファイナルへの希望をつなぐ慶應義塾と東海が対戦。
慶應は対抗戦の終盤に早稲田、帝京に大敗を喫したが、選手権に入ってチームを立て直し、立命館に勝利、明治には一歩及ばず惜敗。東海もリーグ戦を通じて浮き沈みの激しいシーズン。選手権でも明治に一点差負け。立命館には30点差を逆転するというゲームを見せた。
両チームとも一勝一敗。同組2勝の明治の結果次第とはいえ、国立への切符を手にする資格を得るには、必勝あるのみ。激戦となるのは必至である。
戦前の予想は、攻める東海、粘る慶應と誰しもが思うところ。得点が動けば東海、僅差なら慶應。もう一つ、勝負を分ける要因があるとすれば、熊谷の風か。
注目の一戦にスタンドには両校の応援もヒートアップ。大きな声援に送り出され、両チームが熊谷のピッチに散っていく。

キックオフは風上に立った慶應。深く蹴りこまれたボールを東海が展開を試みるもハンドリングミスで、早くも慶應にチャンスが巡ってくる。しかし、東海の大型FWがスクラムで圧倒し難なくピンチを脱する。
アタックではやはり東海の方が力強い。WTB小原が大きくゲインランを突破していく。攻め続ける東海に慶應ディフェンスも粘るが、反則を犯して相手にゴール目前のライアウトを許してしまう。
ここからはしばらく東海が攻め続ける展開に。ゴールを背にして残り5mを死守する慶應。10分、たまらず慶應は反則。東海は一気に圧倒しようとスクラムを選択するも、自らの反則で最初のチャンスを逸する。
13分。再びアタックを開始する東海。連続攻撃と効果的なキックで敵陣深く攻め入る。風上の慶應もキックで陣地を得ようとするが、東海のFWが風の勢いを上回るプレッシャーで釘付けの状態を保つ。
WTB小原の力強いランを起点に圧倒的に攻める東海だが、大事なところでのハンドリングミスが目立つなど、なかなかゴールを陥れるには至らない。いったいこの攻防はいつまで続くのかと、観衆も息を飲んで見守る中、次第に慶應のタックルが東海選手の芯をとらえ始める。
ノースコアのまま、時計はあっという間に30分を経過していた。やっとの思いでグラウンド中央まで盛り返した慶應。相手反則もあって敵陣でのラインアウトを得るが、ここはミスで攻め切ることはできず。東海は自陣の22mからボールを動かして反撃に転じ盛り返すが、ここで手痛い反則。
風上の慶應は距離のあるPGを選択するも、ボールはポールの外側をかすめ先制ならず。ドロップアウトで試合が止まる。22m、東海のドロップキックは風に押されるようにしてそのままタッチラインを超える。勝負の綾はここにあった。好位置でのスクラムを得た慶應は、FW、BK一体となった連続アタックを見せる。相手反則のペナルティキックを得ると、今度はラインアウトからの攻撃に切り替えた。正確なスローから完璧なモールを組んで押し込みトライ。この試合の始めての得点は、慶應のものとなった。コンバージョンは決まらずこのまま5-0で前半が終わった。

後半。風上に陣取る東海は、相手反則から立ち上がり早々のチャンス。マイボールラインアウトを確実にキャッチすると、FWの手を渡ったボールは再びスローワーへ。そのままタッチライン沿いを走り抜いたHO北出がゴールへ飛び込んだ。10番の野口が難しいゴールキックを決めて、7-5と逆転に成功。
試合は風上に立ちリードを奪った東海が優位と思われたが、ここから粘るのが慶應の真骨頂か。
後半10分。慶應はSOを替える。22番を背負った佐藤は小気味よくボールを展開し、攻撃にリズムを生み出した。敵陣でのラインアウトからテンポよくアタックを仕掛けると、東海のディフェンスにわずかな隙が生じた。ラックサイドを抜け出したのは慶應SH渡辺。フォローのPR三谷がゴール下へ再逆転のトライ。しかし、イージーと思われたコンバージョンを決められず、スタンドからはどよめきが。10-7。グラウンドにはまだ緊張感が漂い、息詰まる攻防はまた繰り返されることとなる。
攻撃のリズムを得た慶應は、ショートパスを多用して早い展開。残り10分、東海にはやや焦りが見え始めたか。慶應は相手反則で得たラインアウトから攻撃。ここは逆に東海のディフェンスが粘りを見せる。風を利してキックを伸ばしピンチを逃れたかと見えた。しかし、慶應はこのボールを切り返す。ディフェンス網のギャップを見逃さないのは、やはりSH渡辺。LO白子の手に渡ったボールはゴールラインを越えて、決着をつけるトライかと思われたが、着地の寸前にその手からこぼれたとの判定。
残り5分。タッチライン沿いには東海の交代選手が並ぶ。16番をつけたキャプテン、坂尻の姿も。時間が過ぎていく。慶應陣へ攻め入るも、相手ボールのスクラム。逆転のためにはどうしてもこれを奪い返す必要がある。左PRの位置に入った坂尻のキャプテンとしての意地が、これを現実のものとした。
ここから、東海の怒涛の攻めが続く。これを慶應が、これも伝統に裏付けされた意地なのか、突き刺さるタックルで一歩も引かない。ホーンがなってこれまでかとため息が漏れたが、レフリーの笛は慶應の反則をとっていた。小さく蹴られたボールは再び東海FWのものとなり、あと2m、あと1mと歩を進めていく。ついには青い塊となったFWがゴールラインへとなだれ込んだ。しかし、レフリーがその手で示していたのは、ボールは空中にあるとのシグナル。そして次にノーサイドを告げる笛。

まさに激闘。そう呼ぶにふさわしい試合であった。両チームともにすべての力を出し切った、本当に素晴らしい一戦であったが、わずかな差で歓喜に沸いたのは、慶應。東海はあと一歩というところで涙をのんだ。

 

(栗原稔)
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photos by RJP Kenji Demura
会見リポート
 

慶應義塾大学

○和田康二監督

「最後まで胃の痛くなる試合でした。大学選手権自力でのベスト4というのがない状況でしたが、まずは目前の試合に勝って、あとは結果を待とうと。そのためには今シーズンのベストゲームをしようと思って臨みました。特にディフェンスということではベストのゲームができました。アタックもトライは少なかったですけど、特に後半は積極果敢の攻めができて、慶應らしいゲームだったと思います」

──今、他会場の結果を待つ形になっていますが、同じ時間に試合をしたかったとの思いは?

「私たちの立場からすると、それは気になりませんでした。もし、逆の立場なら同じ時間のほうが良いと思ったかもしれません」

○濱田大輝ゲームキャプテン

「アタック、ディフェンスを80分間我慢し続けることをテーマに試合に臨みました。それができて、この結果につながったと思っています。人事を尽くして天命を待つという心境です」

──最後、守り切ったインゴールの攻防について。

「自分も状況が見えていませんでしたが、味方フォワードが2人、3人、下になって防いでいたと思います」

──勝利の瞬間は?

「僕の感情としては、ほっとしたという気持ちが最初にわいてきました。そのあと、次に望みがつながったという思いに変わりました」

──東海大について、試合前に考えていたことは?

「センターまでが前に出てくるディフェンスと分析していましたので、前半はそれに対してチャレンジしていこうと考えていました。後半はさらに外へ振ってアタックしていこうと考えていました」

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photos by RJP Kenji Demura
 

東海大学

○木村季由監督

「セカンドステージのラストゲームということで、一年間やってきたことを、この試合にすべてぶつけようと今日はチャレンジをしました。試合は前後半通じて、慶應さんの堅いディフェンスにアタックの良い形が出せずに終わってしまったというのは、本当に悔しいところですが、それだけ慶應さんのディフェンスが素晴らしかったのだと思います。
このチームは出来幅の大きいチームでしたが、最後にいちばん良い形を発揮させてやれなかったことは私の責任であると痛感しています。選手たちは最後まであきらめずによく戦ってくれました。
坂尻はキャプテンとしてゲーム中だけではなく、日常の練習でも率先してキャプテンシーを発揮してくれていました。この場を借りて、感謝をしたいと思います」

──ラインアウトがうまくいっていないように見えたが。

「風じゃないですか?風だけです。もちろんそれを克服できなかったのは自分たちですが...。勝負どころで攻めきれませんでした」

○三坂幸生キャプテン

「本日はどうもありがとうございました。自分たちの強みであるアタックが、今日は慶應大学さんのディフェンスの前ではうまくいきませんでした。自分たちの精神的な甘さもあったかもしれません。そういうところが勝負の分かれ目だったのかもしれません。
絶対に負けないという強い気持ちで臨んだのですが、勝負の世界は本当に厳しいと痛感しています」

──キャプテンは勝負所での出場でしたが。

「絶対に追いつける点差だったので、そのスクラムでは絶対にボールを取るという思いで入りました。インゴールでの攻防も絶対にトライがとれると強い気持ちでいましたが...。」