公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第35回が8月28日に開催され、文部科学省スポーツ・青少年局の大槻秀明スポーツ政策調査分析官が「国際競技大会開催の意義とは?─2002FIFAワールドカップサッカー大会からラグビーワールドカップ2019の成功に向けて─」をテーマに講演した。
大槻氏は2002年に日本・韓国共催で行われたサッカーワールドカップ(W杯)で組織委員会の一員として開催に携わった。その経験を踏まえ、サッカーW杯開催時の課題などを振り返りつつ、2019年のラグビーW杯への提言を行った。また、近年の「国際競技大会を開催する意義は経済効果だけではない」と強調し、五輪などの招致・開催の必要性について、行政の立場から見解を述べた。

■02年サッカーW杯「共催によって大会運営が難しくなった」

大槻秀明氏
大槻秀明氏

サッカーW杯の招致を決めた頃、スポーツに関する日本の法律は「スポーツ振興法」だった。スポーツ振興法は1961年の制定、つまり東京五輪前の制定であり、当時の法律には、国の責務に明確な条項がなく、また、社会状況の変化や国際競争の激化などスポーツを取り巻く環境が制定当時とは大きく異なり始めていた。これでは、「アスリートが国際競技大会の舞台で勝てなくなる。」(大槻氏)状況にあった。

その中で行われたサッカーW杯は、結果的に韓国との共催となった。「単一競技での大規模な国際競技大会を実施したことがない日本で、さらに共催となった難しさも出てきた」。財政面では、チケット収入は半減したものの、大会運営に関わるコストは1カ国開催と同等規模、また韓国との協議において時間・コストが増大した。

そのほかにも、サッカーW杯では、チケット販売の遅延、テロ対応などによる警備強化、国際連盟のオフィシャルパートナー決定の遅れなど、様々な課題が噴出した。

「国際競技大会を開催する際、国際連盟がすべての利益を牛耳ろうとします。これでは、開催することすら収支が合わなくなります。また、運営に関しても、独自のルールを持っていますが、その中には日本の文化・ルールに合わないものもあります。そこでわれわれは、韓国の組織委員会と歩調を合わせ、数々のシミュレーションを重ね、何がどれくらい足りないかを訴えていき、自国で販売する入場券収入を全額、自国の組織委員会の収入にすること、大会運営コストとして日・韓組織委員会それぞれに1億米ドルを払うことを認めさせました。

共催に関する問題はサッカー独特のものかもしれません。しかし、税金問題は2020年の五輪、2019年のラグビーW杯、2017年の冬季アジア大会などの全ての国際競技大会に関わる問題です。国際連盟は大会運営に関わるすべてのものを免税にするよう、強く要望してきます。そのため、免税措置の特例を認めてもらうよう働き掛けをする必要があります。」

■「経済効果は2次的。それ以外に得るものがたくさんある」

このような課題を抱えながら、“成功”したサッカーW杯。ただ、根本の法律は変化がなく、ようやく2011年に「スポーツ基本法」が制定されることとなった。

「サッカーW杯の開催などの国際競技大会の開催は、経済効果だけでなく、見えにくいかもしれませんが、国際的地位の向上や国民の健康増進などなど、国内の活性化に大きな効果があります。スポーツが織りなす国民に対する効果・貢献は計りしれないものがあり、スポーツに関する考え方も世界的に変化してきました。そのため、スポーツ基本計画では、五輪などの国際競技大会の招致・開催を図ることが明記されています。」

ラグビーW杯や冬季アジア大会、東京五輪の招致・開催などはこうしたスポーツ基本法の制定が大きな後押しになったのだろう。

国際競技大会の開催によってもたらせる効用をまとめると、
「健康促進や協調性・リーダーシップを育む利点、国民の誇りとなったり社会への活力となり、国際交流と国際的地位が向上し、日本は“安心して行ける良い国だ”と世界にアピールできます。注目される経済効果ですが、ある意味では、これらによって派生してくる2次的な効果だと思います。これまで見てきた通り、国際競技大会の開催によってわが国が得るものは、経済だけでなく、本当に沢山あるのです。」

■ラグビー界へ「早く国際連盟と交渉を!」

そしてラグビーW杯。日本人選手の活躍が前提とはなるが、開催することで「スポーツへの関心を高め、社会に活力を生み出すばかりでなく、国際的地位の向上につながります。また、今回、全48試合が日本全国で行われることになります。この開催地域においては、スポーツ振興や拠点形成、住民のスポーツへの関心を高め、若者や子どもたちのスポーツ機会を増大させます。当然、経済効果も期待でき、それは閉幕後も見えない効果をずっとその地域に与え続けます」と、大槻氏は指摘する。

大槻氏は最後に、2002年サッカーW杯開催の課題を踏まえ、ラグビー界に以下の提言を行った。
「国際競技大会の開催においては、日本ラグビー協会と大会組織委員会、そして国際連盟の3者間でのアグリメントを結ばないといけません。この契約を早急に結ぶ必要があります。そしてそれに基づく基本計画を早く策定し、どのように財政を支えていくのかを考えていくことが必要です。国際連盟は成功させるためと言いますが、自分たちのルールを持ってきて、利益をすべて持っていこうとしてしまうので、しっかり資金を確保して、それを大会運営の中にどれだけ注ぎ込めるかが戦いになります。その戦いまで早く持っていくためにも、交渉の場に早く立つことが組織委員会の課題ではないでしょうか」

■ラグビーも参加熱意を持った地域を育てていく必要がある

以下は質疑応答の一部。

──スポーツ基本法ができたことによって、スポーツに関わる国の予算は増えたんでしょうか?

予算は増えています。スポーツに関する予算のうち、どれがどの予算に当たるのかという問題もありますが。ただ、直近では少しだけ伸び悩んでいます。今後どうなるかは、どれだけスポーツに対する理解を国民がしてくれるかによると思います。国民の方々がスポーツに税金を使う許容の範囲があります。それが高ければ高いほど国の予算は当然多くなっていく、という簡単な図式ですが。

基本法によって予算は増えましたが、これからどのように増えていくかについては私の申し上げる段階ではないと思います。予算を使わなくてはいけないところはたくさんあります。例えば東日本大地震の復興予算などがそれです。いろんな意見がある中で、多くの方々が支援していただけると予算は伸びると思います。

──ラグビーW杯開催で強化費が増える、補助金が増えるといったことはないのでしょうか?

国が行う補助金はスポーツの全体の競技に対して出します。例えばJOCに対して強化費を出し、それを各団体の申請などに応じ、JOCが配分していく形になっています。それらを含めてアスリートを育てていく経費は基本的には地方公共団体や競技団体がみています。ただ単に大会を開催するからといって、その大会に直接的に国が予算を出すことは今はほとんどないと言っていいですね。

間接的には出していると言っていいと思います。例えば、スポーツ振興くじでの助成や記念切手の販売などなどです。あとは、大会を開催する組織委員会がどれだけの努力をして、その上でどうなるか。それでも不足するならば、何かしらの支援する形を作らなければいけないでしょうね。

──国際競技大会の定義とは何でしょうか? 例えば野球のWBCはそれに当たるのでしょうか?

実はきれいに判るものがあるわけではありません。各競技によって考え方は違うと思います。ただ、営利を目的にした大会は、基本的に国際競技大会の支援の位置づけになりません。例えばXゲームは、仮に日本が開催地になったとしても、国際競技大会としての支援の対象になるわけではありません。つまり、考え方のルール一つとしてはそれが利益を得るために行ってるのか、いないのかというところもあるでしょう。

──国際競技大会開催後について、サッカーW杯の時はどれくらい長期的に考えていたのでしょうか? ラグビーも考えなきゃいけないんだろうなってところはあると思うんですが。

サッカー協会は、W杯の前から入念な下地作りをし、開催後もレガシー(遺産)を受け継いで、それをうまく利用しています。ワールドカップで使った会場をホームスタジアムにして活用していますが、このようにラグビーがどうしていくかを考えると、その会場が球技場であるならば、それをうまく利用してラグビーの活用に使ってほしいですね。ラグビーもサッカーもそうですが、地域によって、参加熱意って違いますね。例えば静岡ですと、サッカーは底辺から育っていますから、サッカーに対する熱意、文化が他の県よりも強い。ラグビーもそういった地域を育てていく必要があるのではないでしょうか。

大槻秀明氏に聞く「あなたにとってラグビーとは」

今、ラグビーに関しては、正直に申し上げて何も分かっていない素人状態です。ただし、良くは分かっていませんが、行政の立場としてラグビーW杯の支援に関わるようになり、観戦もし、ルールブックも読んだりして、ラグビーの面白さが分かってきました。これはサッカーの時もそうでした。ラグビーの場合は、特にルールを考えると入り込みにくい印象はありますが、ルールは無視して陣取り合戦という考えで見てみると、面白さが徐々に分かってきて、今は、強烈にのめり込みつつあるところです。